---エフ---
「あのな、エル…僕のパーティーにはハイエルフがいるんだよ」
エルの顔がみるみる強張っていく。それに伴って、血の気も失せていくのがわかる。
「だから、君を連れては行けない。すまない」
エルの表情が見ていられない僕は、言い終わると僕の部屋に転移した。部屋にはルイさん、ライカがいた。
「エルと逢っていたのか?」
ルイさんが訊いて来た。
「あぁ…でも、ライカがいる。一緒には旅は出来ない」
ライカが、僕の前で土下座をした。
「ごめんなさい…私達ハイエルフのせいで…」
僕はライカの肩を優しく掴み、彼女を立ち上がらせた。
「ライカは悪くない。それに、これからイメージを良くしていけば良い。そうだろ?」
「でも、エルはどうするんだ?」
ルイさんからの問いに、答えることが出来ない。どうにも出来ない。今の僕には、ライカは捨てられない。エルフの国を統一して、エルのような悲劇を二度と起こさない為にも、ライカと共に、ハイエルフを良い方向に導かなければならない。でも…
「エフ様、私が抜ければ良いですよね?」
涙ぐんでいるライカ。彼女を抱き寄せて、
「ダメだ。傍にいろ。これは、命令だ」
「でも…」
「言い訳は認めない。それに、これは僕の問題だ。パーティーの問題では無い」
「あのな、エフ…」
ルイさんが何かを言いたげだ。
「なんですか、ルイさん」
何かを言いたげだったルイさんは、言葉を飲み込んだようだった。
「いや、なんでもない」
無言が支配し始めた部屋…重苦しい空気が充満してきた。そんな中、ドアを激しく叩く音で、雰囲気が変わった。
誰だ?ドアを開けると、ミリーさんとエルが…
「エフ、私と彼女をパーティーに入れなさい」
ミリーさんが美里さんのような口調で言った。
「でも…」
「でもじゃない、いいわね、私の中での決定事項だから」
【スポンサー命令ってことで!】
ミリーさんからウィスパーが同時に飛んで来た。どういうこと?
「エルさん、これでいいでしょ?ねっ、元気を出して!」
エルを励ましているミリーさん。何をしたいんだ?しかし、エルがライカを見て、顔が強張っていく。エル…
「ごめんなさい、私達ハイエルフのせいで…ハイエルフの長老の娘として、謝ります。すみませんでした」
ライカがエルの前に進み出て、頭を下げて謝罪をした。ライカの突然の行動に驚いているエル。ライカの身体は小刻みに震えている。ライカは悪く無いのに、行く先々で恐怖の対象として見られてしまうハイエルフのライカ。ライカ自身も、今迄のハイエルフの行為が憎いんだろう。ライカ…
僕はライカの隣に立ち、彼女と同様にエルに頭を下げた。
「頼む、ライカをそんな目で見ないでくれ。コイツは何も悪くないんだ。エルフ国国王として、僕もエルに謝る。力が及ばなくて、済みませんでした」
「えっ…国王って…エフ…どういうこと?」
エルの振るえる声が聞こえた。僕は腕輪を見せた。エルフ国以外の物も見えてしまうが、今の僕の立場をエルに見せた。
「なんで?エフ…どうして?ハイエルフの味方なの?」
戸惑っているエルの声。
「エル、逃げるな!」
ルイさんの声が響く。頭を下げている僕には、エルの行動は見えなかった。
「エフは、お前の為に、エルフの種族をまとめようとしているんだぞ。エルの遭遇した悲劇を二度と起こさない為にな。目を背けるな!」
「そ…そうなの?エフ?」
僕の肩に手を掛けて、僕の上体を起こしたエル。
「そうだ。だから、ハイエルフは態度を変える。なぁ…ライカをそういう目で見ないでくれ…コイツは何にも悪くないんだから。寧ろ、僕の考えに同調してくれているんだから…」
少し考え込むエル。そして、
「ねぇ、エフ…私とミリーさんをパーティーに入れて。ライカさんと仲良くするから…お願い…もう離れるのはイヤ…ねぇ、エフ…」
僕に抱きついたエル。ルイさんがライカの上体を起こさせた。
「エルさん、よろしくお願いします」
ライカがエルにそう言った。
「うん、よろしくね♪」
---ヒロ---
ログアウト後、ぐったりとして僕。
「美里さん、ゲーム内でも行動的ですね」
と、あずさ。
「まぁ、これで、エルとライカが仲良くなれればいいなぁ。ところで、バサ姉は、今どこにいるの?」
「えぇ~っと、龍の国の手前で待機しながら、レベルアップ中です」
と、ゲームに集中しているつばさの代わりにあずさが答えた。
「次のインで合流が出来るな。って、ハーレムパーティーだよ。これじゃ…」
「ヒロ君らしくていいじゃん♪」
と、洋子。僕らしいって何だ?
「休憩してくるよ」
喫茶スペースに向かう。
◇
喫茶スペースには、僕を待ち構えるように、企画部と運営チームのリーダー格が書類の束と共にいた。休憩中に仕事の話か?はぁ…引き寄せられるように、彼らの傍に座る。僕が座ると、企画部の女性社員が、コーヒーと灰皿を持って来てくれた。
「で、何の話かな?」
濃いめのコーヒーを一口飲み、タバコに火を付けた。
「猫の街の件です」
企画部のリーダーが切り出した。
「身ぐるみ剥ぐ怪しい街?」
「そうです」
僕の前に資料の束が置かれた。う~~~。
「プログラムは今作れないよ」
この前の5徹の疲労が抜けていない。美里さんとの事の記憶が曖昧なんだ。でも、クレームが来ないから、仕事はきっちり出来たのだろうな。
「プログラムは、大丈夫です。開発に発注してありますから。キャラデザインの件なんですが、外注でも良いですか?」
「僕に決裁権は無いはずだが…」
「そっ、そうですが…ヒロさんの承認がないと決裁されないんです…」
いつの間にそんなシステムになったんだ?知らぬ間に、僕の仕事が増えていた。
「承認って、各チームのリーダーにあるだろ?」
「上が、そうしろと…」
はぁ?
「僕、ヒラですが…」
少なくても各チームのリーダーの方が、僕よりも肩書きは上である。
「ヒロさんの言いたい事はわかりますが、実質のプロジェクトリーダーなんですから…ははは」
乾いた笑いが聞こえた。はぁい?プロジェクトリーダー?いつの間に?
「それでですね、イーグルジャンプ社のグラフィックチームにキャラデザインを頼もうかと…」
「イーグルジャンプって、『フェアリーズストーリー』シリーズの?」
確かに、あのゲームのキャラは好きだけど…
「そうです。そのゲームのグラフィックチームです」
誰かに合図をする素振りをした企画部のリーダー。すると、二人の女性が近づいてきた。ウチの会社では見かけない顔だけど…
「イーグルジャンプの八神コウです。こっちは部下の涼風青葉です。伝説のプログラマーに会えるとは光栄です」
伝説の?僕は現役なんだけど…
「ゲームデザイナー兼プログラマー兼アルファーテスターの水谷浩介です」
「で、彼女達に依頼をしたいんだが、どうかな?」
僕の前に置かれた資料をめくると、ラフデザインがあった。う~む、好みだ…しかし、
「でも、怪しい顔とか、陰険な顔とかは苦手ですよね?」
あの街のコンセプトには合わない。無理に合わせようとすると、彼女達の良さが活かせない気がする。
「まぁ…ほのぼの系ですから…次回のプレゼンまでに、ラフを上げてきます」
「自社では無理なの?」
「種族選択の方で手一杯です」
そうだったねぇ…
「いいんじゃないの?『フェアリーズストーリー』のキャラは好きだし。要望を言えば、猫らしさを、もう少し表現して欲しいかな」
「猫らしさっと、言うと?」
八神さんが訊いて来た。
「括れたウエスト…しなやかな手足とか。マトリョーシカみたいな寸胴体型も可愛いけど、猫人族の街っていう設定だからね。で、怪しい街だから、陰険な顔とか、妖しい顔とか、色々な怪しい猫人達が欲しいな」
涼風さんが、僕の要望をメモしているようだ。
「なるほど…次回までにはクリアします」
「で、どこまで作ってくれるの?グラフィックチームって?」
「どこまでって、言いますと?」
「2Dなのか、3Dなのか、様々なアクションも込みなのか?」
「あぁ、動きもある程度は作ります。とりあえず、2次元でのラフで選定をしてもらってから、作り込みます」
「良いと思う…」
「それでですね、ヒロさん。彼女達に体験させてあげて欲しいんです。調整は出来たんですよね?」
と、運営のリーダー。
「アレかな?八神さん、涼風さん、体験したいんですか?」
「えぇ、VRっていう物を経験したいです」
僕は、彼女達を連れて、部屋に戻った。体験できるシステムはアルファーチームの部屋にしかないから。
「洋子、あずさ、彼女達に体験をさせてあげて」
僕はテストメニュー表を彼女達に見せた。メニューと言っても6種類くらいしかまだないけど。そして、自分の席に座り、資料の束に目を通していく。
しばらくすると、艶めかしい喘ぎ声が聞こえ始めた。これが、この部屋でしかテスト出来ない理由の1つだ。他の部屋では、あぁいう声が筒抜けになってしまうから…この部屋は防音だし、この部屋のメンバーはそういう声をBGMとして聞き流せるから。まぁ、一種の職業病だな。
さてっと、インするかな。
「あずさ、インをする。バサ姉はどうしている?」
「えぇっと…宿近辺を探索中です」
「宿近くの人気のない場所の座標を、僕とバサ姉に送ってくれる?そこに転移する」
「了解しました」
VRヘルメットを被り、インをした。
---エフ----
僕はベッドの上で目覚めた。三人の女性が僕を包んでいる。みんな幸せそうな顔だけど、なんでだ?僕は交わった記憶は無いし…誰だ?一人ずつ確認をする。エル、ルイさん、ライカ…いやもう一人いる…ミリーさんかぁ。なんで、こんな状態に?確か、一人で寝たはずだが…
【エフが寝ていても、エフのアレって機能するんだよ♪】
って、ミリーさんからウィスパーが飛んで来た。えぇぇぇ!そうなの?バグじゃん。エフが寝ている間は女性の玩具なのか…
【修正しないでね!】
って…あっ…まさか、エルを出汁にして、ミリーさんもパーティーに参加出来る方向にしたのかな…美里さんなら、やりかねない…まぁ、いいっか。エルとライカが仲良くしてくれるなら。
「で、今日の予定は?」
ミリーさんが訊いて来た。
「龍の国に行きます。で、龍王と面会して、ドラゴンの国を叩きます」
「へ?ドラゴンの国って、実装されて無いよ~」
「えっ!そうなの?では、あのグリーンドラゴンは、どこから湧いたの?」
【ドラゴンの国の座標を送って】
っと、開発にウィスパーした。
【実装されていませんが…】
【妖精の国を襲撃したグリーンドラゴンはどこから来たの?】
【ドラゴンの国…】
【なんで、実装していないモンがあるんだ?】
【…未実装ですが…】
しばらくすると、座標が送られてきた。
「先にドラゴンの国を叩くか。ミリーさん、ちょっと行ってきますね」
「え?一人で行くの?」
驚いたような表情のミリーさん。
「5キャラで行きます」
僕とサブ達は送られてきた座標に転移した。
◇
転移した先は森の中だった。作り込んでいないのか?ドラゴンって野生に生息しているってことか?
ヴァイラとガブが索敵をして、警戒をしてくれている。オーフィスとリアスは、僕をガードしつつ前進していく。
森の小道沿いを歩いていると、赤い大きなドラゴンが目の間に降り立った。
「ここには何用だ?」
ドラゴンが喋った。
「以前、妖精の国を襲撃したドラゴンの国の責任者と逢いたい。僕は妖精の国の国王代理だ」
証の腕輪を見せるが、他の腕輪も見えてしまうのが難点である。
「何?妖精の国だけではなく、エルフの国の指導者なのか?妖精王?鬼畜王?って何だ?」
鬼畜王に関しては僕も知りたい。何なのだろうか?目の前のドラゴンは人化した。
「私がドラゴンの国を治める者だ。グリーンドラゴン達が迷惑をかけたようだな。すまぬ」
「グリーンドラゴンの長に会いたい」
「会って、どうするのだ?」
「叩く」
「強いぞ」
「僕のチームを舐めるなよ」
精霊達を人化させた。
「我々は精霊王様に仕える四天王なり。ドラゴンの王よ、お前が代わりに消えるか?」
ラピスがドラゴンの王に問い掛けた。消せるのか?そんな能力が有るのかぁ。
「精霊?妖精でなくて、精霊の王なのか?」
「いかにも。どうするのだ?」
「グリーンドラゴン達は凶暴である。だが、種族を絶やす訳にいかない。引き渡しはノーだ」
苦渋の選択なのか、苦しそうな表情のドラゴンの王。言いたいことは分かる。でもなぁ…
「では、人質を出せ。グリーンドラゴンのことは、ドラゴンの国でどうにかしろ」
「人質だと?」
「そうだよ。また来るかもしれないだろ?お前達は種族保存の為なら、妖精の国は滅んでいいんだろ?妖精はエサだと言っていたしな。だから、簡単に攻め込まないように人質を出せっていっているんだ」
と、オニキス。恫喝はコイツの得意技だよな。
「そうはそうだが…」
「精霊王様、この一帯を消しましょうよ♪」
オニキス…消しても済まないと思う。この辺りに生息している保証は無いし。
「待て!わかった…」
ドラゴンの王は、人化した赤毛で赤いドレスを着た少女を連れて来た。
「私の娘で、名前はドライグだ。連れて行け」
え?人質にするには幼すぎるんだが…ドライグはトコトコと歩いて、僕の前に来て、抱っこを強請るような行動をしている。抱っこをしてあげると、笑顔で僕の首に腕を回して、喜んでいるようだ。うん?人質というより、子守りをする嵌めになったような…
「ほぉ~、ドライグが懐くとはなぁ。私にも懐かないのに…」
え?親子じゃないのか?
「親なのに?」
「卵から生まれるから、親子といっても、血筋だけだ。まだ幼いが、人を見る目はあると思うので、お前に娘を預ける。グリーンドラゴンの件は、我々で対処する。それで良いな?」
「それでお願いします」
ドラゴンの王にお願いした。そして、僕達は宿に転移した。
◇
「で、人質で連れてきたの?」
呆れ顔のミリーさん。パーティーメンバーにドライグを紹介する。彼女は僕から離れようとしないので、抱っこしっぱなしである。
「なんで、僕に懐いているんだ?」
思い当たる節がまるでない。これも女難の相の効果なのか?
「いいな~」
って、ルイさん。
「ルイさんは抱っこ出来ませんよ」
「ちぇっ!」
分かりきったことなんだから、舌打ちしなくても良いでしょ?
「エフもハーレムギルドのギルマスだねぇ~」
って、ミリーさん。あぁ、そうだね。ツヴァイの処より豪華かもしれない。宿を出ると、そのツヴァイがいた。
「エフもハーレムギルドのギルマスの仲間入りかぁ」
「ツヴァイ、これはギルドでなくて、パーティーだからね」
「似たような者だ。で、どうするんだ?」
あっ、ダンジョンに行くと思って、張っていたのかな?
「これから、龍の国に行くけど…」
「え?ダンジョンじゃないの?」
「う~む…戻って来たら、一緒に潜るよ。アースを引き留めておいてくれ。たぶん、それでも戦力が足りないかもしれない」
「どの位を想定しているんだ?」
「ここのダンジョンは、パーティーでの攻略は無理。旅団クラスでないと。途中、極寒エリアとか、蒸し風呂エリアとかもあるので、荷物運び専用のポーターも必要になる。そういうダンジョンだ」
「腰を据えてでないと難しいのか…さすがに、RPGマニアですね」
とは、アース。
「戻って来るまでいますよ。必要な物ってありますか?」
「スパイス…食事が飽きるから…」
「どの位で最下層まで行けます?」
「わかない。35階までは敵の強さの調整は出来たけど。ちなみに35階を往復で1週間くらいだな」
「おい、帰りもモンスターとの戦闘あるのか?」
と、ツヴァイ。
「うん。リアルを追求したダンジョンだよ。もちろん」
「鬼仕様だな…」
「このゲームの場合、他のダンジョンって楽だから、RPGマニアは飽きてしまうでしょ?だから、ここのダンジョンだよ。飽きは来ないと思う。そうそう、一般公開時にはポーターを雇えるようにするから、50階くらいまでは行けると思うよ。51階から下は難しいさが上がるけど」
「一般公開にならないと、レイジ達が合流できないな…」
「ベータテスター全員で行けば、35階までは行けるんじゃないかな?って、龍の国に行ってくるね。なるべく早く戻って来るよ」
僕達のパーティーは、バサ姉との合流地点へと転移した。