「……成程。私がつい見逃しがちなラインナップね。感心したわ」
居間のテーブルにて、知尋の斜め前方に座った真里亜がノートパソコンを操作しつつ呟く。彼女が見ているのは、約束通り送られてきた舞阪のお勧めリスト――その検索結果である。
真里亜の趣味がハード系、SMや監禁、調教等に偏りがちなのに対し、舞阪のリストにあったのはもっとソフトな類。
両者合意の上で抱き合い、甘い声で女の子が喘ぐような作品が多かった。
単に、比較的一般人受けしそうなラインを選んできただけの話なのかもしれないが、舞阪もなかなか「良い趣味」をしている。
「西崎さんも見ない? 気に入ったのがあれば買ってダウンロードするわよ」
「……いや、あたしは別に」
食事も入浴も済ませ、宿題も終了。
こういう時間、三人は自然とリビングに集まる。他に部屋がないわけではないが、結局ここにいるのが一番落ち着くのだろう。
知尋の特訓が一段落したこともあって、ここ数日はこういう日が多い。
「むしろ和泉が変な影響受けないか心配なんだけど」
「……あはは、それはもう手遅れかも」
苦笑する。
見るにしろするにしろ、淫らな行為を「興味があるのに形だけ拒否」する段階は通り過ぎた。
知識は増えるなら増えるに越したことはない。
「……そういえば」
「?」
顎に手を当て、小首を傾げたまま真里亜がフリーズする。
「私達、あまりこういう行為をしていないような気が」
「今更だね」
彼女は激しいプレイやアブノーマルな行為を好む。
キスから愛撫、正常位で挿入……なんていう普通のしかたでは物足りないのだ。手や口での奉仕に時間をかけたり、バックや騎乗位を求めたり。
普通に始めても気づけばハードなプレイに興じていることが殆どだ。
李狐は逆に普通にした方が感じやすいので、一見恋人同士のようなプレイも多いのだが。
その李狐はジト目で真里亜を見ると立ち上がった。
「じゃあ、たまにはしてみればいいんじゃない?」
「あら、あなたはいいの?」
「普通にするなら、あたしがいたら邪魔でしょ」
……まあ、3Pになった時点で普通の行為ではない。
つん、と顔を背ける李狐を見て真里亜はくすりと笑い、
「和泉くんに抱いて貰わなくても我慢できる?」
「あたしはそこまで欲求不満じゃないっての。部屋、借りるわよ」
言って、李狐は廊下へと歩いていく。真里亜の部屋を使うつもりなのだろう。三人でしない場合、真里亜は李狐に自分のベッドを貸している。
「全く、素直なのかそうじゃないのか」
……間違いなく後者じゃないだろうか?
思うも口には出さず、代わりに知尋は真里亜へ尋ねた。
「どうしようか?」
「そうね」
振り返った真里亜は、珍しく無邪気さの強い笑みを浮かべると知尋を見上げた。
瞳の奥を覗けば、彼女が未知のプレイへの興味にわくわくしているのがわかった。
「せっかくだからお言葉に甘えましょう。こんな機会、なかなかないだろうし」
寝室に移動する。
二人は大きなベッドの脇に立ったまま、相手の身体に腕を回してキスをした。
唇を合わせ、強く相手に押し付けながらも、すぐには舌を入れない。十分な時間を取ったてから、ようやく緩やかにディープキスへ移行した。
いつもよりもペースが遅い。
知尋も真里亜も、互いに強いて普通の行為をしようとしているのが感じられた。意識しなければ普通に抱き合えないというのも不思議な話だが。
こういうのも、悪くはない。
「なんだか、いつもより恥ずかしい」
お互いの唇を味わった後、真里亜をベッドへ押し倒した。
すると彼女は知尋を見上げながら、頬を赤く染めてそんなことを呟く。こうしてしおらしい姿をしていると、彼女も普通の女の子にしか見えない。
「綺麗だよ」
「……もう。そういうことを言うのは止めなさい」
言いつつも、真里亜は満更でもなさそうな様子だった。
知尋は手を伸ばし、寝間着を纏った真里亜の胸へそっと触れた。外周を撫で、軽く押し込むように力を入れる。
「んっ」
くすぐったそうに身をよじる真里亜。
「できるだけ、じっとしてて」
「……ええ。そうね。これも一種の羞恥……」
その言い方はどうなのだろうか。
彼女なりに、このプレイの「楽しみ方」を見つけたらしい。羞恥の色を強めながら、それでも嬉しそうにする様子に安堵した。
ゆっくりと、豊満な双丘を揉みこむ。
薄い寝間着越しに柔らかい胸が形を変える様はいやらしく、また綺麗だった。
「ねえ、和泉くん。あまり焦らさないで、触って」
はぁ、と。
真里亜が切なげな吐息を漏らす。
人並み外れた性欲を抱え、毎日自慰をしないと収まらないという彼女。焦らされる行為には案外弱い。
「どこを触って欲しい?」
「っ。……乳首、を、直接触ってください」
「わかった」
下着を優しく脱がせ、露わになった乳房を観察する。
白く滑らかな肌。膨らみの先端にある乳首はぷっくりと固くなっている。
その周辺、乳輪を指でなぞる。
「あっ!」
それだけで敏感に反応する真里亜。
焦らしプレイの効果が十分であることを認識しつつ、指をようやく乳首へ。
努めてソフトな手つきで触れ、離し。ただ触っているような、かすかに撫でているような刺激を与える。
少しずつ、一度ごとにごく僅かに力を籠めながら愛撫し、乳首が乳房に沈み込むまでになったのは十数回を繰り返した後のこと。
次は指で乳首を弾き、あるいは先端に指を添えてコリコリと動かす。
それでも真里亜にとっては残酷なほど優しい責め。
「……酷いわ。こんなの……」
興奮してしまう。
被虐の快感に溺れる、と顔に書いてあった。
これでは結局、普通のプレイには程遠いような気もするが。
「……そろそろかな」
知尋は指で両方の乳首を摘まみ、抓った。
「んくぅ!?」
急な強い刺激に真里亜の身体が跳ねる。
口から息が吐き出され、身体の位置が元に戻っても呼吸はすぐには戻らない。
先程までとは違う、しかし絶頂に届くほどではない快感。
それによって真里亜が更に昂ぶったところで、知尋は身体の位置を下、真里亜の下半身のあたりへと移動させる。
「あぁ……」
ようやく。
待ち望んだ刺激がもらえる。
そう考えているであろう真里亜の予想を裏切るように、ショーツのクロッチあたりを指でなぞり、舌で舐める。既に十分濡れそぼって染みまで作っているそこには、やはり緩すぎる刺激。
ぎゅっ、と。
真里亜が自分の胸を自分で抱きしめる。
少しでも快感が欲しい、と言うかのように。
「大丈夫だよ、真里亜」
責めの手を止める。
ショーツを脱がせ、剥き出しになった股間に手を伸ばし、いきなりクリトリスを強く摘まむ。
「あはっ……!」
またも身体を跳ねさせたのを確認し、再び刺激を緩やかに。
秘唇をなぞり、濡れた秘裂を指でかきまわす。時折クリトリスを撫でる。
「あ、あー、あー……」
驚くべき自制心。
もっと快感が欲しいだろうに。こんなに焦らされるなら自分で弄ってしまいたいだろうに、ほぼ知尋にされるに任せる真里亜の意志力には感嘆させられる。
何もわからなくなるまで我慢した彼女。
口を開けて涎を垂らす、常とは違う顔にキスをしてから、知尋は激しい責めを開始した。
乳首やクリトリスを遠慮なくこね回し、二点責めや甘噛みをする。絶叫が防音の室内に木霊するが構わず続ける。
「これ、イク、イきます……っ!」
真里亜が絶頂しても構わず刺激を続け、何度も絶頂させた。
責めを止めた時には真里亜はぐったりしていて、焦点の合わない瞳をしたまま荒い呼吸を繰り返していた。
「……ごめん、やりすぎた」
いつもと違う真里亜が可愛かったから、もっとそういう顔が見たくなった。
緩やかな愛撫が有効な責めになると知って調子に乗った。
申し訳なさを表しながら少女の髪を撫でると、真里亜の手が知尋の手首を掴んだ。
「真里亜?」
「謝らないで。とっても、気持ちよかったから。だから……」
微笑んだ真里亜が両手を広げる。
「来て。私をぎゅっと抱きしめて、中に出しなさい。今日はまだ、和泉くんが気持ちよくなっていないでしょう?」
「……ああ」
本当にこの少女はとんでもない。
覆いかぶさるように、ゆっくりと挿入されるペニスを、真里亜は逆らわず、それどころか自分から股を開いて受け入れた。
真里亜が求めた通り。
二人はきつく抱きしめあいながら、時折上下を入れ替えつつ長い時間抱き合った。
性交、ではなく情交と呼べそうな交歓をようやく実現させ、深く長い快感の果てに、知尋の精液が真里亜の膣内に吐き出された。
行為が終わっても二人は繋がったまま。
「ありがとうございました、ご主人様」
両腕で知尋の頭を包むようにしながら、真里亜は優しく囁いた。
「奴隷の私を、こんな風に抱いてくださり、光栄です」
彼女なりの感謝の言葉が、知尋の心を包み込んだ。