三人で寝室に移動し、入り口のドアを閉じる。
真里亜が瞳を潤ませつつも、多少冷静に戻った様子で呟いた。
「勢いで来てしまったけれど……考えてみるとシャワーも浴びていないのよね。夕食もまだだし」
「そう言われても、もう我慢できないよ」
「ええ。ご主人様さえ良ければ、私は構いませんが……」
ちらりと、真里亜が視線を向けたのは李狐。これまでなら彼女が文句を言い出すところではあるが……。
李狐はにっこり笑うと床に尻をつけて二人を見上げた。
「あたしも大丈夫。ご主人様、あたし達にいっぱい、ご奉仕させてください」
「……李狐」
いつになく素直な様子に真里亜が目を丸くした。
彼女は淀みない手つきで服を脱ぎ、黒い首輪を身に着けると、金髪の少女の隣に座りつつ囁く。
「ご主人様と、何があったのかしら」
すると李狐は『先輩奴隷』に向けて得意げに笑い、告げた。
「秘密。ただ、真里亜がいない間にいっぱい抱いてもらったのは確かだよ」
――ご主人様の部屋で。
付け加えられた言葉に、知尋もあの時のことを思い出す。真里亜と離れている間、二人は男子寮で幾度も秘め事を交わした。風呂場でもベッドでも触れ合い、校内の個室訓練場でまでセックスした。
更に、主人と奴隷としての性交を、あろうことか愛華に見せつけもした。
もし、あのまま李狐と二人だったら。
二人で、今とは違う意味で深い泥沼へ落ちていたかもしれない。それはそれで、考えようによっては幸福だったのかも。
「……そう。ご主人様の部屋で沢山、ね」
「そうだよ? もう、真里亜よりあたしの方が、知尋のこといっぱい知ってるかも」
普段より低い声を出した真里亜に、李狐が更に追い打ちをかけた。
李狐はじゃれ合うような口調だが、やや不穏な雰囲気を感じなくもない。知尋は女の子の心の機微にまだまだ疎く、確かなところはわからないが。
むっと頬を膨らませた真里亜の表情には李狐への嫉妬が見えた。
「私がご主人様と離れていたのは、たった数日でしょう」
「あれ? 真里亜が転校してきたのだって、あたしが知尋に犯される何日か前だよね?」
二人ともその辺で。
たまりかねて口を開こうとしたところで、少女達が知尋を振り返った。
「ご主人様」
「あたしとこの子、どっちが先?」
ある意味夢のような台詞だが、実際に言われると危機感を覚えるのは何故だろう。
「ええと……」
一瞬、人生でもトップクラスに頭を働かせて答えを出した。
「李狐、おいで」
「っ! はぁい」
李狐が子供のように顔を輝かせ、知尋にすり寄ってくる。
この、あまりにも素直な態度はきっと、真里亜への対抗意識によるものだろう。
全身で最大級の好意を表す彼女の唇を奪いつつ、知尋は未だ座ったままの真里亜の呟きを聞いた。
「……ご主人様は、意地悪です」
それだけで背筋が震えた。
お預けを食らった真里亜の姿が見たかった……などと言ったら彼女はどういう表情をするだろうか。
倒錯していると自分でも思うが、興奮が抑えられなかった。
と。
李狐の舌の動きが激しくなる。短いスパンで唇を離し息継ぎを繰り返しながら、知尋の唇と舌を求めてくる。無言の要求に従って、李狐の舌をなぞり上げてやると、彼女はひくひくと身体を震わせる。
舌も、立派な性感帯だ。
相手が十分に興奮した状態で、自分の舌を使い丁寧に刺激してやれば、首筋や脇などを撫でるのと同様の効果が期待できる。
「っ、ぷはっ」
すっかり欲情し、キスの最中に身体を押し付けてくる李狐から、いったん唇を離す。着たままだった服を脱がせても、当然、彼女からの反発はなかった。
下着だけになったところで、首筋に顔を寄せて匂いを嗅ぐ。
「汗の匂いがする」
「やっ……恥ずかしい、です」
夏場だから汗をかくのはもちろんだが、やはり長時間外にいた今日は特に強く感じる。一般的には汗の匂いなんて良いものではないのだろうが、李狐や真里亜の汗であれば知尋が嫌悪を感じることはない。
「じゃあ、あたしもご主人様の匂い、嗅いでもいいですか?」
「うん」
李狐に脱がせて貰い、二人でベッドに上がる。李狐は宣言した通りに知尋の胸に顔を寄せ、くんくんと鼻を鳴らしてきた。
「……どう?」
「いい匂い、です。興奮します」
良い具合にできあがっている。そう感じた知尋は、李狐に自分で濡らすよう命じてみた。
「わかりました」
知尋の胸に顔を押し付けたまま李狐は下半身を浮かせる。
そうして、ショーツの下に指を潜らせると、指で自身の秘部を愛撫していく。小さな水音と李狐の呼吸音が静かな室内に響く。
「……できました」
申告があったのはほんの数分後のことだった。
抱き合うような姿勢で李狐に身体を沈めさせた。互いに身体を打ち付け、相手の身体を抱きしめ、匂いを嗅ぎ合う。時折上下を入れ替えながらセックスを続け、李狐の膣内に射精する。
李狐は繋がったまま二回目を求めてきた。
「気持ちいい?」
「はい。おまんこ、気持ちいいです……っ」
言葉責めにも素直に答え、一度目よりもやや長く知尋のペニスを味わった後、李狐は再び絶頂に達した。
「はあ、はあ……ご主人様、ありがとうございました」
ゆっくりと丁寧に膣が持ち上げられ、ペニスが引き抜かれる。
「満足した?」
「はい。……いえ、本当はもうちょっとしたいですけど」
座り込んだまま両手を所在なく彷徨わせる真里亜を見て微笑む。
「待たせすぎるのも良くないと思いますし」
「……っ」
勝者の余裕、と感じたか。真里亜は李狐の発言に小さく唇を噛んだ。しかし同時に、順番が回ってきた喜びも表情に浮かんでいた。
李狐はベッドを降り、溢れる体液を拭うと自分の服を拾っていく。
「あたしは先にシャワー浴びるから、ごゆっくり」
静かに閉じる寝室の扉を、真里亜は複雑な表情で見つめていた。
彼女は、扉が完全に閉まってからようやく知尋の方へ向き直る。
「おいで、真里亜」
「……はい、ご主人様」
真里亜が立ち上がると、座っていた床には愛液の染みができていた。
「触ってもいないのに、あんなに濡らしちゃったんだ」
ベッドの上を這い、身体を重ねてくる彼女に囁く。
既に紅潮しきった顔で知尋を見下ろし、真里亜はこくんと頷いた。
「はい。おまんこが疼いて、もうとっくに限界なんです。お願いします。早く、早く犯してください……っ」
半ば吐息混じりの甘い声。やはり、李狐との情事を先に見せたのは正解だったかもしれない。
「歯止めがきかなくなりそうだから」と、何かにつけて自制しがちな真里亜が、限界以上に焦らされて自ら淫語を口にしている。
あるいは、一昨日の行為で箍が外れやすくなっているのか。
「じゃあ、たまには立ってしようか」
「あ、ああ……はいっ」
ふらふらと、よろめく足取りで真里亜が床へ降りる。知尋は彼女を窓際に立たせると、壁に手をつくように命じる。
「こう、ですか……?」
従順に尻を突き出してくる真里亜。
後ろから犯されるのを好む彼女は、この状況にどうしようもなく興奮しているらしい。既に濡れに濡れている秘所からは更に愛液が溢れ出し、腿を伝って足にまで垂れている。
……こんなものを見せられたら。
「真里亜、今日は半端じゃ止められそうにない」
「はい……構いません。思う存分、気絶するまで犯してください」
後ろから貫くと、真里亜は部屋中に響くような歓声を上げた。
初めは知尋に合わせて腰を振ろうとしていたが、そのうち感じすぎたのか姿勢を維持するので精一杯になった。やがて膝は震え、壁についた手も何度も宙へ浮きそうになったが、それでも彼女は尻を突き出し続ける。
「気持ちいいですっ。気持ちいい、気持ちいい……!」
もっと、もっとと快感を求めるように。
「気持ちいい」だけを繰り返しながら、真里亜は無数に絶頂を迎え、知尋の精を膣内で受け止めた。
三度射精した時点で少女の身体は限界に達しその場に崩れ落ちたが、まだ真里亜に意識はあった。
ぼんやり宙に視線を送る彼女をベッドへ転がすと、知尋は更に行為を続けた。
疲れ切った少女は殆ど人形のようだった。
柔らかく、力を籠めれば折れそうな身体を丁寧に、しかし遠慮なく抱く。自発的な動きはなくとも人肌の温もりは格別で、無意識にひくひく痙攣する膣の感触も心地いい。
真里亜は。
……微笑んでいる。意識を混濁させたまま、嬉しそうに口元を綻ばせる。
それを見て安堵しながら知尋は動き続け、やがて射精に至った。
精液を吐き出す感覚が収まると再び動き出す。
自慰のような、しかし自慰ではない行為を続け、更に何度か射精した。
そうして一日の平均、六回を超えた頃。
気付けば、真里亜はいつの間にか目を閉じてすうすうと寝息を立てていた。
満足、してくれたらしい。
幸せそうな寝顔をしばらく見つめ、彼女の頭を軽く撫でると、知尋は膣内から肉棒を引き抜いた。ごぽり、と、許容量を超えた体液が溢れ出してくる。
「ゆっくり寝てていいから」
そっと囁いて寝室を出る。
とりあえず浴室へ直行しようとすると、居間にいた李狐が廊下へ顔を覗かせた。
「終わったの?」
「うん。真里亜は眠ってる」
「そっか。じゃあ、夕飯はあたし一人で作るかな」
言って、優しい笑みを浮かべる李狐。
ということは、寝室でのあのやりとりは演技だったのだろうか。プレイの演出としてわざと挑発した?
「あ、なら僕も手伝……」
「却下。いいから知尋は身体洗って、夕飯まで仮眠取ってなさい」
「は、はい」
真里亜がいないから大丈夫かと思ったら、李狐も同じだった。
何故、二人が頑なに知尋を手伝わせないのか不明だが、確かに疲労も凄かった。
シャワーを浴びているとそのまま眠ってしまいそうになる。そのせいか、いつもよりも浴室にいる時間は長めだった。
出る頃には夕食の準備は八割方終わっていた。どうやら、李狐は前もって下ごしらえを済ませていたらしい。
そうなると本格的に寝るのも微妙なので、居間で椅子に座ったままうとうとする。
「ちーひーろ」
声をかけられて目を覚ますと、テーブルには湯気の立つ食事が並んでいた。メインはチキン南蛮。体育祭で疲れていることを考えて肉料理がメインらしい。タルタルソースまで自家製らしく、野菜もたっぷりなのが窺える。
「真里亜は?」
「んー、まだ起きてはこないよ。あの部屋、防音だから中の様子わかんなくて」
「そっか」
もう少し待ってみるべきか。そう思い浮かべた途端、甘酢タレの匂いが鼻をくすぐり、腹の虫が良い音を立てた。
李狐がくすりと笑い、台所へ取って返す。
「あいつには悪いけど、先に食べちゃお」
炊き立てのご飯に、濃厚な味付けの鶏肉。これだけでいくらでも食が進みそうなのに、その他に大根のサラダと漬物、味噌汁まで付いている。むしろ食べ過ぎが心配になってしまうくらいだった。
「ねえ、知尋」
「ん?」
夢中で食べ進めていると、李狐が上目遣いにこちらを見ていた。
「ごめん、言い忘れてたんだけどさ」
「うん」
「高槻さんにあたし達のこと、バレたかも」
……危うく、口の中の物を噴き出しそうになった。
「な、何で!?」
「今日、お昼を一緒に食べたでしょ? その時、お弁当を見られちゃって」
確か、今日は李狐が真里亜の分もお弁当を作っていた。
李狐と真里亜は、一緒に愛華とお昼を食べていた。
知尋は、頭痛がしてくるのを堪えながら、極力平静を装って言った。
「李狐?」
「あ、あはは。ごめんね、わざとじゃないの。ついうっかりしてただけで。他の子にはバレてないし」
愛華も、特別深く詮索してきたわけではないらしい。
ただ「二人とも、一緒のお弁当なんだね」と一言だけ。
「……どう思う?」
「それは、バレてると思う」
「だよねぇ……」
知尋と李狐、二人の関係は既にバレているわけで。そこに李狐と真里亜の繋がり――まるで同棲しているような共通点が見つかれば、三人の関係を疑われるのは当然だ。
「まあ、実際、それが午後の高槻さんの態度に影響していないとも限らないわね」
「真里亜」
下着だけを身に着け、衣服を抱いた真里亜が居間に顔を出した。
「いいじゃない。借り物競争での一件については、私の見解は言った通りだし。李狐の言う通り、最終的には無理矢理犯せばいいわ。レイプ、好きでしょ?」
「人聞きの悪いこと言わないで欲しいな……否定はしないけど」
「いや、一応否定しておきなさいよ。そこは」
まあ、良く分からないが。
真里亜達が言うには、愛華に嫌われたかはわからないらしい。もしもそれが正しいのなら、知尋にもまだチャンスはあるかもしれない。
「……どっちにしても、休み明けかな」
「そうね。休み明けになればいいわね」
何かを予感しているのかいないのか。
真里亜はくすりと笑って、シャワーを浴びに浴室へと向かっていった。