神の杖
神の杖と呼ばれる塔が、街の中心にあり、塔を取り囲むように、街が形成されていた。その塔は神が人類にもたらした試練という位置付けで、100フロア構造の迷宮であった。伝承では、100階の神の間に到達が出来た者には、名声、栄誉、祝福、そして望みが叶うと言われている。10フロアごとに魔物が出現しないセーフポイントという街があるらしく、世界中の勇者や猛者達が、パーティーを組み、塔に吸い込まれて行った。
100階に到達したという者の帰還は、未だに無いが、90階まで行った猛者達は、街に戻り引退をしていく。ここの迷宮は、二度と挑戦をしようと思えない過酷さらしい。
街には武器や防具、アイテムを扱う店の他、宿屋や食堂などが乱立していた。その中に『迷宮亭』という食堂がある。その店のオーナーであるロックは、元冒険者で90フロアを経験した者であるので、これから挑もうとしている冒険者達が立ち寄り、情報を集めたりしていた。
そんなお店の騒がしい店内で、
「おい、ジムじゃないか?」
急に呼ばれた僕。聞き覚えのある声だ。声の主の方を見て、応えた。
「リースか?久しぶりだな」
「お前がソロになって以来だな」
僕が昔いたパーティーのリーダーであるリースであった。
「お前も挑むのか?」
「いいや、僕は武器屋だよ。挑まない。ソロじゃ無理みたいだし」
リースのパーティーで、ちょっと問題を起こし、追放された。どうも、団体行動は苦手だ。
「戻って来いよ。お前なら歓迎だ」
「止めておく。同じ事を繰り返しそうだ」
僕は食事を終えて、ロックに勘定を払って店を出た。そんな僕を追いかけてきたリース。
「メンバーを増やしたいんだ。お前なら気心もしれているし、実力もさぁ」
「実力なんか無い。あの頃は運が良かっただけさ」
自分の店に戻ると、客が待っていた。
「ジム、飯か?この前、頼んだのはどうだ?」
馴染み客のメアリーが声を掛けて来た。
「研ぎ直してある」
店の奥から一降りの剣を持って来て、彼女に渡した。
「そうだ、リース。ここにいるメアリーとジェーンを入れたらどうだ?」
リースに常連客である魔導剣士のメアリーと賢者のジェーンを紹介した。
「メアリーは魔導剣士で、メアリーは仕込み杖を持つ賢者だ。二人共剣技も魔法も使える。どうかな?」
「ほぉ~、それはお前みたいだな。そこの二人、私のパーティーに入らないか?」
いきなりの申し出に戸惑う二人。
「もしかして…リースさんって、『バラのトゲ』のリーダーさんですか?」
ジェーンが尋ねた。
『バラのトゲ』とはリースのパーティー名だ。美しき者には…ってことだそうだ。
「そうだ。どうかな?一緒に挑まないか?」
「ジムとはどんな関係ですか?」
「昔、うちのパーティーにいたんだ」
「『バラのトゲ』って、女性だけのパーティーでは、ないんですか?」
「コイツは例外だ。元ランカーで、知り合いだったから…」
とあるギルドにて開催されたPVP大会で10位以内に入ったことがあった。
「ジム、ランカーだったのか?」
メアリーに訊かれた。
「遠い昔だ」
「気が向いたら、ジムも是非頼むよ」
って、リースが二人を連れて出て行った。
静かになった店内。僕は素材集めを兼ねて、廃墟迷宮へ探索に向かった。
---リース---
ジムに紹介された二人を、うちのパーティーが、宿泊している宿へと案内していく。
「ジムはなんで、出て行ったんですか?」
ジェーンがきいてきた。
「古株のサブリーダーと、折り合いが悪くてな。私がジムを信頼しすぎたことで、妬んだようだ」
「そのサブリーダーの方は?」
「ジムの出て行った翌日、死んだよ。ジムのやっていたポジションをまかせたら、出逢った最初の魔物によってね。その時だ。生き残ったパーティーメンバー全員が、ジムを追い出したことに、後悔したのは」
---ジム---
街の外れにある洞窟の奥に、廃墟迷宮の入り口はある。神の杖は、昇っていく迷宮だが、ここの迷宮は下るタイプである。探索をした感じだと、階層という概念の無い、なだらかな螺旋状のような構造で、街の中心部、神の杖の地下を目指しているような感じだった。
通路の両側の壁に注意を払い、隠し部屋が無いかを探索しながら、前進をしていく。床には、たまに金属片が落ちている。宝箱を構成する金具の類いだったり、武器や防具の破片だったりするのだが、それらを拾い集めていく。貴重な金属だったり、希少な金属だったりするので、僕のようなスミスにはお宝である。
バックバックに金属片が一杯になると、帰宅する。その時に、どこまで探索したかの目印を壁に付けていく。後日、そこからの探索にするのだ。
店の奥の鍛冶場で、今日のお宝の金属を種類ごとに分類して、それから、鍛冶の仕事をする。質の良い地金が手に入れば、元から作るが、そうでない場合は、既存の装備に希少金属をコーティングして、性能を上げる。
僕には、人に言えない秘密があったりする。冒険者となる前の記憶が全く無いのだ。僕はどこで生まれて、どこで育ったのだろうか?僕の中の一番古い記憶は、魔物と戦っている最中からなのだ。
最初から持っている装備は刀が二降り、剣が一降り、それに蒼いフルアーマーだった。どこで手に入れたのか、記憶が無い。僕は何者なのだろうか?
◇
数日後、迷宮亭で、リースのパーティーにメアリー、ジェーンが参加して、神の杖に入ったと聞いた。彼女達ならば、100階にいけるんじゃないかな?
彼女達がいる神の杖に一瞥して、僕は廃墟迷宮へと向かう。今日は、どんなお宝に、巡り有るのかな?
目印を付けた地点から、探索を再開する。しばらく進むと、壁の状態が変わっていた。風化をせずに、原型をある程度、留めているようだ。文字やら絵などが彫られている。所々、破損した箇所があるので、正確には読めないけど。
文字はどこかで見た覚えのある文字だった。どこで見たのだろうか?思い出せないが、意味が少し分かる。なんでだ?この迷宮は、何かが最深部に封印されているみたいだ。封印?少し違和感がある。封印するには、この通路は封印した物が逃げ出した場合の対処がなされていないようだから。あまりにも無防備な通路である。そもそも入り口に結界などもなかったし、魔法陣の類いもなかった。まさか、大きな石を置いて塞いだだけってことはないよな?
金属片を見かけないまま、だいぶ奥まで進んだ気がする。床材が貼られているところに着いた。どうも、入り口から貼られていたようで、今までの箇所は風化して無くなっていたのかもしれない。貼られている部分と貼られていない部分の境界は、風化途中であったから。
僕は、何かに誘われるように、更に奥へと歩を進めていく。
---リース---
大した被害も無く、10階層にあるセーフポイントに着いた。9階から10階へと向かう連絡通路を出ると、街が広がっていた。武器屋、防具屋、アイテム屋、宿屋、飯屋と、地上の街と変わらない街が広がっていた。お店の人に聞くと、ここの店主は皆、元冒険者だったそうだ。私達は、ここまでで手に入ったアイテムを売り、より強い武器や防具に替えていく。情報を集めると、地上で聞いた通り、10階層ごとに、こういう街があるらしい。
情報を仕入れて分かったのは、90階層までは、強靱なパーティーであれば、辿り付けるが、91階層から上は、別次元だそうだ。そして、91階へ足を踏み入れると、90階へは降りられないそうで、誰も降りてきた者はいないそうだった。もしかすると、100階層目に辿り付けないでやられた可能性もある。
パーティーメンバーの命を預かるリーダーとして、90階層目で大きな決断をしないとダメかもしれない。ジムが一緒なら、迷わず進むだろうな、って思ったのは、みんなには話さないでいよう。未練って思われてしまいそうだ。