落下物回収
人気のないガレキが多い町並み。少し前まで人間が住んでいた町とは思えない。私は運河の傍に残っているビルを目指す。所々陥没している国道を横切り、まるで鳥居のような形で残っている鉄道の高架をくぐり、少し歩くと目指す運河に出た。波力発電のスクリューをチェックして、ビルの中に入る。
このビルは、周囲の建物が崩壊しているの残っている程、頑丈で柔軟な骨格を持っていたようだ。一階の充電器室をチェックする。今日も順調に発電した電気を充電してくれていた。次にコンポスト室をチェックする。手作りのコンポスターがいくつも並んでいる。外を回って、木くずや枯れた植物や死んだ動物などを拾ってきてここでコンポスト化している。先程発電した電気でLED照明を照らし、室内で野菜を育てる計画だ。
私の名前はブラウン。コードネームみたいなものだ。本名は思い出せない。
この世界では、コンポストの研究をしている。『この世界では』という言い方は、おかしいかもしれないが、私はこの世界には飛ばされてきた。もう何度も、色々な世界へ飛ばされているタイムジャンパーだ。転生とは違って、生まれ変わるのではなく、毎回飛ばされた世界では15歳くらいになっていて、そこから生き始めている。仕組みは私には、よくわからない。神様のいたずらか、何かの罰なのかもしれない。そして必ず、養護施設を出るところから始まる。以前の記憶は消えずに残っている状態でだ。
元々いた世界では、王宮騎士団にいたのだが、禁忌を破って禁断の魔術を覚え、追放された。その後は、黒騎士、妖術使い、錬金術師、アサシンなどと所属を転々として生きてきた。身につけたスキルはそのまま保持でき、いつしか色々な戦い方のできる戦士になっていた。
ある時、パーティーを組んで、冒険をしていた時に、知らない間に、何かの呪いを受けて、違う世界へと飛ばされたのが最初のジャンプだ。
この世界に来て10年くらいだ。この前、そう1ヶ月くらい前に、都心の中央環状線の内側で何かが起きて、今は大きなクレーターのようになっていた。その時の衝撃波は放射状に放たれて、都心ではない、この町の建物も大きな被害にあった。町はパニック状態となり、逃げ惑う人々が地方へと逃げていった。
裏稼業で教会の戦士をやっていたのだが、所属していた戦士ギルドの本部がクレーターに飲み込まれていた。ギルドの仲間を探すにも、連絡手段がない。この地域は携帯電話が使えなかった。アンテナを設置していた建造物が軒並み破壊されてしまったからねぇ。
食べ物は、店員がいなくなってしまったコンビニで、常温でも腐らないものを頂いている。トイレは住処にしているビルに自作でメタンガス発生装置付きのものをつくった。資源は大切にしないと。
◇
今日、クレーターの中心までバイクで行ってきた。幸い、ガソリンスタンドのガソリンのタンクは地下に有り無事で、ガソリンは使えた。途中の道路はそこら中、穴だらけ、ガレキだらけ。そういう障害物を避けて進む。
中央環状線の内側に沿って、結界がはってあったけど少し穴をあけて潜り込んだ。内側は蟻地獄のようなすり鉢状になっていた。私は滑り落ちていく。中心には隕石というより黒いボールのような物があった。これが落下してきて、あのような未曾有な被害が出たようだ。短剣でつっついてみると、そのボールのような物が割れた。中から…大量の液体と共に全裸の黒髪の女性と白い猫と黒い猫が出て来た。液体の成分を分析すると、毒ではなかった。クッション材の代わりかな?いつまでもここに居座る訳にいかないので、発見した女性と猫2匹とを、転移魔法で根城にしているビルへ、私と一緒に移動した。転移魔法を使ってしまったのは、クレーターの壁を女性を担いで登るのが大変だったから。バイクは彼女達を置いてから、転移魔法で取りに行った。
便利そうに見える転移魔法の難点。一度行ったことがある場所にしか転移できない。今回のような場合も、最初の移動時はバイクで移動しないと行けない。
連れ帰った女性を、床の上に敷いた段ボールの上に寝かせ、上から毛布を掛けてあげる。猫たちはウエスで身体の水分を拭ってあげて、女性のそばに置いた。
私は、ビルの周りのガレキの片付けをし、その後猫たちのエサを探しに行った。コンビニに行くとお目当てはすぐに見つかった。持てるだけ持つ。
「よっ、ブラウン」
後ろから、がたいの良い男が話しかけてきた。この辺りを仕切るボスのジョイだ。あの惨事の後、逃げなかった者もいた。この辺りの逃げなかった者たちを束ねたのがジョイだった。
「ジョイ、元気そうだな」
「あぁ。この前は自転車の修理をありがとうな。移動範囲が広まったよ」
放置自転車というか、放棄自転車というか、町中には自転車がたくさん残されていた。少し手直しすれば乗れる良品も多かったので、ジョイ達の集落に直した自転車を寄贈した。
「コンポストは順調か?」
「すぐには結果は出ないよ。まぁ、うまくいったら連絡をするよ」
「頼むぞ。俺達も生野菜が恋しくなってきたから」
「あぁ」
ジョイとコンビニの前で別れた。ジョイとの取り決めで、私の食料庫となるコンビニは割り当てられている。私の割り当てにはジョイの集落の人間は手を出さない決まりになっている。
生野菜は私の実験しだいで手に入るようになる。タンパク質は魚や野鳥や夜に出没するヤツラを仕留めて、食していた。今夜も狩らないとなぁ。