---杏---
私は中学校の教師、日比谷杏。私が担任をしているクラスの問題児について、放課後の会議室にて、学年主任と話し合っている。
「こんな生徒、長い教師人生で初めてだよ」
「確かに特別なケースみたいですね」
昨年度に教師となり、この中学に赴任して、今年初めてクラス担任に成れた私は、今回のケースについて様々な先生達の意見を聞いたのだが、聞いたことないケースだと、口を揃えて言われた。
「家庭は裕福で、親との仲は悪くないみたいだ。ただ…」
血の繋がりのない姉妹との間に、トラブルが起き、家族から閉め出されたそうだ。
「日比谷先生、家庭訪問をして、もう少し実情を見て来てくれないか?どのように指導して良いのか、見当もつかない」
大ベテランの学年主任の先生ですら、頭を抱えていた。
「えぇ、これから、行ってみます。母親の方は専業主婦のようで、家にいるそうですから」
私は席から立ち上がり、直帰の準備をして、問題の生徒の家に向かった。
住所を調べながら行くと、塀に囲まれた大きな邸宅に辿り着いた、表札には『神崎』とある。この家のようだ。インターフォンを押して、家の中へと招き入れてもらった。
リビングルームへと通され、彼の母親と対面した。
「小太郎のことですよね…あの子にはつらい思いを、させっぱなしです」
目元から零れ出る涙をハンカチで拭いながら、母親は話し出した。
「小太郎君のお部屋はどこですか?三者面談にしたいのですけど」
母親は俯いてしまった。
「4年くらい、あの子と会っていません。今更、どのような顔をして、小太郎と会えば良いのですか?」
と、尋ねられた。へぇ?なんで?4年も…会っていない…って…親子だよね?
「彼は一人暮らしなんですか?」
「えぇ…あの子の父親…私の亭主が、たまに顔を見に行っています。でも、私と私の娘達は会っていないんです」
なんか、呆れるというか、驚くような話である。同じ家に住んでいるのに、会っていない?彼が引きこもりであれば、あり得るが、彼は引きこもりで無く、学校へ通っていた。
「住所は、この家ですが、同居では無いんですか?」
「この家に住んでいますが、出入り口が違うんです」
うん?どういう意味?出入り口が違う?
「離れに住んでいるのですか?」
「離れなんか無いです。あの子が住んでいるのは…屋根裏です。裏から縄ばしごで、出入りしています」
絶句…はぁ?何それ…階段すら無いのか…これって、虐待って言わないか?
「ですので、小太郎は4年くらい、見ていません」
「食事とか、お風呂とか、トイレは?」
寝泊まりだけじゃ生きていけない。
「トイレは、屋根裏部屋の入り口にあります。お風呂は、自作したらしいです。食事は…生活費を渡しているので、それでヤリクリしているはずです」
『らしい』とか『はず』とか…有り得ない…血の繋がりが無いとは言え、自分の子供だろうに…
「小太郎くんの部屋へ、行きたいんですけど…」
「ダメです。許可無く行かれては困ります。亭主に許可を取ってもらうので、お待ちください」
母親はスマホを取りだして、どこかに連絡した。なんだ?この家族関係は?完全に隔離管理されているような…
「小太郎の許可が出たそうです。でも、スカートだと…」
え?スカートだと昇れないようなはしごなんですか?
「ちょっと、待ってください…」
母親は、奥に行き、誰かと話して、戻って来た。
「娘の短パンです。これに履き替えた方が良いです。小太郎の部屋には、娘の莉愛が案内します。あの学校での1件以来、小太郎詣でをしているようですので…」
なんか、よくわからないことを言う母親。彼女に促されて、お風呂場で、短パンに履き替えた。
「日比谷先生、ご案内します」
彼の姉である2年の神崎莉愛さんが、声を掛けてきた。彼女と共に、庭を半周して家の裏側に行くと、確かに縄ばしごが掛かっていた。
「ここを昇ります」
そう言うと、見本を見せるように縄ばしごを昇っていった。上に着いた彼女から、合図があり、私も昇っていく。ついた先は窓で、そこをよじ登って、入室を果たした。
「先生…」
小太郎君は椅子に腰掛けていた。
「どうして…こんな目に?」
彼に訊いてみたが、
「僕が悪いんです…姉と妹を異性として見てしまったから…」
「小太郎は悪くない。ねぇ、そう考えて…何度でも謝るから…」
「姉ちゃんは悪くないです。泥棒と思われた、僕の行動に問題があったのでしょ。それに、もうどうでもいいことです」
姉と弟の会話は、妥協点が見いだせないようだ。どちらも悪いのは自分って…
「小太郎君は毎日、どう暮らして居るの?」
姉弟の並行線の会話に割り込んでみた。
「え?どうって…勉強して、ゲームして、寝る生活ですが…」
「ゲーム?」
「ネットゲームの『アルフガン』っていうゲームをプレイしています。そのゲームを通して、初めて友達が出来たというか」
感情を顔に出すことがない彼が、少しはにかんだ。姉は、それを微笑ましく見つめていた。
「まぁ、ゲームとは言え、友達を作るのは悪くはないけど。で、食事はどうしているの?」
「最近は、莉愛姉ちゃんが、食事を持って来てくれます。それ以前は、話したくないです」
話せないような食生活だったのか?姉の顔はとても哀しそうに歪んでいた。
「で、家族全員で住もうとは、思わないの?」
「思わないです。今は莉愛姉ちゃんと父さんと逢えるだけで、充分ですから」
即答で否定か…どう、指導すれば良いのだろうか?
「先生、僕のことが面倒なら、無視してくれて構いません。ただ、卒業するまでは通いますので、ご了承ください」
いや…無視は出来ないって…
「相談に乗るから、悩んだら、話してね」
「相談することは何もないです。出来るなら、無視してください」
本末転倒な返答だよ。彼は人生観も性格も歪んでしまったのか?4年も隔離されて…
「特に虐めにあっている訳でも無いし、嫌がらせにも遭っていないし、快適に通えていますから、先生は気にしなくても大丈夫ですよ」
相当、心が病んでいるんじゃないのか?この子は…
「先生、小太郎は私が支えます。ですから、小太郎には関わらないでください」
姉からも拒否された私。
「最近、少しずつですが、私に心を開いてくれているんです。お願いですから、ジャマをしないでください!」
柔らかな言い方で有りつつ、なにやら怒気が含まれている言葉。この姉は弟をどうしたのであろうか?
「そろそろ、お帰りください。夕食の準備をしないといけないので」
っと、姉に部屋から排除される私。渋々、部屋から退散。これ以上何も聞けない気もしたし。
---小太郎---
夕方に担任の先生の家庭訪問を受けたけど、お姉ちゃんがあしらってくれて、平穏な生活に戻る。夕食の時間、お姉ちゃんがお弁当を持ってきてくれた。二人でそれを食す。会話は途切れ途切れではあるが、少しずつ話せるようにはなってきた。
「たまには、昔のように一緒にお風呂でも入る?」
いきなり、お姉ちゃんが思い出したように言い出した。確かに幼い頃は三人で仲良くお風呂に入っていたけど…今は無理かな。
「無理…お姉ちゃんを、変な目で見てしまう自信がある。また、嫌われたら…怖い…」
率直な考えを伝えた。
「あの時、小太郎が下着を盗んだことが許せなかった。なんで、頂戴って、直接言ってくれなかったのって…小太郎が欲しいなら何でもあげるよ。なんか、そういう事を言い出せない小太郎とね、距離を感じてしまって…」
姉の考えていたこと…僕の範疇を超えていた。え?お姉ちゃんの下着を頂戴って言ったら、くれたって?いや、下着なんか欲しくはないけど。
「何で?」
「だって、私の弟だし…私の匂いを好きって言ってくれたのは、小太郎だけだったし。私は小太郎が大好きだったし…あんなことが無ければ…」
「でも、忘れていたんだよね?」
「そう…いつの頃か、小太郎の存在を忘れてしまった。ごめんなさい…」
僕に再び謝る姉ちゃん。
「もう謝らないで…過去は変わらないから、これからが大事なのかな?」
「少しずつで良いから、家庭復帰していこう。私が支えるから…問題は亜衣だな…アイツの暴言をどうにかしないと…」
そう、妹の亜衣の言葉が原因だった…あんな汚い言葉を使う女の子で、無かったはずなのに…
◇
そして部屋に一人になり、ゲームにインをする。だいたい、22時から0時までがゲームタイムである。20時から22時くらいが勉強タイムに割り振っているけど、夕食とお風呂とかで、時間はずれ込むことが多いので、勉強タイムでズレを吸収させていた。
リアスがまだ来ないので、先に塔内を探索始めた。49フロアで、怪しげな扉を発見。これを開ければ、クリアになるのかな?そんなことを考えて居ると、リアスからメッセージが届いた。
『25フロアに着いたけど、どこにいるのかな?』
と、僕は返信をした。
『迎えに行きます』
っと。
25フロアでリアスと合流をして、再度塔内を探索して経験値を稼いでいく。
「ねぇ、リアスってランクはどの位なの?」
「ランク3なんだけど、部隊メンバーが助けまくってくれてね。あまり自分で手に入れたって感じがしないから、この辺りをウロウロしていたの。でも、一人だと心細くて、フーマに出逢えて良かったよ♪」
そして、49フロアの怪しげな扉を開くと、手の平認証システムがぽつりと置いてあった。
「これに手の平を置くと、ID番号を読み取ってくれて、ランクを上げてくれるんだよ」
言われるままに手の平を置くと、『レベル不足』と表示された。
「う~、レベルが足りないみたい…」
凹む僕。
「あぁ、その場合、レベルが50になると、ランクが自動であがるんだよ。部屋の隅にドアと転移陣があるでしょ?あの転移陣は塔の外に出ることができるの。で、レベルの足りない人は奥のドアから、50フロアの敵で、経験値を稼げるようになっているんだよ」
っと、リアスが教えてくれた。では、奥の部屋にゴーだな。二人で、奥の部屋に入ると…鎧を着たドラゴンが待ち構えていた。
「違う…私の時と違う…」
リアスがクリアした時とモンスターが異なったようだ。僕もリアスも敵のHPゲージを見て驚いた。この辺りにいるモンスターの10倍近いHPがあるようだ。
「フーマ、時間を稼いで、知り合いにモンスターの情報を訊くから」
リアスから、指示が出た。僕はモンスターと対峙をして、リアスに攻撃が向かないように戦った。一応、運営に『いきなり強敵が出たんですが』っと不具合報告をした。
---リアス---
知り合いというか、後輩で攻略組のギルド『トリックスター』の団長の朽木に連絡をした。
『朽木、ちょっと教えて!』
しばらくすると、朽木から返答があった。
『先輩、ゲームキャラ名のロキと呼んでくださいよ。いきなり本名呼びって有りえないっす』
と、ちょっと不機嫌。そんなことより、
『ツヴァイの塔の50フロアで、鎧を着たドラゴンが出たんだけど、情報無い?』
しばし無言の朽木。
『先輩…それ、バグです。ソイツ、たぶん『スケイルドラゴン』です。俺達が攻略している最中のやつかと…』
『はぁ?なんで、ランク7の敵がツヴァイに?』
バグって言うか…死亡フラグが立ったってことか?
『どんな部隊で挑んでいるんですか?』
『二人だけのパーティーだよ…ランク3の賢者とランク1の侍だよ~』
『あぁ、死亡フラグが立ちましたね。ご愁傷様です…チ~ン!ですよ』
『死なない為にはどうすれば良いの?』
『へ?先輩、攻略中なんですよ。わかったら、攻略が出来ると思いませんか?』
私は会話を切った。これ以上はコイツから情報が得られそうもない。
「フーマ、ランク7のボスらしい。脱出しないと…」
フーマに声を掛けた。
---フーマ---
「フーマ、ランク7のボスらしい。脱出しないと…」
情報収集してくれたリアスから、死亡フラグ情報がもたらされた。しかし、攻撃は通っている。時間を掛ければ倒せそうだ。運営に問い合わせすると、時間制限は無しで、最低一人は残らないといけないが、それ以外の者は転移での脱出が可能であると、返答があった。本来はそういう情報を教えてくれないが、今回はバグでの強敵出現なので、情報の出せる範囲を緩めで開示してくれていた。
「リアス、転移させる。死の痛みはお姉ちゃんに与えたくない」
僕はリアスに強制転移術をかけて、塔の外へと弾き出した。
すると、リアスからメッセージが届く。
『なんで?一人で無理だよ~』
悲痛そうな声が聞こえる。こんな僕でも心配してくれるのかと思うと、不思議と勇気が出て来た。僕の性格がひねているからかな?
『6時間後に様子を見に来て…リアスお姉ちゃん…』
僕は戦闘に集中するため、メッセージを切った。
◇
敵の攻撃は、チートな装備で死なない程度のダメージとなっているが、攻撃が通ると言ってもダメージ量が膨大なHPに対して、微々たる物に感じる。
ドラゴン故、ブレス攻撃をしてくるが、『ミストウォール(霧の壁)』で帳消しにしていく。2時間くらい経過した頃、いきなりジョブチェンジの強制イベントが始まった。戦闘中で考える時間がない僕は、『忍者』を選択した。STRが減少してAGIが増大した。ここでアイテムゲットのメッセージが。なんで?戦闘中にアイテムがゲットが出来るんだ?メッセージには『侍のレベルが101に達したので,雷の刀を進呈』と表示された。戦いながら、メッセージウィンドウと情報ウィンドウを見るのがつらいんですけど…
更にスキルゲットのメッセージが届いた。今度は何?戦闘で役立つ物が欲しいんだけど…『AGIが規定値を超えましたので、二刀流を授けます』って。貰ったものはすぐに使ってみる。二降りを交差させることで、相手の打撃は封じ込めた。が、至近距離からのブレスは、避けられなくなる。
ふと、頭にひらめく物が…『ミストウォール』で、床は水分を含んでいる。ところどころ、水たまりも有るし。電気通すとどうなるんだろう?鎧って足の裏もカバーしているのかな?などと…『天空走り(空中を走る)』を使い、空中から『雷撃』を放っていく。すると、敵のHPの減りが尋常では無い物となり、三発ほど撃ち込むと、あんなに苦労してあがいていたのに、あっさり倒せてしまった。
唖然とする僕…そんな僕にお構いなしに強制ランクアップのお知らせのメッセージが届いた。『経験値を溜め込みすぎたため、強制ランクアップをします。現在のランクは3です』っと…
うん?ランク1だったんだけど…運営に問い合わせた。すると、本来、ランク7のギルドメンバー20名以上での討伐をと想定していた為、経験値がとんでもない量得られたらしい。単純計算で僕の各基本ステータスは、5000以上あがっていた。更に強制ランクアップのプレゼントが…ランク1では二つ名『暇人』(戦闘中以外であれば、HP,MPが自動回復していく)、ランク2では二つ名『怠け者』(無詠唱で魔法、スキルが放てる)となった。なんか強制ランクアップはゲームをつまらなくしていくみたいだ。次からは自力でランクアップさせようと、心に思った。
さらに初回撃破プレゼントなる物が貰えた。ボスキャラを一番最初に倒した者が貰えるプレゼントらしく、スケイルドラゴンの場合は『ドラゴンアーマー』(あらゆる攻撃ダメージを半減にする)だった。拒否は出来ずに強制的に装備された。前に着けていた魔法の鎧は消滅し、加護だけは『ドラゴンアーマー』に追加された。どんだけ、ゲームがつまらなくなるのだ?それとも、これが普通なのか?リアスしか知らない僕は困惑した。
そして、落ち着いてから、無事に戦闘が終わったことをリアスに、メッセージをした。そして、転移陣から塔から脱出して、宿に行き、ログアウトした。
---リアス---
朝起きて直ぐにインをした。すると、フーマからメッセージが届いていた。
『無事に倒せたよ。アイツの弱点は、足の裏に雷撃だよ。3発で倒せたよん♪』
凄く嬉しそうな文面であった。私は…あの子はあの時、『お姉ちゃん』って、言っていた…ただ、それだけが嬉しかった。
『次の街へ行けるのかな?今夜もいつもの時間にね♪』
と、メッセージを返信した。
---亜衣---
学校に行くと朽木が近づいて来た。
「なぁ、お前の姉ちゃん、何か言っていたか?」
って、訊いて来た。
「最近、お姉ちゃんとあまり会話していないよ」
「う~ん、ついに、亜衣に反抗期か?」
「そんなんで無いよ」
「そうか…昨晩、バグでスケイルドラゴンと、交戦したみたいなんだよ。その結果が知りたかったんだが」
えっ?そんなこと、私には一言も言ってくれなかった…
「ちょっと、お姉ちゃんはランク3だよ」
「お供のパーティーメンバーはランク1だそうだ。死亡フラグだろ?」
お姉ちゃんは死んだのだろうか?あの激痛を味わってしまったのか?
「おい、亜衣。顔色が悪いぞ…」
「今朝、お姉ちゃんに会っていない…」
「痛みで起き上がれなかったのかもな」
そんな…
「ねぇ、朽木。しばらく、ギルドを一時脱退する」
「うん?お姉ちゃんのフォローか?脱退しなくても良い。行って来いよ。俺らは当分、スケイルドラゴンを倒せないからな」
---小太郎---
今日の姉ちゃんはなんか嬉しそうであった。学校のからの帰り道…校門の前で僕を待っていた。
「部活は?」
姉ちゃんに訊いてみた。
「辞めた…小太郎と一緒に帰る為にね♪」
嬉しそうに答える姉ちゃん。
「それだけの為に?」
姉ちゃんの行動に困惑する僕。
「それだけ?私にとっては、大切なことなのよ!」
そう言いながら、僕の腕に抱きつく姉ちゃん。
「ゾンビのように甦った弟に、スキンシップしすぎだよ、お姉ちゃん!恥ずかしいよ~」
お姉ちゃんの行動は、嫌では無かった。でも、人との交流をしていなかった僕には、恥ずかしすぎるのだった。まして、スキンシップなどは。
「気にしない、気にしない…今までしなかった分も上乗せだからね♪」
---莉愛---
珍しく亜衣が、私の部屋に来た。
「どうしたの?」
亜衣は目に涙を溜めていた。
「何で、言ってくれなかったの?私に言ってくれれば、助けに行ったのに…」
何の話をしているのだ?あっ…朽木から聞いたのか。アイツは、亜衣と同じクラスだったっけ。
「朽木に聞いたの?」
「うん…」
鼻水を啜りながら答える亜衣。顔は涙でボロボロだった。
「どうにもならないでしょ?ランク7の攻略組のいる場所から、ツヴァイの50フロアじゃ、1時間でも無理だろうし?」
驚いた顔をした亜衣。
「何でツヴァイなの?お姉ちゃん、ランク3だよね?」
「何でって…色々な事情があるのよ。亜衣には関係無い」
「何で関係無いの?…姉妹でしょ?」
「亜衣が許さない限り、亜衣との共闘は無い」
私の荒々しい語気に、困惑したような顔付きの亜衣。
「私が許す?何を…えっ?…まさか…」
「記憶を取り戻した私は、亜衣を許さない…やっと、思い出したよ。あぁなった理由をね」
あの当時、気の小さかった私は、自ら記憶を封じてしまったのかもしれない。
「いや…昔のことだよ…いない者のことは忘れよ…」
亜衣の言葉を途中で遮る。
「私はもう忘れない。小太郎はいない者じゃない。亜衣に消された者だ。お前、私と小太郎の仲に焼き餅を焼いて、仲を引き裂いたのよね?」
あの当時、言えなかったことを、妹に確認した。
「いやいや…それは…小さい時の…」
「小さい時の?では、今はどうなの?なんで、小太郎は団らんに参加できないの?亜衣、おんたのせいでしょ?ねぇ、どうなのよ!」
私の荒々しい口調に、亜衣の顔は強張っていく。瞳には恐怖の色が、湧き出ているようにも思える。それだけ、今日の私は亜衣に対して、溜まっていた怒りをぶち込んでいく。
「ねぇ、、小6になったんでしょ?もっと、マシは理由を言ってみなさい!」
「なんで?私よりお兄ちゃんが大事なの?」
消えそうな声で質問をしてきた亜衣。
「亜衣は大事な妹だよ。でも、私にとって、小太郎は大切な弟で、ボーイフレンドなんだよ。亜衣にとって、小太郎はどうなの?」
少し語気を和らげた私。
「お兄ちゃんだよ…ヘタレだけど…ただ、私はかまって欲しかった。お姉ちゃんとばかり仲の良いお兄ちゃんが許せなかった。だって、私じゃなくて、お姉ちゃんの下着を手に入れようとしていると思ったから…なんで、私のじゃダメなの?って…」
そういうことだったのね…私と似たような理由かな。
「小太郎はそういう物に興味は無いわよ。今なら、そう思える。今でも、盗む気になれば、いくらでも盗めるのに、何も盗んでいないんだし」
「そうだね」
小さくうなずく亜衣。
「亜衣、素直になって、小太郎と接してみなさい。リアルでは難しくても、ゲーム内なら、身分を隠して、接することが出来るでしょ?」
「そうだね…ゲーム内なら…たぶん…」
◇
父さんが帰って来てから、亜衣との話を端的に話した。さすがに、弟の手で下着を盗まれても良い姉妹って言うのは、問題かと思ったから。
「そうか…お前と小太郎の仲に嫉妬か…愛しい心がすれ違うと恨みになるってことか」
天井を見ながら、そう呟く父さん。
「小太郎のことは莉愛にまかせるから。必要なことは言ってくれ。なるべく叶えるようにする」
「じゃ、お父さん。小太郎の部屋に行くのに縄ばしごだと不便なの。外階段にして。後、食事を持って、窓をよじ登るのが不便なの。引き戸にして」
私の要望を父さんに伝えた。
「わかった、なるべく早く善処する。引き続き、小太郎の心を開いてくれ。頼む」
父さんが私に頭を下げた。