※この作品はR-18です。

儚き異能は心を映す   作:緑茶わいん

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第百三十七話 しるし

「和泉君、この後少し付き合ってくれないかしら?」

 

 ちさとと対面したり、新しい能力を試したりと色々あった二日後。

 生徒会の仕事があらかた終わったところで、四葉から不意に呼びかけられた。

 

 室内に据え付けの時計は午後四時半を示している。

 役員選挙と学校対抗戦が控えているとはいえ、これらの行事は学園祭ほど大掛かりなものではない。その分、時間的には余裕があった。

 

「付き合う、ですか?」

「ええ。少し訓練の相手をしてもらえればと」

 

 少々、意外な申し出だ。

 いや。お嬢様然とした印象が強いが、四葉もこの学園の生徒。日々戦闘訓練を受けているわけで、そう考えると意外でも何でもないのだが。

 知尋は帰り支度をしていた手を止めて首を傾げる。

 

「構いませんけど……僕でいいんですか?」

 

 帰り支度どころか、まだ自席でお菓子を頬張っているルシルに目をやる。

 

「ん。そうね。訓練ならあたしが付き合ってもいいけど?」

「私じゃルーには歯が立たないもの」

 

 軽く応じる相方に、四葉はおっとりと首を振ってみせた。

 

「それに、和泉君の力量を自分でも確かめておきたくて」

「あー、なるほどね。それはありかも」

 

 んじゃ、頑張ってきなさい。

 と、金髪の生徒会副会長はあっさりと知尋を送り出した。

 ……確かに構わないとは言ったけれど。

 相変わらず率直な少女である。

 

「そういえば、黒羽先輩も対抗戦に出るんですか?」

 

 生徒会室を出て、四葉と個室訓練場に向かいながら尋ねる。

 まだ周囲に人目があるため、口調は日常生活モードだ。

 知尋の力を確かめたい。彼女がそう口にしたのは、来たる学校対抗戦に備えてのことであるはずだ。

 知尋の問いに四葉は頷く。

 

「そうね、可能性はあるわ。風紀委員会と合同で協議するから決定ではないし……優先順位としてはルーの方が上だろうけれど」

 

 いずれにしろ生徒会長として主導する立場になると四葉。

 リーダーとしてももちろん、他校と交流する学校行事である以上、生徒会長が現場に赴く必要があるということだ。

 

「ルシル先輩の方が上、っていうのは」

「ルーはある意味、切り札だもの。どんな種目が来ても並以上にこなせるから」

「あ、なるほど」

 

 ルシルの能力は『天才』。

 妙な種目――誰も知らないようなスポーツ等がお題になったとしても、彼女であれば文字通り、天才的な適性を発揮できる。

 全五回戦を戦う上で、他の四人が苦手とする種目があればそこに割り当てる。

 まさに切り札、ワイルドカードとして機能する。

 

「じゃあ、去年も?」

「ええ。ルーは対抗戦に参加しているわ。……一応、私とあの子で二枚看板、なんて呼ばれてたっけ」

 

 懐かしそうに目を細める。

 なんでも去年、四葉は四葉で重宝されたらしい。

 ルシルのような圧倒的な有用性があるわけではないものの、彼女も地力としてはかなり高いものがある。

 また『幸運』の能力が物を言う局面が出る可能性が、どうしても排除できなかったからだとか。

 

「そうか、例えばくじ引きとか」

「じゃんけんとか、三択のクイズ問題だとか。運の要素が絡む種目は、考えてみると結構あるの」

 

 なお、実際の種目については、まず参加する各校の代表者――校長や理事長が複数の候補を挙げる。それを全て混ぜ合わせた上で抽選により決定されるらしい。

 だから、自校に有利な種目が出る可能性もあれば、他校が有利になる可能性もあるし、物凄くカオスな種目が飛び出る可能性もなくはない。

 あらゆる場合を想定しておくに越したことはない、ということだ。

 

「ただ、今年は候補が激戦区なの。風紀委員会には沙雪や神代君がいるし、生徒会も私やルー、和泉君はもちろん葉月さんや綾瀬さんも候補に挙がるだろうから」

 

 例えばクイズ問題ではスマートフォン、PC等は使用禁止だろうが、『伝心』でなら仲間の力を借りられる。

 また、綾瀬の能力も内容自体は異なるものの、場合によってルシルと同様の切り札になりえるらしい。

 だから、後は全体的なバランスの問題。

 近接戦闘で無類の強さを発揮するらしい沙雪や、フィジカル全般で強力な神代をどこまで組み込むか。別種の切り札としてコピー系、つまりは華などを参加させるべきか。はたまた五戦中一戦を捨てる覚悟で愛華のような補助系を組み込む手もある。

 考えれば考えるほど最適解がわからなくなる難題なのだとか。

 

 と、そんな話をするうちに個室訓練場へ到着していた。

 端末で四葉が手続きし、個室へ二人で入る。

 入り口に施錠したところで、ふと知尋は問題に気づいた。

 

「そういえば、ウェアは持ってきてないんですけど……」

「大丈夫です、ご主人様。訓練というのはただの口実ですから」

 

 一転して恭しい態度にぎょっとするも、単に四葉が奴隷モードに切り替えただけだ。締め切った個室であるここならば外面を取り繕う必要はない。

 ということで、知尋は話の内容の方に意識を向ける。

 

「じゃあ」

「はい。抱いていただければ、と思いまして」

 

 切なげに囁かれた。

 四葉が縋るように身を寄せ、豊かな胸を押し付けてくる。どうやら既に発情しているらしく、甘い匂いを強く感じる。

 くらくらするのを感じながら知尋は息を吐いた。

 

「……そっか。少し間が開いちゃったもんね」

「はい。それに、酷いです、ご主人様」

「え」

 

 お預けを食らわせた以外に何かしただろうか。

 考えを巡らせたところに正解が告げられる。

 

「一昨日の夜、皆さんでお楽しみだったみたいですね? 私にも行為の『余波』だけがやってきて大変だったのです」

 

 ぷう、と。

 珍しく、可愛らしい怒り方をしながら見つめられた。

 

「え……あ」

 

 もしかして『刺激共有』の効果が彼女にも及んでいたのか。

 と、知尋はようやくその可能性に思い至る。確かに、知尋自身を対象に入れたり外したりはしたものの、特別、四葉についてどうこう意識した覚えはない。

 『刻印』を持つ相手全てに効果を及ぼすつもりでいたから――当然、知尋の奴隷である四葉にもあの快感が行っていたはずだ。

 

「はい。自室だったから良かったですが……さすがに自慰を我慢できませんでした」

「……なるほど」

 

 あの夜、快感のリンクの中にいたのは六人ではなく七人だったのか。

 ふう、と息を吐いた四葉が一度身を離して言う。

 

「それに、ちさとさんのこともあらためて紹介していただきたいです」

「あ」

 

 概要は鈴から既に伝わっている模様。

 

(うん。私もお話したい)

(そうだね。それは必要だ)

 

 心中で兄妹が頷きあい、ちさとが幻影として実体化する。

 どうやら『刺激共有』に距離制限がないのと同様、李狐が遠くに居ても問題なく形を取れるようだ。

 今回のちさとは制服姿で実体化した。

 この格好だと、知尋が女装した時と概ね見た目が同じになる。

 

「初めまして、四葉さん。知尋の妹のちさとです」

「初めまして。……本当にご主人様とそっくりなのね。それに、幻とは聞いていたけれど」

 

 目を瞬いた四葉がちさとに手を伸ばす。

 すっ、と手がすり抜けるのを見て、ようやく納得してくれた。

 

「……なるほど。よろしくね。私は、他の皆ほどは会わないだろうけれど」

「そんなこと言わないでください。兄さんも四葉さんのこと、大事に思っているんですから」

「ありがとう。優しいのね、ちさとは」

 

 穏やかに微笑むちさとを見て、四葉が目を細めた。

 

「……あはは。ちさと、って呼び捨てにされると少し恥ずかしいですね」

「大丈夫。そのうち慣れるよ」

 

 笑って、知尋は四葉に昨日の話をする。

 鈴からも伝わっているだろうから簡潔に、かつ、抜けていそうな細部を補足する形で聞かせた。

 

「では、彼女もご主人様の奴隷になったのですね」

「うん。ただ、『妹』だからちょっと複雑かもしれないけど」

 

 真里亜はちさとに一定の敬意を、愛華はある種の連帯感を抱いている節がある。

 ただの新しい奴隷ではなく『妹』なのが影響しているだろう。

 主人の親類であり、恋人の家族――そういった側面を少女達が感じているのと同様、知尋もちさとには特別な想いがある。

 だから、恋人でも奴隷でもセフレでもなく『妹』。性の対象とすることを定めてなお、唯一無二の相手として扱うことにした。

 

 ちさとも満更ではない様子ではにかんで見せる。

 

「そうだ。私も『刻印』を入れてもらったんです」

 

 言うと、彼女はおもむろに服を脱ぎ始めた。

 と言っても手にかけるわけではなく、上着から一枚ずつ順番に、解けるように消えていく。ブラウスが露出し、スカートが消えてミントグリーンのショーツが見え、同色のブラが表れる。

 遮るもののなくなった下腹部には昨日も見た『刻印』が。

 

「え、あれ。何それ!?」

 

 なかった。

 というか、あるにはあるのだが形が違う。全く、根本から。

 

 デザインの中央部に位置するのはハートの形。指の第一関節分ほどのそれを、複数の曲線が取り囲んでいる。線の太さや長さは一定でなく、ラインの描き方はどこか女性的。全体を俯瞰すると子宮をイメージしているようにも見える。

 また、子宮の上部にはアルファベットで知尋の名前がフルネームで浮かんでいた。

 

「それじゃ正真正銘の淫も……」

 

 言いかけて、自身の性知識が怖くなり口を噤んだ。

 まさかあれは知尋の潜在的願望が作り出したものなのか。

 

「えっと、せっかくだから形を変えてみたんだけど……駄目かな」

「っていうか変えられるんだ!?」

「いえ。それは、ちさと独自の能力でしょう。私にはどうやら無理そうです」

「四葉もわざわざ試さなくても」

 

 彼女はブラウスのボタンを外し、下腹部を露出していた。

 知尋が苦笑すると、むっと抗議の視線が返ってくる。

 

「ですが、ちさとが羨ましいです」

「そんな、真里亜みたいなことを」

「人に見られた時に誤魔化せない方が、ご主人様への忠誠を示せるでしょう?」

 

 もとの『刻印』――奴隷と恋人、セフレで形が違えど、大まかな印象に大差ないあのデザインは、見る人が見なければ何だかわからない。

 身内にだけ通用する秘密のサインであり、クラスメートや家族に見られても「ただの痣」で誤魔化せる。そうなるよう意図したのだから当然だが、逆に言えば「堂々としていない」ということでもある。

 

 だから、見られたら取り返しがつかない方が。

 より淫らで直接的であればあるほど、知尋の物であることを受け入れた証としては優秀だと言うことができる。

 

「ですから、ご主人様。私にも同じ物を」

「駄目だよ、四葉」

「ご主人様……っ!」

 

 前をはだけたまま擦り寄られる。

 潤んだ瞳から忠誠心、重いと感じるほどの誠意が流れ込んでくる。それは嬉しいし、できれば報いてあげたいとも思うが、こればかりは聞けない。

 

「ごめん。でも、やっぱり駄目だよ。こんな本格的なのいれたら、着替えの時が危険すぎる」

 

 この学園は特に着替えのシーンが多い。

 また、お嬢様である四葉は家でも着替えに使用人がつくことがあるだろう。見つかって問題になるリスクは避けないといけない。

 彼女はただでさえ、鳳や実家のあれこれで微妙な立場である。

 

「だから……そうだね。少なくとも卒業までは我慢してくれると嬉しいな」

 

 大学に進み一人暮らしを始めれば、人前で着替えることもぐっと減る。それなら隠しようも色々あるだろう。

 言って四葉を抱き寄せ、彼女の頭を撫でた。

 ゆっくりと優しく、落ち着くまでずっと。

 

「……かしこまりました。ご無理を言って申し訳ありません」

 

 四葉は数分で知尋から身を離した。

 その時にはすっかり涙は止まっていて、にっこりと微笑んでくれる。

 

「卒業までは我慢します。その代わり――約束、しましたからね」

「う」

 

 ……タダでは起きないというか。

 

 強かな彼女の要求に思わず呻いた。

 色々と辛い立場を強いているから、このくらいの役得は必要だろうが。

 これでほぼ確実に、真里亜達も同じことを要求してくるだろう、と少しだけ先が心配になった。

 

「ごめんね、兄さん。私も戻した方がいい?」

「ちさとはそのままでいいよ。他の人に裸を見られることもないだろうし、その『刻印』は良く似合ってるから」

「そう? そうかな? えへへ」

 

 笑顔の妹は非常に可愛らしかったが、彼女の頭は撫でられない。なんとなくもどかしい。

 ともあれ。

 知尋は気持ちを切り替え、四葉の用事を済ませることにした。

 

「じゃあ、四葉。服を全部脱いでそこに立つんだ」

「はい、ご主人様」

 

 すぐにはっきりした返事があった。

 

 どこか嬉しそうに、はやる気持ちを表しつつも丁寧に、四葉が身に着けているものを脱いでいく。

 上着の袖から腕を抜き、首のリボンを解きブラウスも脱ぐ。

 スカートも外して黒い下着姿になった彼女は、壁に据え付けられたハンガーに衣装を吊るした。

 ブラとショーツ、靴下は畳んで端の床に。

 

 生まれたままの姿になった彼女は、知尋から一メートルほどの距離に気をつけをして立った。

 羞恥によりほんのり染まった頬が綺麗な肌にアクセントを加えている。

 

「あそこの毛、剃ってくれたんだね」

 

 以前見た時にあった四葉の茂みは綺麗になくなり、無毛の股間が晒されていた。

 隠すものがなくなった分、恥ずかしいのだろう。

 四葉が頬を染めて頷く。

 

「ご主人様がお好きなようですから。……お気に召していただけましたか?」

「うん。ありがとう、嬉しいよ」

 

 頷き、微笑んだ知尋は四葉に歩み寄って彼女の頭を優しく撫でた。

 四葉も逆らわずに目を細めてそれを受け入れる。

 十数秒間、そうした後で知尋はいったん身を離した。

 

 訝しげに見つめてくる四葉に敢えて答えず、持って来た荷物からある物を取り出す。

 

「お礼、っていうわけじゃないんだけど」

 

 瞬く彼女の眼前に差し出したのは、白く清楚な印象を受ける首輪。

 かつて、もう何か月も前に買い求めた三つの首輪のうち最後の一つ。いつか使うこともあるだろうと取っていたものだった。

 

「これを受け取ってくれないかな。……四葉へのプレゼント」

 

 すると、四葉の瞳が複雑な驚きから見開かれた。

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