昼食の後はビーチに繰り出すことにした。
食堂のスタッフに尋ねたところ、やはり海で泳ぎたがる研究者・スタッフは殆どいないらしい。ただ、たまに散歩する者はいるので、施設の入り口から離れた場所ならリラックスできるだろうとのこと。
まあ、入り口自体が複数あるので色々難しいが。
「あんまり気にしすぎても仕方ないんじゃないですかぁ?」
というかなめの台詞に倣っておくことにする。
それぞれ着替えのため一度部屋に戻る。と、早稀がおもむろに服を脱ぎ始めた。
「ちょ……洗面所に行くとかしようよ!」
「えー、どうして? 知尋はもうボクの身体見たことあるでしょ?」
更には「気になるなら知尋が洗面所行きなよ」と言われてしまう。
しばし絶句した後、知尋は素直に従うことに。荷物の中からごそごそと水着を探す。すると、普通の男性用水着と一緒に見慣れない物を見つけた。
ダークグレーを基調としたツーピースの水着と、それに合わせるトップス。合わせて身に着けるとワンピースのようなスタイルになる2WAY形式のレディース水着だ。
こんなもの入れた覚えはない。
誰かの荷物が混入したか、入りきらなくてこちらに入れたのだろうか。
(あ、兄さん。それ私の)
(え?)
(私も泳げたらな、って思って。でも上に何も着けてないと恥ずかしいでしょ?)
だから、自分用の水着をこっそり忍ばせていたのだとか。
なお、購入は愛華達にお願いしたらしい。抜け目ないというか、身体は知尋なのだから気にし過ぎのような。
(そうだけど、でも恥ずかしいでしょ)
(ん、まあ、そうかも)
なら、ちさとの分の水着も持っていった方がいいか。
両方の水着を持って洗面所に移動した知尋は、しばらく考えてから決断した。一方の水着に着替え、もう一方は手に持ったまま戻る。
「あ、知尋。おかえ……り?」
出迎えた早稀が目を瞬く。それはそうだ。知尋が選んだのはちさとの水着の方、つまりはレディースだったのだから。
ダークブラウンのインナーにパールホワイトのトップス。布面積が多く、フリルもあしらわれたデザインの水着は体型を隠しやすく、知尋でも可愛く着られるデザインだった。
「相変わらず似合うねー。でも、どうしてまた?」
「先に、ちさとに思う存分遊んでもらおうと思って。それに、向こうで着るより脱ぐ方が簡単だからね」
「ちさと……ってあの子か。妹なんだっけ?」
早稀の声に応え、ちさとが室内に実体化する。
海が嬉しいのか笑顔で、衣装は知尋と同じだ。
「はい。和泉ちさとです。ちゃんとご挨拶するのは初めてですね」
「へえー。よろしくね、ちさと」
丁寧にお辞儀するちさとに、早稀もにっこりと答えた。物凄い順応性だと感心していると「うちにも色々変な人はいるからね」とのこと。
『落とし物』は一般人よりもずっと超常の現象に慣れている。
なんにせよ、ちさとが変な目で見られないのは有り難いことだった。
「じゃ、行こうか」
「うん」
ビーチまでは上に服を羽織って皆と合流した。
案の定、ここでもちさとモードの知尋に皆が驚くも、華は何やら納得したように頷いてみせた。
「それは、ちょうどいいいかもしれませんね」
「というと?」
「男一女七より、女の子八人の方がヘイトが少ないということです」
何しろ施設を出るのにしばらく歩くわけで。
恋人を残してきている職員やら、独身の研究者やらに「何だあのリア充」と見られる――主に知尋が――のは恐ろしい。ヘイトコントロール的な意味でも役に立つかもしれないとのこと。
逆にナンパの心配はあるかもしれないが、荒事になってもこの面子なら割と心配はない。
「……でも、みんなの水着が気になるな」
今はまだ服が邪魔してよくわからない。
「ふふ。着いてからのお楽しみだよ」
愛華が知尋の手を取った。
行こ? と、手を引かれながら施設を出てビーチへ。少し施設から距離を取りつつ、波に足を寄せてみると、日本の真夏ほどではないが泳げる水温だった。
午後は時間が経つにつれ涼しくなるだろうから、早い時間から来たのは正解かもしれない。
「さて。この辺でいいかな?」
一、二分ほども歩くと移動は終了。
適当な岩場に荷物を置き、上着を脱いだ。この旅行のため、少女達が持ち込んだ水着が露わになる。
「どうかな、知尋君?」
「知尋様。せっかくなので新調してみたのですが……お気に召しますか?」
愛華と真里亜の水着はどちらも新しいものだった。
また、両者の色は対照的。
愛華は、白いツーピースタイプ。縁のラインがやや灰色がかっている以外はほぼ全て真っ白という逆に珍しいもので、透けちゃいそうだから、知り合いのいない海外ではないと着けられないとのこと。
清楚な白なのに、何故だか妙に男心を刺激される。
「うん、可愛いよ。他の男にはあんまり見られたくないけど」
「あはは。うん、私も知尋君だけでいいかな」
真里亜の水着は黒。
ストラップ部分は全て紐になっており自分で結ぶタイプ。布面積は狭く、ブラ部分などは豊満な乳房を覆い切れていない。白い素肌とのコントラストがあまりにも煽情的で、場所が場所でなければ正気を疑いたくなる。
もっと大胆な姿を見ている知尋ですら思わず視線を逸らしかけた。
「本当はマイクロビキニというのにチャレンジしたかったのですが、普通のお店には売っておりませんでしたので……」
「当たり前だよっ!」
赤面した知尋を見て真里亜は満足げに微笑んでいた。
どうやら、彼女的にはこれで勝ちらしい。
「あたしのは代わり映えしませんけど……これ、気に入ってるので」
「何ですか? 私にも新しい水着を期待しました?」
李狐はライムイエローのツーピース、華は白と黒のツートンカラーで、どちらも夏にプールへ行った時と同じ物だった。
華も言葉は辛辣だったが、おそらく李狐同様に気に入っていたのだろう。
ただし、前と違い、李狐は両手両足に黒いリストバンドのようなものを着けている。地毛が見えた髪に色味を合わせる工夫だろうか。また、華は今回、本格的に泳ぐつもりがないのか眼鏡を着けたまま。
どちらもワンポイントで違いが見えてなんだか嬉しい。
「二人とも似合ってるよ。……それと、なんだか少し胸、大きくなってない?」
「う、うん。実はそんな気がしてるんだよね」
「……まあ、あれだけ触られてれば大きくもなりますよね。だいたい和泉君のせいです」
残る四葉とかなめ、早稀の水着姿は初めてだ。
「あ、四葉もやっぱり黒系なんだ……ね?」
ちらりと見て感想を口にしかけた知尋は、彼女の格好を理解するにつれ硬直した。
真里亜よりは幾分か穏便なビキニタイプ。かつ、微妙に色味の違う黒がランダムパターンでグラデーションされた水着はどこか高級感が漂っている。
のだが、それだけではなく、四葉は四肢と腰に黒いベルトを巻き付けていた。首にも首輪代わりのチョーカーが装着され、一見お洒落ながら、見る者が見れば即座にボンテージを想起するスタイル。
……真里亜が「そう来たか」という顔で悔しがっていた。
「四葉。それ、日本でやったら絶対駄目だよ」
「ふふ。はい、勿論です。ご主人様や皆さん以外には絶対に見せませんからご安心ください」
愛華に伝えたのと似た言葉。ただしこちらはより純粋な心配が強かったが、四葉は嬉しそうに頬を染めてくれた。
「じゃ、その講評みたいなのも終わったみたいですし、さっさと遊びましょうかぁ」
「で、で? 知尋、ボクとかなめのはどう?」
「無視ですかぁ!?」
「うん、二人とも似合ってるよ。指宿さんのはまた別の意味で心配になるけど」
かなめの水着は白黒のツートンカラー……というと華に似ているが、その実、ドクロや鎌の意匠があしらわれた派手なものだった。ついでに十字架をあしらったストラップチョーカーを身に着けている。
早稀は迷彩柄。男受けは悪そうなデザインだが、彼女にはぴったりだ。光学迷彩めいた能力を考えてもこういうのが好きなのかもしれない。
……どちらも、お腹の入れ墨がなければもっと似合っただろうに。
知尋は敢えてネガティブな発言は封印し、皆に向けて告げた。
「それじゃあ遊ぼうか。とりあえず、僕はしばらくちさとに交代するよ」
と、心の中の妹に呼びかける。
(飽きるまで遊んでくるといいよ)
(うん。ごめんね兄さん、なんか我が儘言っちゃって)
(気にしなくていいよ。普段、あんまり遊ばせてあげられないんだし)
そこからは内側に入って皆の様子を眺めた。
主導権を受け取ったちさとは愛華達と笑顔で駆けていき、水遊びに興じ始めた。
「わ、冷たいです」
「そっか、ちさとちゃんは海、初めてだよね」
「はい、初めてです。小さい頃、兄さんが海に行った記憶はありますけど」
知尋自身も海水浴は久しぶりである。
とはいえ、年齢的にもう「海そのもの」にはしゃぐのは難しい。泳ぐ楽しさはわかるし、皆で遊ぶことにはまた別の楽しさがあるのだが。
実質、初めての海水浴になるちさとは違うようで終始笑顔だった。
「んー、面子的には皆で競争するところかな?」
「お好きにどうぞ。私は授業以外であんまり運動したくないので」
「へぇ、逃げるんですかぁ? 負けるのが怖いんですねぇ?」
「安い挑発ですね。でも、聞き捨てなりません」
かなめと華が火花を散らし、他の面々も身体を動かすのは吝かでないと参加を表明。わざわざ眼鏡を外した華を含め、十数えたらストップするルールで八名が一斉にスタートし――。
「やった、勝ちました!」
「残念。ちさとは早いわね」
「ふふん。身体が鈍ってるんじゃないですかぁ?」
「む。ならもう一回やりましょうか?」
男子の身体を使っているせいもあるだろうが、ちさとが一位。
僅差で四葉が続き、以下は早稀、真里亜、李狐、愛華、かなめ、華の順だった。かなめ達の言い争いに李狐などは「低レベルな争いしてるなぁ」という目をしていたが、特に何も言わず二回戦に付き合っていた。
小一時間も泳ぐと少女達は水泳を切り上げ、ぱしゃぱしゃと水遊びをしたり、砂遊びをしたりといった方向に移行した。そうしてしばらく経った頃、用意よく四葉がビーチボールを取り出すとバレーが始まった。
きゃあきゃあとはしゃぎまわる少女達。
割と皆、真剣に勝負に向かっていたものの、如何せん足場が砂地だと勝手が違う。ボールが柔らかいのは相まって、普段、ドッジボールだのバレーボールだのを男子と行っているのとは全く別ものにならざるを得なかった。
砂に足を取られて転倒したり。
力加減を間違えて相手にチャンスを作ってしまったり。
ゲームは自然と笑顔が溢れたものになる。男が介在しない少女達の生の姿を、参加者の一人の視点から眺めるという稀有な体験に不思議な喜びが湧き上がる。
皆も、ストレスが溜まっているところはあるだろう。
こうやって少しでも発散してくれたら言うことはない。
(なんて。兄さん、皆の身体見て興奮してるんじゃない?)
(な)
確かに、周りにいるのは女の子ばかり。
ちさとの視線がどちらに向いても、華やかな水着と白い肌が目に入ってきて、精神衛生上は大変良くない。
(興奮するでしょ? 私だって興奮するもん)
(いや、それはどうかと思うけど)
(そう言われても、現にその、おちんちんがだんだん大きくなって……)
確かにその通りだった。
いったんペニスが反応を始めてしまうと、水着に締め付けられ、擦られてより強い刺激を生んでしまう。
しかも意識すればするだけ悪循環になり、みるみるうちに大きくなっていった。
「やっ……」
赤面したちさとが座り込む。
異変を察した他の面々がゲームを中断、駆け寄ってくると、妹はあろうことかこのタイミングでバトンタッチしてみた。
(ごめん兄さん、さすがに恥ずかしい)
(ちょ……)
ぺたん、と女の子座りした大勢で、知尋は皆を見上げた。
愛華と目が合う。
「ちさとちゃん……じゃない、知尋君?」
「愛華。その、ちょっと緊急事態で」
ぼかして伝えると、彼女はそれだけで事情を察してくれたらしかった。
しゃがみ込んでそっと知尋の手を取ると、にっこり笑う。
「大丈夫。私に任せて」
「あ、愛華ずるい。これだけ皆揃ってるのに」
「私、知尋君の彼女だもん」
このところ他の少女に譲る場面が多かったからか。
愛華はきっぱり言い切ると、知尋の手を引いて岩場の方へ歩み寄った。ちらり、と視線で羞恥を伝えながらも水着のショーツ部分を脱ぎ、岩場に手をついて尻を突き出してくる。
「お尻、綺麗にしてあるから大丈夫だよ……?」
知尋は、危うい状態にあったペニスが完全に勃起していくのを感じた。