ピピピピピ……。
ベッドサイドから電子音が聞こえてくる。
私立柴鳳学園の一年生、和泉知尋は、以前良く聞いていた音を聞き、意識を少しずつ浮上させた。
「ん……」
うっすらと目を開け、天井を見つめる。
寝室の窓、カーテンの隙間からは朝日が差し込み、室内をぼんやりと照らしている。どうやらもう夜が明けているらしい。
しかし、今日に限ってスマートフォンのアラームが鳴ったのは何故だろう。
と、傍で誰かがもぞもぞと動く気配。
見ると、ややくすんだ金髪を持つ少女がベッドの上を這っていた。服は着ておらず、適度に起伏のあるボディラインが見て取れる。
知尋の『奴隷』の一人、西崎李狐だ。
髪はだいぶ伸びてきており、根元には地の黒が見えている。今度は地毛を金に染めず時間をかけて黒に戻すつもりらしい。
李狐がベッド脇のチェストから端末を取り、画面を操作してアラームを止める。知尋はそれを見て今日の予定を思い出した。
「……あ、そっか。今日からだったっけ」
国家機関、およびSランク能力者達から招待された海外旅行。その日程は今日、十二月二十七日からとなっていた。
知尋の声に李狐がぴくりと反応。
振り返って申し訳なさそうに苦笑する。
「あ、ごめんなさい。起こすつもりじゃなかったんだけど」
しばらく部屋を留守にする関係上、朝はバタバタしたスケジュールになる。そのため早めに家事を済ませる必要があり、アラームをセットしていたのだろう。
先のアラームで他の少女達も次々目を覚ましているのに気づいた。
「おはよう、知尋君」
「おはよう、愛華」
知尋の隣で寝ていた少女、『恋人』の愛華に微笑み返す。
軽くタオルケットをかけただけの白い裸身は李狐のそれに近いものの、李狐がすらっとした印象なのに対し、もっと柔らかそうな印象を受ける。
また、行為の際も身に着けている銀色のブレスレットがワンポイントになっている。
そういえば、このブレスレットは知尋の『セフレ』の一人、皆方七瀬の作であることがつい先日判明した。クリスマスイブに皆でパーティをした際、愛華が着けたそれを見て製作者本人が証言したのだ。
七瀬も割とお気に入り作品だったらしく、中古ショップを経て愛華の手に渡った事を喜んでくれた。
奇妙な縁というか、世間が狭いことを実感した話である。
「申し訳ありません、知尋様。お目覚めのご奉仕が滞ってしまいました」
光を深く飲みこむ黒い瞳に、サイドだけを伸ばした黒のショートへア。どこか静謐な雰囲気を纏った小柄な少女が、知尋の元へ這ってくる。
深海真里亜。
知尋が最初に『奴隷』とした相手。知尋を取り巻く面々の中で、最も性奴隷としての意識を強く持っている少女だ。
身長に似合わぬ豊満な胸、艶のある肌を隠そうともせず、知尋の朝勃ちしたペニスに手を伸ばし、竿を優しく握る。
「……もう。真里亜ちゃん、別にこんな日くらい休んでもいいじゃないですか」
広いベッドの端辺りに座った少女が頬を膨らませてぼやいた。
トレードマークの黒縁眼鏡を外した今は、二本の三つ編みがチャームポイントの小動物系。胸は小さめだが、それが逆に愛くるしさやか弱さを強調している。
ただし性格は毒舌系。遠間から知尋を睨んできているのは、何も眼鏡がなくて目が見えにくいからという理由だけではない。
御宿華は生粋のレズビアン。
知尋の相手をするのは成り行きで仕方なく、というスタンスなのだ。
「あら。じゃあ、たまには華さんが知尋様にご奉仕してはどうかしら」
「冗談言わないでください。私は命令でもされなきゃそんなことしませんから」
真里亜の呼びかけにふん、と鼻を鳴らして答える。
そうしてちらりと視線を向けてくるので、知尋は苦笑しながら彼女に言った。
「じゃあ、華にお願いしようかな」
「いえ、別に振りじゃなかったんですけど!?」
文句を言いつつも真里亜と交代するあたりは律儀である。
華は手淫ではなくフェラを選んだらしい。ベッドに半ば寝そべると顔を近づけ、根元を両手で支えながら口に含む。
ねっとりと、唾液の膜でペニスが包まれた。
「んっ……」
華の奉仕は丁寧かつ繊細だった。
ペニス全体を濡らした後は先端だけを咥え、ちろちろと舌で刺激。同時に両手の指を竿と玉袋、裏筋へと這わせる。知尋は思わずびくっと身体を震わせた。
……ほんの短い間で、すっかり快感を得る態勢にされてしまった。
なんだかんだ、彼女も知尋のツボ、そこを突く性技を学び取っているのだ。
培った技術、レズビアン故の心配り、生来の真面目さが合わさればこの通り。他の少女達にも決して劣らない奉仕を見せてくれる。
ちゅうう、と。
ペニスの先端を吸われたかと思うと唇がいったん離れる。同時に手も離され、亀頭から竿までが空気に晒されると、言いようのない寂しさに襲われる。それを見計らったように、指と舌が再び伸びてきた。
指ではなく手のひらで支えながらの舌奉仕。
アイスクリームでも舐めるようにゆっくり、責める位置を変えながら小刻みに動く。股間に意識が集中したところに、そんな責め方をされてはたまらない。大事にされているのがわかるから余計に強く欲求が募る。
「そろそろ、よさそうですね」
ぞくっと背筋が震える。
華が大きく口を開けてペニスをぱっくり咥えこむ。口内は再びたっぷりの唾液で満たされており、根元までが温かさに包まれる。
冬という季節もあって、つい安心してしまう。
直後、本格的な責めが開始された。唇でペニスをなぞるように、根元から先端までの上下移動。じゅぼじゅぼといやらしい音がするのも構わず、積極的に性感を刺激してくる。
「うあっ」
たまらない。
知尋は身体が跳ねそうになるのを抑えながら、性器へ加わる快感に身を任せた。ぞくぞくと次々に快感が駆け抜け、一直線に射精へと向かっていく。
結局、少女の可愛らしい口に大量の白濁液が注がれるのに、さほど時間はかからなかった。
こく、こく。……ふぅ。
華は喉を鳴らして吐き出された精を飲みこむと、艶っぽい吐息を漏らした。
濡れた唇が開き、高い声が吐き出される。
「出し過ぎです。本当に節操がないんですから」
「……あはは」
口を開けばこの有様。心の籠もった奉仕とは裏腹な毒舌ももはやお馴染みだが、感じるものがないわけではない。
ほんの少し傷つきつつ、同時に微笑ましさも覚える。
「飲みにくいので、もう少し量が減ってくれてもいいと思うんですけど」
「駄目ですよ。兄さんの精液は貴重なんですから」
なおも悪態をつく華を新たな声が諫めた。
何も空中から突如、立体映像か何かのように現れる人影。セミロングの髪に、女性にしてはやや高い身長。特筆すべきものがないのに何故か人目を惹く少女が、知尋を見てにっこり笑った。
知尋の『妹』、和泉ちさと。
現状、彼女は肉の体を持った人ではなく、知尋の能力『補助人格』による「知尋のもう一つの人格」である。ただし、どういう原理か、知尋には独自の能力を行使することができ、その一つとして幻の肉体を形成することができる。
幻として現れた時は服装も自由だが、今は全裸。下腹部に浮かぶ子宮モチーフの『刻印』をどこか誇らしげに晒している。
「そろそろ一人につき一回回ってくるか怪しいじゃないですか」
「そうでもないでしょう」
ちさとの言い分に華が首を振る。
「和泉君にはうってつけの『新しい能力』がありますから」
華が指摘したのは、おそらくは七瀬との絆が生み出した能力。
この間行われた能力判定の後、というか、数日前のクリスマスイブに発現したばかりで、効果はいたって単純。
――精力が増し、ついでに性的な回復力が著しく向上する。
自分が抱いてほしい時に抱いてもらえないと困る、とでも考えたのだろうとわかやすい、なんとも素直なものであった。
お蔭で知尋は今までよりもぐっと真里亜達の相手をしやすくなった。短い仮眠を取り『睡眠促進』を利用することまで考慮すると一日に十回以上は余裕という、本人ですらちょっと引くレベルである。
代わりに、定期的に抜いてもらわないと昂ぶって仕方なくなる弊害も増えたが。
「あら。それでも貴重よ。知尋様のお時間は有限なのだから」
真里亜が微笑み、側面から身体を近づけてくる。
華の奉仕を見て興奮したのか、甘く蕩けるような声で、
「知尋様。もし一度で満足されないようでしたら、私の身体をお使いくださいませ」
「う。真里亜さん、ずるいです」
「え、と。真里亜。私も、その、したいなって」
真里亜が言えば、ちさとが残念そうに呻き、愛華が遠慮がちに手を挙げる。
それを見た華は、はあ、と深いため息を吐いた。
「皆さん、少し和泉君にべったりすぎませんか? もう少し私の相手も」
「っていうか、時間無いんだってば! 知尋はいいけど、他の皆はさっさと交代でシャワー浴びなさい!」
このところ突っ込み役、というか仕切り役が板についてきた李狐が、華のぼやきを遮る形で全員に一喝した。
……なお。
寝室にいた最後の一人、メンバーの中で最も身長と胸の大きい人物――遠方に住む七瀬を除けば唯一の成人女性である知尋の『セフレ』黒羽鈴は、この期に及んでようやく目を覚ましたことを付け加えておく。
「ふぁ……もう朝? あれ、まだ一時間は寝られるのに、皆早いんだね」
☆ ☆ ☆
というわけで、旅行の朝も知尋達は相変わらずだった。
元はと言えば、前夜にいつも通り性行為を行ったのが間違いなのだろうが、今はもう性処理は知尋だけの問題ではなくなっている。底なしの性欲を持つ真里亜はもちろん、李狐達だって数日も抱かれなければ欲求不満になるのだ。
少なくとも、仕事で旅行に行けない鈴とはたっぷり交わる必要があったし、そうなれば他のメンバーだって黙ってはいられない。
「でも、李狐がいなかったら間に合ってなかったよ。ありがとう」
「べ、別にそれくらい当然の仕事でしょ。もっと別の時に褒めてくれた方が……でも、ありがと」
無事、準備が終わったところで微笑みかければ、李狐は顔を赤くしてそっぽを向いた。
そこへ、鈴が仕事用のスーツ姿で抱き着いてくる。ぴしっとした衣装越しでも、彼女の柔らかさは十分すぎる程に感じられる。
「これで知尋くんとしばらくお別れかあ。寂しくなるなあ」
「……あはは。まあ、たぶん冬休み中には帰ってこれるはずですし」
少しでも安心して欲しいと、スーツが皺にならない程度に抱きしめ返す。
「っていうか、鈴さん? あたし達がいない間、この部屋、散らかし過ぎないようにしてよね?」
「大丈夫だよ。皆がいない間は基本、上の部屋使うつもりだから」
「そっか、ならいいけど」
久しぶりに見る普通の私服姿の李狐がほっと一息。
家事を預かる身として外せなかったのだろうが、家主である真里亜がその横で平然としているのが何だか不思議な感じだった。
彼女はくすり、と笑って静かに言う。
「国際電話も難しいでしょうけれど……幸い、遠くにいても話をする手段が見つかりましたし。何かあれば知らせてくださればいいと思います」
「そうだね。あの子には感謝しなくっちゃ」
と、鈴も頷く。
真里亜の言う「手段」とは、鈴の言う「あの子」が持つ能力のことだ。ほんの数日前に知尋の『愛人』になったばかりの、私立柴鳳学園三年生。
直前過ぎて旅行には同行できなかったが――。
ピンポーン。
「誰だろ。こんな時間に……って葉月先輩?」
『来ちゃった』
李狐がインターフォンに出たかと思えば、返答が脳内に響いた。
件の少女、葉月万里歌だった。
部屋に入ってきた彼女は、玄関に勢ぞろいした一同を見てぱちぱちと瞬き。
『見送り、ギリギリ間に合った?』
「はい。ありがとうございます、葉月先輩」
知尋が代表してお礼を言うと、彼女は嬉しそうに目を細めた。
靴を脱いで歩いてきて知尋に抱きつく。周囲で何人かがぴくりと反応した。
「……行ってらっしゃい」
背伸びした万里歌に耳元で囁かれる。
「ふふ。葉月先輩、帰ってきたらゆっくりお話ししましょう」
『うん。こちらこそお願いします』
微笑みを浮かべた真里亜が笑顔を交わせば、他の少女達も「もう、仕方ないなあ」という風に笑った。
もとより知らない相手でもない。
愛華も、突然のスキンシップにはむっとしつつも、基本的には歓迎ムードだ。
「それじゃ、行きましょうか」
鈴もぼちぼち出る時間らしいので、万里歌も含め全員でマンションを出る。
途中で鈴と別れてもうしばらく歩くと約束の場所が見えてくる。
そこでは。
「おはようございます、ご主人様」
上品なコートに身を包んだ柴鳳学園生徒会長、黒羽四葉が蕩けるような笑みを浮かべて立っていた。