※この作品はR-18です。

儚き異能は心を映す   作:緑茶わいん

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第百四十六話 決戦の朝 ★

 翌朝。

 目を覚ました知尋は、下腹部の辺りでもぞもぞと人が動く気配を感じた。

 

「……真里亜?」

 

 瞼を開いて見やれば、黒髪の少女が股を開いて腰を下ろすところだった。

 つぷんっ。

 濡れそぼった秘部にペニスが飲みこまれ、真里亜がはぁ、と息を漏らす。

 

「おはようございます、知尋様」

「おはよう。今日は、いつもより少し早いかな?」

 

 身体の感覚からなんとなく察して言う。といっても寝足りないわけではなく、むしろ『睡眠促進』のお蔭で十分すぎるほど気力は充実している。

 どちらかというと、言いたかったのは朝の奉仕についてだ。

 少女の唇を見るとかすかに濡れている。既にフェラチオで一度射精している証拠だ。これは毎朝のことなので構わないのだが。

 

「はい。少しだけ物足りなかったので」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて真里亜が言った。

 膣に知尋のペニスを納めたまま、軽く腰を揺すって緩い快楽を得る。会話をするのに支障を出さず、その上でお互いに気持ちよくなろうという行為だ。

 

「それなら、昨夜いくらでも付き合ったのに」

 

 昨夜は、ごく普通に李狐や鈴も交えてセックスをした。

 快感も共有させ、何度も絶頂させた分、一人一人に挿入している時間は短かった。物足りなさの原因はそれだろう。

 しかし、真里亜は笑みを浮かべたまま首を振る。

 

「いいえ。これでいいんです」

「そう?」

「はい。だって、今日は特別な日ではないのですから」

「……ん、そうだね」

 

 深海灰人との邂逅後、帰宅した知尋達はすぐに事の顛末を話した。

 話を聞いた真里亜は「そうですか」と頷いただけで、知尋と華を責めようとはしなかった。

 あまりに平然としている彼女に、李狐などは逆に取り乱していたが。

 

『大丈夫。知尋様は絶対に勝ちます』

 

 根拠はと尋ねれば、微笑んで「勘です」と答えた。

 

『それに、奴隷が主人を信じるのは当たり前のことでしょう?』

 

 彼女の笑顔は美しく、輝いていた。

 初めて会った時から彼女は美しかったが、その時よりも今の方がずっと美しいと思えた。

 あの、灰人に捨てられまいと顔を歪めていたかなめの姿とは程遠い。

 やはりあの男のやり方は間違っていると認識した。

 

「ですから、これは我が儘な奴隷がおねだりをしているだけです」

「あはは。そういうおねだりなら大歓迎だよ」

「ふふ。ありがとうございます」

 

 笑いあい、どちらからともなく言葉を切ると、動きを本格的な物に変える。

 真里亜は上下に腰を動かし、知尋は下から突き上げる。特に奇をてらうことのない、ごく普通の騎乗位セックス。

 朝から激しくしすぎても疲れてしまうし、一度射精した後だからペニスも敏感になっている。それに、特別なことなど何もなくても、真里亜の膣は知尋へ快感を与えるために積極的に動く。

 慣れ親しんだそこは貪欲に、しっかりと知尋の精を吸い取った。

 

「……愛しています、知尋様」

 

 自身も絶頂を迎えた真里亜が吐息混じりに囁く。

 

「僕も、愛してるよ、真里亜」

 

 何の気なしに右手を伸ばすと、真里亜が左手の指を絡めてくれる。

 二人は手を繋いだまま下腹部の結合を解いた。

 横になったままの知尋の傍に真里亜が座り、穏やかな声で言う。

 

「今日は、私達も応援に行きますね。みんなで」

「みんなって、みんな?」

「はい。私と李狐、愛華に鈴さん――残念ながら、七瀬さんはお仕事の都合もあって来られないそうですが」

「あの人はちょっと住んでいるところも遠いしね」

 

 最近、知尋の二人目のセフレとなった女性を思い浮かべる。

 都内に住んでいる彼女も学園のOGだが、移動時間の他にも、休日の学園に無許可で入れるかどうかも微妙な気がする。

 

「ですが、応援していると言ってくださいました」

「うん。有り難いな、すごく」

 

 離れていても繋がっていると思えるから。

 

「お弁当も期待していてくださいね。李狐と愛華が中心になって、豪勢なものを作っていますから」

「それは楽しみだな。食べ過ぎて動けなくならないようにしないと」

 

 そうして、二人は絶頂の余韻を残しながらしばしの会話を楽しんだ。

 いつもと同じ。そう言ってはいても、お互いきちんとわかっていたのだ。もし今日、柴鳳学園が柴鶴学園に後れを取ることがあれば、灰人は確実に約束を果たす。

 真里亜が知尋の手に戻ることは永遠にないだろうと。

 

 ……いや。

 もし奪われたら、絶対に奪い返す。

 微笑みを浮かべたまま、知尋は密かにそう決意した。

 

 もちろん、その前に、対抗戦で必ず勝つつもりだが。

 

 

 ☆   ☆   ☆

 

 

「じゃ、あたし達は後から行きますね。ミーティングとかあるだろうし」

「うん」

 

 李狐の言葉に頷いて、知尋は華と一緒に立ち上がった。

 二人とも学園の制服姿だ。対抗戦ではトレーニングウェアを着るのだが、これは気分と形式の問題。

 廊下を通って玄関まで出ると、李狐が荷物を手渡してくれる。

 なんだか妙に偉くなった気分を味わいつつ、荷物を受け取った。

 

「知尋君、思いっきりやってきてね」

 

 愛華が李狐の後ろから顔を出した。

 いつもの彼女なら「無理をするな」と言いそうなところだが、今回は台詞が少し違っていた。

 灰人と交わした真里亜に関する約束を聞いたせいかもしれない。

 

「怪我をしても、私が後でちゃんと治すから」

「ありがとう、愛華」

 

 微笑む彼女に笑顔を返す。

 

「あと、対戦中も迷惑をかけると思うけど……」

「気にしないで。むしろ、私達が役に立てるならどんどんやって欲しいくらい」

「もちろん、わたしたちもだよ」

 

 更に鈴と真里亜もやってくる。

 ただの学校行事――これで何が変わるわけではない、ごく普通のイベント――そう、今日一日を締めくくるために、皆で見送ってくれる。

 穏やかに真里亜が告げた。

 

「私と愛華が代表者から外れたのは、そういう意味では幸運だったかもしれません。これならば知尋様が気兼ねなく能力を使えますから」

「思い切りやってきてください、ご主人様」

「うん。あの人達には負けないよ」

 

 皆の思いに頷き、答えた。

 

(兄さん、もちろん私も頑張るからね)

(ん。ちさとのことも頼りにしてる)

 

 と、先んじて靴を履き終えた華が知尋を急かす。

 

「ほら、和泉君。さっさと行きましょう」

「そうだね」

 

 マイペースというか、独自のバランスを保つ彼女に苦笑で答えた。

 

「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいませ、知尋様」

 

 華と二人でマンションを出て、学園へ向かう道についた。

 偽装を考えると別々の道を行った方がいいのだろうが、日曜日なのでさすがに大丈夫だろうと判断。

 もし誰かに見られても、対抗戦前に華と一緒にいるのは不自然ではない。

 

「……ところで、和泉君」

「ん?」

 

 信号待ちの途中、華に呼びかけられ振り返る。

 彼女は知尋の方を見ずに前を向いたまま言ってきた。

 

「ありがとうございました。昨日、私の言葉を信じてくれて。全力で戦うと決めてくれて」

「……なんだ」

 

 何かと思えばそんなことか。

 ほっと息を吐くと、途端に睨みつけられた。

 

「って、人がせっかく真面目に言っているのに何ですか」

「ごめんごめん。でも、悪い意味じゃないんだ」

「……というと?」

「むしろ、ありがとう、華。あの時、すぐにああ言ってくれて助かった」

 

 知尋にはあんな風に決められなかった。

 一応、ご主人様として、皆のことを守る立場にあるから――逆に、軽々しい対応は取れなかった。

 

「信じるのは当たり前だよ。だって、華も大事な……仲間なんだから」

「……仲間、ですか」

 

 ふん、と、少女の鼻が鳴った。

 

「人にあんなことをして、無理矢理言うことを聞かせておいて良く言いますね……私のご主人様は」

「華」

 

 思わず耳を疑いそうになった。

 あの華が、面と向かって知尋を主人と呼んでくれるとは。

 息を飲んだ知尋から、華はなおも目を逸らして。

 

「何ですか? もう一回言ってくれてって言われても言いませんからね?」

 

 宣言通り、もう真面目な話に戻ってはくれなかった。

 学園の校門前まで辿り着くと、そこに一人の女生徒が立っていた。きっちりと制服を身に着けつつも、どこか大人っぽさを感じる少女――四葉だ。

 

「おはよう。和泉君、御宿さん」

「おはようございます、黒羽先輩」

 

 会釈と共に挨拶すると、四葉はそのまま踵を返して二人に同行する気配を見せた。

 華が不思議そうに首を傾げる。

 

「待っていてくださったんですか?」

「ええ。他の三人はもう集まっているわ。といっても、ほんの数分前のことだけれど。私は、和泉君達を出迎えるという名目でここに残ったの」

 

 言って、ふっと笑う彼女。

 その表情からなんとなく意図を読み取ることができた。

 全員が揃ってしまえば、会議なり準備なりで慌ただしくなる。その前に知尋達の顔を見ておきたかったのだろう。

 たとえ、主人と奴隷としての会話ができなかったとしても。

 

 昨日、あの場にいた一人として、四葉の想いもひとしおのはずだ。

 

「こうなると、私が出られないのが悔やまれるわ」

「大丈夫です。僕達が必ず、なんとかしますから」

「そうね。……他の人達には絶対、渡さない」

 

 勝利も、真里亜も。

 生徒会室には、四葉の言葉通り他の代表者――ルシルと万里歌、神代が既にやってきていた。

 ルシルはいつもの副会長席でお菓子を広げ、万里歌はマイペースに読書中。神代は二人の様子に苦笑しつつ端に立っていた。

 

「ああ、知尋に華。これで全員揃ったわね」

『おはよう、二人とも』

「やあ。今日は頑張ろう」

 

 そして、室内にいたのはその三人だけではなくもう一人。

 

「これで深海さんがいたら生徒会勢揃いでしたね」

「綾瀬先輩」

 

 神代とは反対側、やはり部屋の隅に綾瀬がいた。

 ただし、なんだか見慣れない、珍妙な服装をして。

 

「えっと……何でナース服なんですか?」

 

 膝下までスカートが伸びた純白の衣装。

 ご丁寧にナースキャップまで付属している。生地と縫製の感じからするとコスプレ用品ではなく、実際に看護師が使用するものだろうか。

 そこそこ身長のある綾瀬には、大人っぽいその格好もよく似合っている。

 

 綾瀬が動くと、ひらり、ナース服のスカートが揺れた。

 

「皆が疲れたら、私が癒してあげようと思いまして。……精神的に」

「精神的って」

『いわゆる|プラシーボ効果(きのせい)』

 

 いや、まあ、綾瀬に看護されれば気が休まるのは確かだろうが。

 

(これは予想外だったなあ……)

 

 ちさとが呟くのに同感だった。

 隣では華もぽかん、と口を開けていて、そんな二人を見たルシルがふっ、と吹き出した。

 

「一応、これも勝つための戦略の一つよ。葵の能力には衣装が必要だから」

「衣装が?」

 

 言われて見れば、綾瀬の足元には大きなスポーツバッグが二つも置かれている。片方は微妙に開いていて、中に布地が詰まっているのも見て取れる。

 おそらく、ナース服以外にも様々な服が用意されているのだろう。

 

「私の能力は『なりきり』なんです。着ている服に適した性能が最大限引き出される、っていう効果で」

「確か、ルシル先輩と同じように万能型だっていう話でしたけど……」

「はい。例えばドレスを着たら、黒羽先輩よりお嬢様らしくする自信がありますよ?」

 

 引き出されるのはあくまで綾瀬自身のスペック。

 持っていない知識がぽんと手に入るわけではないし、身体能力が大幅に向上するわけでもない。超能力というよりは自己暗示に近いが、人の行動には気の持ちようが大きく影響するのも事実。

 着替えるだけで自分のベストを尽くせるのなら、ある意味、破格のコストパフォーマンスと言うことができる。

 

「じゃあ、先輩の女装も」

「はい。実は能力のお蔭もあるんです。だから、自力でミスコン一位になったちさとちゃんにはちょっと嫉妬しますね」

「うっ……」

 

 思わぬところで黒歴史(?)を持ちだされ、同じくミスコン一位である神代を見る。

 肩をすくめて苦笑された。

 

「裏切り者」

「いや、ちょっと待ってくれ! 俺が裏切ったことになるのか!?」

『うん、神代君が裏切った』

「裏切りましたね」

 

 なんとなくノリで非難してみたら、神代が思いのほかいい反応をしてくれた。そのせいか万里歌と四葉が笑顔で悪乗り。

 女性陣が大部分を占めるこの場において抗議は無駄と判断したか、神代はがっくり肩を落とした。

 再びルシルがぷっと吹き出し、こほんと咳払い。

 

「ま、それじゃあミーティングを始めましょうか。どうせ後で詳しい作戦会議をするから、簡単に、だけどね」

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