「結構、向こうに長居してしまったわね」
電車に乗ってマンションへ帰りついたのはもうすぐ夕方に差し掛かりそうな時間だった。三人は分担して持っていた荷物を居間の床へ置いて息を吐く。
と、真里亜がすぐにごそごそと荷物を探り始めた。
「どうしたの?」
「ええ、ちょっと待ちきれなくて」
言って彼女が取り出したのは自分用の首輪。
大事そうに包装を開け、そっと中身を取り出すと匂いを嗅ぎ、胸に抱きしめる。
「……これが、私にとって初めての首輪なのね」
「そこまで喜ぶんだ、首輪で」
片手をチョーカーに触れさせた李狐が顔を歪めて呟いた。しかし、真里亜はそれを無視して知尋に向きなおる。
「ご主人様、着けてくださいますか?」
「いいの?」
「はい、もちろんです」
言って首輪を差し出し、その場に跪く真里亜。
これは彼女にとっては大切な、欠かせない儀式であるらしい。
「わかった」
知尋はゆっくりと頷いた。
首輪を解き、首に巻ける状態にしてから真里亜の前に屈みこむ。
正面から漆黒の瞳を見つめると、彼女の感情が同期してくる。絶大な幸福感。それに逆らわず適度に受け流しながら首輪を少女の首に巻き付ける。
くっ。
「んっ」
固定するため軽く引っ張った拍子に真里亜が喘いだ。苦しそうではないので、そのまま金具を穴に通す。
「痛くない?」
「……ええ、大丈夫」
返事をするのが別の意味で辛そうだった。
知尋は頷き、同梱されていた錠を金具にかける。真里亜の瞳がますます蕩け、歓喜の涙が溢れてくる。
かちっ。
「……あ、は……ぁっ」
か細い声と共に、真里亜の身体が前のめりに倒れる。慌てて抱き留めれば、がくがくと小刻みに震えているのがわかった。
絶頂、しているのだ。
首に巻かれた拘束具の感触、たったそれだけで、座っているのも難しいほどに。
「何これ、そんな風になっちゃうの……?」
「……まあ、真里亜はちょっと特別なんだけど」
李狐の呟きに苦笑で答えた。
少し慣れてきたらしい真里亜が顔を上げて知尋の言葉を補足する。
「……でも、西崎さんだってこうなることはできるわ。経験を積んで、欲望を深めていけば、ね」
「あ、あたしは別に、そんな風になりたくなんて」
言いつつも、彼女も真里亜の痴態に欲情しつつあるのは明らかだった。完全には目が離せない様子でちらちら視線を送りつつ、もじもじと股を擦りあわせている。
首には知尋がプレゼントしたチョーカー。首元のプレートが彼女の動きに合わせてかすかに揺れる。
……少し意地悪をしたくなった。
「李狐。君は、僕の何?」
身体ごと振り返って尋ねる。李狐はぴくりと身を震わせて知尋を見た。
躊躇うように何度か唇が動いた後、小さな声が漏れる。
「あたしは、和泉の奴隷、です」
「なら、服を脱いでそこに座って」
「……うん」
命じられれば逆らえない。
普段の態度が強気だからこそ、従順になった彼女はより可愛らしく見える。一つ一つ服を脱ぎ落していく仕草もそうだ。
羞恥のせいで乱暴に脱ぎ捨てることができず、結果見る者の目を楽しませることになる。
下着、靴下までを脱ぎ終えると李狐は首のチョーカーに手をかけようとする。
「待って。『首輪』は外さなくていいよ」
「あ……」
諦観が瞳を満たす。
李狐はこくんと頷いて、真里亜の傍に女の子座りをした。
小さな子供のように見上げてくる彼女を見つめ返すと、期待を感じた。
ここ数日で与えた快楽によって、彼女も淫らな遊びへ素直になりつつあるらしい。
となれば、
「ご主人様、どうなさるのですか?」
真里亜の問いかけに知尋は頷きつつ、李狐へ命じた。
「李狐。そこでオナニーしてみせてくれないかな」
「……え?」
潤んだ瞳が丸く見開かれる。
思ってもいなかったことなのだろう。指で瞳を拭った李狐はきっと視線を強くして知尋を睨む。
「馬鹿じゃないの、人前でそんなことできるわけ……っ!」
「あら? もっと恥ずかしいこと、既にしてきたと思うけど?」
首を振って立ち上がろうとした彼女の身体を、真里亜の細い手がそっと抑えた。力は殆ど加わっていなかっただろうに、それだけで李狐の動きはぴたりと止まる。
耳元に顔を近づけてくる先輩奴隷にも、逆らわない。
「あなたがやらないのなら、私が代わりましょうか? その場合、当然あなたはご主人様にとって役立たず。気持ちよくしていただけるはずがないけれど」
「……そん、なのっ」
前提が狂っている。
しかし、今この場においては正常な論理など何の役にも立ちはしない。命じたのは知尋で、真里亜がそれに賛同したのだから、李狐が拒否しても味方する者は誰もいない。
逆らえば知尋達が握る切り札が行使される。
そもそも、逆らうのならばもっと早くするべきだった。
「…………わかった」
長い逡巡のあと、李狐は渋々という様子で頷いた。
それを見た真里亜が微笑み、再び耳元で囁く。
「良い子ね。……大丈夫、いつもやっている通りにすればいいだけ。恥ずかしさも、だんだん気持ちよさに変わるから」
「っ」
軽く唇を噛んだ李狐が両手を持ち上げていく。同時に真里亜が李狐から離れる。
「真里亜。舐めてくれる?」
「ふふ、かしこまりました」
椅子に浅く腰かけた知尋に真里亜が顔を近づける。ベルトの中央を口で咥え、何度か外そうと試みる。ベルトが涎でべとべとになっても成功せず、結局彼女は申し訳なさそうに手を伸ばした。
一方、李狐は両手で自らの乳房を緩く愛撫していた。
手のひらで乳房を包んで軽い力で揉む。指で押しこんだり、円を描くように動かしたり。少しずつ気分を高めながら、知尋と真里亜の姿を恨めしそうに見つめる。
やがて、乳首が硬度を増し始める。
李狐が手を止め、指を乳首へと持っていく。指の腹で先端を撫で、更に勃起させると指で押さえてこりこりと刺激する。
「……んっ」
「ふふ、やりなれてる手つきね。いやらしい……」
ちらりと振り返った真里亜が呟き、知尋のズボンからペニスを取りだす。ちゅ、ちゅっと口づけながら、指でゆるゆると愛撫する。
その間に、李狐は乳首を指で挟む動きへと移行していた。
硬く尖ったピンク色のそれが細い指で潰され、その度に息が荒くなる。
「はぁっ」
だいぶ気分が出てきたのだろう。左手で胸を弄ったまま右手が股間へと移動していく。薄くもなく毛深くもない茂みに指が沈むと、ちゅく、と小さな水音がした。
濡れている。
命令されて、見られながらのオナニーではしたなく興奮している。
真里亜の舌が股間を這いまわるのを感じながら、知尋は李狐の動きに釘付けになった。
「あ……んっ」
膣内をなぞり、掻き回すうちに水音が強くなる。原因の何割かはだんだんと遠慮がなくなりつつある指の動きにもあったが。
「なんで、こんな……」
知尋の視線に気づきながらも李狐は指を止めず、はあはあと息をしながら遂にクリトリスへ触れる。
びくん、とそれだけで身体が震えた。
びく、びく、と幾度も震えながら、李狐はクリトリスと乳首をしきりに刺激する。絶頂を求めて、小刻みに。
物音から真里亜もそれを感じ取ったのだろう。ペニスを咥えた口の動きを急速に早める。李狐の痴態と真里亜の奉仕によって昂ぶった知尋は、急速に性感を高めていった。
そして。
「あ、あ、あーっ!」
知尋と目を合わせた李狐がきゅっとクリトリスを抓り、絶頂する。一呼吸遅れて真里亜が口をじゅぼじゅぼと動かし――知尋もまた絶頂に導かれる。
射精の解放感。
まるで李狐に精液を浴びせかけようとしているような錯覚に陥りながら、真里亜の口内に精液を流し込んだ。真里亜は以前の反省からペニスの根元をしっかりと握ったまま、喉奥で全ての精液を受け止めた。
「ぷはっ……」
真里亜はこくん、と喉を鳴らして知尋の精を全て飲みこむと、李狐を振り返った。
彼女は絶頂の余韻に浸りながら、ぼんやりと知尋達を見ていた。
くすりと笑み。
「気持ちよかったでしょう、西崎さん?」
「………」
聞こえはしたようだが、李狐は反応らしい反応を見せなかった。恥ずかしすぎて素直に答える気にならなかったのだろう。
まあ、それはそれで構わない。
「ご主人様? 西崎さんにご褒美を上げないといけませんね」
「……そうだね。李狐、どうして欲しい?」
極力、毅然とした態度で李狐を見下ろす。
少女からの返答はごく短かった。
「……抱いて」
知尋は彼女の望みを叶えた。抱きしめ、キスをして、念入りな愛撫から正常位で挿入する。普通の恋人同士のようなセックスをした。
行為の間中、李狐は甘い声で喘ぎ、知尋のされるがままになっていた。
数回射精し、李狐が大人しくなると今度は真里亜を抱いた。真里亜は二人の行為を見ながら自分で慰めていたようで、こちらは激しいセックスを要求してきた。
終わる頃には全員疲れ切っていて、シャワーを浴び荷物を片づけ、ようやく夕食にありついたのは午後十時を回った頃だった。