※この作品はR-18です。

儚き異能は心を映す   作:緑茶わいん

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第百六十六話 来訪者と新たな誘い

 対抗戦の翌日は平常通り授業が行われた。

 あれだけ大掛かりに学園を使っておいて、片づけがその日のうちに終わるというのも恐ろしい話である。案外、この対抗戦のために多くの『落とし物』がスタッフとして駆り出されていたのかもしれない。

 

 なお、知尋を含む代表者五名は学園側の計らいで休みだった。

 正確に言うと「休んでも出席扱いにする特例」という形だが、せっかくなので知尋もその日はゆっくり休ませてもらった。

 ただ、まあ、同じく一日休みになった華が押しかけてきて『睡眠促進』を強請られたり、ちさとも交えた3P(?)をすることになったりと、なんだかんだ慌ただしく過ごし。

 

 翌日、学園に行くと同級生から上級生まで、多くの人が健闘を讃えてくれた。

 

 ――神代や華と一緒にいると、声をかけられる率は彼らの方が多いのはもう、いつものことなので慣れた。

 

 むしろ、普通に称賛して貰えたことが知尋には嬉しかった。

 

「二人とも有名になったよなー。どうよ、神代とかモテるんじゃね?」

 

 なお、舞阪は相変わらずである。

 

「はは。まあ、ないとはいわないけど断ってるよ。俺が女の子と一緒にいると、何故か朱香がうるさいからさ」

「ん? お前、湯瀬のこと名前で呼んでたか?」

「ああ……なんか、呼べって言われたんだよ。良く分からないけど」

「OK、お前は爆発しろ」

 

 鈍感な神代に、遂に朱香の方から動いたらしい。この変化に沙雪がどう出るか、神代はいつ頃、状況を自覚するのかが気になるところであるが。

 とりあえず、知尋も舞阪に頷いておいた。

 

 

 

 対抗戦が終われば、待っていたのは定期試験と能力判定である。

 知尋は生徒会の仕事をこなしつつ試験勉強に追われ、なんとか成績を維持。ちさとのアドバイスを受けるという究極のカンニングはさすがに使わなかったが、使っていたらもう少しいい点数が取れていたかもしれない。

 また、能力判定では、知尋は鈴の予告通りBランクに昇格した。

 同時に神代もBランクに昇格。対抗戦などで『身体強化』の威力と、それを扱う努力を示したことが決め手になったようだ。

 これで、一年生のBランクは三人に増加。これは過去の例を見ても割と良いペースらしい。また、李狐も能力の成長と新能力の獲得によりDランクからCランクへ昇格した。

 判定の結果が出た日はまた皆でお祝い。

 SランクやAランクの力を間近で見た今、知尋としてはあまりランクに固執する気がなくなってきたが、それでも国からの援助金が増えるのはありがたい。

 既に工事に入っている新しい部屋を維持するためにお金が必要なのだ。

 

 試験や判定が終われば冬休みは目前。

 知尋達はそれぞれに帰省やアルバイトの予定を立てようとしていたのだが――。

 

 

「やっほー、和泉君。二週間ぶりくらいかな?」

「……え」

 

 ある日の帰り道。

 誰もいないはずの場所で突然呼びかけられた知尋は、聞き覚えのある声に足を止める。

 突如、目の前に姿を現した少女は、忘れるはずもない。約二週間前、四校対抗戦にて柴鶴学園の代表として参加していた生徒。

 

「白浜さん?」

「うん。久しぶりだね、元気にしてた?」

 

 屈託なく笑った早稀は、不意に「おっと」と声を上げた。

 彼女は何やら右手を持ち上げると、何かを引くような動作を取る。きん、と、金属がぶつかるような音と共に、右手の先に鎖、そしてそれに繋がれた少女の姿が現れた。

 相変わらず派手なパンクロリータファッション。

 首に着けられた首輪も一周してファッションとしてハマってしまっている。

 

「指宿さんまで」

「……別に、来たくて来たわけじゃありませんけどぉ」

 

 憎々しげに知尋を睨み、ぷいっと顔を背けるかなめ。

 そんな友人を早稀は苦笑しながら見ていた。以前、かなめのお目付け役を務めていた早稀、彼女が鎖を持っているというのは、つまりそういうことなのだろう。

 

「どうして二人が? まさかあの人も?」

「違う違う。ごしゅ……灰人さんはいないよ。ボク達だけ」

「?」

 

 早稀は「ご主人様」と言いかけて、何故かわざわざ言い直した。

 灰人に忠誠を誓う彼女が呼び方を変えるとは、何かがあったのか。

 

「……捨てられたんですよぉ、私達二人とも」

 

 吐き捨てるかなめ。早稀は「違う違う」と首を振った。

 

「なんて説明したらいいかな……あ、そうだ」

 

 どこかからスマートフォンを取り出して操作する早稀。かと思えば「はい、これ」と知尋に差し出してくる。

 電話を受け取るだけなら害もないだろうと、画面を見れば通話状態を示す表示。

 

「……もしもし?」

『しばらくぶりだな、和泉知尋』

 

 聞きたくない声が聞こえてきた。

 

「何の用ですか?」

『つれないな。まあいい。そっちに早稀とかなめが行っているだろう?』

「はい。学校はどうしたんですか?」

 

 二人とも私服姿。それぞれ手に小さなバッグを持っているものの、北海道からの旅行者には見えない。学校関係の用事なら制服を着ているだろう。

 

『北海道の学校は冬休みが早いんだよ。それに、その二人はもう柴鶴の生徒ではなくなるからな』

「え?」

『二人を柴鳳に転入させた』

 

 何かの冗談か、と思った。

 しかし、目を丸くして視線を向けた知尋を見て、早稀が「本当だよ」と言ってくる。知尋の声から会話の内容を察したのだろう。

 

「ボク達は三学期から柴鳳に転入する。もしかしたら和泉君達と同じクラスになるかもね。で、住むところの契約は済ませて、荷物は運んであるんだ」

「……いや、でもどうして」

『実験、かな。俺の『支配者』について検証しておきたいことがあってさ』

 

 きっかけは知尋に対するかなめの態度だった。

 憎悪を募らせた結果の凶行――主の命令にすら反する動きについては、当然、志鶴達から灰人に報告があった。

 それを聞いた灰人が興味を持ったらしい。

 かなめほど深い洗脳を受けた少女が、灰人以外の男に強い興味を抱く、という珍しい事態。『支配者』の洗脳を弱めたのが知尋の力なのか、確かめてみる必要があると彼は考えた。

 

「それが転校とどういう関係があるんですか?」

『俺の手元に置いていたら洗脳が上書きされるだろ? だから東京に置く。ついでに、二人には俺を主と呼ばないよう、自分から俺に会いに来ないように厳命してある』

 

 この状態で洗脳が解けるまでの期間を計るのだという。

 実は、前にも知尋抜きで似たような実験し、その時――参加したのは早稀達ではなかったが――は一か月経っても忠誠心は十分に残っていた。

 

『その時の結果と比較して、お前の影響がどの程度あるか……楽しみにさせてもらう』

 

 早稀まで巻き込んだのは、やはりお目付け役の意味。

 かなめを単独で知尋の傍に置くと流血沙汰になりかねないので、ある程度、行動を制御するためにセットでやってきた。

 これが、目に見えていない知尋の影響を計るのにも丁度いいらしい。

 

「でも、そんな。二人の意思は無視なんですか? それに、もし実験で洗脳が解けたら」

『もし、そいつらが俺の再洗脳を拒否するなら認めてやってもいい。どうせ俺の『物』だからな。余興でも実験でも、好きに使わせてもらう。もともとかなめは住居が札幌にあるのが不便だったんだ。早稀の方は……あの能力は使えるから、再洗脳を施すかもしれないな』

 

 芸能活動を行う上では、はずれとはいえ東京に住処があった方が楽なのは事実だ。

 

『というわけだ。他に異存はあるか?』

「……あなたがいいなら、僕は構いませんけど」

 

 配下が減るリスクよりも能力の検証を取る。

 平気で女の子を物扱いする灰人の態度に怒りは湧いてくる。まあ、ここで問答してもいつかの繰り返しになるだけだろうが。

 

『よし。なら、二人のことは煮るなり焼くなり好きにしろ。お前のお手並み拝見、といったところだな』

「……わかりました。ところで、これが、あなたの言っていた『近いうち』なんですか?」

『いや、それはまた別だ。詳しいことは早稀達から聞けばいいが、冬休みの予定を開けておけよ』

「?」

 

 意味のわからないことを言われ、首を傾げるうちに通話が切れた。

 スマートフォンを早稀へ返すと、彼女はそれを待っていたかのように、別の何かを差し出してくる。手帳のようなものが数冊。

 こういう物を姉が持っているのを見た記憶が朧げに蘇る。

 

「これは?」

「パスポートだよ。和泉君と、真里亜様、西崎さん、高槻さん、御宿さんの分」

「……なんで?」

 

 申請してもいないパスポートを他人から手渡されるのか。

 

「ごしゅ……灰人さん達が手配したからに決まってるでしょ」

 

 五人分しかないのは、大人は仕事で来られないだろうから。

 また、四葉のパスポートは既に本人が所持しているため手配しなかったとのこと。さすがはお嬢様である。

 

「手配って、これ偽造ってこと?」

「違うよ。コネで急がせたし、本人確認も省略したけど正規品」

 

 偽造と大差ない気がした。

 

「捕まる心配がないっていうのは大きな差でしょ? とにかく、渡したからちゃんと皆に配っておいてよね」

「いや、これをどうするのかよくわからないんだけど」

「もう、鈍いなあ」

 

 などと言いつつ、どこか楽しそうに見えるのは気のせいか。

 知尋への憎悪で心を歪ませているかなめより、ある意味では早稀の方が意思をはっきり持っている――灰人への忠誠が確立しているように思えた。

 

「和泉君達を、灰人さんと、和泉君のお姉さん達が海外旅行に招待するみたい。確か南の島だって言ってたかな?」

「……は?」

 

 海外旅行、とは予想外の単語だった。

 これが灰人個人の仕込みなら、早速約束を破って知尋達を抹殺する気かと疑ってしまうが、楓まで一枚噛んでいるとなれば話は別だった。

 あの姉が、あっさり灰人の物になるところは想像できない。

 実際、能力的に考えても『ベクトル操作』は『支配者』への耐性を持つはずだ。

 

「水着でも用意しておけばいいのかな?」

 

 冗談めかして言うと、早稀が肩を竦めて答えた。

 

「泳げなくはないだろうし、持ってってもいいんじゃないかな? ちょっと、和泉君達が羨ましいくらいだよ」

「白浜さん達は来ないんだ?」

「和泉君の判断に任せる、って灰人さんは言ってる」

 

 なるほど。

 好きにしろ、というのはこういうのも含めての話か。

 なら、どうするかは危険性やその他諸々を考慮して決めるべきだろう。

 じろり。

 先程から黙っていたかなめが知尋を睨む。彼女へは敢えて何も答えず、知尋はしばし思案した。

 

「なら、一緒に来るといいよ。置いていくのも気分が悪いし」

「やった。なら、灰人さん達に会えるかも」

 

 自分達から会いに行くのは駄目でも、他人の都合を交えた予定の結果、鉢合わせてしまうのはOKということか。

 どうやら、早稀はなかなかに強かな少女のようだ。

 

「白浜さん達はどう思ってるの? あの人から突き放されたこと」

「別に、どうってことないよ?」

 

 何気なく首を傾げつつ早稀が答えた。

 

「転校も、和泉君と話をするのも灰人さんの命令だし。いい子にしてれば元に戻れるんだから、特に思うことはないかな。かなめもそうじゃない?」

「私は、早稀ちゃんみたいに楽観的にはなれません」

 

 水を向けられたかなめは俯いて首を振った。

 

「私達が捨てられたのは事実で、その原因が和泉君にあるのも事実です。だから私は和泉君となんか仲良くできません」

「……そういうかなめの態度が良くないんだと思うけど」

 

 嘆息した早稀が知尋に視線を向けてにっこり笑った。

 

「まあ、そういうわけで。心の底からってわけにはいかないけど仲良くしてよ。ボクも、灰人さんの命令を投げ出したくないから」

「……うん。こちらこそ、よろしく」

 

 頷いて手を差し出すと、かなめは見たくもない、という風にそっぽを向いた。一方、早稀は何の抵抗もなさそうに知尋の手を取ってくれる。

 彼女は小さな紙片を差し出し、知尋に告げた。

 

「これ、ボク達の家の住所。良かったらいつでも遊びに来てよ」

「それも、あの人に言われたの?」

「うん。そうだよ、もちろん」

 

 笑顔で頷く早稀。

 彼女は、嫌がるかなめを鎖で半ば引きずりながら去っていった。ある程度、知尋から離れたところで透明化を起動したようなので、道行く人に奇異の目で見られることはないだろう。

 

(なんだか、変なことになったね)

(うん。でも、これもチャンスなのかもしれない)

 

 対抗戦では余裕がなかった、かなめを灰人の呪縛から解き放つという目的。

 それを果たすチャンスが期せずして巡ってきた。

 まあ、それが他ならぬ灰人の仕込みだというのは気に入らないが。

 

(できることはやらないと損、だからね)

 

 とりあえず、愛華達に事情を話し、母にも「冬休みは帰れないかもしれない」ことを伝えないといけない。

 どうやら冬休みも忙しくなりそうだと、知尋は近い未来へと思いを馳せた。

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