アタッシュケースに組み込まれた赤いボタンを見つめている男。彼に近寄り、耳元で囁く異形なる者。
「ARの世界だし、リアルの世界のシミュレーションは有りだと思うぞ」
「う~ん…」
彼はここがリアル世界なのかAR世界なのかが、判断出来ないでいた。それ故、ボタンを押すことに躊躇していた。
「押せば、正解がわかると思うけど」
異形なる者の囁きが続く。
「そうだな。こういうのは先に撃った者、勝ちだよな」
自分に言い聞かせるように彼は言った。
「それでいいんですよ」
彼の指が赤いボタンを押した。
◇
世界各国の主要都市に向けて、水爆を積んだICBMが1000程、大空へと羽ばたいた。混乱する各国。迎撃ミサイル、反撃のICBMなどで、大空は埋め尽くされていく。
なんの前兆も無く起きた世界規模の核戦争。ある国では寝静まった都市に落ち、ある国では撃ち漏らした物が都市に落ち、ある国では、核弾頭だけ落ちてきたらしい。
異形なる物は、核を持たない国へ転移した。そして、巨大な魔法陣を大都市の上に発現させ、姿無きICBMを演出する為に、殲滅魔法を発動した。大都市を囲む中央環状線の内側だけ、粉砕されていく。崩れ落ち高層ビルやタワーマンションなどの高層建築。
中央環状線の外側に火を放っていく異形なる物。姿無き爆撃機から焼夷弾を落としたように演出していく。瞬く間に燃え広がる木造建築の建物群…
そして、中央環状線を小高い丘に一変させ、都心部を都心部外から隔離させた。
「さてと、我が城を呼び出すか」
異形なる物の呪文により、天空から杖状の物が落ちてきて、この国の城のあった場所に、突きささった。そこはパワースポットであり、杖状の物が何かを発動していく。
入城した異形なる物は、衛星軌道にある人工衛星を、まだ残っている大都市へと次々と落下させていく。飛来したICBMに対抗する為に、対空ミサイルの類いを総て撃ち終えた後の出来事である。人工衛星は燃え尽きる事無く、大都市へと落下をし、次々と大都市を壊滅させていった。
「これで、私に刃向かう勢力はないだろうな。ふふふ」
こうして、この星は、他の星から舞い降りた異形なる物1体により、征服され、異形なる物は自らを神と名乗り、生き残った者達からの信仰を集め、貢ぎ物を要求していく。
拒否した集落の男達は奴隷として重労働を課し、女達は人口増産計画の担い手として、人間牧場で子供を作り続けることになる。
応じた集落では、神の目に適った女性は貢ぎ物にされ、城への献上品となり、二度と城から出ることは無い。
◇
この星の危機を知った本来の神は、この星の天界で、昇華してきた魂を保護していた。それと共に、ある騎士団に応援を要請した。
だが、応援に来た騎士団員達は、異形なる物の術により、記憶を封印されて、時の狭間に投げ捨てられた。