---美里---
何が起きているのだ?先日の倉庫の件といい、昨晩の件といい。私の経験は夢での出来事なのか?欲求不満なのかな?
でも、あのプロフィールが無くなっているのは、どうしてだ?昨日は有った。なのに…公務員って言っていたよな。財団のサーバーに繋ぎ、情報を検索してみる。しかし、出て来ない。年齢から産まれ年を割り出して、その年生まれの公務員を調べてみるが、ヒットしない。財団のサーバーは、色々な国の情報も見られるのに…
彼の住民票を調べて見る。あれ?保存していた彼のフォルダーがまるごと無くなっている。データ復帰プログラムを起動するも、存在していた形跡すらない。誰かが、私の家のPCを操作したみたいだ。どうやって?監視カメラの録画映像に不審な点はなかった。
機密書類を置いてあるので、部屋のいたるところに監視カメラを設置してあるのだが、どれにも私以外の人は記録されていなかった。
いつから、おかしな現象が起きたのかを思い出す。そうだ…おかしの国に行ってからの気がする。あれから、彼との立場は逆転したし。うん?おかし…お菓子、お貸し、犯し、侵し、可笑し…『おかし』を変換すると色々な文字が出て来た。
お菓子の国に行って、身体は犯され、精神は侵され、可笑しなことになっている。まさか…あのプログラムって…
『考えすぎだよ』
って、脳裏に声が響いた。
「誰?」
周囲を見回すと誰もいない。いや、ここは私の部屋では無い。どこだ、ここは?
『ここは、仮想空間だよ。君の体験してきた不思議な体験は、仮想空間での出来事だ』
あ…だから、形跡がリアルに反映されていないのか。
『あのゲームは"こうすけ"が、懸命に作り上げた物だ。君に使った物は、僕が改造した物だよ』
「誰?」
「僕?"ひろすけ"だ。"こうすけ"の双子の兄だよ」
目の前には、あの無表情なヒロ君がいた。
「双子?」
「そう…正反対の性格のね」
「ここはどこの仮想空間?」
「"こうすけ"の作り上げた空間の一部だ。間借りしている。僕はこの空間でしか生きられないから」
「なんで?」
「僕は脳について研究して、VRヘルメットを共同で開発した。でもね、実験中の事故で、僕の意識はコチラの世界に定着してしまったんだよ。リアルな身体は昏睡状態だよ」
「どうして、私を?」
「僕を探っているだろ?弟に迷惑を掛けるだろ?だから、君に使った最初のプログラムに、僕のプログラムを埋め込んだ。君が弟に迷惑を掛けないようにね」
「ヒロ君はあなたの存在を知っているの?」
「ノーコメントだ。下僕に知らせることはしない」
「下僕?」
「そうだよ…ペットになるんだろ?弟のさぁ」
あぁ、そういう気にもなったけど…真実を知れば…
「なに?真実を知れば、関係無いってか?さすが、演技上手で床下手な女王様だな」
手の内を読まれたことに、動揺する。まずい…
「この世界にず~っといてもらっても良いんだよ。リアル体は、弟の玩具にしてさぁ」
いや、それは、ダメだって…
「君のリアル体は僕の制御下にある。君の脳にそういう情報を刻んで有るから」
どうやって?
「医療機関で検査しても見付からない。脳細胞をバラバラにすればわかるレベルだ」
そんなことをしたら、死んじゃうよ~
「僕は弟と違ってエロさはないから。興味があるのは脳という器官だけだ」
◇
そして、リアル体の意識が戻った。私は全裸で拘束されていた。
「まさか、美里さんから、虐めていいって…ちょうど、疲れて居て、溜まっていたんですよ~」
嬉しそうなヒロ君の声。目覚めた先は、こんなシチュエーションなのか?ここは私の部屋…立った状態で、大の字に固定されている。こんな拘束器具、どうしたんだ?
「さすがエスの女王様だ。色々な拷問器具をお持ちのようで。総て使っていいよって、太っ腹だな~♪」
とってもご満悦なヒロ君。違う、こんな器具は知らない…口にも拘束器具が嵌められていて、話すことが出来ない。目の前には姿見が置かれ、私は私の目で、私の置かれている状態を確認できた。
「視覚と聴覚も奪おうかな」
エスプレイ用の小物入れを物色している彼。やめて~…そして、視覚、聴覚は奪われた。彼が何をしているのか、感覚だけでしか知り得ない。時折り聴覚だけ復活させて、色々な音、言葉を聞かせてくれる彼。
後ろの穴にローターを入れられたようで、腰が勝手に動き、腹筋は蠢いていく。口から、暖かい物が流れていく。目や鼻からも流れている気がする。
薄い金属が皮膚を這う感覚…それが定規なのか、ナイフなのかが分からない恐怖。太股を生暖かい液体が伝っていく。
「写真を撮っている。ビデオにも撮影している。後で、二人で鑑賞しようね」
声が弾んでいる彼。私を虐めることが嬉しいようだ。後ろの穴に2つのローターを入れられたようで、不規則なリズムがお腹の中にビートを刻んでいく。
舌の感覚が無くなってきた。絞めすぎだよ、ヒロ君。こういう器具を使われたことがあっても、使ったことないのね…ごめんなさい…
メインな場所には何もせず、それ以外の場所に刺激を仕掛けているようだ。
「あっ、出勤しなきゃ…また、夜に来るねぇ。合い鍵、ありがとう♪」
聴覚だけ戻された状態で放置されている私。彼がドアに鍵をかけている音がした。彼の靴音が遠ざかっていく。
今、私はどんな状態なんだ?感覚だけで、探る。手足は拘束されたままだ。視界は奪われている。口にも拘束具が…ローターは抜いてくれたようだ。それは救いだけど、絶望的な状況だ。
◇
鍵を開ける音がした。彼が帰って来てくれたのかな?
「今日はどれで遊ぼうかな?」
下腹部に、一番されたくない感覚がした。鞭の柄で身体の内部をなぞっているようだ。聴覚が奪われて、背中に鞭を打たれたような痛みが走る。痛みは背中だけでなくて、徐々に全身に広がっていく。そして、一番痛い部分に渾身の一発が入ったようで、意識が飛んでいく。
痛みを感じ、意識が戻った。聴覚は戻っている。
「これって、痛み止めでないのかな?」
何を塗り込んでいるんだ?身体を捩るような痛み…
「そうか、塞げば良いのかな?これを垂らして…」
これは通常の蝋燭かぁ…おい、エスプレイ用のは違うんだ~ヒロ君にあれこれ言いたい、レクチャーしたい。エスプレイ素人が、独学でするなよ~
◇
次に意識が戻った時、拘束はされていなかった。いや、衣服を着用している。なんで?私は私のベッドの上に寝ていた。
目の前には二人のヒロ君がいた…
「わかった?リアル体には何もしなくて、確実に美里さんの精神には刻めるんだよ」
「もう君は、僕達兄弟のモルモットだ。逃げても無駄だ。助けを求めようとしても無駄だ」
前者はヒロ君で、後者は兄の方だな。
「「電脳空間では時空を飛べるんだよ」」
二人同時にしゃべり、そして、しゃべり終わると消えた。身体が動かない。金縛りではなく、電脳空間で受けた拷問のせいで、身体が震えていて動けない。力がまったく入らない。助けを呼ばないと…
ようやく、スマホに辿り着いた…待てよ。ここは本当にリアルな世界なのか?窓から外を見ると…廃墟となった街並みが見える。何が起きたんだ?どうして…
「これがリアル世界だよ、美里さん」
優しい口調…ヒロ君だ。声の主を見ると、ヒロ君がそこにいた。
「でも、リアル世界に来るのは、今じゃないんだ。もう少し、夢の世界にいて欲しい」
◇
目が覚めると、彼の部屋にいた。彼は隣で寝ている。後ろ手に縛れてたままで…窓の外を見るといつもと変わらない街並みが広がっていた。
「美里さん、ペットになるって言ったに…酷い…また、こんな事するなんて…」
凹んでいる彼。縛っていたロープを解いてあげた。
「もう、女なんか信用しない…」
右手を握り絞め天井を見つめて、誓いを立てているようだ。私はブラウスの第3ボタンを外すと、
「うっ…決心が…」
いつものエロ心満載な目付きになる彼。
「欲しい?」
私の問い掛けに頷く彼。そして、私に飛びかかってきた彼をねじ伏せて、彼の後頭部に胸を当てる。
「騙したな…」
「第二のスポンサーになる話は本当よ」
私の口から、私の記憶していない言葉が出た。
「じゃ、このプレイは、スポンサー料のお礼になるのか」
「そういうことよ」
凹んでいる彼。記憶が混迷する私。どこから夢で、どこから現実なんだ?とにかく、家に帰ろう。服装を整えて、彼の部屋を出た。
◇
自分の家に帰り着く。家の中は、いつもと変わりない。まったりする為に、部屋着に着替えて、缶ビール片手にソファに座り、テレビの電源を入れた。
映し出された映像。手にしていた缶ビールは床に落ちていった。映像を見開いた目で見る私。あの時、姿見で見た姿…映像の中の私は、視覚を塞がれ、聴覚を奪われていく。そして…
プレイが終わり、服を着せられて、ベッドに横にされた私…まさか…急いで部屋着を脱ぎ、姿見を見ると、鞭で打たれた痕が全身に残っていた。
もう一度見ようとテレビを見るが、朝の情報番組が流れていた。録画機材をチェックするが、先程の映像はどこにも入っていない。どういうことだ?
ヒロ君に連絡を取ると、
「昨晩?みんなで完徹ですよ。ジョブの設定情報をどうするかで…あぁ、洋子は定時で帰ったかな。差し入れをお願いします。甘い物…ケーキがいいなぁ♪」
などと、のんきな発言をしている。私の受けた体験を話すと、
「あぁ、そういうステージも有りですね。参考になります。さすがエスの女王様、いつもそういうシチュエーションを考えているとは…僕なんか疲れすぎて、エロい妄想すらできません」
えっ、どういうことだ?一体、ヒロ君は何名いるんだ?
◇
混乱した私は、取り急ぎ、差し入れ品を買い、アルファーチームの部屋へと向かった。
「甘い物…ありがとうございます。ここの喫茶コーナー、こういうケーキがなくて…あるのはホットケーキとかパンケーキだもんなぁ」
ヒロ君は、グラフィックチームも呼び、みんなでケーキを頬張った。
「で、さっきの話だけど…」
「うん?妄想話?第二の方にもスポンサーは付きましたけど、美里さんじゃないです。第一が美里さん達のグループを手放す訳ないでしょ?」
それはそうだけど。確かに、第二のスポンサーをしたいと、上の方々に言ったけど、その分を第一に入れてくださいとお願いされた。第一の制作費は莫大なようだ。
「予算規模から言って、1/50以下ですよ第二の予算は。今居る少数精鋭部隊に、イーグルジャンプ社の人達以外に雇う余裕は無いし」
そうだ。廃墟の話もしてみた。
「何が真実で、何がリアルかは、それぞれの者が決めることです。リアルが嫌で、VR世界に逃げ込んでいる人達もいますし。実際の現実は残酷なんじゃないですか?」
「そうだよね、ヒロ君にとっての真実は残酷で残念だしね」
洋子さんの言葉に凹むヒロ君。周囲のみんなは苦笑いしていた。
「ヒロ君にとっての残酷な真実って?」
「う~んと、言えないなぁ。このチームだけの秘密です。だって、広まったら、ヒロ君、仕事しなくなると思うし」
「どういうこと?」
「言えません。これだけは、美里さんと言えども言えないですよ~」
「お前らなぁ…」
弱々しい声のヒロ君。洋子さんの言葉で、相当なダメージを受けたようだ。
「あっ、杏ちゃんがインした…私もインします」
つばささんがPCに向かい、テストプレイの準備をしていく。その横で、ヒロ君がモニタ用のマシンを起動しているようだ。
「杏ちゃんって?」
洋子さんに訊いた。
「うん?アルファーテストをしてもらっているの」
さっきの話と違う。
「新たに雇う予算は無いって?」
「ヒロ君の彼女だから、無償よ♪」
「洋子、ばらすなよ~!」
ヒロ君から、声が上がった。え?彼女?いるの?どこで知り合ったんだ?
「どこで、ひっかけたんだ?」
「あぁ、それは言えないなぁ、ははは」
笑う洋子さん、凹み度が増すヒロ君。なんだ?場の雰囲気を感じ取ったのか、そそくさとグラフィックチームが退室をしていった。
「あの子達も知っているのね?」
「美里さん。スポンサーと言えども、個人情報を探るのはルール違反ですよ」
洋子さんがいつもの事務的な話し方になった。
「もし、彼女達から訊き出したら、このフロアには出入り禁止にしてもらいます。あと、ヒロ君への接触もね」
洋子さんの視線は鋭く、私に突き刺さるようだ。