※この作品はR-18です。

儚き異能は心を映す   作:緑茶わいん

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第百六十九話 ボクっ子の誘惑 1 ★

 知尋、愛華、真里亜、李狐、華、四葉。それにかなめと早稀。

 計八人。

 男女関係なく二人一部屋で考えると、ちょうど四部屋に収まってくれる。

 

「いや、姉さん。でもそれはさすがに問題が」

「まあ、私もそう思って五部屋を手配したが……」

 

 肩を竦めた楓がちらりと少女達を見る。

 

「当人達が問題ないなら無理に止める気もない。部屋割りは好きに決めるといい」

「はい。知尋君以外にも一人、得する人が出ちゃうと不公平ですから」

 

 瞳に闘志を宿しながら愛華が答えた。

 発言の内容はそれなりにもっともなのだが、本心では別の理由から言っているのが丸わかりである。

 元柴鶴組以外、知尋の関係者達は皆、似たような反応で。

 

「じゃあ、私と早稀ちゃんは同じ部……むぐっ」

「皆でじゃんけんしよっか。楽しそうだしね」

 

 女の争いに不参加を表明しようとしたかなめが、早稀に口を押さえられて黙り込む。早稀がどういうつもりでそうしたのかはイマイチ不明なものの、七人が勝ち残りのじゃんけんを行うことに決定。

 

「じゃーんけーん、ぽんっ」

 

 数回のあいこと一、二人かが脱落する流れを繰り返し、やがて決定した勝者は。

 

「何で私なんですかぁ!? だから嫌だって言ったのに!」

「あはは。こうならないかなって思ったけど、うまくいっちゃったね」

 

 チョキで勝ち残ったかなめが悲鳴を上げ、先に脱落していた早稀が楽しそうに笑った。

 なるほど。早稀は灰人の目的――知尋の影響を受けた奴隷達を観察する――を遵守するつもりでかなめをけしかけたのか。

 しかし。

 

「白浜さん。さすがに彼女と知尋様を二人にはできないわ」

「うん、だよね。じゃあかなめ、ボクが代わってあげるよ」

「じゃあ最初から私は不参加で良かったじゃないですかぁ!」

 

 たかが部屋割りなのに、かなめは半泣きである。よほど知尋と一緒の部屋が嫌だったらしい。

 ……まあ、知尋としても、寝首をかかれる危険性がある部屋割りは勘弁してもらいたいところではあるが。

 

「それならいいかな、真里亜様?」

「え、ええ。構わないわ」

 

 何やら少々訝しみつつも真里亜は了承した。

 

(あの子の言う通り、最初から六人で決めなかったのが引っ掛かったんだと思うよ。じゃないと、白浜さんだけ確率が二倍になるでしょ?)

(あ、そうか)

 

 早稀は別に、知尋のことを好きでも何でもないはず。

 にもかかわらず、わざわざ同室を志願するとは。

 

「というわけで。よろしくね、和泉君」

「う、うん」

 

 なお、他の部屋割りは「真里亜と四葉」「李狐と愛華」それから「華とかなめ」という組み合わせになった。

 真里亜と同室になれず、それどころか相性の悪い早稀とペアとは、華はなかなかの不運ぶりである。あるいは、これは四葉の『幸運』が何らかの作用をもたらした結果なのだろうか。

 華とかなめのペアも危険を感じる要素はあるものの、

 

「相手が和泉君じゃなければ、わざわざ暴れたりしませんよぉ」

 

 という本人の言葉を信じることにした。華だってそうそう油断はしないだろうし、華一人を暴行するメリットも特にない。

 楓からルームキーを受け取り、ホテルのような廊下を歩いて荷物を運び込んだ。

 なお、楓は仕事に戻るとのこと。灰人のお守りをしながら研究の手伝いをしているらしい。

 

「今日は自由時間にするから、好きなだけ遊ぶといい。知尋は明日から少し時間を取ってもらうことになるが」

 

 その他、いくつかの注意事項を伝えてから去っていった。

 

 

 部屋の中は八畳ほどの広さだった。備品はベッドに液晶テレビ、電気ポットに小さな冷蔵庫、エアコンといったところ。だいたい平均的なビジネスホテルのイメージと重なるだろうか。

 なお、当然ながらベッドはシングル二つである。

 何かの間違いが起きなくて良かった、と知尋が息を吐いていると、適当に荷物を投げ出した早稀が、入り口から近い方のベッドへ身を投げ出した。

 

「早い者勝ち、こっち貰うよー」

 

 ばふっと音を立てて沈む少女の身体。

 意外と良いベッドを使っているらしい。施設の目的上、長期滞在する者もいるだろうから、きっとその対策なのだろう。

 

「白浜さん、服が皺になるよ」

 

 苦笑しつつ、知尋も脇に荷物を置いてもう一つのベッドへ。

 腰かけると適度な柔らかさと反発が心地いい。

 シングルベッドを一人で使うのは久しぶりなので、そういう意味でも少し楽しいと思った。

 

「む。和泉君って男の子の癖に変なところ気にするんだね。お母さんみたい」

「う」

 

 高校生男子に向かって「お母さん」はないのではないか。

 胸の痛みを堪えつつ、知尋は再び早稀に声をかける。

 

「……今のうちに聞いていいかな?」

「ん? 何かな?」

 

 先程の忠告は無視するつもりらしい。

 ごろごろとベッドを転がった挙げ句、寝っ転がったまま枕を抱いた早稀は首を傾げて知尋を見てくる。

 幸い、彼女の服装はシャツにジャケット、ジーンズというカジュアルなものなので、下着が見える心配はなかった。

 

「僕と一緒の部屋になったのは、何か目的があったから?」

「ん?」

「さっきのじゃんけん、指宿さん抜きでやり直しても良かったと思うんだ」

「……ああ、なるほどね」

 

 真面目な用件を察した早稀も表情を変えた。

 ただし姿勢はそのままで、んー、と、唸ってから答えてくる。

 

「どうだろうね?」

 

 曖昧な言葉と共ににっこり笑顔。邪気のない様子に毒気を抜かれた。

 

「教えてくれない、ってこと?」

「ううん。正直、ボクも良くわからないんだよね。確かに何も考えてなかったわけじゃないんだけど」

 

 と、首を傾げる早稀。

 ……どこまで信じていいのやら。

 いつもいつも『読心』に頼るのはどうかと思いつつ目を覗き込むと、早稀は目を逸らすどころか見つめ返してきた。

 視線を通してリラックスした精神状態が伝わってくる。

 

「嘘じゃないでしょ?」

「……うん」

 

 息をするように嘘をつく――早稀がそんな性質だったら話は別だが。

 

「考えてた、っていうのは?」

「かなめを和泉君と同じ部屋にするってこと。あそこまで嫌がられると無理かなって思ったけどさ」

 

 灰人の命で派遣されてきた二人。

 しかし、メインはかなめであって早稀はサブ。となれば、知尋と接触するのは極力、かなめに任せてしまう方が楽だ。

 そうやって、さっさと『実験』の結果が出れば早稀の方はお役御免、灰人の元へ帰れる可能性すらある。

 

「でも、この機会に和泉君と話しておくのも面白いかなって」

「面白い?」

「うん。灰人さんが気に入るくらいだしさ。それに、サブとはいえボクだってそういうお役目なわけだから」

 

 ゆっくり会話してみるのもいいかと思った。

 矛盾する二つの方針の、どっちが実現しても良かったらしい。

 

「ボクはかなめと違って、和泉君と話したくらいでどうにかなると思ってないしね」

 

 あっけらかんと言う早稀。

 考えがないようで芯の部分はしっかりしている。やはりかなめより彼女の方が「落としづらい」のは間違いない。

 まあ、落とすといっても口説くのが目的ではないのだが。

 

「白浜さんはあの人のことが好きなんだね」

「うん。好きだよ、愛してる」

 

 即答だった。

 確か灰人の話では、彼女は元から灰人信者だったのではないはずだが。

 

「……あの人に洗脳されてるっていう自覚は?」

「あるよ。でも別にそれでいいんだよ。だって、今は灰人さんのことで頭がいっぱいだからさ」

「そう、か」

 

 そう答えるのが精いっぱいだった。

 やはり異常だ。自分が狂わされているのを自覚していてなお、自分を狂わせた男を愛していると言う。

 感情が理性を、倫理を飛び越えてしまっている。

 

(……でもさ、兄さん。白浜さんの言ってることって、李狐さんとそんなに変わらないよ)

 

 李狐は知尋が変えた。

 プライドが高く攻撃的だった昔の李狐を叩きのめし、代わりに知尋に従うように刷り込んだ。刷り込んでしまった。

 彼女も、あの時の知尋のレイプを今は肯定している。

 なら、知尋のしたことと灰人のしたことに、どれほどの違いがあるだろうか。

 

(李狐さんの場合、先に手を出したのは向こうだったし……兄さんは能力で無理矢理に洗脳したわけじゃないけどね)

 

 多少『感情増幅』は使ったが、あれの効果は一時的なものに過ぎない。

 レイプ後に初めて会った時。マンションに誘った時。あらためて抱いた時。何度も我に返るチャンスはあったし、時間経過と共に深い衝撃は薄れていったはずだ。

 一方の灰人は『支配者』の能力を使い、継続的に洗脳の深度を増していった。

 そういう意味では全く違うということもできる、が。

 

「おーい、和泉君?」

「……あ」

 

 灰人の奴隷達を『支配者』の効果から解放することは本当に良いことなのか。

 思考の深みに陥りかけた知尋を早稀の声が引き戻した。

 

「良くわからないけど、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない? 和泉君は和泉君のしたいようにすればいいよ」

「……あはは、そうだね」

 

 まさか早稀に励まされるとは。

 知尋は苦笑しつつ、心中で感謝を送った。

 

「じゃあ、白浜さん。ついでに指宿さんと同じ能力を受けてみない?」

「やだよ。わざわざあからさまに危険そうなの受けるほど馬鹿じゃないってば」

「だよね」

 

 頷く。まあ、かなめの話を聞いていて『願望暴露』を受け入れるようなら自殺志願もいいところだ。

 

「あ、でも和泉君」

 

 ぱっ、と起き上がった早稀が枕を置いてベッドを降りる。

 かと思えば知尋のベッドへと歩み寄ってきて、知尋の隣に腰かけた。口が猫を思わせる形に曲がった。

 耳元で甘い囁き。

 

「エッチなことなら、してもいいよ」

 

 ぞくっとした。

 見た目も喋り方もボーイッシュ、知尋の服を着たら男の子に見えそうな少女だというのに、そうやって誘う様子は酷く官能的だ。

 彼女も灰人の奴隷。

 幾度となくあの男に抱かれ、性行為には慣れているのだ。

 

「本気にするよ?」

「いいよ。……あはっ、結構乗り気なんだね」

 

 早稀の指が知尋の胸を這う。

 服越しのかすかな刺激、たったそれだけのことなのに身体が反応してしまう。やがて指が服の裾から中へと潜り込めば猶更だ。

 ふうっと、首筋に息がかかった。

 側面から身体を押し付けてきた早稀は片手で愛撫を続けながら、もう片方の手で知尋の服を捲り上げていく。慣れた手つき。

 

「んっ……僕としても悪い話じゃないからね」

「そう? 和泉君の方が、ボクに骨抜きになっちゃうかもよ?」

 

 あっという間に上半身裸になった。

 

「んふふ」

 

 胸と背中、両側をひとしきり撫でると、早稀は立ち上がった。

 エアコンのリモコンを手に取りスイッチをオン。

 

「裸になると寒いかもしれないからね。……すぐ暑くなるかもしれないけど」

 

 手を取られて立ち上がらされる。

 と、早稀は逆に床へしゃがむと知尋のベルトに手をかけた。小さな音と共に淀みない手つきでベルトが外され、下着の奥からペニスが取り出される。

 まだ殆ど勃起していないそれを見て早稀が声を上げる。

 

「わ、大きい……」

「何か、誰にでも言ってそうだね」

「そんなことないよ。そんなに大きくない人にはちゃんと『素敵』とか『可愛い』とか別の言い方するもん」

 

 お世辞なのは否定しないらしかった。

 灰人とどっちが大きいか……は怖いので聞かないことにして、早稀のしたいように任せることに。

 

「じゃあ、手でしてあげるね……?」

 

 上目遣いで微笑む早稀がペニスを両手で包む。

 

「ふふっ、おちんぽあったかい」

 

 つぶらな口から躊躇なく卑猥な言葉が発せられる。

 もちろん喋る間も手は止まることなく動いている。デリケートな亀頭は敢えて避け、竿や玉袋を撫でたり指でタッピングしたり、軽く握ったり変化をつけて刺激。

 僅かに潤んだ瞳も、時折小さく聞こえる息遣いも、全て計算づくなのだろう。不特定多数の男を相手に学んだ技術がさりげなく、惜しげもなく注ぎ込まれる。

 

「ボクのしこしこ気持ちいいでしょ? 皆すぐ出しちゃうんだから、遠慮せず気持ちよくなっていいんだよ?」

「っ。そう言われると我慢したくなってくる、かな」

「へえ。いいよ、ここ、だんだん硬くしながらそんなこと言って。いつまでもつか楽しみだなあ」

 

 自信たっぷりな早稀の台詞だが、言うだけの技術は確かにあった。

 勃起の具合が進むにつれて責め方にも容赦がなくなる。より速く、強く、激しく責められ、ペニスを中心にぞくぞくとした快感が走る。

 先走り汁が分泌されれば、それを指に絡めて亀頭を擦られた。焼けるような快感を、知尋は必死に堪えた。

 次第に足ががくがく震え、立っているのすら辛くなってくる。

 

「う、ああああっ!」

「ほら、ほーらほら。我慢せずにイっちゃいなよ。その方が絶対気持ちいいよ?」

 

 悪魔の誘惑に心が揺れ動き――遂に堪えきれず射精してしまったのは、だいたい五分ほどが過ぎた頃だった。

 びゅくびゅくと分泌される精液を早稀は手のひらで受け止め、笑った。

 

「あはっ、出た出た。じゃあ次は本格的に、しよっか?」

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