どの位経ったのだろうか。身体の左右に柔らかい物が当たる。何だろうか?上半身を腹筋で起こすと、りんとコウが添え寝していた。あんなに嫌がっていた下着姿で…二人を起こさずに、仮眠室から脱出。
「ヒロさん、最終兵器の体験者はどうします?」
バサ姉に声を掛けられた。あっ…忘れていた。一応、1時間のタイマーは掛けておいたが…急いでうみこの元に行くと、果てていた。恍惚な表情を浮かべて、果てていた。彼女から端末をはずしていき、彼女を抱えて、仮眠室の二人の間に安置しておく。
「バサ姉は徹夜か?」
「へ?もう朝ですよ?私は先程出勤したばかりで…」
朝?寝過ぎたかな?
「もうすぐ洋子先輩も来ると思いますよ」
「なんか寝た気がしないんだけど…」
「疲れている時は休むのが良いですよ。たしか6徹目くらいでしたよね?」
そんなに徹夜したかな?僕は久しぶりに家に帰った。いや、家に帰っても、仕事なんだが、のんびり出来るのが良い。他の部署の連中に捕まることも無いし。
始まりの街のクエストを考える。最初の試練って何がいいかな?ソロプレイヤーの僕にとって難しいことを考える。難しいというか、苦手なこと…パーティーを組むのって勇気要るような。あっちのゲームでも、パーティーを組んでいるが、プレイやーはバサ姉だけだし、一般のプレイヤーとはパーティーは組んではいない。それにするかな。
『始まりの街 ランクアップ条件 LV50以上で、パーティーで挑み、ダンジョン内のボスを倒す』
にした。それに合わせて、プログラムを書き足していく。でもそうなると僕みたいなプレイヤーはどうするか?ソロで始まりの街のダンジョンを遊び尽くすかな?レベルだけが上がっていく。なんかつまらないな。どうするか…極めたジョブでも集めるかな?そうなると転職システムがいるな。
『ジョブ LV50で転職が可能。LV100でジョブをマスターして、必殺技を覚える。隠し要素として、LV101に最初に到達した者のみ、賞品をプレゼントし、強制ジョブチェンジイベントが発生する』
これでどうかな?取り敢えず、このジョブシステムをプログラムに反映していく。賞品については、正式公開までに考えよう。
ジョブの種類も多くした方がコレクター魂に火が着きそうだ。魔法も様々にして…なんか、考えることが多くなっていく気がする。装備やアイテムの名前も考えなくてはいけない。それらに見合うグラフィックを考えないと…うん?ミリタリーヲタクを雇えばいいのか?運営に連絡して、イーグルジャンプ社に対して、うみこを正式に派遣してもらうよう交渉をまかせた。
あと、なんだ…考えることが多すぎて、凹む僕。
どの位、悩んだのだろうか、部屋中にメモが散らばっている。頭に浮かんだことを取り敢えず、メモしていた。あとで、メモを見ながら考えをまとめようかな。そんなことを考えていた昼下がり、僕の部屋の呼び鈴が鳴った。誰だろうか?ここを知っているのは彼女と洋子と美里さんと会社の総務なんだが…
ドアを開くと、りんがいた。
「なんで?どうして?」
「食事はまだ何でしょ?簡単な物ですけど、作りますよ。ナベとかありますか?」
両手にはスーパーで買ったであろう商品が入った袋を持っていた。
「だから、どうして?」
戸惑う僕。
「我が社から人材を派遣させていただき、ありがとうございます。そのお礼ですよ♪」
うみこの件か?
「うみこさんとはじめちゃんの二人と、後、私もね♪」
へ?依頼したより人員が増えていないか?
「うみこだけのはずだが…」
「はじめちゃんは特撮マニアなんですよ。だから売り込みました。後、私はまとめ役です。そちらの運営の許可は取っていますよ♪」
りんは我が家に上がり込み、台所で鍋やら包丁を探して、水洗いをしていく、
「そんなにたくさんの人材を派遣してもらって、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。ヒロさんの元で修行と思えば、将来役に立ちますからね。うちの上の判断もあるんです。青葉ちゃんがレクチャーされたことを上に報告したんです。ヒロさんの理に叶った説明…説明するのにちょっと方法がアレでしたけど…評価されていますよ」
まぁ、実物を使ったレクチャーだからな。
「下着姿になる意味もわかりましたし、我が社のノウハウとは違うノウハウは、役立つと思われたんです。で、今回の1から作るヒロさんのゲーム。それのノウハウを見て来いってね」
りんは話ながら、料理を2、3品作っていた。なんか、久しぶりの手料理。いつ以来だろうか、とても遠い昔の気がする。
「おいしかった…ごちそうさま」
「デザートは要りませんか?」
「貰おうかな」
りんは目の前で、下着姿になった。
「私がデザートです。満喫してください。男の方は初めてですけど…」
へ?そして、僕が満喫するまでもなく、りんが満喫していた。
◇
翌日、アルファーチームの部屋に出勤。
「どう?休めた?」
洋子に言われた。
「どうにか…生きているよ…」
りん…大人しいかと思ったら…激しすぎるだろう…あれは…疲労度は美里さん並であった。
「インできますか?」
バサ姉が訊いてきた。
「インしないと…そうだ、洋子。昨日の作業日報だ。目を通して、後のことは頼んだ」
家で仕事する時は作業日報を書くようにしている。
「わかった。テストしてみる。って、何、このレベルの高さ…テスト無理かも…」
あぁ、強制ランクアップかな?LV1000を超えると強制ランクアップが発生するようにしたのだ。
「こんなにレベルを溜め込む人っているのかな?LV50とかLV100くらいでランクアップできるようにするんでしょ?」
「あぁ、通常はね。隠し要素だから、強制アップシステムはテストの範囲外でいいと思う。あと、強制アップシステムは社外秘だと伝えておいて。このゲームの肝だから」
「さすが、エスだ♪」
インをする準備をしていると、第1運営から呼び出しだ。運営や開発など、旧来のゲームが第1で、新たに作っているのが第2が担当することになる。ちなみにアルファーチームは、共通だそうだ。
◇
運営に行くと、
「アレ、発売するための小型化に着手しました」
っと、第1運営のリーダーから報告を受けた。
「洋子から聞いたのか?お菓子の国」
「はい。コラボできるお菓子メーカーを探しているんですが、女性にだけ媚薬効果のある甘味料っていうのがネックです」
「じゃ、コラボしなくても良いんじゃない?」
「その方向で進めています」
「で、呼び出した理由は?」
「猫の街のベーターテストなんですけど…」
「早速、問題発生かな?」
「カザミネさんから苦情が…」
「だから、行くなって言ったのに…」
「溜め込んだお金がロストしたけど、補填してくださいって…」
「そういう仕様だと、説明しなかったのか?」
「注意点をメッセージしたんですが、読まれなかったようで…」
「読まない方が悪いだろ。1回でも補填したら、次から次に補填しろになって、あの街の趣旨が壊れるぞ」
「ですよね…」
「強硬な手段に出ると言ったら、カザミネのせいで封鎖を表示すると、言うしかないだろうな。それで問題が無いか、法務部と相談してくれ」
「いや、相談済みです。注意事項で表記してあるのを、読まずに不利益を被った責任は、読まない者のせいではあるけど、半分は返還する方が良いのではっと」
「返還要求が多くなれば、システムに負荷がかかるだろ?う~ん、猫の街は封鎖にするのが良いな」
猫の街に入る直前に、大きな看板が表示されて、太い赤文字で
『ここから先は、自己責任で!』
と、表示されるのだが、それすらも読み飛ばしたってことか?
「問題は、全額ロストの件を掲示板に書き込んだようで…見つけて削除したのですが」
「手遅れか…あいつ、書き込み魔だからな。って、ベータテストの内容を書くのは禁止のはずだろ?」
「です。でも…」
「全額ロストで、頭に血が昇ったんか?まったく…僕の裁定としては、返金に応じないか、閉鎖の二択だ。それしかないだろ?」
項垂れているリーダー。
「取り敢えず、カザミネのベータテスト権限を奪え。あと、規約違反に関しては、これ以上騒がないなら不問、騒ぐなら、法的に争え。規約に違反時の対処は書いてあるんだろ?」
「あります。しかし、イメージが…」
「ルールに沿っての裁定が一番問題が無いんだ。1度の例外は複数の例外を生み出す。それは避けないとダメだ。いいな。それができないんであれば、僕は降りる」
僕は運営部を後にして、アルファーチームの部屋に戻った。
◇
「やってくれたね」
内線で連絡が来たのか、洋子達も事情を知っているようだ。
「あぁ…予定がずれずれだよ。問題は山積みだし」
「マジに降りるの?」
「1つに絞りたい。それが本音だよ。規約違反なんだから、罰せれば良いだろうに」
「掲示板が荒れてますよ」
って、バサ姉。
「ベータテスターの方達から、あの書き込みは、ベータテストの規約違反って声が多く上がっています。そういう体験をする為のベータテストだろうって。後、テスト内容の注意事項にもあり、街の入り口にも、注意を促す看板があったって、運営擁護の人が多いですよ」
「まぁ、閉鎖を選択しなければ、良い宣伝にはなるだろうな」
「なんか浮かない顔だね、ヒロ君」
「洋子、お菓子の国なんだが、あれのアルファーテストは誰がするんだ?僕じゃダメだぞ」
「「あっ!」」
洋子、バサ姉、あずさが同時に声を上げた。
「女性専用エリアだからな。まぁ、テスターの横に待機して、デバッグ画面とにらめっこはするけど」
「それは問題だよね。この部屋のメンツ的にはバサ姉になるかな?」
洋子がバサ姉にプレッシャーを掛ける。
「いや、私はそういう刺激は…単なるゲーマーですから…」
「あぁ、いいのがいたな。イーグルジャンプから借りているはじめとか、うみこにやらせよう」
っと、4人で納得。いや、この部屋の女性陣は誰もやりたくないんだろう。
◇
部屋のインターフォンの呼び出し音が鳴った。今度は何?
「美里です。開けてください」
美里さん来訪。ブルーカラー事案か?ドアを開けて、美里さんを招き入れる。
「ごめんなさい。うちのカザミネが…また、書き込みを…」
平謝りの美里さん。
「美里さんのせいではないから」
「あとで、ツヴァイも来るって」
「来てもどうにもならない。法的な処置にするか、示談にするか、あのエリアは閉鎖にするかだろうな。運営の匙加減による」
「あんなに作り込んだのに…」
「社の上が決めることだ。僕らのような下っ端の出る幕は無い」
「だって…ヒロ君、辞めちゃうんでしょ?」
え?なんでそんな話になっているんだ?
「辞めないよ」
「私が囲うから…生活は保障するから、だから考え直して…」
「辞めないって…あのゲームから手を引くだけだよ」
僕の言葉を聞いて、キョトンとした美里さん。
「新しいゲーム、1本に絞るだけだよ。請け負った仕事は投げ出さないよ」
うるうるとした瞳で、僕を見つめる美里さん。
「ヒロ君が抜けたら、あのゲームはどうなるのよ~」
「誰かが引き継いで、運用するでしょ?スポンサーも多いから、資金的に問題は無いし」
「でも…」
「新しい方はスポンサーが無いから、失敗が出来ない。失敗しない設計をしないといけない。それはそれでプレッシャーだけど、やり甲斐はある」
「新しい方は…私は関与していないから…でも、私はヒロ君を…」
「それだけで充分」
美里さんの頭を撫でて、優しく抱きしめた。
「問題はどう収拾するんだ?上は…」
◇
喫茶コーナーでまったり。今日は仕事にならない。アルファーチームの部屋にいると、ひっきりなしに内線が鳴り響き…僕はここに退避してきた。美里さんと共に。コーヒーを飲みながら、タバコを吸い…
「いたいた、ヒロさん!」
そう、ここにいても平穏はない。今度は運営のサブリーダーだ。
「今度は何?」
「書き込んだ本人から、謝罪のメールが届きました」
「で?」
「規約を読み直して、違反行為だったことに気づいたみたいです」
「それで?」
「穏便に済ませられないかって…」
「閉鎖でいいんじゃない?」
「それは、上が認めないようです。ヒロさんのこだわりが随所に見られるって」
「じゃ、どうするの?」
「ベータテスト権限の剥奪、イン停止2週間、次に規約違反したら法的処置に同意って、誓約書を書くことで収めるようです。彼の部隊の隊長さんが、運営を訪れて、リアルに謝罪もしていきましたし」
「掲示板の方は?」
「関連メッセージの削除。この件の、これ以上の書き込みはアラシ行為認定すると、宣言文を出しました」
「納得してくれそう?」
「えぇ…で、ヒロさんにラブコール多数です。担当プログラマーを辞めないでくれってね。あんなエスな仕様のゲームは、ヒロさんにしか出来ないって」
誉められているのかな?それって…
「じゃ、今まで通りの2本立て?」
「お願いします♪」
凹む僕。いい機会だから1本に絞ろうと思ったのに。
「一件落着かな?」
美里さんが僕の肩に、チョコンと頭を載せて、そう呟いた。
◇
あぁ、今日は何も出来なかった。凹んでいた僕の前にりんが座った。
「その方はどなたですか?」
って…
「デカイ方のゲームのスポンサーの一人で、美里さんだ」
「ふ~ん、仲が良さそうですね」
なにかトゲのある言い方だ。
「ヒロ君、その人は誰?」
美里さんもトゲのある言い方だ。
「小さい方のゲームの仲間だよ。グラフィック等を担当するチームの纏め役だ」
「ふ~ん」
なにやら重苦しい空気が…この場を立ち去ろうと立ち上がると、後ろから抱きしめられた。この胸の感触は、コウかぁ…
「今日はお疲れ様でした♪」
って言うと、僕の頬に口づけを。それを見た美里さん、りんが、
「「何しているのよ~!」」
って…こういうシチュエーションはダメです。
「うん?今日の激務を労っているだけだけど♪」
コウって、空気読めない子なのか?
「ねぇねぇ、飲みに行こう!」
って…
「なぁ、コウ…ノルマは終わったのか?」
「ノルマ…?何だっけ?」
「昨日の分の3体と、今日の分の3体の合わせて6体なんだが…アルファーテストをしたいのだが、当然、出来たんだよな?」
「あっ…明日の朝までで、いいですか?」
「やることをやってから、やろうよ♪」
背中から胸の感触が遠ざかっていく。コウが仕事に戻ったようだ。さてと、帰るかな?
「今の人は誰?」
美里さんの声が低い…
「彼女の彼女だよ」
「あぁ、彼女は百合なのね?」
なんか安心したような声の美里さん。
「いや、両刀だよ…」
僕の一言で、美里さんが、僕の腕に縋り付いた。
「今日はお持ち帰りするからね!いいわね!」
って。
「そういう強引な女性はヒロさんに合いませんわ。今夜も食べてください♪」
あの~、僕、一人になりたいんですが…って、とてもじゃないが、言い出せない雰囲気であった。どうするかな?そうだ…自分のスマホの着信音を鳴らして、スマホを耳に当てて、エアー通話をした。
「うん?どうした?問題発生か?わかった、直ぐに行く」
スマホの通話を切る動作をして、
「すまない、問題が起きた。これで失礼する」
と、言って、その場を立ち去る予定だったのだが、
「どこの部署で問題が起きたのかな、ヒロ君?」
「ヒロさん、嘘を吐くのが下手ですよね」
って、二人に捕獲された。
「三人でじっくり話しましょうか?ヒロ君の家でね♪」
僕は二人に拉致されて、自分の家に連れ込まれた。