華――御宿華は、昔から「他人の持ち物」に拘る少女だった。
幼稚園の頃。
友達の持っているお人形が羨ましくて、本人の不在時に借りて遊んだ。けれど、その後すぐに見つかって大喧嘩になった。
友達のお弁当が美味しそうに見えて、毎日のようにおかずの交換をねだった。
小学校に入ると、華の興味は単なる所有物ではなく人間関係に移った。
皆から好かれている子や、いつも特定の相手と仲良くしている子に強く興味を惹かれた。そういう時はその子に取り入り付きまとった。他のものが目に入らなくなるくらいに。
結果、気味悪がられて孤立することも多々あったが、それでも華の性格は治らなかった。
深海真里亜への興味も、最初は「他人の物」としてだった。
皆から好かれ愛される、とある人気者。その人物に注目していると、傍にいた真里亜が目に入った。
どうやら彼女はターゲットから一目置かれている様子。
そこで、人気者に取り入る手段として華は真里亜に近づいた。
しかし友達になって話をしていると、むしろターゲットより真里亜自身に興味が湧いた。人形のように美しい容姿や、綺麗な声もそうだが……何よりも彼女が持つ特殊な精神性に惹かれた。
深海真里亜は誰にも心を許さない。
付き合いが悪いわけではないし、クラスで孤立していたわけでもない。けれど、彼女の心はいつも孤独であるように見えた。
本当の意味で、誰かの物になることはない。
自分自身以外に興味がない、そんな彼女を独り占めしたくなった。
「私と、ずっと一緒にいてね。真里亜ちゃん」
そしてある日、華は真里亜にそう告げた。
子供同士の軽い約束を装いながらも華は本気だった。同時に、華の真剣さが真里亜に伝わる必要はないとも思っていたが。
――ごめんなさい、と。
真里亜はすげなく断ってきた。
理由を尋ねると、静かに告げられた。
「あなたじゃ、私のご主人様にはなれないから」
ご主人様という言葉の意味が、当時はよくわからなかったが、拒絶されたことだけはわかった。
拒絶されて、気持ちはより強く燃え上がった。
華は真里亜に何度もアタックを続けた。どうしても彼女が欲しかった。他の子供達からどう思われても構わなかった。
そんな中、両親が死んだ。
その出来事は華の世界を一変させた。
親戚達が華の処遇と遺産を巡って争い、大人同士の罵りあいを何度も聞かされた。子供心に、彼らが「他人の物を横取りする相談」をしていることだけはわかった。
それで、理解した。
――ああ、奪えば良かったんだ。
欲しい物は奪い取る。借りるとか、ただ羨ましがるとか、傍にいようと頑張るなんて馬鹿らしい。持っている人から奪えばいい。
『略奪』の能力が芽生えたのはそんな時。
高ランク確実の能力が発生したことで、親族たちの争いは遺産目当てから華の争奪に変わった。そんな時、東京の資産家が華に目をつけ養子の話を持ち掛けてきた。
提示された額に親戚達はすぐさま了承し、華は『御宿華』となった。
新しい親が華に要求してきたのはただ一つ、『落とし物』を養成する学校に通うこと。華はそれを了承し、中学卒業後、柴鳳学園へと進んだ。
能力は敢えて使わず、極力口外しないようにした。
ここ一番、本当に重要な局面で有効に使うために。本当に欲しいと思ったものを奪うために。
……そして、華の前に再び彼女が現れた。
Cランクの『落とし物』として、深海真里亜が学園に転入してきたのだ。
ここしかない、と思った。
あらゆる手段を使って、真里亜を自分のものにしようと決めた。
尾行や、情報屋――舞阪集の協力を得て情報を集めた。そして和泉知尋の存在を知り、怒りと嫉妬で狂いそうになった。
あの深海真里亜が、あんな冴えない男を同じ部屋に寝泊まりさせている?
つまり彼女は、あの男に全てを捧げた?
許せない。
真里亜を支配すると同時に、あの男に屈辱を味あわせてやる。
華はそう決め、計画を実行した。知尋から読心の能力を奪い、能力を返す代価として真里亜を要求した。
計画はうまくいった。
知尋に話を持ち掛けてからたった数日で、真里亜が自ら連絡を取ってきたのだ。
罠の可能性は限りなく低い。
真里亜達の動向はできるかぎり注意していたが、彼らが共謀している様子はなし。少なくとも和泉知尋は本気で動揺し、華への憤りを覚えていた。
安心して、真里亜のマンションへと赴いた。
「あなたに忠誠を誓うわ。華さん」
ずっと、ずっと聞きたかった言葉だった。
大きなベッドのある寝室に足を踏み入れた華は、真里亜に命じて全裸にさせた。そして、床に正座する真里亜を見下ろしながら話を聞いた。
知尋との関係。
彼にどんなことをされたのか。
全て聞いた上で真里亜の額に口づけた。
「これから、あなたは私のものです。真里亜ちゃん」
「……はい、お姉様」
漆黒の瞳が華の首筋あたりを見つめていた。
滑らかで官能的な肢体は、全身からフェロモンを分泌させて興奮を伝えてきている。
この子は、こんな情欲を秘めていたのかと驚きつつも喜びを覚える。
華は真里亜を拘束し、執拗に快楽を与え続けた。目も耳も口も、両手両足さえ封じられた真里亜は従順に、何度も何度も絶頂を迎えた。
その様子を動画に収め、和泉知尋に送りつけた。
最高の気分だった。
絶頂しそうな程の恍惚を味わいながら、華は真里亜の拘束を解き、尋ねた。
「どうして欲しい、真里亜?」
「お姉様の指で、真里亜をたくさん愛してください……」
「いい子ね」
彼女が望む通りに指を伸ばし、恥ずかしい部分に触れて。
柔らかく、美しい肌を抱きしめ、抱きしめ返されて。性器の敏感な個所を指で、強く刺激した瞬間。
「っあ!?」
華の身体に甘く鋭い痺れが走った。
まるで、華自身のクリトリスが強烈に刺激されたかのような。
全く意味のわからない状況に華は混乱し、数秒間思考を停止させて。
その間に真里亜は華と身体の位置を入れ替え、ベッドの端に転がっていたバイブを手に取っていた。
「ほら、お姉様。これを持ってください」
「え……?」
未だ纏まらない思考のままバイブを握ると真里亜がスイッチを入れ、華の手を取り導くように自らの乳房へ。
「あ、は……っ」
「!?」
また快感。
まずい、未知の事態が起こっているとそれだけを察し、華はバイブを捨てようと手に力を籠めるが……。
ぎゅっと握られた真里亜の手がそれを阻止し、全身を振動するバイブに押し付けてくる。
それと共に、全身に走る快感。
「な、にを……?」
かすれる声で言って真里亜を見上げる。
そして、目があった。
直後、華は自身の行動を後悔することになった。
――ずくん。
突如、暴力的な疼きが全身を襲った。強すぎるせいで一瞬、誰かに殴られたのかと思った程だ。
「――ぁ?」
うまく声も出なかった。
今すぐ乳首とクリトリスをいじりたい。膣に指を突き入れて出し入れしたい。そうやって何度も何度もイキたい。
イク?
どうして自分は、これだけの快感を覚えながら絶頂できていないんだろう。
触ってくれる人がいないから。華の身体を貫いて、犯して、熱い体液を吐き出してくれる人がいないからか。
「っ!?」
堕ちる。
真里亜の抱く、どこか悲しくも恐ろしく強い情念が心と身体を溶かしてしまう。
――和泉知尋の読心能力、その副次機能により真里亜の感情は更に高められ、見ている華にも影響を与える。
なんだ、この力は。なんだ、この深すぎる闇は。
怖くなって、華はぎゅっと目を瞑った。
「……そろそろ、よさそうね」
真里亜の指が華の全身を這いまわる。
手つきこそ優しいものの、その目的は容赦のない責め。謎の事象によって快感を与えられ、読心によって更に高められた身体を屈服させることだ。
抵抗、しないと。
そう思っても身体がうまく動かない。
先程の、全く予期していない強烈な気持ちよさのせいで筋肉が弛緩しているのだ。
そして、華の心も。
「や、あ、嘘、私っ――!?」
絶頂した。
服の下に潜り込んだ真里亜の指に、乳首を刺激されて。
頭が真っ白になって、身体が無防備のままベッドに横たわる。
すると――。
しゅる……かちっ。
手首に拘束具が巻かれて連結された。
「え、ちょっ、嘘……っ」
慌てて身を起こそうとしたところで今更無駄。
「駄目よ。いい子にしていないと」
真里亜の片手が首に添えられただけで、簡単にベッドに押し戻されてしまう。
駄目、駄目、駄目なのに。
何で、逆らえないの……?
さっき、真里亜の心を読んだせいだ。あのせいで淫らな気持ちが制御不能な程に膨れ上がっている。
そうなったのは華自身の不注意のせい。
いや、そもそも読心能力なんて得ていなければ……? 駄目だ、それじゃ和泉知尋に対する脅しが成立しない。別の物を人質にしても、あるいはもう一つの能力の方を奪ったとしても、ここまで辿り着けなかった。
でも、これじゃ真里亜の目を見ることさえできはしない。
そくりと、華は底知れない恐怖に襲われ――。
待て。
はたと気づく。
なら何故、和泉知尋は真里亜の傍に居られた?
ただ目が合うだけで、こんな情欲の沼に落とされるような生活を、平気でずっと続けていられた?
まさか耐えているのか。これを、毎日。
だとしたら。
和泉知尋と深海真里亜、二人に手を出したこと自体が間違って……。
「あ、ああ……」
真里亜の手で目隠しをされながら、華は絶望の嗚咽を漏らしていた。
終わりだ。
自分がこれからどうなるのか、なんて決まっている。
報復。
華が真里亜に与えたのと同じか、それ以上の快楽地獄が待っている。
……報復?
「もしかして、さっきの、って」
「ええ、そうよ。『報復』の能力によって、
「……嘘」
理屈の上では、ありえない話ではない。
もともと真里亜の能力は、本人の認識に左右される部分が大きい。通常は攻撃者の肉体にダメージを返す能力だが、攻撃者が存在しない場合――自分で自分を傷つけたり事故に遭った場合は「自分を傷つけた物体そのもの」にダメージが返る。
そんな融通の利く能力なのだ。真里亜が「痛いと認識」すれば純粋な苦痛以外、快感ですら「返せた」としてもおかしくはない。
問題は。
「そんな、こと。今まで一度も……」
華独自の調査でも舞阪による調査結果でも、そんな情報は一切得られなかった。
すると真里亜は冷たい声で、
「ずっと隠していた。ただそれだけの話よ。別に珍しいことじゃないでしょう? あなたも、同じことをしていたのだから」
その通りだ。
強力な力は、ここぞという時まで取っておく。
「あ、はは……」
崩れていく。
勝利の確信が、知尋への優越感が。
華の、プライドが。
「真里亜ちゃんは、私のことをお姉様って」
「ええ。
細い指が首筋に触れる。
「感じていたのは、ここ数日オナニーを我慢していたせい。そのせいで夜もなかなか眠れなくて大変だったの。狂って叫び出したくなるくらいに」
ゆっくりと優しく、かすかに性感を刺激しながら。
「そして……私が『ご主人様』と呼ぶのは、世界にたった一人だけ。和泉くんだけよ」
和泉知尋。
誰にも心を許さなかった少女が、自ら選んだ主。
「あの男のどこが、そんなに……」
「あら。あなたにも少しは理解できているんじゃない? 彼の能力を使った今なら、ね」
言って、真里亜は酷薄な笑みを浮かべた。
「仲の良い二人に嘘を教えて仲違いさせ、間に割って入る。自分が仕向けた問題を自分で解決し、意中の相手の気を引く。欲しい物は手段を選ばず手に入れて、そうやって手に入れた物であっても『飽きたら』簡単に放り捨てる。小学生の時から、あなたはそういう子だったわね」
「……そう、でしたっけ」
覚えていなかった。
華には手に入れた過程なんてどうでもいいことだから。手に入れること自体に意味があったから。
しかし、だとすれば。
両親が死んで自覚する以前から、華は結局華だったということで。
これは、あの頃からいつか来ることが定められていた。
「そんなあなたに、他人の気持ちが受け入れられるはずがない。まして、私の欲望は生半可なものではないでしょうし……女のあなたには更に酷なはずよ」
雌の欲望故に、同性である華にはダイレクトに伝わる。
もちろん、異性であればそれだけで耐えられるというものではなく。
むしろそれは『華には絶対に耐えられない』理由。
「逃げ道は用意しないわ。華さんあなたが絶対に抵抗できない方法で、あなたを壊してあげる」
耳にヘッドホンが被せられた。
防音性の高い品のため、ただ被るだけで周囲の音は聞こえなくなる。これで華はあらゆる感覚を封じられた。
不意に、肌に冷たい物が触れた。
それはゆっくりと肌を滑っていき、同時に服の拘束感が無くなっていく。鋏か何かで服が切り裂かれているのだ。
……ほんの数分で、華はブラだけを残した姿となった。
そして。
真里亜の指が身体を軽く愛撫し、秘所にローターを取り付けるのを、華は抵抗もせずに受け入れることしかできなかった。