※この作品はR-18です。

儚き異能は心を映す   作:緑茶わいん

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第六十八話 リベンジ<前編> ★

 愛華の膣からペニスを引き抜き、二人で短い余韻を楽しんだ後。

 それぞれに服やベッドを整えて一緒に寝室を出た。

 

「私、シャワー浴びてくるね」

「うん」

 

 愛華と洗面所で別れて、知尋はそのまま居間へ。

 既に夕食の支度はほぼ終わっているらしく、李狐達はテーブルに着いてのんびりしていた。

 李狐がスマートフォンから顔を上げて微笑む。

 

「あ、知尋。早かったね」

「う」

 

 何気ない言葉が無駄にぐさりときた。

 

「え? あ……違うの、そうじゃなくて。時間的に一回くらいしかしなかったのかな、って」

「ああ、うん」

 

 答えつつ自分の席に座る。

 そこで、真里亜が知尋を振り返って尋ねてきた。

 

「ねえ、和泉君。今日も避妊はしたのよね? コンドームはどうしたの?」

 

 言いつつ、彼女は期待に目を輝かせている。

 それだけで意味が分かってしまう自分にちょっと複雑な気分になった。

 

「まだつけてるよ」

 

 不衛生かつ変な心地ではあるのだが、どうせ欲しがられるだろうとそうしていた。

 案の定、真里亜は嬉しそうに頷いた。

 椅子から腰を浮かせてテーブルの下に跪く。

 

「なら、それは私が貰うわね」

 

 ファスナーを下ろされたズボンからゴム付きのペニスが取り出され、丁寧な手つきでコンドームが外された。

 

「ふふ」

 

 真里亜はそれを愛おしそうに手にし、席に戻って逆さに傾ける。

 とろり、滴る精液が伸ばした舌の上に落ちて口内へ。

 こくん。

 黒髪の少女が喉を鳴らして飲みこむ様を、知尋と李狐は思わず息を飲んだまま見守ってしまった。

 

「ご馳走様でした」

 

 真里亜の声に李狐がはっとした表情を浮かべる。

 彼女はスマートフォンをテーブルに置くと立ち上がり、真里亜がしたようにテーブルの下に潜り込んだ。

 欲情と献身に彩られた瞳が知尋を見上げる。

 

「李狐?」

「高槻さんと真里亜にはもう出してあげたんでしょ? だから、あたしにも頂戴?」

「それは構わないけど」

 

 ちらりと真里亜を見る。

 恍惚の表情のまま、軽く首肯が返ってきた。

 

「させてあげて。私は夕食の仕上げをしてくるから」

「やった。じゃあ、知尋はそのままにしててね」

 

 はむ、と。

 故意に吐息を漏らしながら李狐が竿を口に含む。

 愛華の唾液と、精液の残り。べたべたになったペニスに嫌がる素振りも見せずに口内で舌を絡め、やわやわと愛撫してくる。

 愛を交わした満足感はそのままに、猛烈な支配欲と純粋な性的欲求とが身体を蝕む。

 

「ひつれも、らひて、ひいかられ?」

 

 口に含んだまま知尋に告げた李狐は視線をペニスに向けると、後は一心不乱に奉仕を始めた。

 フェラチオの安定感、という意味では李狐は飛びぬけている。経験によって積み重ねられた『知尋のための』技術は純粋に、真っすぐな快感を与えてくれる。

 真里亜は豊富な知識に裏打ちされる引き出しの多さでは他の追随を許さない。手を変え品を変え知尋を楽しませてくれるが、その分、技術に振り回されがちな部分がある。強すぎる性欲を抑えるのと併せて研鑽の途中だ。

 

 ぴちゃ……れろ……。

 

 もごもごと口を動かしつつ、それとは別に舌が蠢く。

 刺激されて竿や身体が震えると、李狐はその度に目を細める。

 だしていい、とは言われたものの二回射精した後で、また李狐の奉仕も決して速度を重視したものではなかった。

 せっかくだからと彼女の口内をしばらく楽しんでから射精する。

 

「ん……あは」

 

 ペニスの反応から射精の予兆を感じ取ったのだろう。

 前もって警告するまでもなく、李狐は全ての精液をしっかりと口内で受け止めた。

 ちゅるん、と竿から口を離すと白濁の溜まった口を開いて微笑む。

 そこで、居間の入り口から声。

 

「あ、李狐ちゃん酷い!」

 

 愛華だ。

 兎柄のパジャマ――前に李狐からは「あざとい」とか言われていたが、それでもお気に入りらしい――を纏い、髪をほんのり濡らした彼女の視線は当然、李狐に向けられている。

 自分のいない間に知尋に奉仕していたのが気になったのだろう。

 一方の李狐は澄ました顔で精液を飲み干し、あっけらかんと言う。

 

「酷いって、あたしはご主人様にご奉仕してただけだよ?」

「だからって、こんなの当てつけみたいだよ!」

「気にしすぎ、っていうか勘違いだよ。知尋が出せなくなるまで一人で相手するのは滅茶苦茶大変だって」

「でも!」

 

 と、何やら言い合いが続きそうな気配。

 

「……あはは」

 

 苦笑いして台所の方を振り返れば、真里亜が似たような笑い方をしていた。

 放っておきなさい、という表情に従い、そのまま様子を窺っていると確かに、二人は何だか楽しそうだった。

 

 

 ☆   ☆   ☆

 

 

 それから、あっという間に週末がやってくる。

 約束の日までの間、知尋は放課後できるかぎり鍛錬を続けた。基礎はある程度こなしてきた自信があるので、真里亜や李狐にも協力してもらい実戦形式を中心にする。

 格闘技の経験がある愛華が傍にいてくれるようになったお蔭で、技の知識やバリエーション、対処方法の訓練も多少進んだ。

 

 土曜日は一学期と同じように選択科目の日だ。

 科目の選択は学期ごとに行うので科目を変えることもできたが、知尋は悩んだ末に一学期と同じ美術と情報処理を選択した。

 強くなりたい、と思いつつ戦闘訓練を追加しなかったのは進路を考えたからだ。

 身体を鍛えているからといって、知尋が警察やアスリート等を進路にすることはおそらくない。ならば内申点に繋がる方を優先しておく方がいい。

 

 しかし、そんな知尋にも環境の変化はあった。

 

「知尋君。美術室行こう?」

「うん」

 

 朝のHRの後、愛華が李狐を連れて知尋に声をかけてくるようになった。二人共、前半の選択科目を美術に変更したのだ。

 

『私は順番逆にするだけだし』

 

 と、もともと「家庭科と美術」を選択していた愛華は「美術と家庭科」に変更。

 

『土曜日まで戦闘訓練とか正直疲れる』

 

「家庭科と訓練」を選択していた李狐は「美術と家庭科」に変更した。考えてみれば、幻影を扱う李狐にとって絵画や彫刻はイメージトレーニングとしても適しているので、そういうところもうまく噛みあったらしい。

 なお、真里亜は「美術と音楽」のまま。なので結果的に四人とも一・二限は同じ授業に集まることになった。

 

「ははは、リア充は爆発しておけ」

「……ええと」

 

 教室を出る直前、舞阪から面と向かって言われた内容には苦笑するしかなかった。

 美術の時間はペアになっての人物デッサンを愛華とこなし、情報処理の時間は授業を受けつつ心と身体を落ち着けた。

 

「和泉君」

「うん。昼食は?」

「食べてからにしようか」

 

 帰りのHR終了後、神代と一緒に教室を出る。

 

 ――行ってくる。

 ――頑張ってね、知尋君。

 

 愛華と視線を合わせて頷きあう。彼女も今日は医務室の手伝いを休んで観戦に来てくれることになっている。李狐や真里亜も一緒だ。

 メニューはゲンを担いでトンカツ定食にした。

 一応、吐く可能性を考えて大盛りにするのは止めておく。

 土曜の食堂は比較的空いている。神代と隅の席に向かい合わせで座った。

 

「神代君は」

「……ん?」

「どうして柴鳳に入ろうと思ったの?」

 

 食事中、不意に思い出されたのは先日、鈴から尋ねられたこと。

 友人というほど親しくもない二人はこれまで、そういう類の話をしてこなかった。ただ、今はなんとなく気になった。

 神代は知尋の問いに食事の手を止め、数秒沈黙してから答えた。

 

「……ヒーローに憧れてたから、かな」

「ヒーロー?」

「ああ」

 

 頷く神代。

 

「漫画とかでよくあるやつだよ。それから、警察とか災害救助で働く『落とし物』もそうかな。ああいう格好いい男になりたかった……いや、なりたいんだ」

 

 だから身体を鍛える。

 自分にも他人に恥ずかしくない行動を心がける。

 知尋には――いや、多くの生徒にとって真似できないであろう生き様を貫いている。

 

「子供っぽいかな」

 

 彼は笑った。恥ずかしそうに、しかし同時に誇らしげに。

 いや、と、知尋は首を振った。

 

「格好いいと思うよ、神代君は」

「そうか。……ありがとう」

 

 彼の浮かべた笑顔は、確かに夢を目指す少年のようだった。

 それから、神代はふっと笑みを消して真摯な表情を作る。

 

「だからこそ、俺は君にも負けられないんだ」

「……うん」

 

 神代は遙か高みを目指している。

 それは以前から感じていて、ついさっき真実だったと理解したこと。

 上に行くために、誰にも負けられない。

 

 ――同時に、彼の宣言は別の意味にも聞こえた。

 

 自分は目指すもののために戦う。

 だから私怨では戦わない、と。

 まるで神代自身に宣言するような。

 

 ……皆から憧れられるわけだ。

 

 知尋は思いながら神代の視線を見つめ返した。

 

「僕も神代君には負けたくない」

 

 知尋は神代のように立派にはなれない。

 戦う理由には私怨――個人的な理由も含まれる。

 それでも負けたくない。知尋には知尋の理由がある。

 

 二人はそれきり言葉を交わさず昼食を平らげた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 十分な食休みを取り、着替えを済ませて広い訓練場に赴く。

 今回のセッティングは舞阪の仕切りだが、目的の一角に着いてみると殆ど貸し切り状態だった。両隣のブースは空いており、前回を優に超えるギャラリーを収容している。 

 話を広めた舞阪をはじめ、愛華に李狐、真里亜……それから華に朱香、更には上級生の姿までちらほら見える。

 本当に、どうしてこれだけの人数を集めたのか。

 せめて舞阪を一目睨んでおこうと顔を向けると、不意に耳元で声がした。

 

「ふぁいと。知尋くん」

「……鈴さん?」

 

 思わず立ち止まって呟いた。

 

「ん? どうかした?」

「いや、なんでもないよ」

 

 首を振って答える。もしあの人が本当にいたのだとしても、姿を探すのはきっと無駄だ。さっきの言葉をエールとして受け取っておけばそれでいい。

 二人はある程度の距離を取り、向かい合って立った。

 神代は素手、そして知尋は――両手に一本ずつの木刀。

 

「えーと……和泉、本当にそれでいいのか?」

 

 スターターとして進み出てきた舞阪が眉を顰めるが、知尋は大真面目だ。

 

「うん、問題ないよ」

「ならいいけど……えー、ルールは前回と同じだな?」

「ああ」

「うん」

 

 時間無制限。倒れて起き上がれなくなるか、ギブアップした方が負け。禁止事項は授業と同じで、武器の使用はあり。

 前回はこのルールで戦った結果、知尋は拳が砕ける寸前まで陥った。

 ……場合によってはそれと同じか、それ以上のダメージは覚悟しなければならない。

 

 息を吸って時を待つ。

 互いに視線を交わらせた二人を舞阪は交互に確認し、やがて大きく宣言した。

 

「――始め!」

 

 神代が直進してくる。

 右拳による腹狙い。以前と同様、奇をてらうつもりなど毛頭ない正攻法。

 ただし、今回は最初から全開だった。

 

 だんっ!

 動き始めた一呼吸後には既に目の前にいた――そんな感覚。身体強化を用いた一撃が開幕から飛んでくる。

 ……先手必勝。

 ごっ!

 

「っ」

 

 交差した木刀で防ぐも、神代の拳の威力は凄まじい。

 武器を持つ手のひらがぴりぴりと痺れ、衝撃で数歩、後退する。

 ……本当はカウンターで迎撃するつもりだったが、攻撃が速すぎて防御に回るのがやっとだった。

 

「っだあっ!」

 

 知尋は息を吐きながら右の木刀を振るう。

 神代が再び床を蹴ったのはそれとほぼ同時だった。

 

「知らなかったのかな、和泉君」

 

 腕に当たったそれを神代は面倒そうに振り払い、知尋の腹めがけて繰り出した。

 左手の木刀でガード。

 どこか軽快な音と共に木刀が跳ねあがった。

 

「相当な筋力と技術が無ければ、二刀流は威力と速度を殺すだけだよ」

 

 腹へ右拳が執拗に迫る。

 それは今度こそ深く突き刺さり、知尋は後ろに吹き飛んだ――ように、ギャラリーには見えただろう。

 

「……浅いか」

 

 実際には、知尋はインパクト前に後退を始めていた。

 完全に避けるには至らなかったが、拳は浅く入っただけで衝撃はだいぶ殺せた。致命打にはほど遠い。

 神代も今ので決めるつもりだったのだろう。

 彼は構えを直しつつもほんの少し驚きの表情を見せた。

 

「……なあ、何であいつはあんな攻撃防げんの?」

「和泉は目が合った相手の心が読めるんだよ。それでルートを先読みしてる」

「いや、それは知ってるんだけどさ」

 

 ギャラリーの声。

 読心以外に理由を挙げるなら、それは慣れだろう。

 前回の戦いでも、授業中の実戦訓練でも。神代の動きは何度も見てきた。おかげでタイミングやパターンはかなり頭に入っている。

 ……今回の神代はあの時よりも更に早いが。

 

「武器を捨てるなら今のうちだけど」

「付け焼刃なのは承知の上だよ」

 

 短く言葉を交わして交戦再開。

 腹狙いは諦めたのか、神代の狙いは左肩。それを阻むように左下から切り上げる。神代は一瞬、動きを止めてギリギリでかわす。

 そこへ右の木刀を横薙ぎに振るう。

 左手の引き戻しにかかる時間を無理矢理稼ぎ、ついでに二段構えの攻撃をかける。木刀が神代の左腕を叩く手ごたえ。

 

「やっぱり、軽いな」

 

 至近距離で右拳が引き絞られる。

 が。

 

「……なるほど」

 

 知尋も左の木刀を振り上げているのに気づき、神代は二、三歩後退した。

 ――そう、油断した刹那。

 

「!?」

 

 視線から伝わってきた意思に知尋は慌てて動こうとするも、間に合わない。

 神代は即座に前進し、左手で右の木刀を掴むと右拳を振るう。これは、前の真剣勝負でもやったように。

 ぴき。

 木刀が折れた。

 

「まだっ!」

 

 折られるのはわかっていた。

 あらかじめ二本用意したのはそのためでもあるのだ。

 知尋は左の木刀を振るい肩口を叩く。しかしその木刀も同じように掴まれて。

 みし、みし。

 軋む音と共に折れ、使い物にならなくなった。

 

「……さあ」

 

 ゆっくりと身体を引き戻し、一歩、二歩と後ずさりながら。

 神代悠希は、思わず息を飲んでしまうような気迫を全身から発散した。

 

「そろそろ本番かな」

「……そう、だね」

 

 やはり、彼はとんでもない。

 頬に冷や汗が浮かぶのを感じながら、両手の木刀を投げ捨て。

 知尋は対戦相手に精一杯の笑みを返した。

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