※この作品はR-18です。

儚き異能は心を映す   作:緑茶わいん

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番外編 淫蕩な製作者 3 ★

「……残念。真里亜ちゃんには振られちゃったね」

「あはは、そうですね」

 

 アトリエでの交渉(?)から約五分後。知尋は七瀬に連れられ、彼女の家の二階を訪れていた。

 階段を使って上がり、いくつかある扉のうち一つを開く。

 寝室だった。

 クローゼットやチェスト以外、殆ど何もない部屋に、でん、と、ダブルサイズのベッドが置かれている。

 マンションの巨大ベッドに比べるとつい小さいと錯覚してしまうが、実際には、ダブルベッドは二人で寝るのに十分な大きさだ。

 

 なお、ここで言う「寝る」はもちろん性的な意味である。

 

 室内に漂う七瀬の匂い――柑橘に似たさわやかな香りに、知尋は胸の鼓動が早まるのを感じた。

 

「あの、七瀬さん」

「んー?」

 

 ジャケットを脱いでクローゼットのハンガーにかけながら、七瀬が振り返る。

 

「さっき、真里亜を誘ってましたけど……本気だったんですか?」

「もちろん本気だよー。私、可愛い女の子も好きだから。男の子の方が好きだけどね」

 

 ブラウスにパンツという姿になった彼女は知尋に歩み寄ってきた。

 手を取り、ベッドへ誘われる。

 二人で隣り合うように腰かけた。

 

 こういうシチュエーションはどうしたらいいのだろう。

 

 経験はそれなりにあるものの、周りにいる女性陣は皆顔見知りだし、知尋が誘わなくてもノリノリな子達だ。

 良く知らない女性といきなりこうなるのは鈴以来である。

 ただ、七瀬は鈴ほどはっちゃけていないような気がする。

 なので、向こうから誘ってきたとはいえ、いきなりがっつくのは止め、しばらく話をすることにした。

 

「真里亜ちゃんはレズるの嫌いなのかな?」

「嫌いじゃないと思います。今回は僕に譲ってくれたんじゃないかと」

「そっか。あの子は君の『奴隷』なんだしね」

 

 ――私は遠慮しておきます。お二人だけでどうぞ。

 

 七瀬から誘われた彼女はそう言っていた。怒った様子もなかったから本心だろうと、そろそろ長くなってきた付き合いから判断している。

 不参加となった真里亜は一足先に帰宅した。

 女の子一人で帰すのは不安だったので、タクシーを使うようお願いしてある。

 当然のごとく真里亜は渋ったが、なんと、そこで七瀬がタクシー代を出すと言い出した。

 

『だって、貞操帯の分の代金をもらうのに、セックスまでさせてもらうんじゃ私が取り過ぎだよ』

 

 と、ここまで言われれば真里亜も文句を言わなかった。

 なお、知尋は事後、七瀬に送ってもらうことになっている。

 明日も学校があることを伝えた結果、終電が無くなる可能性もあるから、と、彼女の方からそう言ってきたのだ。

 とはいえまだ午前中、ようやくお昼になる程度の時刻だが。

 

「すみません、僕達のことは他の人には言わないでもらえると……」

「もちろん。こんなこと、人によっては怒るもんね」

 

 あっさりと、悪だくみでもするような顔で請け負ってくれた。

 さすが、自分で性行為が好きと言うだけあって話が早い。

 何でも、あの店にいたのもアダルトグッズの物色のためだったらしい。加えて言えば店主とも知り合いで、直接、自作のグッズを売ったりもしているのだとか。

 

 なんにせよ、本音で話せる相手というのは安心できる。

 

「その代わり、君は私と秘密を共有したわけだけど」

 

 ぽふ。

 七瀬が寄りかかる形で身を預けてくる。腕や肩、触れた部分の柔らかさにどきっとしつつ、体勢を整えて二人分の体重を支えた。

 くすっと笑う声。

 

「こうやって甘えられるの、慣れてるね」

「七瀬さんこそ」

 

 初対面の男相手にこうして甘えられるのだから。

 十……と言いかけていた経験人数のうち、いったい何人が男で、何人とこのベッドで寝たのだろう。

 と、軽く身をよじった七瀬が耳元で囁いてくる。

 

「あ、なんか変なこと考えてるでしょ」

「そんなこと……ありますけど」

「独占欲強いなぁ。やっぱり男の子だね」

 

 なんとなくからかわれた気分になり、少しだけむっとした。

 

「仕方ないじゃないですか」

「うん。もちろん、それでいいよ。……ううん、むしろ、もっと嫉妬して欲しいかな。そうやって私に夢中になって欲しい」

 

 ぎゅっと腕が取られ、胸を押し付けられる。

 匂いと感触、声に思考が蕩ける。物凄く直接的で、かつ男心をくすぐる仕草。

 間違いなく、彼女は慣れている。

 男と夜を共にし、男に抱かれることに。

 そして己の手管を存分に、何の躊躇いもなく用いている。同時に、本人が言っていたような人恋しさのような、混じりけのない真摯な気持ちも感じた。

 

「気持ちよくなりたいでしょ? いいんだよ、私を独り占めして。今日は私が思いっきり甘やかして、思いっきり気持ちよくしてあげるから。余計なことは全部捨てちゃおう?」

「七瀬さん……っ」

 

 押し倒された。

 ベッドの淵に足をかけたまま寝そべるように、七瀬が知尋に覆いかぶさる。

 至近距離から顔を覗き込まれた。

 

「真っ赤になってる。可愛いなぁ。……今すぐ食べちゃいたいくらい」

「……可愛いって、男には褒め言葉じゃないです」

 

 精一杯の抗議を送ると、首を傾げる。

 

「そう? 私は好きだけどなあ、可愛い男の子」

「じゃあ、年下の方が」

「うん、好き。大人の男の人が子供みたいにがっつくのも楽しいけど、可愛い子を見も心もぜんぶ、可愛がってあげるのが好き」

 

 彼女の一言一言が甘い、淫魔の誘惑だった。

 

「君は、女の子に甘やかされたことある?」

「それは、皆、一生懸命にしてくれますから」

 

 楓や華から嬲られたこともあるし、愛華達四人がかりで奉仕され絶頂し続けたことだってある。

 

「そうじゃなくて。女の子にリードされて、いっぱい愛してもらったこと。ない?」

「……ええと」

 

 ない、かもしれない。

 華の責めはある意味優しかったが、あれは知尋ではなく『ちさと』への愛情の表れ。知尋にとっては羞恥責めと言っても過言じゃないものだった。

 口ごもった知尋を見て、七瀬が口元を綻ばせた。

 

「よし。じゃあ、いっぱいしてあげるね」

 

 顔が近づいてくる。

 キス。

 唇が触れ合うと同時に七瀬の身体も押し付けられてくる。人一人分の重みが、知尋へ女性的な肉感をはっきり印象付ける。

 無意識に逃げ場を求めた両手がベッド上を這うが、それを七瀬の両手に捕まえられた。向かい合わせに手を繋がれてしまうと、力が入りづらくなり簡単に押しのけることができなくなる。

 幸せな危機感が頭をよぎる。

 しかし、それを十分味わう間もなく本格的な口づけが始まった。つぷっと、どこか柔らかく感じる舌が口腔に侵入。ゆっくりと、内側から知尋の形を確かめるように動き回った。

 

「……ふふっ」

「ん……ふっ……」

 

 犯されている。

 口、特に舌はれっきとした性感帯だ。それを弄ばれるのはある意味レイプと言っていい。

 ただし、七瀬の責めは自由気ままでありながらも無理矢理ではない。

 おそらく本気で拒めば十分拒める。

 最悪、相手の舌を噛んでやるとかそういう方法もあるわけだし――と、そういった抵抗の意思を奪う、いや、甘い快感によって削いでいくのが彼女のやり口。

 

 ちゅぱ……れろ……。

 

 お互いの口がもごもごと動き、淫らな水音が合間に響く。

 息継ぎのために唇が離れれば、まるでタイミングを合わせたように二人揃って切ない吐息を漏らした。

 知尋を見下ろす七瀬の瞳が、先程よりも潤んでいる。

 彼女も少しずつ、本格的に興奮、欲情し始めているのだ。きっと、彼女の責めを従順に受け入れる姿勢がお気に召したのだ。

 

 従順なのは、あながち意図的とも言い難いのだが。

 

「まだまだキスしようね……?」

 

 ぞくぞくする。

 降ってきた唇を再び受け入れる。お互いに割と不自由かつ辛い体勢のまま、それを正すのももどかしく舌を絡める。

 そう。

 気づけば知尋は、自分から舌を動かして相手の舌を求めていた。

 おそらくは七瀬がそういう風に仕向けているのだ。自分の舌で知尋の口内を愛撫しながら、相手が自分を求めてくるように誘う。

 

 さながら性のレッスン。

 年下とのプレイが好みだという彼女は、相手を誘い、快感を教え込むのを得意としているのだろう。

 丹念に。

 敏感な箇所を舌で刺激し、唾液を注ぎ込み、己の全てを相手の意識に刻み付けながら、幸せな感覚を引き出していく。

 もしも何も知らない少年少女が相手でも関係なく、時間をかけてリードし虜にしてしまう。

 

 奉仕とも調教とも形容しがたい、SとMの両面を併せ持つプレイ。

 

 そんなテクニックが、既にキスを知っている知尋に用いられればどうなるか。

 じれったいまでに真面目な手順に、これまでキスしてきた経験、得てきた快感が否応なく引き出される。

 もっと欲しいと思わされ、自分から相手を求めざるを得なくなる。

 求められれば求められただけ、七瀬は素直に反応する。より艶めかしく舌を動かし、多くの唾液を流し込み、身体をきつく押し付ける。

 

 気持ちいい。

 頭がぼうっとする。どこまでも幸福な快感に、どこか自発的に思考が鈍る。

 考えられないというより、考えたくないと思ってしまう。

 

 やがて、何度かの息継ぎを経て唇が離れた。

 

「あ……」

 

 キスが終わったことを、残念だと知尋は感じてしまった。

 これは――七瀬の術中へと完全に嵌まってしまっている。

 

「いいんだよ、知尋」

 

 呼び捨てにされた。

 初対面の相手だというのに、何故か嫌な感じはしなかった。彼女の口調がどこまでも甘く優しかったからか、それとも知尋が既に心を許してしまっているからか。

 

「思いっきり私に甘えていいの。知尋……ううん、ちーちゃんは、お姉ちゃんに全部、任せていいんだよ」

 

 これが、女の子に甘やかされる感覚。

 眠るように、深い海の底に沈んでいくように、心が安らいでいく。

 殆ど子ども扱いをされているのに、大事な男のプライドを投げ捨ててもいい、と思わされる。

 

「……暖かいんですね、『お姉ちゃん』って」

「そうだよ。お姉ちゃんってそういうものなの」

 

 現実の姉から、こんなに優しくされた覚えは殆どない。

 姉弟に確執が生まれる以前なら無いことないが――以降は、双方それぞれの問題から、楓が知尋に情緒的な対応をすることは極端に減ってしまった。

 

 二人はお互いの傍から離れないままベッドの上に移動した。

 向かい合って座ると、七瀬が知尋の首に腕を回してくる。引き倒されるようにして抱きしめられ、今度は知尋が体重を預ける形になった。

 腕と、乳房とで支えられる。

 少し顔を上げれば七瀬の顔があって、その瞳は暖かな慈愛を伝えてくる。

 

「いっぱい、ぎゅーってしてあげるね」

 

 囁き声と共に、腕に力が籠もった。

 服越しに体温が伝わる。

 ブラウスやパンツが皺になるとか、そういうことを気にする様子はない。ただただ、知尋を安心させるための抱擁。

 おずおずと、自分からも腕を回すと、七瀬は知尋が触れやすいように少し身をよじらせた。

 

「いいよ、好きなように触って」

 

 背中に触れる。

 薄い布越しに滑らかな肌を感じ、露出している首にも触れた。

 それから髪に触れる。さらさらの感触を楽しんでいると、七瀬がくすぐったそうに息を漏らす。

 

「胸は触らなくていいの?」

「はい。この体勢を崩したくないな、って」

「あはは、甘ん坊さんだね。でも嬉しいかも。胸とかお尻とか以外を真っ先に触られるのってあんまりないし」

「そうなんですね」

 

 女の子の肌や髪はすべすべ、さらさらで気持ちいいと思うのだが。

 

「ちーちゃんはフェチっぽいのかな? それともあの巨乳を好き放題にしてるから、私のサイズじゃ物足りない?」

「大きさは関係ないですよ」

「そう? じゃあ、そっちも召し上がれ」

 

 と、密着していた身体が僅かに離される。

 抱き合う体勢に後ろ髪を引かれつつ、知尋はブラウスのボタンに手を伸ばした。ゆっくりと丁寧に外し、内側にあるブルーのブラを露出させる。

 形のいい膨らみ。

 さっき七瀬は僻んで見せたが、大きさも十分。

 これで小さいなどと口にすれば、愛華や李狐からはきっと抗議が出るだろう。

 そうして間近にしてしまうと気持ちがはやる。

 ブラを痛めないように注意しつつ、ホックを外すのももどかしくブラをずらす。そうして右の乳首を口に含んだ。

 

「あ……んっ」

 

 先端を唇で挟み込んだり、舌先で転がしたりすると甘い声が聞こえてくる。

 

「気持ちいい。やっぱり、こういうのは慣れてるね」

「ありがとうございます」

「あはは。なんか、お互い、他の人との経験を褒めるのも変な感じだけど」

 

 くすっと笑った七瀬が首を傾げた。

 

「お姉ちゃんのおっぱい、美味しい?」

「はい。美味しいです。……って、それだとなんだか、本当に子供みたいですけど」

「そうだね。ママって呼んでもいいよ」

「いえ。『お姉ちゃん』の方がいいです」

 

 右手で左の乳房を愛撫しながら答える。

 七瀬としても拘りはないのだろう。

 彼女は特にそれ以上は言及せず、軽く頷いてみせた。

 

「そっか。じゃあ、ちーちゃん。そろそろお姉ちゃんの下も触って?」

 

 欲情した瞳、その奥にある感情が、知尋の身体の熱をより強くした。

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