「知尋。理事長の用事って何だったの?」
「愛華、今日は来てないんだ」
帰宅し服を着替えた知尋は、李狐の問いかけに質問で返した。
着替える前にもざっと確認したが、あらためて室内に首を巡らせる。やはり彼女の姿はない。
「あ、うん。今日は医務室寄って直接帰るって言ってたよ。洗濯物が溜まってるんだって」
「そっか」
話を聞きたそうだったから寄ってくれるかと思ったが、そういうことなら愛華には電話で伝えようか。
と、それを見ていた真里亜が言った。
「なら、詳しい話は夜にしましょうか。高槻さんも今の時間は忙しいでしょうし。和泉君も二度説明するのは手間でしょう?」
「あ……そうだね」
思考を読んだらしい提案に頷く。
あまりに的確すぎて一瞬、何の話かと訝しんでしまったが。
知尋は夕食までの時間に宿題やらを片づけた。直帰した真里亜達は既に済ませているようで、料理などの家事を分担してこなしてくれる。
頼り切る申し訳なさは未だに残るものの、ご主人様というか亭主関白というかな生活にもリズム的にはもう慣れた。
『いいんだよ、知尋は気にしなくて。その代わりにあたし達は抱いてもらってるんだから』
それで本当にギブアンドテイクになっているのか。
疑問はあるも、不満は特にない。
男に奉仕し抱かれる生活に満足しているのなら、それは少女達が今の、普通とは違う関係性に染まっている証拠だ。
役割分担とか、細かい取り決めは任せてしまった方が楽でいい。
その分、知尋はこの生活を続けられるように努めるべきだ。
例えば、そう。
「そろそろ愛華に電話をかけようと思う」
「ん、おっけ」
夜九時を回った頃二人に告げれば、李狐がぱっと顔を輝かせて立ち上がった。おもむろに椅子の下に跪いて知尋のパジャマに手をかける。
「李狐?」
「電話してる間、暇でしょ? だからご奉仕するね」
一応問いかけてみるとそんな返事。まあ、さっき真里亜と二人でじゃんけんするのが見えていたので、だいたい予測はついてはいた。
……会話だけしていると手持無沙汰なのを「暇」と表現されると、やや愛華に申し訳ない気持ちになるが。
こんな風に、知尋の生活には殆どプライバシーが存在しない。
他に男のいない場所で暮らしているのだから、今更といえば今更だが。
真里亜に李狐、愛華のいない場所で起こったことは殆ど共有しているし、逆に知尋は真里亜や李狐の私生活をだいたい把握している。
お互いに隠さないし、無暗に他人に口外もしない。そういう暗黙の了解だ。
「じゃあ、かけるよ」
「うん」
答えた李狐が知尋のペニスを取り出してキスをする。真里亜も、李狐を羨ましそうに見つつ耳を傾けてくれる。
スマートフォンを操作して愛華にコール。
なお、通話はイヤホンマイクでハンズフリーにしている。愛華と付き合い始めて長電話が増えたので調達したものだ。
電話はすぐに繋がった。
『こんばんは、知尋くん』
「こんばんは。今、電話大丈夫?」
『大丈夫だよ。放課後のことだよね?』
うん、と答えて話を切り出す。
同時に、李狐がペニスをぱくりと咥えたので小さく息が漏れた。下を見ると李狐が上目遣いに悪戯っぽくウインクしてきた。
以降は緩やかなフェラに移行してくれたので、先程のは不可抗力だと考える。
熱心な舌使いのせいで頭はぼうっとしてくるものの、一定の刺激を超えなければ話は普通にできる。頭の働きが鈍るせいで誤魔化しやお世辞は使いにくくなるので、ある意味、うってつけと言えなくもない。
放課後の件は理事長自身の用事ではなく生徒会と風紀委員会からの呼び出しだったこと。
神代と朱香が風紀委員会にスカウトされ、知尋は生徒会にスカウトされたこと。
生徒会の事情や四葉、沙雪、鳳らの言動などなど、一緒に聞いている真里亜達にも向けて細かく話した。
『……そうだったんだ』
ほっとしたような、少し残念そうな吐息が聞こえた。
『生徒会長さんって女の人だよね。綺麗な』
「まず、そこなんだ」
『仕方ないでしょ。知尋くん、色んな女の人に好かれるんだもん』
奴隷の存在を認めたうえで彼女になり、李狐達とも仲良くしている愛華だが、当然女としての嫉妬はあるようで。
嫌味というか愚痴めいたことは度々言われる。
知尋も、それは仕方がないことだと認識している。
『その人も奴隷にするの?』
「いや、まだそんなつもりは全然」
……まだ、ってなんだ。
機会があれば奴隷にするかも、みたいな言い方に自分で内心突っ込む。
あの四葉の姿。
同い年でもなく大人でもない絶妙な年齢と、あの物腰。否応なく惹かれるものがあるからか。
「少なくとも、それが理由で生徒会に入るとかはないよ」
『良かった』
ほっとしたように愛華が言った。
『じゃあ、断っちゃうの? それとも……』
「うん。受けてもいいかな、って思ってる」
理由としては、せっかく知尋を指名してくれたのだから、というのが強い。
知尋は一人で立てるほど精神的に強い人間ではない。優しくしてくれる人や評価してくれる人にはどうしたって弱い。
愛華や真里亜達がいてくれるから、どうしても求めなければならないとは思わないが。
『……そっか』
「嫌、かな」
『そんなことないよ。でも、会える時間が減っちゃうなって』
「……そうだね」
生徒会の仕事はどうしたって忙しい。
基本的な活動は放課後になるらしいが、どこまで信用していいかは微妙だ。
最初はヘルプである以上、大した責任もないだろう。ただ、そのうち信頼されれば別。忙しいとなれば朝早めに登校して仕事をしたり、昼休みにも顔を出す羽目になる可能性は大いにある。
まして、学園祭に向けて手が足りないからヘルプを求めているわけで。
「放課後の訓練を止めることになるだろうから、単純に増えるわけではないけど。それでも忙しくはなるかな」
『そうだよね……』
今よりも帰宅が遅れるようだと、一緒に帰るのも難しくなる。
先にマンションに来てもらってもいいけれど、李狐達と会話するだけでは愛華にとっての来る意味も半減だろう。
多分、これは自惚れではなく。
と、唾液たっぷりにフェラチオを続けていた李狐が口を離して顔を上げた。
「高槻さんも来年、役員に立候補するのは駄目なの?」
『え? 何?』
「ああ、今のは李狐だよ」
言われたことを愛華にも伝える。
確かに李狐の案は悪くはない。だいぶ気が早いし直近の対策にはならないけれど、それなら選挙前後からは一緒にいられる時間が増えるだろう。
『うーん……李狐ちゃんの言うこともわかるけど、そうすると医務室のお手伝いを止めなくちゃいけないから』
愛華が医務室を手伝っているのは義務感ばかりではない。
則子やもう一人の校医の仕事を見て参考にするのは将来、医療や看護関係の仕事をするための準備でもある。同時に治癒能力を使う機会を増やすことで能力の成長に繋がるかもしれない。
それを考えると気軽に止めることはできない。
「この部屋に住めば、少しは時間を埋め合わせできると思うけれど」
今度は真里亜の言葉を愛華に伝える。
……スピーカーホンにした方が早かったかもしれない。
『それも……難しいかな。私もしたいよ、したいけど』
万が一、問題になった時が怖い。
普通の親なら娘のルームシェアなんて、相手が同性でもそうそう認めない。
寮を普段放置するにしても、愛華の場合は友人等が遊びに来ることもあるだろう。
「………」
『………』
沈黙してしまう。
お互いに、何と言うべきかわからなくなったのだろう。
きっと愛華も「止めて欲しい」とは言えないでいる。知尋としても無理に生徒会に入りたいわけではない。
四葉の申し出は断るべきか。
『あの、知尋くん』
「うん」
『何か証みたいなもの、ないかな。このお腹のやつ以外に』
二人が繋がっていることを示すもの。
……会える時間が減る寂しさを和らげるために。
何か、例えば。
「婚約でもする?」
『なっ』
「ぶっ」
愛華が上ずった声を上げる。
また、フェラチオを再開していた李狐が下の方で噴き出した。ペニスを噛まれなかったのは不幸中の幸いだ。
『こ、婚約って』
「嫌だった?」
『い、嫌じゃないけど。無理だよ。お父さんとお母さんに婚約したいって知尋くんを紹介するなんて……心の準備が』
……そう言われればその通りだ。
「さらっと婚約できるくらいなら、同棲くらい許して貰えるだろうし」
『どっ……』
「……和泉くん、少し発想が飛び過ぎだと思うわ。誰の影響かしら」
「まー、あんたじゃない?」
李狐が冷めた声で呟いた。
その後もいくつか案を出すも、なかなかいいアイデアは浮かばなかった。
ウェディングドレスは気が早すぎる、指輪なら値段もデザインもピンキリだが校内で目立つ。チョーカーは李狐が首輪代わりに着けているし、ピアスも耳に穴を開けるのがちょっと微妙。
「あ、ブレスレットはどうかな?」
『あ……うん。いいかも』
愛華が声を弾ませた。
『じゃあ、今度買いに行こうね』
今度の日曜日に買い物に行くことを約束する。
その頃にはもう愛華の機嫌は完全に直っていて、うきうきしながら「楽しみ」とこぼしていた。
『それじゃあ、知尋くん』
「うん。おやすみ、愛華。……愛してるよ」
『ふふっ。ありがとう。お休みなさい。私も愛してる』
最後に思いを囁き合って通話を切った。
正直、電話越しでも「愛してる」とか言うのは恥ずかしいのだが、こうすると愛華が嬉しそうにしてくれるのだ。
……ふぅ。
しかしやっぱり恥ずかしいと息を吐くと、途端に股間に刺激が走った。
「……んふ」
にんまり笑った李狐が本格的に口を動かし始める。
忘れていた――身を任せて浸っていた快感の波が急に蘇り、一気に知尋を押し流していく。
「っ!」
口内に射精。
李狐ももう慣れたもので、綺麗にすべてを受け止めるとこくんと飲みこむ。
「はぁ……ご馳走様」
「いや、デザートみたいに言わなくても」
「んー。どっちかっていうと前菜かな」
……ああ、なるほど。
愛華が来ないのなら、二人がこの程度の行為で終わらせるはずがない。
前菜というか前戯。殆どそのままだ。
「じゃあ、寝室に行こうか」
「うんっ」
李狐が声を弾ませながら頷き、その向こうで真里亜も表情を綻ばせた。
ぷち……ぷち……。
真里亜と二人、服に手をかけながら李狐が呟く。
「ねえ、知尋。生徒会に入るの?」
「うん。そのつもりだよ」
「理由は、頼まれたからだけなの?」
声に責める響きはない。
李狐の顔も知尋には向けられておらず、素に近い表情に見えた。
それだけに、答え方に迷った。
「ん……」
引き受けたいと思ったことも、愛華が理解してくれたことで「やる」方向に気持ちが定まったことも本当。
だが、その理由の詳細はというと正直、複雑に絡み合っていて言い表しがたい。
それをどうにか解きほぐしてみると。
「先を求めるため、なのかな」
「先?」
「そう。ほら……僕は欲張りだから」
ぱさり。
ショーツまで全てが脱ぎ落され、李狐達が一糸まとわぬ姿になった。
李狐の少女らしい身体つきと、真里亜の艶めかしく淫らな身体。
二人の『奴隷』がゆっくりと歩み寄りベッドに上ってくる。
「手に入る物があるなら欲しくなるんだと思う。それに……そうだね。生徒会に入れば権力が手に入る」
もちろん、生徒が持てる権限なんてたかが知れている。
教師以上の絶対的な発言権――そんな、夢のような話ではないのだが、それでも力は力だ。
多少の融通は利く。
生徒会役員というだけで周囲の反応が変わることもあるだろう。
「何かあった時に真里亜達を守ったり……あとは学校の中で無理を利かせる時に役に立つかもしれない、っていうのもあると思う」
「……あは、そっか」
どさっ、と。
李狐が知尋の胸に飛び込んできて、二人ともベッドに倒れ込んだ。
そんな二人の横に真里亜が這ってきて微笑む。
「権力が欲しい――なんて、まるきり悪役の台詞ですね」
「駄目かな?」
「いいえ、いいと思います。ご主人様は、それで」
静かな声が胸に染み込む。
深く、心と魂を蝕むような肯定。
くすり、と真里亜は笑って。
「ですが、疲れてお慈悲をいただけなくなるのでは、私達も拗ねてしまうかもしれませんから」
「……あはは、気をつけるよ」
「それじゃあ……ご主人様。あたし達をたくさん、抱いてください」
「ん、了解」
知尋はいったん李狐に離れてもらうと、何をしようかほんの少し思案し――二人に命じる。
少女達は羞恥と、欲望に頬を染めながら顔を見合わせ、頷きあう。
そして今夜も淫らな宴の幕が上がった。