「じゃあ、お願いします」
「……うん」
身体ごと向きなおって愛華の瞳を見つめる。
少しばかり照れくさい気持ちになりつつスイッチを切り替えると、やはり一瞬の間があってから脳裏にイメージが浮かんだ。
☆ ☆ ☆
二階建てか三階建てで、四方に大きな窓のある部屋。
部屋の中心には大きな天蓋付きのベッド。その上には純白のドレスに身を包んだ愛華と、清潔感のあるスーツ姿の知尋。
時刻は夕方のようで、窓の外に広がる見渡す限りの海は夕陽に照らされオレンジ色に染まっている。
『知尋君……ううん、あなた。私を、いっぱい愛してください。あなたとの子供が欲しいの』
『愛華……』
純白のシーツが敷かれたベッドの上で二人は口づけをし、やがて身体を重ねると夜が更けるまでずっと――。
「わー!」
☆ ☆ ☆
映像が途切れる。
顔をこれ以上ない、というくらい真っ赤にした愛華が、がたん、と立ち上がり知尋に詰め寄ってくる。
知尋の目を見るのは危険だと判断してギリギリで止めたが。
「ち、違うの!」
「違う?」
「だ、だからあれはそういうのじゃなくて、なんていうか。女の子の夢っていうか……!」
うー、と呻いて椅子に座り直した彼女は、羞恥からぷいっと別方向を向いてしまう。
「ね、ねえ知尋、何が見えたの?」
「う、うん。結婚式が終わったばかりの愛華と
「知尋君!」
余韻を残したまま、見た情景を口にしようとしたら鋭く睨まれた。
どうやら相当、恥ずかしかったらしい。
「……これはかなり」
「破壊力が高そうですね」
残る二人が頷きあう。
その後、李狐が知尋の方を向いた。
彼女の表情はいたって真剣である。
「次は、あたしね」
――当初、愛華に李狐、華は三人とも「できればやりたくない」と暗に示すような態度だった。
こんなもの、どうあがいても羞恥プレイにしかならないのだから当然だ。
だから睨み合いは難航するかと思われたが。
『どうせなら全員見てもらったらどうかしら?』
という真里亜の言葉により「死なば諸共」という方向に転換したらしい。
じゃんけんで順番を決め、全員が知尋の能力を味わうことになった。
さて、二人目、李狐の願望は――。
☆ ☆ ☆
袖の膨らんだ、漆黒のロングワンピースに白いエプロン。
頭には白いフリルによって飾られたカチューシャが乗り、足元は白のストッキングに黒いドレスシューズというシックな装い。
『ご主人様』
長い
一方の知尋はというとバスローブのようなものを身に着け、尊大に足を組んで悠然と微笑んでいる。
というか、よく見ると二人がいる場所も本でいっぱいの書斎だ。
『今日は、どのようにご奉仕いたしましょうか……?』
ややぎこちない口調ながら、李狐は丁寧に主へと尋ねる。その瞳は期待からかすかに潤んでいる。
知尋は、そんな李狐の全身を舐めるように見つめてから告げる。
『そうだね。じゃあ、口でしてもらおうかな』
『……かしこまりました』
李狐は数歩、知尋の方へ歩み寄り、ちょこん、とスカートを持ち上げながら床に跪く。するとロングスカートの裾がふわりと広がって床に綺麗な花を咲かせた。
『ご奉仕、いたします』
少女の手がバスローブの紐を解いて前を開き、露わになった股間に顔と舌が近づいていき――。
「もしもし? まだ終わらないんですか?」
「っ」
☆ ☆ ☆
はっとして顔を向けると華の呆れ顔。
どうやらイメージに夢中になってしまっていたか。
「あ、いいところだったのに……ってごめん、今のなし」
李狐はどこかぼうっとした表情だ。何やら可愛らしいことを呟き、すぐに首を振って手を身体の前に広げた。
……ということは、今のは李狐の願望で間違いないのか。
「知尋君、李狐ちゃんはどうだったの?」
大分ショックから立ち直ったらしい愛華に尋ねられ、知尋は一言で答えた。
「……メイド」
「メイド? 西崎さんのことですから、秋葉原とかによくいるミニスカの、いかにも量産型っぽい紛い物のことですか?」
「いや、割と古式ゆかしいタイプだったけど」
問題のポイントはそこなのだろうか。
「……そういえばこの間、李狐がメイド物の漫画を熱心に読んでいたわね」
「ちょ、ちょっと真里亜!」
李狐が悲鳴を上げ、真里亜の口を物理的に塞ぎにかかった。まあ、真里亜が内側から手のひらを舌で舐めたものだから、拘束はすぐに解かれてしまったが。
「その、ち、知尋?」
気まずそうにちらちらと視線を送ってくる。
「李狐、髪を染め直したの後悔してる?」
「え? ううん、あたしにはあんな髪型似合わないだろうし……。っていうかさっきのは忘れて、お願いだから」
「ん、わかった」
微笑んで頷きつつ、知尋はメイド服っていくらくらいするだろうと考えていた。
と。
ずいっと華が身を乗り出してくる。
「さて、最後は私ですね。さっさと済ませちゃいましょう」
「う、うん」
おそらく、なまじ最後に回されたせいで、逃げたい気持ちが最高潮に達しているのだろう。勢いを付けないとやっていられないに違いない。
らしくなく緊張した様子の彼女と視線を合わせ――念のため、五秒直前で切る。
短い時間だったが、どうやらイメージ内の時間経過は現実時間と一致しないらしい。ある程度の内容は読み取ることができた。
「どうだった、知尋?」
「え、ああ。うん。なんていうか……」
「ストップです」
口を塞がれた。
華は立ち上がり知尋の後ろに回ると、もう片方の手まで使ってしっかり口を封じてくる。
余程動揺したのか、はあはあと息まで荒くなっていた。
「絶対に口外しないでください。誰かに話したら本当に命はないと思ってください」
「む、むぐ」
こくこくと何度も頷くとようやく離してくれる。
まあ、そういうわけで、華の願望については二人だけの秘密となった。
……無理もないかもしれない。
イメージを思い返した知尋はそう胸中で呟く。
愛華や李狐と違い、華の願望は最初から行為の最中だった。
三人の少女が同じデザインの、色違いの下着を身に着け、お互いの身体を一心不乱に貪りあう光景。
一人は華で、一人は真里亜。
――ここまでは理解できたのだが。
三人目は李狐でも愛華でもなく、知尋――によく似た顔立ちの美少女だった。股間と胸もしっかり映っていたので知尋当人ではありえないのだが。
実在しない人物を創造してまで華が何を望んでいたのか。
この面々に話したりしたらどういう推測が飛び出してくるか、わかったものではない。
「……なんだか、三人ばかりズルい気がするわ」
最後、真里亜の呟いた一言が妙に印象に残った。
☆ ☆ ☆
鈴は、結果的にしっかりと役割を果たしてくれた。
既存の能力についてまで詳細を分析してくれ、おまけに気づいていない能力まで発見することができた。
『知尋くんはCランクに昇格できると思うよ』
『本当ですか?』
『うん、本当。わたしが一人で決めるわけじゃないけど、少なくともわたしは偉い人達にCが適切ですって報告する』
そんな彼女の言葉通り、後日通知された判定結果にはCランクへ昇格した旨が記されていた。
なお、入学から半年でEからCへ昇格した生徒はこれまでほぼ例がないらしい。
まあ、有望な生徒はそもそも入学時点でDランク以上になっている、というだけの話だとは思うのだが。
それでも知尋は、これで一年生の「上の方」に位置したことになる。
二度の判定を経てCランクもじわじわ増えてきてはいるようだが、それでも多くの生徒にとってCはまだまだ憧れの的である。
入学初期からの李狐との確執、終えてしばらく後に神代との試合があり、更にDランクへの昇格、体育祭の騎馬戦、果ては愛華との交際と目まぐるしい変化のあった知尋の環境だが、これでまた一つ新しい変化が生まれたことになる。
「おー。まさかCに上がるとはな。ま、おめでとうと言っておいてやろう」
「ありがとう、舞阪君」
真っ先に舞阪が祝福してくれたのもあって、クラスメート達も遠慮なく知尋を玩具にしてくれた。
「Cランクとか……和泉君、何かコツとかあるの?」
「なんか微妙な能力がいくつもあるんだろ? 何か見せろよ?」
読心の件があるせいで、まだまだ他人との会話は微妙に苦手だったりする知尋だが、クラスメート達の感情は以前に比べ、かなり好意的になっている。
単純に現金なだけという面もあるだろうが、その他にも愛華や李狐、舞阪が話しかけてくれることで心理的なハードルが下がったこともあるだろう。そして何より、忘れることができないのは――。
「………」
賑わう教室で真里亜はいつも通り、静かに自分席に座っていた。
しばらくそのまま見つめていると、やがて彼女は振り返って知尋に微笑んだ。
「おめでとう、和泉君」
一言だけ言って、また自分の世界に戻っていった。
何か声をかけたかったが、他のクラスメート達への受け答えで忙しく、結局は何も言えないままやりすごしてしまった。
そして。
「和泉君」
「……神代君」
神代もまた知尋に声をかけてくれた。
彼は端正な顔に純粋な笑みを浮かべて知尋に手を差し伸べてくる。それだけで周囲の生徒達が二人に注目するのだから流石だと思う。
「おめでとう。あっという間に並ばれてしまったね」
「ありがとう。でも、神代君には敵わないよ」
本心だったのだが、知尋の返事を聞いた神代は笑みを苦笑に変えた。
「そんなことないよ。俺ももっと頑張らないとな」
神代悠希。
彼は以前舞阪から聞いた通り、今回もCランクに残留となった。
ライバルである湯瀬朱香も同じくBランクは到達できず、一年生のBランクは未だ御宿華――『略奪』の能力を持つ少女ただ一人。
真里亜や愛華、李狐に舞阪ら、継続的に親交のある生徒達も今回はランクに変動はなかった。
だからこそ、知尋のCランク昇格は皆にとって嬉しいニュースだったらしい。
「やっぱさ、人がランク上げてると焦る部分もあるけど……嬉しいとこもあるんだよ。だって、頑張ればちゃんと評価されるってことだから」
とは李狐の談。
通知が渡された夜はマンションでささやかなパーティが催された。華は「なんで私が和泉君を祝うんですか」と不参加だったが、愛華は喜んで参加してくれた。
近くのケーキ屋さんでホールケーキを買い、愛華も含めた少女達三人で作った和洋中の料理と共に味わった。
ちなみにケーキの代金は知尋の財布から出した。
といってもいじめとかではなく、料理まで作ってもらう手前、それくらいしたいと思ったからだ。
知尋の家は母子三人で、実家には社会人の姉がお金を入れている。
家計の心配をするのは成人してからで十分という家庭の方針により、『落とし物』として受ける助成金は知尋のお小遣いになっているので、Cランクになったことでやや懐にも余裕ができたのだった。
全員未成年なのでアルコールは入らなかったし、馬鹿みたいに騒ぐ面子でもなかったが、その夜、マンションの居間にはいつも以上に和やかな空気と、面々の笑顔が溢れていた。
ご馳走は量が多くて食べきれなかったものの、明日の朝に食べればいいという自然な結論になり、パーティはお開きとなった。
「そうだ、知尋君」
「ん?」
「何か私達にしてほしいこと、ないかな?」
愛華からそう切り出されたのは片付けも一段落した頃のことだった。
一応、お祝いの一環として、ということらしい。
「あまりお金がかかることとかは無理だけど、それ以外なら」
「ええと……そうだなあ」
そう言われても咄嗟には思いつかない。
皆からの奉仕、という意味ではこの間、もの凄いプレイを味合わせてもらったばかりだし。
皆が傍にいてくれて、こうして世話までしてくれているだけで十分――そう思ったが、おそらくそれでは納得してくれないだろう。
何かないか。
考えた知尋は一つのアイデアを思いついた。
「あ」
「何か思いついた?」
「うん。……皆にっていうか、主に愛華へのお願いになるんだけど、いいかな?」
すると愛華達はそれぞれに顔を見合わせ、微笑んで頷く。
「うん、いいよ」
「良かった。それじゃあ……」
知尋も微笑みを浮かべつつ、愛華を見つめて告げた。
このところの悩みを解決する妙案――この間、愛華の願望を覗いたことをヒントに思いついた願いを。
「……その、お尻を開発させてくれないかな?」
「………」
一瞬の沈黙の後。
愛華達から三者三様の、盛大な反応が返ってきたのは言うまでもなかった。