孤独なる人生
そして99フロアのボスを倒し、100フロアに踏み込もうとした時、脳裏に声が響いた。
『よくここまで来られたな。お前に褒美をやる。今度こそ、孤独な人生を味わえ!』
と…僕の目の前は真っ暗になり、何の音も聞こえなくなり…
◇
そして、僕は目を覚ました。屋根裏にある僕の部屋の寝床でだ。僕の名前は神崎小太郎。中学1年生で、神崎家の長男だ。一男二女の5人家族であるが、血縁関係が少し複雑である。
僕の実の母親は病死をして、僕が物心ついた頃…小学校にあがった頃、父親が再婚した。相手の女性には、連れ子がいた。僕より1つ上の姉の莉愛、僕より1つ下の妹の亜衣だ。家族になった頃、僕達3人は仲の良い姉弟であったのだが、僕が小学校4年生の頃だったか、僕は家族と言える者を失った。
小学校4年にもなると、異性を異性として見てしまう。それは姉、妹に対しても。その頃
「兄ちゃん、姉と妹をいやらしく見過ぎ」と、妹に言われていた。そのつもりはないんだけど、そういう風に見えたのだろう。
そんな時、事件が起きた。ベランダで干してあった姉の下着が無くなったのだ。日頃の疑惑から、僕は妹に疑われた。必死に否定するも、必死すぎるのが怪しいと…
そして、妹から、僕の心を抉る言葉が放たれた。
「居候のくせに…クソ野郎!」
っと…
そう、僕は家族として、姉妹に受け入れられていなかったことに、その時気づいた。その日から、姉と妹と隣あった部屋だった僕は、屋根裏にある部屋に住む事にした。居候が、ちゃんとした部屋に住むのは、良くないと思ったから。部屋への出入りは、倉庫にあった縄ばしごで昇降することにした。家の中で、この家の本当の子供である姉妹に会うのが怖いから。
後に、庭で無くなった姉の下着が見付かったようだった。風で飛ばされたのが原因と判明したそうだが…家族の誰からも、戻って来いとは言われなかった。
屋根裏に住み着いて1ヶ月、父親と話し合った。再婚相手の連れ子と揉め事はしたくないようで、生活費を渡すから、ここで当面暮らしてくれと言う。連れ子達が許せば、元の部屋に戻すと言う。
僕は…このままでいいと思った。孤独な人生…それも有りかなっと。
◇
小学6年生の時に、毎月節約して貯めた貯金で、PCとゲームを購入した。バーチャルオンラインゲーム『アルフガン』だ。優秀な物理学者の発明した、電子信号で様々な感覚を味わえるヘルメットを被り、プレイするゲームだ。内容はアルフガンと呼ばれる大陸を冒険するRPGになる。無課金でもプレイできるのは、小学生の僕にとって有り難いことだ。
課金すると高機能なアイテムが買えるらしいけど、木工、鍛冶などのスキルを鍛えれば、無課金でも課金者並にプレイが出来るらしい。但し、スキルを鍛えるに、膨大な時間がかかるらしいけど。
現実世界で孤独な僕は、このゲームにのめり込んでいった。このゲームの特徴の1つなのだが、経験値を溜めることでレベルが上がる。これは普通であるが、それと並行して、ランクというものがある。ゲームの開始直後、レベル1ランク0で始まる。ランクが上がることで、レベルアップした際のパラメータの上がり具合が違うらしい。ランク0だとボーナス0だが、ランク1になると上昇するパラメータに+1(ランク値)がボーナスとして付加されるようだった。
あと基本パラメータはHP(体力)、MP(魔力)、STR(攻撃力)、DEF(防御力)、AGI(敏捷性)の5つで、それぞれのパラメータにも経験値があり、レベルアップするまでに稼いだ経験値が決められた値より多ければ、ボーナスポイントがつくそうだ。
さらに、ジョブやスキル、武器、防具にいたるまで、それぞれに経験値があり、レベルアップするまでの間に稼いだ経験値により、性能パラメータの上昇値が変化するそうだ。
やりこみがいのあるRPGだ。何よりも良いのは、最終目的は特に無く、ゲームフィニッシュということが無いらしい。延々と、気力が続くまで、遊び倒せるようだ。
死亡した場合、プレイヤー自身の身体に激痛がフィードバックされ、セーブポイントに戻される。その際、経験値は残るが、セーブポイントから死ぬまでに手に入れたアイテムはロストする。ちなみに、死ぬとHPの経験値が増える。もう、だいぶ死んだので、僕のキャラクターはHPが高い。フィードバックした激痛は…歯医者さんで歯を削られる時のような痛みである。ガマン出来ない痛みでは無いのだ。
そうそう、他のRPGとの大きな違いは、この世界のモンスターは、倒しても、お金は落とさない。そのモンスター所縁のドロップ品を落とすだけである。それらのドロップ品を拾い集めて、街で売る事でお金を得られる。
キャラクター名は『フーマ』にした。小太郎と言えば風魔かなって。で、アバターはデフォルトのまま。考える気力が無かったのと、早くプレイがしたかったから…
◇
半年くらい遊んだ頃、剣士のレベルが100を超えた。最大レベルは100なのに。システムメニューから不具合報告をすると、報告のお礼として1点物の剣、『雷の剣』(雷属性の斬撃が放てる)が送られてきた。運営によると、発生した不具合事案の最初の一人だけに、1点物のアイテムが贈呈される仕組みらしい。
この頃になると、総合レベルも300位になっていた。しかし、ランクは0のまま。ランクアップの条件はパーティーを組んで、始まりの街にある地下迷宮を、レベル50以上でクリアすることらしい。
しかし、孤独に慣れていた僕は、パーティーを組むことも、入ることも煩わしく思えて、ソロでプレイしていた。その為、ランクが上がらず、次の街に行くことも出来ない。ランクアップが次の街へ行ける条件なのだった。
1年くらい遊んだ頃、魔法使い、盗賊のレベルが100を超え、それぞれ運営に報告して、お礼、『魔法の鎧』(魔法攻撃のダメージの半減化)、『韋駄天の靴』(空中歩行ができる)をもらった。ここの運営は不具合発見をプレゼント獲得条件にしているのか?
総合レベルは500を超えた。しかし、ランク0故、ステータスは低いと思う。この頃になると、NPCと友達になっていた。
『なぁ、フーマ。パーティーを組んで、次の街に行けるようにしたら?』
宿屋のオヤジであるマーテルというNPCに毎日のように言われる。このゲームのNPCはAI制御で有るらしく、それぞれが状況によって、動きや話す内容が違うらしい。
『話しかけるのが怖いんだよ』
『うん?俺達NPCには気軽に声を掛けるのに?』
『アバターの上にHPゲージが見えると…ダメなんだ…』
『人間嫌いすぎるだろ?』
人間嫌いというより怖いんだ。妹に言われたことがトラウマかな。
◇
中学生になり、元姉と同じ学校に通うようになった。学校で友達を作り、ゲームの話で盛り上がったり、情報を得たりしている。
「なぁ、小太郎は、今どこ辺りだ?」
「始まりの街だよ。ランク0だし…」
「パーティー組めば、直ぐにクリアできるだろ?」
「知らない人に、声を掛けられない…」
「小太郎、お前、ビビリー過ぎだろ」
などと言われたり。
「レベルは?」
「ランク0だとレベルは関係無いよ」
「あぁ、そうだな」
こんな僕に、パーティーを組もうよって、言ってくれる友達はいなかった。メリット無いもんなぁ…みんなランク3~5辺りみたいだし。
---莉愛---
「神崎、弟さんが無断欠席だけど、どうしたんだ?」
1学年のクラスを受け持つ先生に、学校の廊下で声を掛けられた。
「弟?私にはいませんけど…」
「えぇ?神崎小太郎って、弟じゃないのか?」
小太郎…そんな名前の家族が、いた気がするけど…
「住所も同じで、両親の名前が同じなんだが…わかった。お前の両親に訊いてみる」
先生はその場から去って行った。部活をして家に帰ると、父さんと母さんが怒っていた。
「弟がいないって、先生に言ったそうだな?」
「だって、この家にいないでしょ?」
「お前達は…」
父さんは哀しそうな顔をしていた。
「ごめんなさい…あなた…」
母さんが父さんに謝っていた。
「いつかは、認めてくれると思っていたのに…残念だよ、莉愛」
父さんが、私を哀しそうな目で見た。
「どういうことですか?」
「もう、いい。わからないなら。もう、いいんだ」
父さんは、どこかに出掛けた。
「どういう意味?母さん」
母さんに事情を尋ねた。
「本当に覚えていないの?小太郎の事を…」
母さんも哀しそうな顔をした。小太郎…聞いたことのある名前…誰だっけかな?
---小太郎---
うかつにも風邪をひき、学校に行きそびれてしまった。薬を飲んで寝ていたら、父さんが来た。
「すまない…気遣ってやれずに…」
「なんのこと?父さんが、たまに来てくれるだけでいいよ、僕は」
「娘達と一緒に暮らせないか?」
「受け入れてくれないんだもの、無理だよ、父さん。父さんが、幸せならば、それでいいよ」
僕には家族はいない…そう思っているし。
「お前なぁ…」
「もう4年だよ。この環境に慣れちゃったよ。だから、気にしないで、父さん」
---莉愛---
小さい頃のアルバムを引っ張り出し、小さい頃の写真を見る。小学校の低学年の頃の家族写真に、男の子が一緒に写っていた。その男の子と二人で写っている写真もある。写真の横には、『弟の小太郎と』と記されていた。
小太郎…あっ!…記憶の奥底から、記憶を引き摺り出した。あの時の下着泥棒…実際は違っていたけど。あの1件で、この家から出て行ったはずの男の子だ。でも、住所がこの家って?この家にまだ住んでいるの?
私は彼に謝らないといけない。あらぬ疑いを掛けてしまった。実際は風で飛ばされただけだったのに…
この家のどこに住んでいるのだろうか?母さんに、訊いてみると、
「屋根裏部屋よ」
この家にそんな部屋あったの?
「どこから入るの?」
「外から…勝手口の先に縄ばしごがあるの。そこから出入りするのよ」
「なんで、そんな場所にいるの?」
「覚えていないの?莉愛と亜衣が…」
母さんはその場に泣き崩れてしまった。私と妹が何かしたの?思い出せない。記憶にモヤがかかっているみたいだ。
「お前達二人が、屋根裏部屋に入るドアを、閉じたんだ」
背後から、父さんの声がした。
「二階建ての家なのに、三階に上れるような階段あるだろ?階段をあがると、お札の貼ってある壁しかない」
あぁ、我が家の不思議、昇れずの階段。
「お前達が、モルタルで塗り固めたんだ。そして、お札まで貼って、俺の息子をあの部屋に封じ込めたんだ」
記憶に無い…いや、思い出そうとすると頭が痛い上、モヤがかかる感じがする。
「そこまで毛嫌いしていたのかって痛感したよ。でも、小太郎を預ける場所がなかった。両親もいて、持ち家があり、収入もそこそこあるんだ。施設に預けるなんてことも、出来なかった。アイツの心は、あれ以来、閉じてたままだよ。なんでお前達は、そこまで小太郎を毛嫌いしているんだ?」
毛嫌い?していない。いないもんだと思っていたから。
「離婚も考えているよ」
離婚?何で?
「母さんと父さんは仲が良いのに?なんで離婚?いないはずの者が、いなくなればいいじゃん」
妹の亜衣がそう叫ぶと、私達には手を上げたことが無かった父さんが、初めて亜衣に平手打ちをした。
「なんで…父さん…亜衣は間違っていないよ。家族の団らんに、いたことがないんだもの。いないのも同然でしょ?」
「なんで、こんな娘になったのよ」
母さんは泣いていた。父さんは、母さんを優しく抱きしめる。
「あんなに仲の良い姉弟だったのに…なんで、こんな風に育ったの?育て方が悪かったのかな…小太郎…ごめんなさいねぇ…」
母さんは床に蹲るようにして、床を何度も叩いていた。
---小太郎---
翌日も風邪の高熱が引かずに、朝一で様子を見に来てくれた父さんが、学校に欠席する旨を連絡してくれた。
「小太郎、離婚しようかって考えている」
「父さんは母さんと別れないでいいよ。義務教育が終わったら、僕が出て行くから」
寂しそうな顔の父さん。
「すまない。こんなはずでなかった…家族5人で幸せな家庭をって、思い描いていたのに…」
父さんは寂しそうな顔のまま、会社へと出掛けた。
◇
部屋に夕日が差し込む頃、暖かい温もりを感じて、目が覚めた。僕の傍らには、僕の手を握る、知らない女の子がいた。
「ごめんね…ごめんね…」
僕に繰り返し謝る女の子。見た事のない女の子だ。
「あの…どなたですか?」
恐る恐る訊いてみる僕。
「本当にごめんなさい…神崎莉愛です。戸籍上のあなたの姉…」
あぁ、姉になるはずだった少女か…
「謝らないでください。僕は単なる居候で、あなたの弟では、無いですから」
「今の今まで、忘れていて、ごめんなさい…」
彼女は僕に謝り続けた。嫌われているよりも、ショックだった。忘れられていたのか…
「思い出したのよ。小さい頃、仲の良かった頃のことをね」
「僕は、姉と妹をいやらしい目で見たクソ野郎です。弟でも無いし、他人ですから、仲なんか良くないです」
「ごめんなさい…私に心を開いて…ねぇ、小太郎…」
姉と名乗る女性は、僕に謝り続けた。僕にとっては、もうどうでも良いことを。
「もう4年もこういう生活をしているんですよ。これ以上、僕にどうしろって、言うんですか?」
どうして欲しいのかが、分からない僕は、彼女に質問をした。
「弟に戻って…」
「今更、無理です。僕には父さんしか、家族はいないと思っています。そして、父さんは、あなた達のいる家庭に、単身赴任していると思っています。だから、僕に姉は必要は無いんです」
「そんな…」
目を見開いて僕を見る、姉と名乗る少女。徐に立ち上がり、窓から縄ばしごで降りていった。
---莉愛---
その夜、私は父さんと母さんに謝った。彼をあんなにも卑屈にしてしまった責任を感じたから。
「謝ってもダメだ。何も解決しない。そうか、俺はこの家庭に、単身赴任しているのか」
天井を見つめる父さん。とても哀しそうな顔である。
「小太郎は中学を卒業したら、この家を出るようだ。俺はどうすれば良いんだ」
目頭を押さえ、考え込む父さん。
「どこかの施設に預けます?」
母さんが、声を掛けた。
「いや、好きなようにさせたい。出来れば、中学を卒業するまでに、アイツの心を開いてあげたいなぁ」
父さんは、母さんではなく、私に言った。
「頼めるかな?莉愛…」
---小太郎---
熱が引いたので、ゲームにインをする。病み上がりなので、身体の感覚が鈍い。一人で、地下迷宮を攻略する。本来、4人パーティーで挑むらしい場所なのだが、プレゼントで貰った装備のおかげで、ソロでもクリアが出来る。そして、4人分の経験値をごっそり貰え、レベルがどんどん上がっていく。
そして、ついに総合レベル1000を超えた。超えた瞬間、ランクが1になり、レベルが1に戻った。不具合かな?運営に連絡をすると仕様らしい。総合レベルの上限は1000で、それを超えるとランクが1つ上がり、レベルが1に戻るらしい。その際に、プレゼントが貰えるそうだ。今回のプレゼントは二つ名『鬼畜』(攻撃力、防御力が2倍になる)だった。攻撃力は基本ステータスのSTRと武器のSTRの合計値になる。防御力も基本ステータスと防具の合計値になる。この時点で、僕の攻撃値と防御値は凄い事になっていた。1点物の装備のステータスが3000位あるのにその倍になる訳だから…ランク1レベル1で、攻撃力9000、防御力10000超えだ。ただ、それが普通にパーティーを組んで、先に進んでいるプレイヤー達と比べて、どうなのかは僕には分からない。まして、課金組はもっと凄いかもしれないし。
そして、僕は2番目の街に行けるようになり、ツヴァイという街に来た。次の街に行く条件、ランク2なのだが、レベル50以上で塔の攻略のようだ。街の中心に塔が建っている。NPCに訊くと50フロアあるそうだ。これは、楽しめそうかな。
翌日、塔を攻略しようと、塔の前にくると、長い紅髪の魔法使いらしき女性キャラが立っていた。
「ねぇ、君も塔の攻略するの?」
僕に声を掛けて来た女性。HP表示が見えるので、プレイヤーだ。
「そのつもりですけど…」
「ねぇ、パーティーを組まない?私はリアス。某アニメのヒロインをまねて作ったキャラなんだ。君のキャラ名は何かな?」
「僕はフーマ。アバターは考えるのが面倒なので、デフォルトのままです」
モニタ画面に、パーティーに加入するかの選択画面が表示された。僕は『YES』を押した。この女性、リアスは話していても苦では無かったから。
「フーマ、よろしくね。私は魔法使いと僧侶のジョブをマスターして、今、賢者のジョブを習得中なの。だから、攻撃魔法と回復魔法の中級程度なら使えるわ」
「僕は、今侍のジョブを習得中です。魔法も剣を使えます」
使える戦闘手段を開示しあった。そして、塔の中を探検していく。出てくるモンスターの強さ的に、ソロでも行けそうだけど、リアスと共闘していく。たまにはパーティープレイも悪くないな。
半分の25フロアでセーブして、街に戻った。寝る時間が迫ってきたので…明日は学校に行かないと…
「明日も、同じ時間で待ち合わせで良い?」
リアスに確認され、頷く僕。
「じゃあ、また明日ね♪」
そう言って、宿屋の彼女の部屋に消えていくリアス。僕も自分の部屋に入り、ログアウトした。ログアウトする場所は特に決まっていないが、戦闘中にログアウトすると死亡扱いになる。宿の部屋でログアウトすると、HP、MPが満タンに戻る。宿屋以外だと、HPだけが満タンになるのだ。
リアスのおかげで、孤独なソロプレイで味わえないことが出来た。話しながらの戦闘、支援して貰いながらの戦闘、移動中のおしゃべり、休憩中の肩のもみ合いなど…
そして、久しぶりに気持ち良く寝入ることが出来た。これも、リアスのおかげだな。