翌日、開発部に乗り込んだ。
「あのバグは何だよ。所持金無しの初期装備無しって?」
「例のフラグが関係しているみたいです」
あのフラグかぁ…まぁ、あのフラグの初テストな訳だが
「ヒロさんの指摘で、次からは大丈夫です」
次から?僕は?
「僕に援助は無いの?」
「乗り切ったから無いです。さすがヒロさんです。普通だったら、インストールし直しだと思います」
いや、出来るならそうしたい。でも、出来ないんだろう?
「で、誰でテストをすればよいの?」
「NPCでお願いします。他のプレイヤーには、そういう機能が無いですからね」
「NPCとプレイヤーの区別は?」
「人間はプレイヤーです。それ以外がNPCです」
おい、ちょっと待て!
「多種族としろと?」
「現仕様ではそうなります」
ちょっとショックだよ。
「大丈夫ですよ。ヒロさんなら」
「いやいや無理だろ。人間以外とは…」
「偏見は駄目ですよ。食わず嫌いは駄目です。今日もインしてくださいね。ヒロさんの行動はモニタリングしていますから、よほど不味いときは、天の声を出しますから」
そして、自分の仕事部屋に出勤。
「だいぶ、やつれているわね」
と、心配そうな顔の洋子。
「うん…行ってくるよ」
VRヘルメットをかぶり、ゲームの世界にインした。
◇
宿屋のベッドで目覚めた。さて、今日はどうしようかな。加工材料がいるよな。加工するのに、必要な道具を作らないといけないし。街に繰り出して、中古屋さんを周り、安い物を買っていく。そして、鍛冶ギルド、木工ギルドの作業場をお借りして、自分用の道具を作った。
「道具なら貸してやるぞ」
と、作業場の親方に言われた。
「宿屋の自分の部屋でも、加工をしたいんです」
と、理由を告げた。あと、単独スキルではなく、総合スキルなため、経験をより多く稼がないといけないことも伝えた。それならと、端材や不要品を好きなだけ持って行って良いと、二人の親方からお言葉をいただいた。
鍛冶ギルドの親方からは、簡易の炉だけは買わないと無理だとアドバイスをいただいた。
材料が手に入り、宿屋に戻ると、開発部からプレゼントが届いていた。プレゼントに添えられたメッセージには、洋子が開発部に怒鳴り込んで、僕が1日でやつれた責任を取れと迫ったそうであった。洋子、ありがとう。
送られてきたプレゼントは、錬金釜だった。スキルも<加工>から<錬金>に変わっていた。これで、乗り切れってことかな?
試しに、折れた剣2本を入れると、普通の剣 ATK+10が生産できた。説明書を読むと、作りたい物を念じて錬金すると、<錬金>レベルによって、それなりのものが出来るようだ。これも、将来実装するかどうかのアイテムなので、テストをよろしくって…まぁ、いいか。これならば。
何回かの失敗を経て、やっと、防刃ベスト DEF+5を作り出せた。失敗しても、再度材料に出来るのが良い。錬金する度に純度が上がるが、量は減るという特性にも気づいた。説明書に書いていないので、ウィスパーで開発部に知らせた。
金属の類いはインゴットに、木材の類いは板材にしてアイテムボックスに保存した。初心者があまり良い装備だと、おかしいからね。ほどほどの錬金にした。
さてと、戦闘力を上げていかないと。ある程度強くないと、お相手が見つからないもんな。装備は、アイアンナックル ATK+10、木刀 ATK+10、ナイフ ATK+15、防刃ベスト DEF+15になった。
そして、フィールドに。ウサギは近寄ってくれなかった。寄ってきたクマの首を木刀で突いて、ひるんだ隙に頸椎を切りつけて倒していった。ドロップ品は売って、当分の生活費にしないとな。あと、フィールドに生えている薬草と食べられる草と果実なども収穫。こんな貧乏生活はしていないのか、大量に収穫できた。
クマすらも寄って来なくなったので、狩りをやめて、換金しにアイテム屋さんに向かった。で、アイテム屋さんで料理器具を揃えた。簡易コンロと炭をまず手に入れた。あと、燻製用の鍋と燻製チップ。これで、ウサギの肉を料理できる。パン屋さんでパンを、雑貨屋さんで調味料を手に入れた。あと、この街にはお米はないみたいだ。
部屋に戻って、ウサギの肉の燻製とジャムを作り始めた。
作り始めてしばらくすると、ドアがノックされた。ドアを開けると知らない男の人がいた。
「君がエフかな?俺はギルド・ブルーカラーのギルドマスターのツヴァイだ。よろしく」
昨日の人のギルドの頭か。なんだろう?
「今、いいかな?」
「はい。調理中なので、部屋からは出られませんけどね」
部屋の中にツヴァイを案内した。
「ほぉ。燻製とジャムかぁ。なぁ、君が初心者って本当かな?」
疑っているみたいだ。
「初心者ですよ。まだ始めて2日目ですから」
「それにしては、慣れているなぁ」
「RPGの基本をしているだけです。ゲーマーなんでね」
「なるほど、そういうことだったのか。それで手慣れている訳か。それなら、是非うちのギルドで修行しないか?」
「始めからギルドに入るつもりはないです。ソロを楽しんでからって、考えているんですが」
ジャムの鍋をかき混ぜながら返事を返した。
「ぶっちゃけ、君のようなスーパー初心者が欲しいんだよ」
「僕はスーパーではないです。システムのバグで貰えるはずだった妖精が貰えなかったし」
「え?そうなのかい」
心配そうな顔で僕を見るツヴァイ。この人は良い人なんだろうな、きっと。アルファーテスターでなかったら、ギルドに入れて欲しいと思える。
「運営さんには連絡してあるので、補填待ちですけどね」
まだ公式には、未実装の錬金釜を、補填してもらったとは言えない。
「わかった。僕とフレンド登録をしてくれ。困ったことが起きたら、連絡をしてくれ。助けに行くからな」
僕とフレンド登録をして、ツヴァイは部屋から出て行った。開発部に連絡して、ギルド・ブルーカラーを照会した結果、困っている者には手を差し出す、人道的なギルドだった。あと、伝説的なプレイヤーのアースという人と、仲が良いということもわかった。
ジャムを数種類と燻製を作り終えて、燻製をダシにしてスープにして、ジャムパンとで腹を満たした。食後のコーヒーとかタバコは無いのかと、開発部に尋ねたが、この世界には無いらしい。
ふと、頭をよぎった。無いなら作れば良いんだよね。<術式>を使ってタバコとライターとコーヒーを僕のアイテムボックスに常備するように書き換えた。
【さすがに、神の手を持つ者ですね。早速、未実装アイテムを新規追加ですか】
と、運営スタッフからウィスパーが飛んできた。神の手ってそういう意味か。
【R-18要素フラグなんだから、これくらいいいだろ?】
と、開発部と運営スタッフにウィスパーを返した。そして、食後の後の一服をした。まだ、ログアウトするには早いので、もう1狩りしに行くことにした。
外は月明かりの夜だった。あぁ、そうだった。たしかリアルの5時間が1日になるんだったかな。うろ覚えではあるけど。
月明かりの中、フィールドに向かった。背の高い草むらから気配を感じる。クマでもウサギでもない気配だ。群れだとヤバいなぁ。静かに風下から近づいていくと、ウルフの群れがいた。ウルフの群れは何かの気配を感じ、目の前の風景を睨んでいた。何もいないように見えるけど。<虫取り>を起動して、位置情報をチェックする。と、何かいる。「アンノウン」と表示されていた。システムで認知されていない存在がいるみたいだ。近寄って、調べるにはウルフが邪魔なので、ウルフに死亡フラグを立てて、強制的に消し去った。<虫取り>で消されたのに、ウルフのいた場所には、ドロップアイテムが大量に残された。これってバグ?まぁ、貰っておこうかな。肉と皮を手に入れた。
そして、「アンノウン」がいる場所に向かった。ここでも<虫取り>を起動した。開発部にウィスパーで、この現象を報告すると、たまにシステムに認知されない存在が、生まれていることがあるそうだ。それってバグ?「アンノウン」の死亡フラグを生存フラグに書き直した。すると、姿が見えるようになった。エルフの女性みたいだ。
<虫取り>と<術式>の起動中は、結界に守られて、この世界の存在からは見えないようになるらしいので、<虫取り>を停止させた。
「君は誰だい?なんで、死亡フラグが立っているのに、ここにいたのかな?」
僕は、彼女に尋ねた。
「私はエル…あなたは誰?何者なの?死んだはずの私を生き返らせるって…」
「僕は、昨日始めたばかりの初心者だよ。ちょっと訳有りなだけだ」
「ねぇ、一緒にいてもいい?死んだのに、女神様のところに行けなかったの」
NPCも、未練があって死ぬと、浮遊霊になって彷徨うのかな?システムを司る人工知能がそういう風にした可能性はあるなぁ。開発部に報告はしておこう。
「女神様の所に行きたいのか?」
女神様って、たぶん人工知能のことだと思うんだけど。
「あなたと一緒にいちゃ駄目かな?もっと、生きたい。大事な人にもう一度会いたい…」
このまま、放置は出来ないよな。NPCの死に戻りはいないはずだし。僕の保護下に置くか。
「わかった。宿に戻ろう。一緒においで」
僕は、エルを連れて宿に戻った。そして、エルをベッドに寝かせた。
「僕はあと2日くらい寝ないから、そこでゆっくりと休むと良い」
彼女は久しぶりのベッドの感触を味わい、静かな寝息を立て始めた。さてと、ウルフの肉を燻製にするかぁ。
翌朝、ステータスをチェックすると、チート色が濃くなっていた。他のプレイヤーには言えないなぁ。開発部からは、実装時の参考にさせて貰いますってウィスパーが飛んできた。
後ろに気配を感じて振り返るとエルが立っていた。
「お腹すいたのか?」
「あなたの名前を、まだ聞いていないわ」
「僕はエフ」
「エフって言うのね。エフ、これからもよろしくね♪」
明るい表情の笑顔のエルフの女性が、そこにいた。