---ヒロ---
最終エリアの設定を煮詰めていく。
外周の森の部分『蛇の道』のトラップを考える。森だし、草系のモンスターも有りかな?巨大な花とか…甘い香りで女性プレイヤーを惑わしたり、食虫植物のようなのも有りかな…等と、思いつくとメモ書きをしていく。
そのメモを盗み見たはじめが指示を待たずに、モンスターのラフを描いていく。まぁ、こういう方式だと緊張感が無いので、良い物が創造出来たりはする。
「幻覚で見える森もいいかな?誘われると、落とし穴に落ちるとか」
呟いた後、横目で洋子を見ると、スルーしている。良い案だと、メモ書きをするのだが、これは没だな。
「最終エリアは余計なトラップより、純粋に戦いがいいんじゃないの?」
っと、洋子。う~ん、そうかもなぁ。
次に、祠の地下から『神の杖』へと広がる迷宮に着手。って言っても、予め作っておいた迷宮作成プログラムで、作成するだけだ。作成された迷宮に、アイテムや、隠し部屋などのボーナス要素を入れて、迷宮を手直ししていく。
はじめが興味深そうに、僕の作業を見ていた。
「そうやって、広大な迷宮を作っているんですね」
だって。イーグルジャンプ社では、手作業で作成しているのかな?
呼び鈴がなり、洋子が応対すると、りんが紙の束を持ってやってきた。
「今日の分までのラフです。遅くなりました」
束に目を通して、やり直しのラフにチェックを入れて、りんに返した。
「やり直しの分は、明日までに頼む。オーケーな物はデジタル化してくれる?」
僕から束を受け取ったりんは頷いて、グラフィックチームの部屋へと戻っていく。
「ヒロくん、第一運営からご指名よ」
って、内線の応対をしていた洋子から、声を掛けられた。また、何かを作れか?インしたいんだけど…
渋々、第一運営に向かう。
「ヒロさん、おかしの国をベーターに切り替えて、ぼったくり村を実装します。で、ですね…次の街をお願いします」
あぁ、やっぱり…
「何か構想ある?もう1つの方に創造力が向いていて、浮かばないんだけど」
「あちらの最終ステージはどうですか?」
「リンクテストか?」
「それも有ります。まぁ、期間限定のつなぎ要素にならないかと、思いまして」
「期間限定ではダメだ。一度入ると、死に戻らないと、リンクポイントに戻れないからな」
完成していない状態で、余計なルーチンを入れたくないので、拒否だ。
「では、代替案はありませんか?」
結局、僕の創造力、妄想力に頼るのか…あぁ、そうそう、1つ構想中の物があるけど…
「装備と魔法が使えない世界…素手でしかダメージを与えられない敵…基本ステータス勝負の世界って言うのは?」
しばしの沈黙…没だろうな。集めた装備と、鍛えたキャラが一気に弱くなるし。しかし、
「それ…良いですね。そういう手がありますね。流石、ドエス設定プログラマだ」
それで良いのか…プレイヤーから苦情出ると思うぞ…
「それで進めてみます♪」
僕を頼りすぎな第一。優秀なスタッフを第二に集めすぎたかな…少数精鋭にしたのが、裏目に…
第二の方は、指示無くとも、淡々と作業が進んでいるのに…
◇
アルファーチームの部屋に戻った。
「第一から聞いたよ。素手での戦いの世界って…まるでDBな世界ね」
っと、洋子。有名アニメのDBに近いけど、あれは完全なる素手ではないと思う。オーラとか魔力弾とかあるし。
「でも、それだと、服装は道着だけで良いですよね」
って、翼。
「グラフィックチームの負担が減るだろうな。でも、あれか?道着を何種類もデザインするとなると、負担増になったりしてな」
と、また呼び鈴がなり、洋子が対応してくれた。が、
「ヒロくん、珍しいお客様よ~♪」
茶化すような、弾んだような洋子の声…えっ?まさかなぁ…
「てへへ♪来ちゃった~」
ドアから現れたのは…日比谷杏…僕の彼女だ…なんでよ~
「連絡して…くれなかった…のか…」
あせる僕…
「いや~サプライズも良いかなって」
彼女を見て、初めて会う面々、まぁ、洋子以外全員が固まる。
「ヒロさん…彼女はいくつですか?」
あずさから質問された。答えたくない。
「私ですか?今年、成人式で~す♪」
「ヒロさん…まさか…淫行?」
はじめが呟いた…かもしれない…彼女の両親の同意がない場合は…僕達の反応を楽しんでいるような杏と洋子。
◇
夜、みんなで僕の家に…宴会場状態だ…りんと洋子と杏で、つまみを調理していく。コウやうみこの質問責めに遭う僕。
「どこで知り合ったんですか?知り合う時間が無いように思えるんですが…」
コウが的確に僕にダメージを与えて来る。
「家庭教師のバイトをしていた時…まぁ、何て言うか、教え子だ…」
「おっ、お、教え子に手を…さすが、鬼畜ですね♪」
「コウ、鬼畜言うな…」
「え?家庭教師のバイト?プログラムで、喰えなかったんですか?」
プログラマーのうみこから訊かれた。
「その頃は喰えなかったんだ。今の会社に入社してからだ。喰えるようになったのは」
「昔は1本いくらで商売していたんだよ」
って、杏から言わんで良い補足が飛んで来た。
「流れのプログラマーだったんですか?」
「まぁ…そんな感じだよ。年間5本、実質1週間働いて、1年を過ごす感じ…」
「あこぎですね♪」
かもしれない。今の仕事量を考えると。
「杏さんもプログラマーになるの?」
りんが杏に尋ねている。
「私は…浩介先生のような教師になりたいです」
杏から爆弾発言が…コウは逃さずに、僕を畳み掛けてきた
「ヒロさん…教師だったんですか?教科は、何?保健体育かな?」
いや、保健はいいとしても、体育は無理…真実は…言いたくないなぁ…
「うっ…う~…家庭科…」
「「はぁ?」」
杏、洋子以外の全員からブーイングが来そうだ。
「えっ?なんで?」
調理中のりんがもっとも驚いているようだ。まぁ、家庭科を教えていた割に、部屋に家庭感がないし…
「元々、得意教科だったし、教師になるのに手軽そうで…で、教師としてのストレスを発散する為に始めたゲームに嵌まり…自分で作るようになり…」
とてつもないカミングアウト発言の気が…皆、『へっ?』って感じの表情で固まっているし。
「で、杏ちゃんは、何を習っていたんだ?」
はじめが杏に訊いた。
「物理と化学と数学…家庭科の先生が教える教科では、無いんですけどね」
ギャップに更に固まるはじめ、コウ…
「なんですか?その無茶苦茶な職歴というか、履歴は…」
うみこが呆れ始めたようだ。
「基本ノープランで生きているから…で、杏と付き合い始めて、まともに働こうかなって…今の会社だって、初めは専任テストプレイヤーで入社したんだ。毎日ゲームして、飯喰えるのは天職だと思ってね…それがまさか、プログラマーになるとは…」
「だって、うちの会社で売っていたゲームより、ヒロ君が無料で公開したゲームの方が面白いし、ダウンロード数も勝っていたし」
と、洋子の補足が入った。そう、趣味で作ったゲームが大人気になり、そのことを洋子が会社にチクった為、仕事でも作ることになったのだ。
「で、現状に至ったんだ。ここだけの話で、内緒にしてくれ~」
「うっ…確かに自慢できる職歴で無いし…ギャップ有り過ぎだし…」
コウは生唾を飲むような仕草をして、小さな声で呟いた。
「あと、杏の事も秘密だぞ…仕事の進行具合に影響が出るから…」
「確かに、淫行疑惑を社内で囁かれたら、ヒロ君は凹んで、仕事にならないわよね」
洋子が茶化すように言う。いや、実際そうだと思う。
「って、言うか、ヒロさんの年齢がわからないんだけど…」
「それは秘密だ。年齢差を考えるな、はじめ!」
「ねぇ、浩介先生、私も新しいゲームやってみたいなぁ♪」
「ヒロ君、テスターとして、試してもらったら?素人目線からのチェックも必要だと思うんだ」
と、的確な意見の洋子。
「そうだな。もう少し手直ししたら、頼む」
「うん♪」
---ミリー---
ブルーカラーの主要メンバーとアースで、迷宮の18階でまったりとしていた。牛さんの大群に出逢って、命からがら撤退してきたのだ。
「なぁ、最近、エフはインしていないようだけど、カザミネの件の影響か?」
ツヴァイに訊かれた。
「いや、彼、忙しいから。違うゲームも担当するようになってね」
「うん?違うゲームって?」
アースが興味あるみたい。
「ここより、リアル性が薄いけど、VRだよ。まだ、詳しくは公表出来ないけど」
「それより、どうなんですか?新しいエリアのベータ公開しているようですけど」
永久的にベータ権限を剥奪されたカザミネが訊いて来た。
「女性限定だよ。う~、オススメは出来ないよ~」
「ミリーさんはテストしたんですか?」
コンポタが訊いて来た。
「したけど…あれは地獄だよ~」
「地獄?」
「足抜けが難しい…」
お菓子の国がベータとして公開された。あの恐怖は…でも、身体はあそこに行きたいのか、ムズムズしている。
「そうなると、アルファーで次を作っている可能性があるな。って、この新大陸のエリアって、上級者向けな気がするな」
ツヴァイが率直な感想を述べた。従来のエリアよりも、課金率も高いし、刺激も強い。アダルト機能を解放しているしね。その分。試練のハードルは高い。
「ここも60階まで解放されたけど、30階までが遠いよな」
下層に行く程、広くなっていく迷宮。モンスターハウスも有るらしいし、手練れのパーティーで無いとつらい。
「まぁ、5フロアごとにセーブポイントが有るのは、救いだな。死んでも、死に戻り先はセーブポイントになっているし」
ベータテスト時に体験した牛さんの大群…相変わらず、アースとの相性は悪い。
「あの牛さんの大群がネックだな。エフはステーキ肉に見えるとか言っていたけど」
「その通り、あの肉は旨い。それは事実だよ、ツヴァイ」
苦笑気味のアース。
「あれ?ファントムからメッセージが入った」
ツヴァイが怪訝な表情で、メッセージに目を通しているようだ。
「マジかぁ~。はぁ~、新しいエリアは、ここよりもハードなのか…」
私には知らせずに。ツヴァイに?ヒロ君…何で…
「どうしたんだ、ツヴァイ?」
ツヴァイの顔の血の気が引いているようだ。ここよりもハードって…
「アース、次のベータテストエリアは、半端無さそうだ…ブルーカラーとアースにだけって条件で、情報をくれたんだが、カザミネ、分かっているんだろうな?」
ツヴァイに睨まれて、申し訳なさそうな表情のカザミネが頷いた。
「次のエリアは、基本ステータス勝負だそうだ」
「うん?どういう意味だ?」
「装備、魔法による攻撃では、敵にダメージが通らないって…」
「素手、素足、頭突きか?」
「のようだ、アース…」
予想だにしなかった、これから来る試練に言葉が出ない。
「どうするんだ?あの人…ドエスだからなぁ…ははは、まいったな~」
笑いながら頭を抱えるアース。
「確かに…この迷宮で、魔法攻撃や剣技を磨いて、挑もうとした先が、それじゃなぁ…報われないな♪」
でも、なんかツヴァイもアースも楽しそうだ。
「あの人のドエス設定は、ワクワクするな。予想出来ない展開だしな」
「きっと、新しいゲームも予想外な設定なんだろう」