「あいつ、慢心しすぎだろう?闇の魔法で、ブラーム達の記憶と心を閉ざすとはな」
「そのおかげで、綾香様の知る処になった訳ですし」
「そうだな。これでアイツらを救出に行けるし、仲間を傷つけた落とし前を付けに行ける。ふふふ」
知らない男二人の声が聞こえる。誰だろうか?ブラームって誰だ?ゲーム内で会ったことないし…
「これ以上、妨害されないように、助っ人に行こうと思う」
「え?!私達もですか、団長…」
男性達の会話が遠くへと遠ざかり…
◇
「…ラーム…ねぇ、起きて…ブラーム…」
目を開くと目の前に、知らない女性がいた。僕のことをブラームと呼びかける女性。
「ブルーム…」
咄嗟に僕の口から出た言葉。ブルームって誰だ?なんで、僕はこの女性の名前を知っているんだ?
「やっと逢えた…まだ、魂だけでしか会話が出来ないのは、寂しいけど…」
魂だけの会話?どういうこと?
「器の記憶と心が開かれれば…今度こそ…」
目の前が真っ白く成っていった。
---小太郎---
目が覚めると、至近距離から僕を見つめている姉ちゃんがいた。うん?なんで?これも夢か?唇をかみ締めると、痛かった。夢では無いみたいだ。
「姉ちゃん…なんで、ここに?」
「昔みたいに小太郎と寝たかったから…」
徐に、手で自分の足の付け根を触ると…あるはずの物がなかった。僕の指先は、姉ちゃんの皮膚を触っている。嫌な予感…いや、なんとも言えない思いで、手を身体の芯に移動させると、僕のあそこはビンビンと固くなり、姉ちゃんの身体に吸い込まれていた。
「昔、こんなことしていないよ」
姉ちゃんの身体の中は、暖かくて気持ち良くて、僕を包んでくれていた。
「肌を合わせていたら…なんとなく…ねぇ…」
姉ちゃんは、はにかんだような表情で僕を見つめていた。
「姉弟で、こんなことはダメだよ~」
「私達は大丈夫よ、小太郎…」
姉ちゃんの顔が近づいて来て、僕の唇と姉ちゃんの唇が合わさり…お互いがお互いの味や匂いを愉しんでいく。姉ちゃんの柔らかな胸が僕の胸に…気持ちが良い…姉ちゃんの心臓の鼓動と僕の鼓動が同期していく。
どのくらいの時が経ったであろうか。ついに僕は、姉ちゃんの中で果てた…
◇
朝から、有り得ないことをしてから、学校へと向かった。姉ちゃんの感触、味、匂いを思い出しながら、授業を聞き流した。
放課後、日比谷先生に呼び出しをされた。僕は生活指導室に向かった。生活指導室は、防音仕様で、中から鍵を掛けると、外からは開かない仕組むらしい。生徒との会話を盗み聞き防止という為だそうだ。
日比谷先生と二人きりで生活指導室にいる。先生は白いブラウスに、グレーのジャケットと、膝上裾のスカート姿だった。
「で、考えたんだけど、先生も小太郎君とゲーム内で交流しようかと思うの」
どういうこと?
「そんなに驚かないでよ。こうして、リアルで会っても会話が、成り立たないなら、ゲーム内でなら、心を開いてくれるかなってね」
先生が、僕の肩の上から僕の顔を覗き込む。姉ちゃんとは違う女性の香りがする…
「小太郎君のゲームIDを教えてくれるかな?」
先生の顔が近い…香りに誘われるように、僕は先生に抱きついてしまった。僕も先生も驚いた顔をしている。先生は押し倒された形で仰向けに倒れ、僕は先生の上に載っている。僕の手は先生の胸の上に…
「ごめんなさい…良い香りがしたから…」
僕は先生に謝り立ち上がろうとすると、
「こっ、小太郎君動かないで…」
僕の人差し指と中指の付け根部分に、何かの突起部分がはさまっていた。先生の香りで興奮してしまったアレはガチガチとなり、何か柔らかい物に接している感覚がある。
「動くと…ダメ…感じてしまう…」
先生の顔は真っ赤になっていた。
「感じるって何がですか?」
腰を動かすと、「あっ…」っと、先生の口から声が漏れた。僕も先生も服を着ている状態なのだが、なぜか交わっていた。透過能力というものがあるとすれば、それだと思う。しかし、ゲーム内ならまだしも、リアル世界では有り得ない能力である。
『ブラウン、みっけ♪』
前触れ無く、脳裏に声が響いた。知らない女性の声だった。周囲を見回す僕。僕と先生しかいない室内。今の声は誰だったのだろうか?
「うっ、動かないで…あぅ…」
周囲を見回す為に、動いてしまった僕。先生へ刺激が伝わったようで、艶めかしい声が漏れ出していた。このままではいけないと思い、僕が立ち上がると、荒々しい息づかいをした先生だけが横たわっていた。
「だっ、大丈夫ですか…先生」
「大丈夫…突然だったので、驚いちゃって…で、小太郎君のIDを教えて…」
呼吸を整えながら、僕に声を掛けてきた先生。ゲームIDを教えて、先生の状況が平常時に戻ると、解放され、家に帰ることにする。校門では、姉ちゃんが待っていた。
「どうしたの?遅かったわね」
「あぁ、生活指導室に呼び出された…」
「そっか…家庭訪問の結果ってことね…」
今日はスキンシップをせずに、僕と並んで帰宅する姉ちゃん。
◇
そして、夜のゲームタイム。僕はインをした。宿屋の待合室に行くと、宿屋のオヤジであるマーテルに声を掛けられた。このゲームでは、各街のNPCの店主や住民は、共通のAIでまかなっているようで、最初の街でも2番目の街でも、宿屋の主人はマーテルなのだ。
「フーマ、一緒に旅をして欲しい者がいるんだが」
っと、二人の男の人と一人の女性を紹介してくれた。
「この二人もフーマと同じように、NPCに良く接してくれているんだ。これから先は、部隊やギルドでの戦闘が良いと思う。この者達と、お前のパートナーでギルドを作ると良いぞ」
っと。マーテルは僕の事を心配しての提案のようだ。確かに、昨晩のようなバグの場合、リアスを逃がすしかなかった。一緒に戦ってくれる仲間が増えれば、リアスも戦える機会が増え、彼女にも経験値が入るはずだ…そう考えるとギルドも有りなのかな。
「ランク3のフーマです…僕なんかで良いのですか?」
「NPCに良く接する者は信用できる。大抵のプレイヤーはNPCに横柄だからな。俺はファントム。精霊使いだ。連れの女性はライカ、ハイエルフの魔導使いだ」
「僕はファルコンだ。聖騎士になります。よろしくね」
自己紹介をし合っているところに、リアスがやってきた。リアスに、ここまでの事を説明した。
「うん、良いと思う。昨日みたいなバグの場合、対処しやすいし。部隊ボーナスだと攻撃が1.2倍、ギルドボーナスだと1.5倍になるんだよ。部隊っていうのは、ギルドの団長が参加していない場合だよ」
っと、ギルドと部隊の違いとメリットを教えてくれた。しばらく考えて、この5名でギルドを結成した。
「ギルド名は『エフ騎士団』でどうかな?僕、ファルコンとファントム、フーマの頭文字を取ってみた」
異論を言い出す者は誰もいなかった。
「で、団長はフーマにやってもらいたい」
と、ファルコンが提案してきた。
「なんで、僕が…」
戸惑う僕。今までの人生に於いて、上に立ったことなどなかったから。
「一番慎重そうだからだ。この先に、いかに仲間に痛みを与えないかが、大事だと思うんだよ。だから、慎重そうな者が団長の方が、良いと思うんだ」
僕以外の者は全員、賛成だ…で、僕はギルド『エフ騎士団』の団長になってしまった。
「じゃ、団長。次の街に行きましょう♪」
ファルコンに促されて、次の街に向かった僕達。
---亜衣---
お姉ちゃんと合流しようと、人の流れと逆に先を急いだ。さっき、お姉ちゃんから、三番目の街トリムに向かっていると連絡があった。トリムの街に急ぐ。
お姉ちゃんのパートナー…たぶん…ゲーム内でわだかまりが取れるのかな?少し心配であるが、何もしないのであれば、何も変わらないから。リアルの生活がそうであったように。
そして、トリムの街に着いた。お姉ちゃんにメッセージを送ると、居場所を教えてくれ、そこに向かった。向かった先はNPCが経営する宿だった。大抵のプレイヤーは、プレイヤーの経営する宿に泊まる。サービスが良いから。
宿に着くと、お姉ちゃんが私を皆に紹介してくれた。え?皆?人数が多くないか?
「私の知り合いの剣士のアイズよ。某アニメキャラを真似たそうなのよ」
「で、彼が団長のフーマ」
デフォルトキャラのままの男を紹介してくれた。冴えない団長だ。
「後、妖精使いのファントムさん、魔導使いのライカさん、聖騎士のファルコンさんよ」
妖精使い、魔導使い、聖騎士って…レアジョブだ。ランク7以上の可能性がある。きっと、お兄ちゃんはフーマなんだろう。あっ、風魔の小太郎からかな?
お姉ちゃんに促されて、ギルドを移籍した。ギルドを辞めるのは簡単で、入るのには団長の許可がいる。朽木には後で説明しておこう。
「だいぶ、戦力が増えたみたいだな団長」
ファルコンが団長に声を掛けた。
「いや、僕…ずっと…ソロだったから、自分が強いのかがわからないんです…」
「そう言えば、フーマって、どの位のステータスなの?」
お姉ちゃんが団長に尋ねる。
「ランク3で、攻撃力28000 防御力26000だけど…」
絶句する私とお姉ちゃん…ランク3なのに?
「フーマ…私まだ…2000位だよ…」
お姉ちゃんが団長に答えた。
「昨晩のアレを倒したら、大量の経験値を貰えて…」
スケイルドラゴンを倒した?ランク7が20名でも苦戦中の相手を?何をしたんだ?
「え?団長…アレって何を倒したんだ?」
ファントムが団長に訊いた。
「鎧を着たドラゴン…運営に確認したら、バグによる異常発生だったみたい…」
「あぁ、ランク7の者20名以上の経験値を一人占めしたのか…で、強制ランクアップしたのかな?」
聞き慣れない言葉…強制ランクアップって何だ?
「そうです、ファントムさん」
「あぁ、二つ名コレクターなのか。納得だ、団長」
二つ名?たまに持っている人を見かけるが…なんだ?このギルド…ランク7の私が霞むくらいに、知らない情報を満載している。
「それにしては、計算が合わないな…団長、もしかして強制ジョブチェンジもしてません?」
強制ジョブチェンジ?それも知らない…なんだ、それは?
「あっ…しています。剣士と僧侶と魔法使いと盗賊と侍がそうです」
「それなら、その位の値になりますね」
ファントムが頷いている。
「あぁ、アイズさん。この情報は漏らしたら、消されますよ。ふふふ」
「おい、あんまり脅すなよ、ファントム。アイズ、この情報が公に漏れれば、このボーナス特典システムは消える。隠しボーナスの意味が無くなるからな」
ファルコンに釘を刺された。朽木に情報を横流ししようと思ったのだが…で、この日はそれぞれの情報を交換して、ログアウトした。
◇
翌日の放課後、他言しないことを約束させて、朽木に昨晩のことを話した。
「そうか、姉ちゃんのいるギルドに移籍したのか。急にギルドメンバーから消えて、驚いたけど」
「それで移籍した先のギルドなんだけど、妖精使い、魔導使い、聖騎士がいるんだよ」
目が点になる朽木。
「レアジョブじゃないか…転職条件がわからないレアジョブが、3名もいるのか?」
「でね、ランク3で、攻撃力28000 防御力26000だって…」
「はぁ?有り得ない。偽の申告じゃないのか?」
「メンバーの一人のファントムって人が計算をして、妥当だって言うんだよ」
「何をしたって言っていた?」
「隠しボーナスを得たらしい…」
「隠しボーナス?そんなのがあるのか、あのゲームには…」
「関連すると思われるのは、強制ジョブチェンジ、強制ランクアップ、あと二つ名だったかな?」
記憶を思い出し朽木に伝えた。
『おい、バラすなって言っただろ!』
突然、脳内に声が響いた。ファントムの声だ…周囲を見回すがファントムはいない。
「どうしたんだ、亜衣?」
「いや、気のせいみたいだ」
「強制アップかぁ…噂では聞いたことがある。やったと言う者には会ってはいないけど。ランクアップを自分でせずに、レベルをあげまくるんだそうだ。普通は先に早く進みたいから、ランクアップ条件を満たすと、すぐにランクアップするが、それをせずに放置すると、システムの手によって強制的にランクアップされるんだそうだ。で、その際に隠しボーナスが貰えるのかもな。推測だけどな」
それかな?お兄ちゃんの場合…先に進みたくて、ゲームしている訳ではない。リアル世界が嫌いで、ゲーム世界で時間を過ごしたいだけだと思う。
「確か、姉ちゃんはツヴァイでパーティーを組んだんだよな?」
「そのはずだよ」
「姉ちゃんと一緒にいたパーティーメンバーは、初めて姉ちゃんとパーティーを組んだんだよな?」
「そのはず」
「ソイツはランク1に強制ランクアップしたんだ。ランク1へのランクアップ条件はパーティーを組むことだ。ツヴァイで初めてパーティーを組んだってことはそういうことだ」
ソロでランク1になれる…裏技じゃないか。なんで発表しないんだ?
「そうなると、強制ジョブチェンジも、最大レベルより上のレベルにした可能性があるな。普通はジョブをマスターしたら、ジョブチェンジをするのだが、パーティーを組まずに始まりの街でプレイしまくっていたのであれば、ジョブチェンジをするメリットはないから、そのままで続けたのだろう」
パーティーを組まないんじゃない、組めなかったんだ、きっと。人と接するのが怖かったんだろう。で、ツヴァイに移動が出来るようになり、初めてパーティーを組む気になった。相手がお姉ちゃんだったから…でも、お姉ちゃんだって知らなかったはずだが…何かに気づいたのか?
幼い頃、あの二人の絆に、私は嫉妬した。私もお兄ちゃんともっと仲良くしたかったんだけど、お兄ちゃんの隣にはいつもお姉ちゃんがいた。そして、あの不幸な出来事…風のいたずら…あれで、お姉ちゃんとの絆が切れた。これで私だけのお兄ちゃんになると喜んでいたはずの私は、お兄ちゃんの心を殺してしまった…私の暴言に、言い返して来ると思ったのに、お兄ちゃんは私の言葉をそのまま受け取ってしまった。
お兄ちゃんが消えてから、屋根裏部屋のドアの前に、暇さえあればお姉ちゃんは、いつもいた。そんなお姉ちゃんが許せなくて、お姉ちゃんがいない留守に、屋根裏部屋に繋がる踊り場に、煉瓦を積み上げて、壁を作った。そして、漆喰で塗り固めた。
なんで、あんなマネをしたのだろうか?あの日以来、お姉ちゃんの何かが壊れた。記憶を一部欠損してしまったのだ。お姉ちゃんは、お兄ちゃんのことを忘れていたようだけど、私は一日たりと忘れたことがなかった。いなくなった日以来、ずっと…
「で、もう戻っては来ないのか?」
朽木の問いで、思考の海から顔を出した。
「『トリックスター』より戦力がありそうだし…」
「そうだな、20000超えの者はいないな。そうだ、一昨日のアレはどうなったんだ?」
朽木が思い出したように切り出した。
「アレって?」
「スケイルドラゴンだよ。姉ちゃんは死んだのか?」
「あぁ、強制転移で脱出したって。で、お兄ちゃんが一人で退治したそうだよ」
「お兄ちゃん?亜衣って、兄ちゃんもいるのか?」
驚く朽木。
「うん、いるよ。三人っ子だからね」
「一人で?本当か?ランクはいくつなんだ?」
「ランク1だよ。朽木が聞いたんだろ?」
「姉ちゃんのパートナーって、兄ちゃんだったのか?おい、ランク1で、どうやって倒したんだ?」
「教えてくれなかった…二人だけの秘密だって…莉愛(りあ)お姉ちゃんが嬉しそうに言うんだよ。くやしい~」
「なぁ、亜衣…もしかして、兄ちゃんを、姉ちゃんと取り合いしているのか?」
朽木が呆れたように、私に言った。
「悪いかよ~。図星だよ~」
お兄ちゃんを護るのは私…でも、ステータスはお兄ちゃんの方が上…護られるのは私の方かな?