---ファントム---
ミリーさんに連絡して、ダンジョンの入り口で待ち合わせをした。アース達と潜る約束を果たすためだ。僕の無茶なチャレンジ中に、運営、開発、コラボ先が、バグ取りをしていれくれて、18階までバグは取れているようだ。それよりも下層も、キャラを育てつつ、チェックをしてくれているようだ。
僕のゲーム内での6徹とか、10徹とかを聞き、少し危機感を持ってテストをしてくれている。良い傾向だ。
そして、ダンジョンの入り口に、僕のチームメンバーで向かった。エル、ライカ、ルイさん、ドライグ、バサ姉、サブ4体だ。ここに、ミリーさん、アース、ツヴァイ、カザミネが加わる予定だ。
まぁ、ベータテスター向けに、ダンジョンの18階までは解放してあるので、既に潜っているのだろうけど。
「来た来た~」
っと、ミリーさん。エルがいることで確認したのだろうが、見慣れない者が多数で、警戒気味ではある。
「エフは?」
「ロストした」
アース達が驚いている。
「だって、死刑にされたんだぞ」
「死に戻れなかったのか?」
「それがこれだ」
仮面を外して見せた。ミリーさんは悲鳴を上げているし。
「まぁ、こんな顔になった。名前もファントムだ。それでよろしく」
騒然としているアース達。まぁ、スプラッタ系な顔だしなぁ。
「あと、見慣れない、そちらは?」
「僕のサブ4体」
「4体って…噂は本当だったんですか…」
カザミネが驚きの声を上げた。
「噂って?」
「一人で5体操っている猛者がいるって…」
「あぁ、社内リークだな。しょうがないヤツがいるな」
「一人で5体って操作できるのか?」
「可能だ。但し、VR無しを推奨するぞ。あと、僕の後輩のバサ姉ださぁ、潜るぞ!」
◇
牛さんの大群以外は、アース達だけで大丈夫そうだった。牛さん=ミノタウロスの大群は、弓使いのアースとは相性が悪く、ツヴァイ、カザミネの前衛が撃ち漏らしたヤツらを、僕達のチームで屠っていった。食料難を経験した僕には、ステーキがうようよ落ちているように見えた。手に入った大量のステーキ肉はアースに預けた。
「まぁ、こんな感じだ」
無事に18階に辿り着き、宿屋にインして、一番大きい部屋に集まった僕達。エル達NPC組には部屋で休むように指示を出した。
「確かに、牛の大群は遭遇するとつらいなぁ」
っと、アース。
「でも、あの肉はうまいんだよ。あの大群ラウンドで、肉をどれだけ手に入れるかで、先々の食生活は大きく変わるぞ」
「51階の肉はおいしいの?」
っと、ミリーさん。
「牛さんの味に慣れちゃうとつらいかな。でも何も無い時には、ご馳走だよ」
「なぁ、50階から生還したと聞いたが、メンバーはどんな感じだ?」
ツヴァイから質問が来た。
「基本、ファントム一人だ。エル達をロストさせる訳にいかないからな。35階にサブを待機させていたから、50から35まで一人って感じだ」
「どの位、死んだんだ?」
「2000位だ。未だにリアル体に後遺症が残っている。VRの長所ではあるが、あんなに死ぬと、リアルな身体にダメージは残る。斬られた痛みとか、裂かれた痛みとか、神経が覚えているんだ」
「今後のスケジュールは?」
「50階までテストをして、問題なければ、一般公開かな?18階までの公開なら、すぐにでも出来るが。僕は、当分違う地域担当になるから、後は、好きなように愉しめば良い」
「新しい街が出来るそうですよね」
カザミネの情報の速さは凄いなぁ。
「まだ、ラフの段階だ。あぁ、新しい街はカザミネは行かない方がいい。これは忠告だ。無理にとは言わない。自己責任で頼むよ」
「なんだ?なんか、危ないトラップがあるのか?」
と、ツヴァイ。
「悪い。まだラフ段階だ。詳しくは言えない。そろそろ落ちる。まだ疲れが抜けていないんだ」
そして、自分の部屋に戻り、ログアウトした。
---ヒロ---
「バサ姉、後、頼むよ」
「はい、街の中の検査ですね。了解です♪」
「洋子、会議の時間まで、仮眠室にいる」
「了解」
僕は壁に身体を預けながら、仮眠室を目指し、ベッドに辿り着くと横になり、爆睡…
揺り起こされて、気持ちの良い睡眠時間が止まった。美里さんかな?目を開くと、開発部のリーダー。男に起こされてもなぁ…
「ヒロさん、お願いがあります。イーグルジャンプに行って、ラフを貰って来て下さい」
って…はぁ?
「なんで?」
「たまには、外に出ましょう。外周りも大事ですよ。他社の開発環境を偵察っていうのも有りだし」
「ラフが上がって来ないのか?」
「はい」
「しょうがないなぁ…場所はどこだっけ?」
プリントアウトした地図を手渡してきた。
「アチラの会社でダメ出しをして来てください。良さそうな物はデータ化作業をしてもらってください」
あぁ、そういうこと…決裁権のある僕じゃないとダメなのね…
「じゃ、行ってきま~す…」
「居眠り歩きはダメだよ」
って、洋子の声で送り出された僕。
◇
電車を乗り継いで…いつ以来だろうか電車に乗るって。紆余曲折しながらも、イーグルジャンプ社のビルに辿り着いた。受付で、身分証を出し、キャラ担当のフロアへとエレベータで昇っていく。
目的のフロアで降りた。近くにいた社員の人に、八神コウさんを呼び出してもらった。
「え?ヒロさん…なんで…」
驚いた顔の八神さん。
「ラフが上がって来ないから、今までに出来た分の裁定に来ました」
「いや。来るなら来るって言ってくれないと…」
「まさか、描いていないって、オチじゃないですよね?」
ギクっとしたな。おぃおぃ…頼むよ…
「で、八神さんの席は?」
「ダメです。ヒロさんに見せられません~」
僕の背中に抱きついて止める八神さん。胸の感触が良いなぁ…抱き枕にして、直ぐに寝たい気分だよ。
「なら、青葉さんの席は?」
パーティーションで区切られたチームごとのエリアか。壁で仕切るより、解放感はあるな。少し、進むと、青葉さんがいた。
「青葉さん、出来た?」
僕の顔を見ると、血の気が失せていく青葉さん。コイツもか?
「いや…すみません。要望に沿う物が、中々描けなくて…」
「今までに出来た没原稿を見せて」
青葉さんから紙の束を渡された。結構枚数は描いているようだな。内容を精査していく。ふ~ん…そういう事か。
「青葉さん、裸体を描いて、ラフでいいから」
顔を真っ赤にしてしまった。言い方が不味かったかな?
「こういう場合は、裸体でラフを描いて、それに服を着せるように衣服を描くと良いんだ。君のラフはかわいいんだけど、裸体が想像出来ないんだよ。いいかい、猫人なんだよ。猫耳、と尻尾だけではダメ。骨格も違うはずだ。人間を書くようにしてはダメだよ」
実際にラフを描いて見せる。
「腰の括れがキーポイントだ」
「なるほど…」
「そうだな。八神さん、脱いでみて」
「えっ?」
「モデルがいないと書けないし、説明も出来ないだろ?」
「いやいや…そういう仕事で無いし」
「今から、モデルの手配が出来るならいいけどさぁ。どうなの?」
「はじめ、お前がモデルをやれ!」
ボーイッシュな外見の女性に命令した八神さん。
「なら、二人共やって」
「ヒロさん…私はデフォなんですか?」
「責任者なんだろ?身体を張れよ」
「モデルって?何をするの?」
はじめ君が質問してきた。
「下着姿になって、四つん這いになって。早く!」
「「え~!」」
「出来ないのか?じゃ、違約金の準備をして。僕も忙しいんで、これで失礼します」
その場から立ち去る僕。そして、社に戻り、開発に行く。
「あっ、ヒロさん。何をして来たんですか?イーグルジャンプの担当さんから、謝罪の電話が来ていますけど」
「やる気が感じられないので、違約金の用意をしてって言ってきた。社内でやるぞ。人員を用意してくれ」
「いや…人員ですか…無理だから、社外に…」
「しょうがないだろう?やる気がないんだ。研究心が足りない。良いか?人間と猫では足首が違う。関節のしなやかさが違う。違う面が多種多様だと思うんだ。人間ベースで猫っぽく直す感じじゃダメだと思わないか?」
「ヒロさんの仰ることは、分かりますが…」
「じゃ、ラストチャンスだ。青葉っていうラフ担当と、八神さんとはじめ君で、うちの社内で缶詰にする。期間は…最低3日だ。それで、了承を取ってくれ」
「わかりました」
「そういうことで、仮眠室を借りるぞ」
僕は開発の仮眠室に入り、安眠をすることにした。
---八神コウ---
いきなり下着姿になれって…無理無理…
「コウちゃん、どういう事?」
同期のりんに声をかけられた。
「問題になっているよ。ヒロさんにダメ出しされたんだって?」
「だって、無理…下着姿になれって…」
「え?それってセクハラじゃないの…わかった。抗議してくる」
りんが、上と掛け合いに行ってくれた。
しばらくすると、りんが戻って来た。
「セクハラでしょって抗議したんだけど…相手を怒らせちゃったみたい…これから、私とコウちゃんと青葉ちゃんで謝りに行くよ。はぁ…」
「いや、りん…説明が足りなかった。ヒロさんはそういう人じゃない。私以上に仕事の鬼だよ。6徹当たり前の人だし。無理難題を言うけど、それ以上のことを、やっている人なんだよ。でも、下着姿はなぁ…」
「そもそも、なんで、下着姿なの?」
「青葉のラフ…裸体の輪郭が見えないんだ。それが原因で没にしていたんだけど、どう解消すれば良いか分からなかったのを、ヒロさんに見透かされたみたいだ。女性が、女性の裸ってマジマジに見ないだろ?たぶん、青葉に実際に見せて、ラフを描かせたいみたいなんだ」
「あっ…そうなのか…それでセクハラって抗議したら…相手が怒り出したのか」
「VRゲームだから、本物志向なんだろうな。うちで作ってきたゲームと毛色が違うんだよ」
「で、青葉ちゃんは?」
青葉の席に…いない?どうした?はじめもいないのか…青葉のスマホに連絡をしてみる。
---ヒロ---
睡眠充分の僕は企画部で、ラフデザインを描いていた。寝ている間に、相手は来なかったから。なので、自分で企画書に合うキャラを次々に描いていき、企画部の連中に2次元データ化をしてもらう。
「主要なキャラ30体くらいで良いかな?後はモブで、使い回しでどうかな?」
「そうですね。3D化して動きをモーションキャプチャーさせるから、数が多いと予算オーバーですね」
「キャプチャーモデルは、新体操の選手を数名、手配してくれるかな?」
「了解です。で、このシンクロの選手ってなんですか?」
手配書に目を通していた企画部のリーダーに、言われた。
「なんだっけ…あぁ、人魚だ。今後いるかもしれないので、動きを収めたいんだ。船旅の時に、ラッキーアイテムじゃないけど、ラッキーな風景って良いかなって」
「あぁ、企画書の欄外要素ですね、了解です」
「20枚ほど書いたけど、アウトな物ある?」
「数枚、イメージが違うのが…差異点を書いておきます」
「そうするとあと20枚くらいかな?明日の朝までに終えるよ。テストに戻らないといけないからね」
「了解です!」
---八神コウ---
翌朝、出社してきた青葉、はじめを問い詰めたら、終電で帰ったそうだった。で、連絡したのは、既に寝入った後だったらしい。それは、それで説明をしないと、二人とりんを伴って、ヒロさんのいる会社を目指して、出発をした。
10時くらいには、発注をしてくれた企画部に着けた。企画部のリーダーさんが応対に出て来てくれたのだが、
「今更、遅いですよ。もうラフは終わって、今はモーションキャプチャーの手配に入っています」
って…え?昨晩の今朝で?
「ヒロさんをキレさせましたね。久しぶりに、ヒロさんと仕事が出来て良かったですけど」
「キレたって…激怒されているんですか?」
「いや、そういう人でないですよ。逆境に燃える人ですから。今は燃え尽きて、違う仕事に燃えていますよ」
「あの…」
りんが何かを言おうとしたのだが、
「違約金は要りません。でも、もう関わることは無いと思ってください」
「でも…納期は次のプレゼンまででしたよね?」
「ヒロさんが、無理と判断されたんです。今のままでは、プレゼンまで間に合わないって。ヒロさんのアドバイスを蹴ったそうじゃないですか。その時点で…ちょっと待ってください」
リーダーに連絡をしに来た人がいて、何かを話していた。
「あぁ、すみません。やる気を試したいって、ヒロさんが言っているみたいですよ。ヒロさんの試練に乗るか反るかは自由です」
出来上がった2Dデータを見せて貰った。帰社後、ラフを50枚ほど描いたそうだ。没も含めて…仕事が早すぎるだろう。でも、ヒロさんの言いたいことが分かるラフだった。妖艶な姿を醸し出している。1キャラで2つの顔もあったり。猫だから化けるってことか。
◇
喫茶ルームで作戦会議。ヒロさんの出す課題に挑戦するかどうか。
「また、下着姿になれかな?」
う~ん、あり得る。
「りん、どうする?」
「どうするって…コウちゃんはどうなの?」
「下着姿はなぁ…」
「青葉ちゃんは?」
「わ、わっ、私も下着姿はダメです」
「だよね…」
どうするかな。