---ジム---
湖の上には、虹の橋が架けられていた。風は心地良い。僕は二人と寄り添い、風を楽しんでいた。しかし、湖に何かが投げ込まれ、澄んでいた湖水はドス黒い色へと変貌してしまった。
僕達は湖を荒らす者に立ち向かうが…彼女達は斬り捨てられて、湖に捨てられた。そして、僕には蛇の紋章が刻まれた剣が差し込まれた…
◇
また、変な夢を見てしまった。あれは何だったのだろうか?虹かぁ…あれ?虹?…レインボーだよな…え?
僕は、授業に行かず、古文書の収められている、禁断の魔術ギルドの館の本棚に向かった。ここには、一般の歴史で語られていること以外の書物があるのだ。僕は、レインボーヒルに関わる古文書を探した。しかし、いくら探しても見付からない。
「どうした、ジム。授業はどうしたんだ?」
ギルドマスターに声を掛けられた。ギルドマスターは、ギルドを運営している者のことだ。
「レインボーヒルの由来を探しているんです」
「無い。それは無いんだ、ジム」
ギルドマスターが即答した。ない?なんで?
「なんで、即答なんですか?マスターも全部の書物に目を通していないですよね?」
「あぁ、そうなんだが、昔、検閲に遭って、レインボーヒルの関連の書物だけ焼かれてしまったんだ」
ギルドマスターは、悔しそうな表情を見せた。
「なんで、焼いちゃったんですか?」
「都合の悪い事が書かれていたのだろう…ジム、この件からは、手を引け!消されるから…」
「誰に?」
「すまない…言えない」
一瞬、ギルドマスターの姿にマーリンの姿がダブって見えた。そ、そういうことなのか…
「僕の敵って…」
「これを持っていけ」
ギルドマスターが1枚の羊皮紙を手渡してきた。それを受け取り、手に取ってみると、魔法陣が描かれていた。
「1発だけしか撃てない。お守り代わりに持っていろ」
僕は頷いて、ソレをポケットにしまった。そして、ギルドを後にした。自分の部屋に戻り、知識の泉を開いた。
レインボーヒル…聖なる水が湧き出している湖の上に、常時虹が架かっていることから名付けられた丘。しかし、悪しき者により、丘の南側と北側にトンネルを掘られて、水脈を絶たれ、湖には水が湧き出なくなった。悪しき者の侵攻により、湖を護る三名の者は斬り捨てられて、湖に投げ込まれた。血糊が固まり切れ味の落ちた剣、二降りも投げ込まれて、水質は悪化して、朱黒い水となり果てた。その日を境に虹は出ることはなくなり、今日に至る。
レインボーヒルの迷宮…あれは迷宮ではなく、湖の水を処分する為の穴である。レインボーヒルの湖の中央部には剣が一降り刺さっており、悪しき者がその剣を抜くために、湖の水を地下へ逃がす為の水路のような物であり、そこにはなんの宝もない。巨大な迷宮のような形をしているのは、湖の膨大な水をすべて溜め込む為であり、奥に行く程に、酸素は薄くなっていく。
僕の知りたかったことが、書かれていた。あと、悪しき者って、誰だ?
悪しき者…その者、アルスルと言い、蛇の紋章を刻まれた剣を持つ。
蛇の紋章?あれ?どこかで見たな。どこだっけかな…何気なく、学校から支給された壁掛けのカレンダーを見ていると、それはあった。この学校のマーク、虹の両端から上へと昇っている1対の蛇…
思い出した…その瞬間、僕は時間を飛び越えた。あの時へと戻っていくようだ。
◇
僕達は湖の畔にいた。
「ランスロット、もう無理だ。ここで迎い撃とう」
「モルドレッド…そうだな。もう、逃げ通せないかもしれない」
「ヴィヴィアン、お前だけでも逃げろ」
「マーリン様、私も共に戦います」
「ヴィヴィアン、マーリンの言う通りだ、お前だけは逃げろ」
「どうしたんですか?」
僕は彼らに声を掛けた。
「君達は?」
「僕はブラーム、彼女達はブルーム、グリームです。ここで、毎日のどかな時間を過ごしているのです」
その時、「いたぞ~」という声が聞こえ、彼らは、四散して逃げていった。目の間には軍隊が迫ってきた。僕達は驚き、逃げることさえ出来ずにいると、先頭にいた戦士に突然斬り捨てられ、湖へと放り込まれた。
薄れゆく意識の中で、彼女達を抱いて、向こう岸へと泳いで渡ろうとしたんだ。だけど、途中で力が尽き、また彼女達と一緒に、同じ時間を過ごしたいと願って息絶えた…
そうだ、ランスロット達の身代わりに殺されたのかもしれない…
違う、そうじゃない。ヴィヴィアンだ。湖の精である彼女を僕達に託して、ランスロット達は、囮として逃げた。だけど、軍勢の狙いは、ヴィヴィアンであった。僕達はヴィヴィアンを護ろうとして…そして、最期の時に僕はヴィヴィアンに願いを託した。
『また、彼女達と同じ時間を過ごしたい』
と。しかし、当のヴィヴィアンも悪しき者の手により、命を奪われ、彼女に託した願いは呪いにされて、僕達を苦しめているのだ。
記憶が混濁している。これも呪いのせいなのかもしれない。
僕は、今いる時間に戻った。自分の部屋で、知識の泉を眺めていた。そうなると、彼女達の記憶が戻る前に、倒さないと。彼女達の記憶が戻れば、また時間をダイブしてしまう。三人の記憶が戻った瞬間から、猶予時間は1分くらいだ。アイツはどこにいるんだ?
たぶん、ギルドマスターはマーリン、サーゼクスはランスロット、リアスはモルドレッドなのだろう。ヴィヴィアンは誰だ?グリームとブルームは、本当にあの二人なのか?まだ、確信には至っていない部分はあるけど。
僕はこの時、失念をしていた。候補者がまだいたことを。