対抗戦から帰宅した知尋達を出迎えたのは豪勢な食事の数々だった。
ビーフシチューをメインに白身魚のムニエル、じゃがいものたっぷり入ったオムレツ、トマトとレタス、フライドオニオンがベースのサラダにかぼちゃのポタージュ、デザートには近所の洋菓子店のシュークリーム。
一人では追いつかないからと鈴まで動員して仕上げた品々は、どれも李狐の力作であった。
「ご主人様、お腹空いてるでしょ? いっぱい食べていいからね?」
笑顔で言う李狐に釣られてついつい食べ過ぎてしまった。
勝利の余韻、というのもあっただろう。
門限が厳しい四葉はマンションに来られなかったが、食事会から帰った華まで匂いに釣られて軽く食事に手を出していた。当然、鈴は食事もそこそこにビールの缶を積み上げていたが、この日ばかりは誰も何も指摘しなかった。
「華さん、食事会はどこに行ったの?」
「みんな学生ですし、普通に近所のファミレスですよ。まあ、奢りなのでたっぷり食べて来ましたけど、正直西崎さんの料理の方が美味しいです」
「……ありがと。でも、褒めても何も出ないからね?」
言いつつ、李狐は華の飲み物を注ぎ足したりしていた。
皆、笑顔だった。
真里亜が無事これまで通りでいられることが嬉しいのだ。女の子同士、人間関係にも色々あるだろうが、それでも皆、仲間なのだと思えた。
深海灰人と『アブソリュート』に勝ったというのも大きい。
この勝利は、知尋達が灰人達とは違うという証明でもある。このままで居てもいいのだ、という自信にも繋がる。
「ね、知尋君。今日は一緒に寝ていい?」
「もちろん。でも、今日はちょっと体力的に不安なんだけど……」
「一緒に寝るだけでいいの。ね、真里亜」
愛華に呼びかけられた真里亜が微笑んで頷く。
「ええ。ぜひそうさせてください、知尋様」
食事の後は、李狐からお風呂に入ってくるよう勧められた。片づけはいつものごとく「気にしないでいいから」と、真里亜まで一緒に浴室へ追い立てられる。
「愛華」
「行ってらっしゃい」
こういう日くらい、文句はなしだと。
知尋は真里亜と二人きりで入浴することになった。李狐と鈴は事前にシャワーだけで済ませ、それから湯を入れたようで、実質二人が一番風呂である。
頬をかきつつ脱衣所のカーテンを閉めると、すかさず真里亜が知尋の着衣に手を伸ばしてくる。
恥ずかしい、といつものやり取りをしようとして、止める。
「……なんか、初めて会った頃を思い出すな」
「ふふ。そうですね」
くすりと笑った真里亜が「ですが」と首を傾げた。
「私と知尋様の始まりは、こんなに穏やかなものではありませんでしたよ」
「そうだったね」
一緒に入浴するような余裕もなかった。
ただ戸惑いと、焦燥めいた欲望ばかりがあって、知尋は己の傷を埋めるように真里亜を抱いていた。
今は、あの頃よりは多少なりとも違うと思う。
真里亜の指に服を脱がされていくのも、幾度も味わった行為だ。
しゅる……。
知尋の衣服を下着まで取り去った真里亜は、それらを洗濯籠へ丁寧に収める。
そうして自由になった手のひらをそっと、知尋の胸に押し当てた。ぴったり張り付く感触にくすぐったさを覚える。
「真里亜」
「……申し訳ありません。つい、感傷的になってしまいました」
名残惜しそうに手のひらが離れる。
「昔は、このようなこともなかったのですが」
「前の方がいい、と思う?」
「いいえ」
返答に迷いはなかった。
首を振った真里亜は、自身の服に手をかけながら微笑む。
「そんなこと、思うはずがありません。皆がいて……知尋様とこうしていられる『今』が最高に幸せです」
「じゃあ、もっと頑張らないと。後でこの時を思い返して、真里亜が同じことを思ってくれるように」
「そうですね。きっと知尋様ならそうしてくださると思います」
言ううちに、真里亜もあっという間に全裸になった。
胸や無毛の秘所に目をやると、そっと目を伏せて顔を赤らめる。羞恥と興奮の差こそあれ、仕草だけ見ると普通の少女だ。
そんな真里亜に手を取られ、浴室の中へ。
「どうぞ、知尋様」
ふっ、と、どこか悪戯めいた表情で真里亜がバスチェアを差し出してくる。
「ありがとう、真里亜」
知尋は促されるままそれに座り、真里亜に背中側を晒す。
背後で少女が何やら動く気配。背中越しにシャワーが操作され、壁のホルダーにかかったままのヘッドから温水が噴き出す。
真里亜は小雨程度の水量にシャワーを調節すると、知尋の背に胸を押し付けてきた。
いつもなら、すぐに洗剤を手に取るのだが。
「暖かいです」
「僕もだよ」
シャワーの温かさだけでなく、真里亜の体温を感じる。
ちゅっ。
首筋にキス。すぐに唇は離れたものの、真里亜は離れ際にぺろりと肌を舐めていく。ぞくぞくした恍惚が知尋を襲った。
はぁ……っ。
悩ましげな吐息。
真里亜はキスを一度で止めず、微妙に場所を変えながら何度も繰り返した。やがてキスの場所は首から背中へと移り、だんだんと下に向かっていく。
まるで舌だけで知尋の身体を清めようとするかのように。
「今日は汗、たくさんかいてるよ」
「それがいいんです」
すぐにそんな返事がくる。
彼女がわざわざ嘘をつくとも思えない。そういうことならと、知尋は真里亜の好きにさせることにした。ぺろぺろと背中を舌が這うのを、絶妙にもどかしい快感と共に受け入れる。
やがて真里亜の奉仕は背中の終わり、尻付近にまで達した。それ以降は体勢に無理があると判断したのか、身体の向きを変えるよう促された。
バスチェアに座り直して向かい合う。
面と向かうとなんだか妙な気恥ずかしさがあった。
「……では、続きをいたしますね」
「う、うん」
どこからキスをするのだろう。
キスする対象に知尋の唇が含まれているなら、こちらも相応の準備をしないといけない。
そう考えていると、俯いた真里亜が何かに気づいたように声を上げた。
「あ……」
視線の先にあるのは知尋のペニス。
先程までの奉仕で少しずつ硬度を増し、今は十分に勃起した状態になっている。
真里亜の手が竿に触れる。
「んっ」
力加減を心得た手つき。
思わず声が漏れると同時に、ペニスがぴくっと反応すると、漆黒の少女の表情が嬉しそうになる。
彼女は身を屈ませると、浴室の床に半身を着けるような体勢になった。
「こちらにも、ご奉仕させてくださいませ」
「……あはは。我慢できなくなった?」
「はい。お疲れのところ、申し訳ないとは思うのですが」
しゅん、と肩を落としながら言う真里亜。いったん興奮してしまうと我慢には気力が必要になる。いざ目的のモノを目の前にしてお預けというのも酷な話だ。
まあ、辛い命令もそれはそれで真里亜の喜びになるのだろうが、雰囲気的に今、望まれているのはストレートな充足だと思える。
「お願いするよ。僕も身体を動かしたし、あれだけ食べたから少し苦しくて」
ある程度は出しておかないと眠れそうにない。
これは、少女達と性欲にまみれた生活をしている弊害だろう。相当疲れ切っていない限りは誰かしらと毎日、行為を持っているため、身体がそういうサイクルになってしまっているのだ。
そういう意味でも切実に、知尋は真里亜達を必要としている。
「ええ、かしこまりました」
くぱ、と、真里亜が大きく口を開ける。
唾液をたっぷりと溜めた口腔が、屹立したペニスを覆うように飲みこむ。温かさの後、なんというか層の厚い快感が駆け巡った。
いきなり真里亜がフルスイングで奉仕を始めたからだ。
指で玉袋をやわやわと刺激しつつ、竿を唇でボールド。舌先で亀頭を虐めながらじゅるる、と吸い上げる。
「くあ……っ」
腰が跳ね、真里亜の喉を突き上げた。
「んんんっ」
苦しかっただろうに、少女が上げたのは歓喜の声。
真性のマゾを自称する少女にとっては知尋の反応こそ喜び。喉の苦しさすらも興奮に変え、更なる奉仕へと動き始める。
ペニスを唾液で包み込んでじゅぼじゅぼと動かす。
淫らで、はしたない音が浴室に響く。もしかすると外にまで聞こえているかもしれないが、そこまでは気にしていないだろう。
ただ一心に、知尋に快楽を与えるために。
その甲斐あってか、知尋の身体はどんどんと快感に飲みこまれていく。ペニスの脈動はどんどん強くなり、すぐに――。
「出すよ、真里亜っ」
「あ、んーっ!」
大量の白濁液を喉に吐き出した瞬間、真里亜の身体が跳ねた。
少女はびくびくと痙攣を続けながら、それでもペニスから口を離さず精液を受け止める。上気した顔でこくん、こくん、と喉を鳴らす様はとてつもなく淫靡だ。
はあっ。
精液を全て飲み切り、ペニスに残っていた分まで吸い出した真里亜はようやく口を離して息を吐いた。
「ありがとうございました、知尋様。とてもいい心地でした」
「どういたしまして。って、真里亜……もしかしてイった?」
奉仕されたのは知尋のはずなのに「気持ちよかった」という台詞、それに射精時のあの反応はそういう感じだったが。
「はい。恥ずかしながら」
と、俯いてみせるも、もともと顔が赤い状態だったのでどこまで演技かはわからなかった。
しかし、そうか。
フェラチオで絶頂するとは、さすが真里亜だと思う。昔も首輪を着けただけで絶頂したりしていたので今更といえば今更だが、この少女のポテンシャルの高さには未だに驚かされるばかりだ。
「では、今度こそお身体を洗いますね」
自分の身体をソープで包み、一度流してからあらためてソープを纏う。
腕を、胸を、下腹部を押し付けるようにして知尋の全身を泡で覆っていく。女の肌は柔らかなスポンジのごとく、優しく知尋の肌を滑った。
そうして二人の身体が全て泡に包まれたところでシャワーを強め、しっかりと洗い流した。
身体を洗い終えればようやく入浴だ。
随分、前置きに時間を取ったため、湯の温度が気になったが、どうやらもともと熱めに入れておいてくれたらしい。軽く手を入れてみると見事に適温だった。
「李狐も、家事の腕をどんどん上げてるなあ……」
「知尋様のため、ですね。何しろ、能力を得る程の執念ですから」
「能力?」
「ええ」
何でも、李狐に能力が増えていることに鈴が気づいたらしい。
「どんな能力?」
「仮称は『献身』……あらゆる行動において自身のパフォーマンスを引き出すそうです。ただし、自分の利になる行動であればあるほど効果は落ちるとか」
逆に言えば、誰かのための苦労であればあるほど効果が増す。
「なんか、李狐らしいっていうか」
「なんだかんだ、素直ではありませんからね、あの子も」
知尋との出会い、因縁で人生を一変させてしまった李狐。彼女の心の在り様の変化が能力を齎したのだろう。
新たな能力が極めて平和な、大人しいものであることが知尋には嬉しく思えた。
ちゃぷん。
まずは知尋が浴槽に足を入れ、半身を湯に浸ける。
すると真里亜が逆向きに身を沈めようとするので、知尋は彼女を手招きして抱き寄せた。
「知尋様?」
「いや、その。まだこんな状態だからさ」
身体を洗われている間に硬くなってしまったペニスを示す。
「あら」
くすりと笑った真里亜が頷いて、知尋に導かれるまま腰を下ろしてきた。
つぷっ、と、少女の膣がペニスを飲みこむ。知尋は脇あたりまでを湯に沈める体勢になって、真里亜が十分温まれるようにした。
「はあ……っ、気持ちいいです」
対面座位の姿勢で、真里亜がぽうっと声を上げた。
彼女の両腕が知尋の頭に伸び、抱き寄せる形で乳房に押し付けてくる。
浴室内の熱気もあって息がしにくくなったが、代わりに胸の柔らかさと甘い匂いで思考が蕩けていく。
人の体温が心地よくて、自分から甘えるように頭を擦りつけた。
「ふふ。……そういえば、柴鶴学園の方々とも仲良くされていたようですね」
「あれは、不可抗力だよ」
「いいんです。妬いているわけでは……ありますけれど。知尋様のお気持ちはわかっているつもりですから」
少女達みんなを大事にしている。
誰かを蔑ろになんてしたりはしない、と。
……なんだか少し、くすぐったい気分になった。
知尋と真里亜はそうして抱き合ったまましばしの時を過ごした。性行為らしい動きは時折腰を軽く揺する程度で、それよりも互いの温もりを感じ合う。
湯から上がる間際になってようやく、知尋は真里亜の膣に精を注ぎ込んだ。
「……そうだ、真里亜。何かしたいことないかな?」
「したいこと、ですか? 私はこうして日々を過ごせるなら十分ですが」
「そうじゃなくて、プレイというか、そういうので」
「ああ。それでしたら、たくさんあります。私も貞操帯を着けてみたいですし、後は冬場でないとコートでの野外露出はしづらいですし。後は本格的なSMプレイも……」
ぱっと顔を輝かせた真里亜が次々に挙げ始める。
どうやら本当にたくさんあるようで、浴室から出て着替えを終えてもなお、彼女の話は終わりそうになかった。
知尋は少しだけ苦笑し、真里亜に言った。
「じゃあ、一つずつ叶えていこうか。時間はたっぷりあるんだし」
「はい、知尋様」
真里亜は微笑むと、知尋の頬に軽い唇を触れさせた。
照れたような笑顔がなんだか妙に可愛らしかった。