地獄のアルファーテスター生活始まる
「という訳で、開発担当で立案者である君が、アルファテストをして欲しい」
と、プロジェクトリーダーに言われた僕。
僕は水谷浩介。とあるVRMMORPGを運営する会社で開発に携わっている。職種はゲームデザイナー兼プログラマー。趣味はロールプレイングゲームである。
「他社のゲームばかりやっていないで、自社のゲームも、たまにはいいだろ?」
上司の目付きが怖い。確かに自社のゲームはプレイしていない。いや、自分でデザインして、プログラミングしたゲームなんかやっても、つまらないと思うのでやっていない。
アルファーテストとは、一般の人にテストしてもらうベータテストの前に行う、開発者のみで行うテストのことだ。致命的なバグをここで取りきってから、ゲームバランスや細部のチェックを行っていただくベータテストに移行するのだ。
「君は元は有名なゲーマーだろ?それも重箱の隅をつつく。業界の上の方では有名だしなぁ」
重箱の隅をつつくというのには語弊がある。そもそも元ゲーマーっていうのも…まだ現役のゲーマーなんだが。
有名になった原因は、とある雑誌に投稿した、いや、友人に投稿された記事のせいだ。とあるロールプレイングゲームで、主人公のレベルがカンストした状態で、ラスボスと対決すると、いきなりレベルが1に戻るという致命的なバグを見つけて、しかたないので、そのゲームを解析して、バグ取りをして終わらせたことが雑誌に載ったのだった…
そこまでしてプレイするのか、っていう声が大半であったのだが、雑誌の編集者のコメントで『それはある意味、ゲームにおいて、神のなせる業ですね』って…
それ以来、開発者の間では都市伝説となり…この会社にスカウトされたのだった。
「ゲーム内でも、ある程度はデバッグは、出来るようにするが、基本的にはゲーム内から、開発へメッセージを飛ばして欲しい」
ゲーム空間には現行仕様でプレイしているプレイヤーがいる。そのプレイヤー達と同じ世界で別仕様のアルファーテストをするようであった。まぁ、新機能のテストだけのはずだから、問題は無いのかな。新機能使用のフラグが立っているだけの違いだし。
で、テストすべき新機能は、<夜の営み>である。ゲーム内での刺激が実際の身体にフィードバックするゲームなので、その辺りの刺激のテストになる。そっち系の気持ち良さを得られれば、テストは終わる。得られない場合は、実装責任者として、快楽を得られるまでトライアンドエラーの日々が続くのだ。それもプログラミングアンドプレイという一種の拷問ワークをしてだ。
「あのう…これって使用不能になることは、ないですよね?」
ゲームテストして、実生活で使用不能になるのはご免だ。
「ならないと思う…けど…一応、傷害保険はかけてあるし、治療費も会社持ちで良いからな」
ちょっと…怖い。いや、本当に怖い仕事だ。
上司から、このゲームでのコントローラーとなるVRヘルメットを渡された。
「君専用だ。プレイは会社内の君の部屋で頼む。何かあったら、すぐに対応が出来るようにしたいから」
それって、危険がいっぱいなお話ですね。ますます怖いぞ。
◇
自分の仕事部屋に戻ると、ゲーム用のPCが用意されていた。起動すると、ゲームはインストールされていて、それ以外にも色々なツール類もインストールされていた。
「ヒロ君が成功したら、次は私が女性用をテストするみたいだよ」
って、同じ部屋で仕事をしている同僚の長瀬洋子が声をかけてきた。
「気が乗らないよ…怖い…不能になったらどうしよう…」
「あぁ、女性と違って、ソレは痛いよねぇ。この先の人生を考えると」
って、笑いながら言われても。僕はヘルメットから出ているUSBコードを、PCに接続して、ヘルメット装着した。まず、初期設定だな。操るキャラクターを造らないと何も出来ない。
キャラクター名はエフにした。ハンドルがフォックスだったので、特段の意味はない。次は、初期スキルを10個設定する。うん?初めからスキルがセットされていた。セットされていたのは<夜の営み>。これはわかる。これのテストだものな。後、<収集><虫取り><術式><女難>って?なんだ?こんなのあったかな?
開発部にメッセージ…うっ、初期設定画面では出来ないのかぁ…くそっ!5つもセットされているのかぁ…あと5つだな。ソロプレイになると思うので、生き延びるための物を選び、<料理><回復><格闘><加工><鑑定>にした。
<料理>は、経験値稼ぎのおまけで手に入る食材で、食事を賄うためのスキル。食べ物はお店で買えるけど、お金がかかるし、造った料理をアイテムボックスにしまえば、出来たてのままで保存できるから、保存食もお金をかけなくて済む。
<回復>は、僧侶系のスキルだけど、ソロなので必須なスキルだと思う。
<格闘>は、殴る蹴るの総合スキル。<パンチ>や<蹴り>という単独スキルもあるけど、余分なスキル5つもあるので、総合スキルで我慢することに。単独スキルと比べて、必殺技とかを覚えにくいかわりに、色々なことが出来るのだ。器用貧乏系なスキルかもしれない。
<加工>は、製造のための総合スキルである。<鍛冶>とか<木工>とか<薬剤>とかの単独スキルにしようと思ったのだが、余分なスキルのせいで…くそっ!これはハンディーなのか?
<鑑定>は、アイテムの鑑定スキルである。ダンジョン内でも鑑定のできる能力で、いらない物をすぐに判断が付けられるはずだ。
で、やっとゲームスタートだ。
『ワンモア・フリーライフ・オンラインへようこそ!』
ログインをした。これから、ここが第2の仕事場になるのだ。早速、開発部にメッセージ、このゲームではウィスパーチャットっていうのだ、これを送った。
【デフォスキルがわからん。何これ?】
直ぐに返事が来た。
【全部、新機能。なので、全部テストをしてください】
って…おいおい…聞いてないぞ~
で、開発部とやり取りをして、新機能のスキルの内容が判明した。
<夜の営み>は、僕の提案したスキル。エロ系な行為が出来るようになるスキル。ちなみに相手の同意が無いと出来ない。
<収集>は、情報とか、物品とかを集めるスキルとか。コレクターみたい感じで、何個か同じ種類の物を集めると、隠れボーナスがあるらしい。
<虫取り>は、僕専用のスキル。要するに、ゲーム内でデバッガーが起動できるそうだ。ゲーム内で、バグ取りをしろと?無理じゃないのか。
<術式>も、僕専用のスキル。ゲーム内でプログラミングが出来るって…もっと、無理だろうって。
<女難>は、<夜の営み>のテストに必要なスキルらしい。想像しているような事態になるんだろうな、きっと…
◇
で、最初はトレーニングエリアでレベルを5まで上げるんだったな。と、トレーニングエリアに向かった。そこで、バーチャル世界で、思ったように動く為の鍛錬をした。慣れるまで、目の前の風景に酔う。吐きそうだ。これって、三半規管をトレーニングする場所なのかな。このバーチャル酔いは<回復>スキルでも治らない。困ったなぁ。
そして、酔わなくなり始めたので、<格闘>スキルを鍛え始めた。なんか、時間をロスしまくっていないか?
トレーニングエリアの出口で、福引きをしていた。バーチャル世界への入国を記念して、相棒となる妖精が貰えるらしい。が、ハズレを引いてしまった。で、僕は相棒となる妖精は貰えなかった。これは<女難>スキルなのか?パラメータを見ると、レベルが上がっていた。なんてこった…開発部の罠だろう、これって…
トレーニングルームを出て、装備を買おうと思ったら…所持金がゼロ。始めに装備をくれるとか支度金をくれるとか無いのか?開発部にウィスパーを送った。返事によるとバグらしい。はぁ…バグは修正しておくから、自前で乗り切れって。
装備無しの普段着で、最初のフィールドに出た。で、素手でモンスターを叩いたり、投げたり、蹴ったり…1匹仕留めるのに傷だらけになった。<回復>スキルで傷を回復する。この世界のMPは休めば回復するのが救いだ。休み休み戦わないと、死んでしまう。死んでしまうと死に戻りとなり、ステータス低下の罰を受けて生き返るようだ。
で、モンスターがドロップしたのは、肉と角。肉は食料になるな。角は…武器に加工すれば良いか。周囲を見渡して、落ちている物を拾い始めた。そうだ。街に戻って、ゴミ箱をあさり、素材を集めることにしよう。
しかし、街にはゴミ箱っていう物がなかった。また、フィールドに戻った。そして、手に入った物は、フィールドで拾った物で、折れた剣、折れた杖。あと、生えている草を摘んで、その場で鑑定して、薬草類を集めた。
ここで、問題に直面した。所持金がないので、宿に泊まれなかった。ウィスパーで開発部に問い合わせたら、宿などのベッドで寝ないとダメらしい。野宿はデッド扱いらしい。どうするの。どこで加工すればいいの?
【鍛冶ギルドとか木工ギルドの作業場で、加工してください。あと、ギルド内も寝ちゃダメですよ】
と、追加の返事がきた。取ってきた物を高値で売れないと、寝ることが出来ない。寝ることで、プレイヤーはログアウトできるシステムなので、とにかく寝ないと、まずい。
鍛冶ギルドを訪ねて、作業場をお借りした。折れた剣をナイフとメリケンサックに生まれ変わらせた。
鑑定すると、初めてのナイフ ATK+2、初めてのナックル ATK+3と出た。まぁ、無いよりいいかぁ、
◇
次に、木工ギルドでも作業場をお借りして、折れた杖を木刀に生まれ変わらせた。
鑑定結果は、初めての木刀 ATK+2と出た。
出来上がった武器を持って、フィールドに行き、角のあるウサギを狩り始めた。こいつなら肉と角をドロップするみたいだし。攻撃力は微々たる物だが、敵の首を骨を折るのに木刀が役立った。リアルでのスキルも有効なようだ。剣道、柔道、空手を経験したことがるので、攻撃力はなくても、一撃で倒せる場所狙いで攻撃をしていく。ほ乳類ぽい相手だと、首か恥骨辺り。
倒したモンスターは、ドロップアイテムを残して消滅していった。黙々とウサギを狩っていたのだが、接近してこなくなった。さて、次は…クマみたいなのを見つけた。木刀だけでは、ダメだろうな。左手に木刀を持ち、右手にナックルを嵌めて、ナイフを持った。
首狙いをするも、鋭い爪が迫ってきた。咄嗟にしゃがみ込むと、クマの一物が目の前に。ナイフでそれを切り落とした。相手に激痛を与えたようで、うずくまり痛みに耐えているみたいなクマ。チェンスと思い、クマの眉間にナックルを叩き込んだ。ドロップアイテムを残して、消えていくクマ。ドロップアイテムは、熊の手と熊の肝。高く売れるかな?それを持ってアイテム屋に売りに行った。
2つで10万グローになった。店員さんによると、この辺りは初心者が多いので、クマを狩る奴が少ないために、高値で買い取っているそうだ。これで宿に泊まれる~♪
宿屋を探し始めると、声を掛けられた。
「おい、君。うちのギルドに入らないか?」
って、
「僕は初心者ですよ」
返事を返すと、驚いた顔をしていた。
「一人でバトルベアを倒したのにか?」
僕の奮闘を見ていたみたいだ。でも、
「今日始めたんですけど、システムのバグで無一文なんです。高値で売れるよなって必死に倒しました。だって、宿代がないとログアウトが出来ないですし」
「…」
僕の返答で固まってしまった人を置いて、宿探しを再開した。
そして、安い宿屋を発見。10日分の宿代を前払いして、お部屋にインした。あぁ、ベッドがある…幸せ。これで、現実世界に戻れる。開発部に文句を言いに行かなくちゃ。寝る前に、薬草をポーションにして置かないと。アイテムボックスからドロップ品を取り出して、ヒールポーションを作り始めた。作り始めて、少し経ってからドアがノックされた。
「先程、声をかけた者ですが。少しお話をしたいので、会っていただけないですか?」
どうしよう…MMOだし、ないがしろにはできないかぁ。僕はドアを開けて、室内に入ってもらった。さっきの男の人と、女の人のペアが入ってきた。
「なんの用ですか?」
「僕はギルド・ブルーカラーのカザミネと申します。彼女は同じギルドのロナです」
「ロナです。よろしくね」
僕も名乗らないとダメみたいだな。
「僕はエフ。今日、始めた初心者です」
「初心者?だって、バトルベアを倒したのよね?」
ロナさんが驚いていた。
「僕らのギルドに入らないかな?」
宿まで追ってきて、勧誘か?
「始めたばかりなので、しばらくソロであがいてみます。もう少し強くなったら、またお声をおかけください」
丁重にお断りしてみた。
「ソロか…アースみたいな奴だな」
「ねぇ、私達とフレンド登録してください。連絡が取りやすくなりますから。わからないことがあったら、聞いてくれれば、教えますから」
プレイヤー情報は必要かもしないな。二人とフレンド登録した。そして、またねって部屋を出て行った。
出したアイテムをアイテムボックスにしまって。ログアウトすることにした。その前にステータスを確認すると、<格闘>がLV10になり、アーツ・必殺の一撃を覚えたようだった。
アーツ 必殺の一撃
攻撃を相手の急所に叩き込めば、相手を苦しませずに屠れる
とある。急所に叩き込まないとダメなのね…所持称号?なんだこれは…くじ運なし 女難の相 リサイクルの達人って…先の展開は地獄か?あと、二つ名?神の手を持つ者ってなんだ?どうせ、碌でもないことなんだろうな。
そして、気分を目一杯落ち込ませてのログアウト…