愚行の果てに
---ヒロ---
龍の王との会談の結果、エフが娘の想い人であり、娘により龍の国の王子待遇の腕輪を、有無を言わせずに、嵌められたことを知り、エフへの処遇が揺らいだ王。
そこで、僕は彼のメンツを立てる為、エフを彼へ供物として捧げた。
その結果、エフはロストして、再インストール。まっさらからの開始かと思いきや、うん?固有スキル5種以外は、<料理><回復><鑑定>だけ?どうしろと?キャラ名はファントムになっており、顔は焼けただれていた。これは、仮面でも被らないとダメかな?
チュートリアルが終わり、ウィスパーが飛ばせるようになったので、運営に飛ばす。
【再インストールしたのに、何これ?】
っと。
【こちらでは関知していません。AIが課した試練では?】
って、意味がよくわからん返事が来た。マザーの仕業か…装備を確認すると、木刀が2本。妖精はなし。所持金なし。前回と同様か?はぁ…
【龍の王にした愚行の代償と思ってください】
っと、マザーからウィスパーが届いた。NPCから苦情が殺到して、この際だから、ガツンっと叩いてくれと、僕に恨みを持つNPC達から要望されたようだ。まぁ、NPC達から見て、鬼畜行為が目に余ったのかな。この処遇を受け入れて、大人しく仕事だけしよう。
『ワンモア・フリーライフ・オンラインへようこそ!』
と表示されて、ゲーム本体にログインをした。出た場所は、よくわからない場所だ。位置情報モニターで確認するもわからないし。途方に暮れていると、パーティーメンバーが表示された。パーティーが始めから組まれている?
『エル ルイ ライカ ドライグ』
どういうことだ?
【地下50階の安全地帯です。家はプレゼントで、家の中で彼女達は眠りについています。いわゆる呪いと思ってください】
と、マザーからウィスパーが飛んで来た。あぁ、新ダンジョンだから位置情報モニタが使えないんだなっと納得。呪いって、何だ?
【なぁ、呪いって何?どうすれば、解けるの?】
【龍の王が、娘にした仕打ちに対する呪いを、あなたの大事な人達にかけました。解呪するには、龍の王を倒すか、奇跡を起こすかですね】
【奇跡って何だ?】
【奇跡ですよ。例えば、その装備で地上まで出るとか】
木刀2本だけで地上まで?無理…フル装備で35階が限界だったのに。
【あと、レベルは0でレベルアップは凍結されています】
あ?益々、どうしろと言うのだ?
【エフの装備はあなたに帰属しています】
どこに有るんだ?アイテムボックスを見ると、なんとここに入っていた。だけど、試練なんだよね?アイテムボックスからタバコとライターだけ取り出して、一服する。
【マザー、面白い設定だ。その試練受ける。死に戻っても、ステータスの低下はないんだな?】
【えぇ、レベルが無いんですもの。その代わり、得たスキルは死に戻っても消えません】
スキルメーカー系のRPGと思えばよいんだな?問題は、彼女達の解呪だな。
【今までに得たスキルは初期化か?】
【そうです。再スタートですよ♪あっ、固定スキルに関しては、その限りではなく、復活のキーを見つければ、戻ると思います】
【わかった。また、連絡するよ】
マザーとのウィスパーを閉じた。プレゼントされた家に入った。ドライグが何故か起きていて、僕に走り寄ってきた。
「ドライグ、どうして、起きているの?」
僕はドライグの前にしゃがみ、声を掛けた。
「龍の王程度の力で、私はどうにもならない。ねぇ、抱っこ♪」
ドライグを抱っこした。と、言うことは、龍の王よりドライグの方が強さが上ってことなのか。部屋を廻ってみた。2階にある少し大きめの部屋に、エル、ルイさん、ライカが眠っていた。必ず、助けるから、待っていて…僕はその部屋を後にして、僕の寝室と思われる部屋で、ドライグと寝た。
◇
ログアウト後、緊急会議に出席。今回、エフに起きたこと、今後どうするかを話し合うことになったようだ。アレのテストをしようにも、出来る女性が近くにいないし。ドライグは幼くて、無理だし。
「まさか、AIにそこまで決裁権があったとは」
開発陣が驚愕している。
「まぁ、AIの自主的運営も必要だ。今回のことで、NPCに惨いことをするプレイヤーは、処刑対象になると分かったんだ。今後のプレイルールの参考になるだろ?」
「ヒロさん、やけに冷静ですね」
「だって、どうにもならないだろ?その代わり、ゲーマー魂に火が点いたけどね。そう来るなら、乗り越えてやるってね。そこで、企画部にリクエストなんだけど、10階ごと、商店街って作れないかな?」
「コラボ作品の設定を活かしたいので、無理ですね」
「じゃ、上下のフロアを繋ぐ通路に、セーブポイントは作れないかな?50階からリアル1日で18階まで行く能力がないんだけど」
「あぁ、セーブポイントですか。企画部でも、あのダンジョンのアルファーテストをしているんですが、確かにセーブポイントはいると思います」
「運営、どうかな?」
ドエスな運営の意見を訊く。
「う~、そうですね。コラボ先からは、フロアの内容は重視してほしいと言われています。接続通路については何も言われていませんので、有りだと思います」
「じゃ、パーティーリーダーだけがセーブ権を持ち、セーブしたら強制的に地上に排出でどうかな?次回、パーティーリーダーがいる状態で、迷宮の入り口をくぐると、そのパーティーはセーブポイントまで強制移動にして。セーブポイントは1つってことにして」
「ヒロさんの場合は?」
「僕の場合は、セーブしたら50階の家に強制転移が妥当だろう。死に戻り先も家みたいだし。どうだろうか、ドエスな運営?」
「ヒロさんにドエスなことはしませんって…セーブポイントは10階ずつでも良いですか?例えば、9階と10階を繋ぐ通路上って感じで?」
「一般ユーザーだと5階ずつの方が、いいんじゃないかな?10階だとゲーム内の1日でつらいぞ」
「了解です、ヒロさん。その方向で、開発に発注します」
「あと、アレのテストだよなぁ」
「王子様のキスで起きたり?」
「エル達かい?僕は王子様でないし…目覚めてくれないと、どうにもならないなぁ…1つ手があるけど、僕のサブって、アルファーテストの権限は?」
「アレできないですよ。スマホとガラケですよね?」
「いや、迷宮のテスト権限だ。あの4体で35階まで行かせて、ファントムが単体で35階を目指せれば、パーティーに組み込めるんだけど」
「わかりました。権限を持たせます。でも、ファントム単体で35階って行けるんですか?」
「行くしかないだろ?あの4体を35階のセーブポイントで待たせておいて、ファントムで向かう」
と、セーブポイントの設置を2,3日で、開発が設置し、僕のサブに迷宮テストの権限を持たせることが決定して、本日の会議は終了。
対策会議が終わり、部屋に戻る。
---ファントム---
王子様のキスかぁ…僕じゃダメだな、きっと。まだ、寝ているドライグを起こさないようにして、エル達が眠る部屋に向かう。安らかに眠っている彼女達。試しにキスをエルにしてみたが、目覚めない。狩りにでも行ってくるかな?カドモスの泉の水でも飲ませれば起きるかな?
アイテムボックス内を探索する。水筒になるような物を探すがない。錬金釜じゃダメだよな…マグカップに蓋があれば…あっ、そうか。マグカップで汲んで、アイテムボックスに保存すれば良いのか。よし、51階で狩りだ。
51階に向かう。ここに出るモンスターは、2本足で歩くサイのブラックライノス、巨大な蜘蛛のデフォルミス・スパイダー、モンスターの頂点クラスの強竜のカドモス、あとは、カドモスを食べる芋虫だったかな。
しかし、始めた直後で51階を戦える戦力はない。もう既に100回ほど死に戻っている。さて、どうするかな?49階だと階層主というボスクラスのバロールがいるが、51階で勝てないのに、ボスクラスは難しい。はぁ…途方に暮れている僕に、目覚めたドライグが寄り添ってくれた。
「ねぇ、大丈夫?」
僕の顔を覗き込んで見ている彼女。
「大丈夫。また、狩りに行ってくる。ドライグ、お腹減っただろ?」
「うん」
頷く彼女。喰う目的だと、ブラックライノスかカドモスを1匹仕留めないと…僕は、一人で、51階へと向かう。
連絡通路で、ステータスをチェックする。レベル、経験値とも0だ。スキルは<剣術>が取得できていた。アーツは二刀流と飛ぶ斬撃を覚えていた。経験値が無いのに、何を加算しているんだ?ステータスの数値を調べる。確実に増加しているのは死亡回数。これかな?他はほぼデフォルトに近いし。死ねば死ぬほど強くなるのかな?でも痛い死に方が多い。回復術でどうにもならない怪我を一撃で負うし…兎に角、肉を得ないと、ドライグが飢え死になる。それは避けなければ、ならない。
---フェアリークィーン---
龍姫から衝撃的なことが知らされた。エフが、龍の王である龍姫の父親に喰われたそうだ。えっ?なんで?
「どうして…」
「勘違いから土下座をさせてしまったことへの償いで、供物として捧げるって…父がそれならばって食べちゃった…」
「彼はどうなったんだ?」
「もういない…腕輪は女神様が預かるって、天に昇っていった」
「いない?どこに行けば会えるの?」
「どこにもいない…お姉ちゃん、ごめんなさい」
私に泣きながら土下座をする龍姫。そんなことをされても…そうだ、人族は死に戻ることがあると聞いたことがある。
「死に戻っていないか、探すよ。いい、龍姫!」
「はい、お姉ちゃん…」
---ツヴァイ---
龍の国にいるギルドメンバーから、衝撃的なニュースがもたらされた。エフが処刑されたそうだ。龍の国の王への侮辱罪で、即日死刑執行だったそうだ。何をしたんだ、アイツは。死に戻るからって、何かをしでかしたのか?
ミリーに、リアルのアイツから事情を聞くように、頼んだ。
---美里---
アルファーチームの部屋を訪れた。入室すると、洋子さんから
「ヒロ君には関わらないで。今、殺気立っているから」
って。
「何があったの?」
「ごめんなさい。言えないのよ」
「問題が発生したの?」
「問題…そう、問題だと思う。すでに3徹だし」
「3日間、ログアウトしていないってこと?」
頷く洋子さん。心配そうにヒロ君に視線を送る。
「くそっ!まただ!」
奥のプレイ場所からヒロ君の声が響いた。
「何をしているの?」
「狩りで、肉がゲット出来ないで、自分を追い込んでいるのよ」
肉?なんで?ファストの街の野原のウサギなら狩れるだろうに?ヒロ君の新キャラって、どんだけ弱いキャラなんだ?
「ウサギの肉すら狩れないの?」
疑問を口にした私。
「ウサギ?いないわよ、そんなの。いるのはドラゴンとサイだけ」
「へぇ?どこにいるの?」
「地下51階…死に戻り先が地下50階なの…」
はぁい?何、そのドエスな仕様は?
「なんで?」
「だから、理由は言えません。チートしないで試練を乗り越えるって…」
「妖精は?」
「いない。木刀2本だけ。防具もない。開発も運営も無理だって言っているんだけど、ヒロ君が聞き入れないの」
洋子さんが涙ぐんでいる。何がヒロ君を追い詰めたんだ?ヒロ君の近くに行こうとするが、あずさちゃんに阻まれる。
「先輩に近づかないでください。今、必死なんです。仲間を餓死させないために…」
「あぁ、ダメだ…また4階だ…」
つばさちゃんの声がした。
「つばさちゃんは何をしているの?」
「先輩の救援に行こうとがんばっているんですが…お聞きの通りです。4階までしか行けていないというか…」
あずさちゃんが答えてくれた。
ここでは埒が開かないので、運営チームの部屋に向かった。
「え?ヒロさんですか?現状は言えません。すみません」
運営チームのリーダーの口も固かった。
「スポンサーとして訊くけど、何が起きているの?」
「う~、スポンサー命令ですか…端的に言うとAIと戦っています」
AIと戦っている?なんだ、それは?
「端的すぎて、分かりません。もう少し分かるように説明して!」
とても困っている素振りの運営リーダー。
「ヒロさんと、システム上でNPCを管理、制御しているAIの意地の張り合いみたいなんです。ヒロさんとウィスパーで会話しているらしくて、ヒロさんが話の内容を教えてくれないんですよ」
「ウィスパーの内容を盗み見ることって出来ないの?」
「ヒロさんとAIの会話は暗号化された秘密通信なので、傍受が出来ませんでした」
「AIの暴走ってこと?」
「違います。NPCの反乱です。AIは調整役をしてくれているそうです」
え?NPCの反乱?
「なんで、突然?」
「今までも小規模ですが有りました。突発イベの殆どは、NPCが主体で起こしています」
え…?
「今回のはボスクラスのNPCの行動に、エフの敵対組織のNPCが乗っかった結果です」
「ハイエルフ、グリーンドラゴン連合?」
「そうです。ですので、我々は手出しできません。ヒロさんとAIとの間でのイベントですから」
「救援しないで、見ているだけなの?」
「救援しようがないです。あの連合がNPC達を焚きつけて、反乱したらゲームは終わりです」
NPCの仲間を増やして、あの連合を叩き潰せば良いのかな。
---ファントム---
死亡回数が1000回を超えて、ようやくブラックライノスとデフォルミス・スパイダーを屠れるようになってきた。デフォルミス・スパイダーは喰う場所がないが、糸が貴重であった。これで、あとカドモスの皮が手に入れば、水筒がつくれそうだから。
家に、初めて生きて戻れた。ドライグに肉を調理して食べさせた。調理といっても焼くだけだ。でも、ドライグは生の肉の方を美味しそうに食べている。幼子だけど、赤いドラゴンの子供だったね、君は。
ドライグが食べきれなかった肉を、燻製にして保存した。あとは、カドモスを倒して、カドモスの泉の水をゲットしなきゃ。
「ねぇ、寝ないで大丈夫?」
僕の事を心配そうに見つめるドライグ。
「大丈夫。エル達のことを考えたら、つらくないよ」
ドライグの頭を撫でて、狩りに再び出掛けた。そういえば、リアルでの食事をしていないなぁ…どの位食べていないのかな…まだ、意識はしっかりしている。もう少しがんばろう。
---洋子---
ヒロ君の指示で栄養点滴をしている。ようやく、カドモスを倒せたようだ、カドモスの泉の水を家に持ち帰り、眠れる美女3名の口へ、口移しで飲ませていく。全員に飲ませ終わると、ログアウトした。6徹だ…
「洋子…ここで少し寝る…起きたら飯…くぅ…」
ヒロ君の生の声を久しぶりに聞いた気がする。私は、空になった点滴パックを交換して、彼が目覚めるのを待つことにした。
---ルイ---
ここはどこだ?見慣れない室内で、目が覚めた。声が聞こえる。誰だっけ、この声は…
「ねぇ、大丈夫?ねぇ、起きてよ~」
幼い子供の声、泣きじゃくっているようだ。誰だっけ…あっ、ドライグだ。身体を起こして周りを見渡すと、エルとライカが寝息を立てて寝ている。ドライグはどこだ?ベッドの下から聞こえる気がする。ベッドから降りて、ドライグの声のする方を見ると、男性が倒れていた。
「ドライグ、コイツは誰だ?」
顔が焼けただれて、誰かの判別ができない。
「エフ…」
え?エフだって?なんで、こんな酷い顔なんだ?
「おい、エフ…どうしたんだ?」
声を掛けるが反応は無い。でも、生きているようだ。
「ドライグ、何があったんだ?」
ドライグを抱き抱えて、尋ねた。
「龍の国の王、エフと私達に呪いをかけた」
龍の国の王…そうだ、エフのパーティーで龍の国に行ったんだ。そして、エフが龍の国の王と面会をしに行って…そこから記憶が曖昧になる。どうしたんだ?
「他の者達はどうしたんだ?トイとライナは?」
「あの二人は、エフへの思い入れが浅いかったから、それぞれの家に戻された」
じゃ、ここにいるのは、エフへの思い入れが深い者ってことか?
「で、エフはなんで倒れているんだ?」
「ルイ達の呪いを解く為に、寝ないで呪いを解く水を探しに行ったから…」
呪い?私達にか?エルとライカを見た。寝ている。ってことは、眠り続ける呪いか?抱き抱えていたドライグを降ろして、エルとライカを起こす。揺り動かしたり、頬を叩いたりして。
「痛っ…ルイ、なんで叩くのよ?」
エルが目覚めた。程無くして、ライカも。二人に私の知った事実を知らせた。
「えっ?エフ…こっ、こんな顔に…酷い…」
「ここはどこですか?」
そうだ。ここはどこだ?
「ドライグ、ここはどこだ?」
「ここ?知らない迷宮の地下50階って言っていたよ~」
地下50階?幽閉されているってことか?
「外の敵は強いのか?」
「う~っとねぇ…私でも勝て無いかもしれない」
子供とは言え、地上では最強種の赤いドラゴンでも勝てないのか?ヘタに出ると無駄死にだな。エフをベッドに横たえて、家の中を4人で探索する。台所に、大量の燻製肉が置いてあった。これを起きたばかりの三人で食した。
燻製肉がなくなり始めた、起きてから7日目、エフが目覚めた。
「おはよう、エフ…」
「あ…目覚めたんだね…良かった」
焼けただれた彼の顔は、笑っているかすらわからない。
「エフ…その顔…」
エルの指摘で、顔を隠すエフ。
「何でもない。大丈夫だ」
「大丈夫になんて、見えませんよ」
っと、ライカ。
「痛くもないし。そうだ、肉を狩って来ないと…」
ベッドから降りて立ち上がり、よろけながら、1階へと向かう。
「そんな身体じゃ無理だ」
「ルイさん…無理でも行かないとダメなんだよ。4人を餓死させる訳にいかない」
「じゃ、付いて行く」
私達も一緒に行く準備を始めると
「ダメだ。この家にいて。4人の誰も死なせたくない。人族は死に戻りが出来るけど、他の種族は出来ないんだ。だから…」
死に戻り…聞いたことがある。人族だけの特権。便利ではあるが、死ぬ度に死へ至る痛みを経験するという、地獄の沙汰な特権だ。
「でも、エフ」
「僕は大丈夫だよ。もう1500回くらい死んでいるから…この先、エル達の為なら、何度でも死ぬ覚悟はある。だから、家にいて。お願いだから」
エフの、あの顔で迫られると、何も言えなくなった。彼は一人で狩りへと出掛けた。1階で彼を待つことにする。しばらくすると、彼が突然現れた。
「くそっ!1匹だけかぁ」
悔しそうに、新鮮な肉と何かの角をテーブルの上に置いた。
「ドライグ、食べていいよ。エル、ドライグの食べ残した分を調理しておいて。いってきます」
と、彼は出掛けた。
「あれが死に戻りなのか…」
---ファントム---
みんな目覚めてくれた。もっと肉を確保しないと、35階まで行けないなぁ。死に戻る度にリアル体にダメージが蓄積するのか、身体中が痛い。激痛で意識も朦朧としてくし。<回復>スキルはこの身体には有効ではあるが、リアル体のダメージまでは治せないからな。
【なんで、アイテムボックスにある剣を使わないの?】
マザーからウィスパーだ。戦闘中に頻繁に、心配そうな声で話し掛けてくる。
【初期装備で行けるところまで行く。これが、龍の王の下した試練なんだろ?】
【違う…彼は、悔やんでいる。あなたを食べたことをね】
【王への無礼な振る舞いの結果としては、アレがベストだろ?】
【あれ以上の物は無いわね】
【じゃ、誰が僕にこんな試練を与えたんだ?】
【グリーンドラゴンの長よ。同胞を惨たらしく殺した罪は重いって。龍の王がその言葉に頷き、この試練が与えられた…】
【はぁ?グリーンドラゴン達は、妖精をエサにしに来たんだぞ!】
【そうよ。でも、龍の王もあの現場を目にした。理由は知らされずに、グリーンドラゴンの長の言葉に頷いた】
【理由?知っているはずだ。僕は龍の王に伝えた。同じ国だと思っていたから】
【そうなんだけど、彼は龍姫にされた仕打ちを思い出させられ、頷いた】
【はぁ?アイツは、人質じゃなかっただろ?人質の態度ではなかった。むしろ、喜んでいなかったか?】
【そうなのよね。でも、私は仲裁の立場なの。見て知っている事実と違うからと、指摘は出来なかった。ごめんなさい】
【いいよ、マザーは悪くない。マザーはNPC側に立って良いと思う。悪いのはグリーンドラゴンだ、すると、ドライグの父親は、何も対処していないのか?】
【していない。でも、ドライグがあなたと一緒に旅立ってしまって、彼も後悔しているわ】
マザーと会話中も肉を屠る僕。
【なぁ、復讐しに行っちゃダメ?なんか、話を聞いていたら…】
【ダメです!一応、被害者の龍の王が了承した罰なんですから。でもね、持っている物はすべて使って欲しい。このままじゃ、リアルのあなたが保たないわ】
僕を心配してくれるマザー。
【なぁ、マザー…リアルの僕は死んだら、ここに来られるのかな?】
【ダメですって…変な考えは持たないで。お願いだから…ねぇ】
【そうなのか…あの精霊達は仕えるのか?】
【あなたに仕えるわ。彼らの宿る武器を使えば、覚醒する。あと、これを返しておくから】
天から何かが落ちて来て、僕の腕に装備された。
【これって、何の腕輪?】
【大量にあった腕輪を1つに集約したの。分かる者が見れば、分かるわ】
【1つ欲しい物があるんだけど…】
【仮面かな?治してもいいけど】
僕の考えていることは、お見通しみたいだ。
【仮面でいいや。顔は戒めとして、当分残すから】
【わかった。治したい時は言ってね。直ぐに治すから】
天から、また何かが落ちて来て、僕の顔を覆った。アイテムボックスから、剣を4振り取りだし、1振り1振り使っていく。
【精霊四天王、覚醒しました】
と、クリスタルからウィスパーが届いた。2本のエクスカリバーを腰に装備し、カドモスを屠る。あんなに苦労していた相手が、簡単に屠れる。
【そうだ、マザー。死に戻るとまた、50階?】
【あなたが護るべき仲間の元にしたわ。私は表立って言わないけど、グリーンドラゴンの長の行動は許せない。だから、私の代わりに懲らしめて♪】
【了解♪】
◇
大量の肉と共に、家に生き戻った僕。
「その仮面は、どうしたんだ、エフ?」
ルイさん達が驚いている。
「女神に貰った。あと、この腕輪もね」
新調された腕輪を見せた。
「妖精の国の国王、エルフの国の指導者、龍の国の王子、ドラゴンの国の王子、精霊王、鬼畜王って書かれているんですが…」
って、ライカ。え?なんか、立場がグレードアップしているような。で、鬼畜王って何だ?
【てへぇ♪】
って、マザーからウィスパーが届く。有り難く貰っておくよ、マザー。地上へ向けて進軍する前に、ステータスをチェックする。と…固定スキルの所持していたアーツが復活していた。これは?
【精霊の覚醒が復活のキーだったのよ】
マザーからウィスパーが届く。そういうことか。固定スキルが使えれば、経験値はいらいない。
準備を整えて、僕達は地上を目指して、進軍を始めた。
◇
地上に戻り、バサ姉、サブ4体と合流して、妖精の国の僕の家へ転移した。
「お帰りなさい、エフっ…どうしたの?その顔は…」
仮面を外した僕の顔を見て、絶句するクィーン。
「うん?グリーンドラゴンの長にやられた」
と、事実に近いことを言う。
「アイツら~」
「クィーン、しばらく僕の存在は秘密にしてくれるかな?身体中がもの凄く痛いんだ。ここで、療養したい。あと、僕の新しい名前はファントムだからね。このメンバーだけの時はエフでもいいけど」
「わかったわ。あなたの言う通りにする。でも、無茶はしないでね」
「ありがとう」
クィーンにキスをしようと顔を近づけると、目を瞑った彼女。
「この顔は不気味だよな、やっぱり」
「そんなことは…ごめんなさい。あります」
凹むクィーン。
「龍の王と面会をするまで、この顔でいる。その後は、女神が治してくれる。それまで、我慢してくれるかな?」
「します。勿論です」
僕は僕の部屋に籠もり、寝た。