---ジム---
大学の図書館は破壊されたので、使用禁止になり、高等部の図書館で歴史に関する本を読み漁っていた。そんな時、書架に、この場に相応しくない古びた書物を見つけ、手に取った。題名はかろうじて読める。『知識の泉』とある。書物の中のページを見るが、どれも白紙な状態だった。裏表紙には、魔法陣がある。
何だろうか、この書物は。図書館の端末の検索データベースで調べるが、ヒットしない。元の場所に返そうとした時、偶然、僕の親指が魔法陣の中心に触れた…書物が光り輝き、僕に念話が届いた。
『汝を主と認める』
書物に目を向けると、古びた書物だったはずが、新装本になり、裏表紙には、『所有者:ジム・マクシミリアン』と書き込まれていた。いつの間に僕の名前が…
『主の欲する情報を捧げる』
と、念話が届いた。どういうこと?ガブリエル?
『ジムは、伝説級に好かれているようね。その書物は、書物が主と認めた者にしか、読めないのよ』
だって、白紙だったじゃない…本を開くと、目次が出現し、各項目に詳細な説明が書かれていた。すごい…
そうだ、旧校舎に気になる箇所があるんだ。あれについて書かれていないかな?目次を見ると、『旧校舎』とういう項目があった。そのページを開くと、廃墟迷宮があり、不思議な空間があるらしいと書かれていた。
『気になる箇所で、読むと良いわよ』
ガブリエルから、追加情報を貰い、早速、気になる箇所に向かった。
旧校舎の端にある、階段の1階の踊り場の壁。白い壁なんだけど、右半分と左半分でくすみ具合が違う。些細な程度なんだけどね。
『知識の泉』の目次を見ると、『異世界への扉』という項目が増えていた。該当ページには、紋章に書かれているライオンの口に、手を入れると扉が開くとある。紋章?目をこらして見るが書かれていない。う~、どうすれば…床に目を向けると、白い粉状の物が、右半分の壁の前に所々落ちている。右半分の壁を触ってみると、微妙な凹凸を感じた。手の平には、壁の材質の微粉末が付いていた。この壁は砂を塗って固めたのかな?
壁の右半分に、砂の微粒子を吹き付ける『サンドブラスト』の魔法を掛けた。壁に塗り込まれていた砂が剥がれ落ちていき、ついに立体的な紋章が現れた。ライオンの口の部分に手を入れて、押してみたが動かない。引いてみたが動かない。上げてみた…動いた。壁が上方へ跳ね上がり、その先には通路があった。
その通路に足を踏み入れてみると、壁が下がっていき、旧校舎へ戻ることは、出来なくなってしまった。戻れないなら、先に進むだけだな。真っ暗だと思っていた通路は、上から光が入り込んでおり、思っていたよりも明るい。通路自体は短く、すぐにT字路に出て、目の前にはドアが3つあった。
一番左のドアを開いて入室すると、広い空間だった。床面と天井と壁は闇を思わせる漆黒である。床面に足が付いているにも関わらず、浮遊感を感じた。ここは一体?
『我、汝と共に』
漆黒の玉が僕の身体に吸い込まれて行った。えっ?その瞬間、T字路に戻っていた。今入ったはずのドアは消え、目の前にはドアが2つあるだけである。
『ジム、こいつはダークナイトドラゴンのバハムートだ』
レヴィアタンから情報を得た。
一番右のドアは開かなかった。では、真ん中のドアを開けると階段があり、上に昇っていけるようだ。僕は階段を一歩一歩、慎重に昇っていく。
ギシッ、ギシッ
木製の階段みたいだ。昇りきると、明るい陽光が差し込む広間に出た。窓から見える景色は平原だった。ここはどこ?
「ここは、蒼き平原だ」
僕の後ろから声がした。振り返ると、甲冑を着ている男性がいた。
「あなたは?」
「私はランスロット。ジョブはナイトだ。君は時空の扉を開けて、この世界へ入ってきたみたいだね」
「時空の扉?」
「そう、時空を超えることができる扉だ」
あのドアって、そうなのか。
「ランスロットさんが、作られたのですか?」
「いや、私ではない。大魔導師のクリムトが設置した物だ」
「何の為に?」
「君のような者を誘(いざな)う為にだ」
「僕のような者?」
「運命に導かれた者を集める為の扉だ。マクシミリアン」
「なんで、僕の名前を…」
「僕達はチームだからだ。あと、モルドレッドがいれば、全員揃う」
チーム?僕はランスロットさんと初対面なのだが…
「全員揃うとどうなるのですか?」
「この世界を救う旅に出るんだ。ここには元々、街があったのだが、魔物達に滅ぼされてしまった。今あるのは、この祠だけだ」
未来に来てしまったのか?
「ここはレインボーヒル?」
「いいや、蒼き平原だ。丘ではない。君はレインボーヒルという場所から来たのか」
「そうです」
この不可解な状況を、ガブリエルに訊こうと思ったのだが、応答がなかった。レヴィアタンも龍神王も応答がない。この世界では存在が出来ないのか?
「僕は、帰れないのかな?」
「レインボーヒルにかい?帰れるよ。モルドレッドが来ればね」
モルドレッド…どんな人なんだろう?そうだ!『知識の泉』で調べよう…あれ?無い。持っていない…あの書物も存在しないのか…では、ここはどこなんだ?
ふと、遠くから声が聞こえる。
『ジム…』
僕を呼ぶ声だ。声のする方へ行ってみると…一瞬、意識が遠のき、意識が戻ると、僕はガブリエルに介抱されていた。
「ジム、大丈夫?この部屋に入った途端、倒れちゃうんだもの。心配したわよ」
「ランスロットは?」
「誰?」
誰って…どういうことだ?部屋には陽光が差し込んで来ているが、先程のように明るくはなかった。窓から見える風景は…荒れ地だった。部屋を見回すと、3体のミイラのような遺体があった。ランスロット、モルドレッド、クリムトの遺体なのだろうか?
テーブルの上で、日記のような書物を見つけた。開くと…書物から黒い玉と、紅の玉と、黄金の玉が飛び出してきて、僕の身体に吸い込まれて行った。えっ?!
「そういうことか…」
レヴィアタンが呟いた。
「ジムの前世の仲間の魂のようだ。さっき1階でダークナイトドラゴンを取り込んだだろ?ランスロットっていうダークナイトの下僕のようだ。たぶん、黒い玉だ。紅の玉はモルドレッドっていうバーサーカー(狂戦士)、黄金の玉はクリムトというアークウィザード(大魔導師)の魂のようだ」
僕の前世?僕の仲間?
「僕は何者だったのかな?ねぇ、マクシミリアンってわかる?」
「ペールドラゴン(蒼き龍)というドラゴンナイト(竜騎士)だ」
龍神王が答えてくれた。僕の前世は龍騎士なのか?
「僕はドラゴンナイトだったの?…僕は前世でどうなったの?」
「…魂達の話では、仲間を庇って死んだそうだ。蒼き平原は、ペールドラゴンを祀った祠があるからだそうだ」
ガブリエルは魂と会話が出来るようだ。僕は…仲間を護れなかったのか…前世では…
「一番右のドアを入れと、魂達が言っているぞ」
僕達は、下の階に降りて、一番右のドアを入った。そこでは、光の玉が僕の身体に吸い込まれて行った。
『今のはセイントドラゴンのラピスだ』
龍神王が情報をくれた。
『仲間は揃った。戦う準備をするんだ、マクシミリアン』
ランスロットの声が聞こえた。
『私達のチームが、本来戦うべきだった相手に出会えたら、全員で戦うよ』
知らない女の人の声が聞こえた。
『あっ、私がモルドレッドよ、マクシミリアン』
モルドレッドって女性だったのか。で、本来戦うべきだった相手とは?
『出会わないと分からない…』
光の漏れているドアがあったので、そこを入ると…旧校舎の前にいた。振り返ると、今迄いたはずの祠は無くなっていた。でも、僕は蒼き鎧を装着していた。これが蒼き龍の装備なのだろうか?
旧校舎の端にある、階段の1階の踊り場の壁を見に行くと、先程とは違いグレーの壁だった。白い壁はなくなっていた。壁の表面はツルツルで凹凸は感じられなかった。
『出会えたのだから、もうアレは必要無いんだよ』
ランスロットの声がした。
『もっと、色々な事を学び、スキルを昇華させるのだ』
わかったよ、ランスロット。
◇
サーゼクス達の旅団の出発の日が、近づいて来た。出発前の身体検査を、サーゼクスの研究室で受けた。
「おぃおぃ、また増えているんじゃないか…また、伝説級ばかりだ。ランスロット、モルドレッド、クリムト、バハムート、ラピスとは、豪勢に主僕契約を結んだな」
どうして?!ランスロット達と主僕契約?していないような。いつしたんだ?
「一体、どこで結んだんだ?ジム」
「旧校舎にあった廃墟で…」
「旧校舎にあった廃墟?おい、あそこに廃墟迷宮が有ったのかい?」
「今はもう無いです。一度だけしか入れない廃墟でした」
「どこにあったんだ?」
「旧校舎の端にある、階段の1階踊り場の壁が入り口でした」
「そんな場所にあったのかぁ」
サーゼクスは悔しそうだ。
「そうだ、サーゼクスさんは、蒼き平原って知りませんか?」
「蒼き平原?たしか、敗走中のランスロット達が逃げる為の時間を稼いだ、竜騎士が眠る平原だったかな」
「実在するんですか?」
まさか、実在するとは…敗走中?ランスロット達は誰に負けたんだ?
「今回の旅団での遠征先だよ。なんで知っているんだ?ジム…まさか廃墟迷宮は、蒼き平原絡みだったのか?!」
「そうです」
「遠征中の廃墟迷宮探索は、僕も行くからな」
サーゼクスと一緒なら心強い。遠征で、本来戦うべきだった相手の手がかりが、見つかると良いなぁ。