---ヒロ---
問題に気づき、徹夜で作業をしていると、つばさと洋子が出勤してきた。通常、一番乗りはあずさなのだが…
「ヒロ君、何をやらかしたんだ?」
二人ともお冠である。朝から、こんなことは初めてかもしれない。
「どうしたんだ、洋子?」
恐る恐る尋ねてみる。
「はぁ?緊急メンテって何?ゲームする為に、定時で帰宅したのに!」
「そうですよ、先輩!」
二人は昨夜、アルファテストが出来なくて、お怒りのようだった。あぁ…システムを止めて作業していたからな。
「データがね、ちょっと、まずいことになって…」
「えっ?マズイって?」
お二人のお怒りモードが心配モードへと移行していく。。
「エルとルイさんのデータが、原因だったので、あの二人のコピー体を作って、こっちに持って来た。記憶はほぼ覚えている」
「どうしたの?」
「あの二人は、システム依存データだったようだ。まぁ、エルは裏技で生き返らせたから、それも原因ではあるようだ。最初からキャラメイクに関わっていなかったから…気づくのが遅くなったというか、マザーから苦情が来たというか…」
アプロからのメッセージで事態に気づいた。このまま、運用すると、データが破損するかもって、指摘されたのだ。システム依存データって何だよって、悩んだ末に、データをコピーして、新たなキャラにデータを移植した。エルは死亡状態に戻し、ルイさんはエルフの村で生活をしてもらうことにした。僕がワンモアに関わり始めたのはアダルト機能搭載からなので、それ以前の設定には関与していなかった。
そして、ワンモアからNPCの連れだしを、出来なくするルーチンを加えた。なので、精霊遣いは僕の専用ジョブになる。
「エルは大天使ガブリエル、ルイさんは魔王レヴィアタンにしたよ。種族は精霊ってことにして」
「だいぶ、弄り直したのね」
「あと、ワンモアからの転移者達の待遇も変えた。従来のデータを持ち込む場合、戦士というジョブをマスターしないと、他のジョブに就けない。アルフガンで、新たに始める場合は、今までのステイタスの1/10を付加して、初期設定から出来る仕様だよ」
洋子がメモを取っている。
「データの持ち込みだと、戦士から?」
「そうだよ。今までの武器も使える。ただ、アルフガンオリジナルのジョブ、スキルは得られない。得るには、新たに始めるしかない。その場合、戦士のレベルを50にしないとダメにした。ランクも上がらないので、始まりの街だけをお試しって感じだよ」
「鬼…それって、鬼仕様でしょ?」
言葉とは裏腹に洋子は笑っている。
「スポンサーの意向を重視しただけだよ。アルフガンオリジナル設定が嫌のようだからね。それなら、それでそうなるでしょ?」
「スキルが得られないのは痛いでしょ?ははは」
つばさも笑っている。さて、ベータの諸君はどう出るかな?
---ツヴァイ---
ファストの街の奥にある祠から、新ゲームへと転移をした。
『今までのゲームデータを使いますか?新たな道を進みますか?』
と、いきなりの2択。きっとヒロさんのことだ。後者を選択した。
『あなたは正しい選択をされました。では、初期ジョブを選んで下さい』
と、いくつかのジョブが選択肢に現れた。剣士だよな。
『広場の掲示板をお読み下さい。--- Hit Any Key ---』
何かのキーの叩くと、
『アルフガン 始まりの街へ ようこそ♪』
と、表示されて、街並みが見えてきた。みんな、転移出来たかな?
「よぉ、ツヴァイ」
アースが現れた。現れてすぐにステイタスのチェックをし出した。俺もしないとなぁ。
「初期ステイタスに、元々のステイタスの1/10が乗かったみたいだな。見事にスキル欄は空白だ」
アースは苦笑いしていた。
「アースは、ジョブは何にしたんだ?」
「弓使いだ。ツヴァイは?」
「俺は剣士だ」
二人で語らっていると、レイジ、コンポタ、ミリーが現れた。彼らは、ワンモアでの装備のまま、現れた。まさか、あの選択で前者を?
「ジョブは何になった?」
「戦士…やられた…」
ミリーが凹んでいた。レイジ、コンポタも蒼い顔色だ。やっちまったか…
「あぁ、戦士のままだと、次の街に行けないようだ。転職しようにも、レベルを50まで上げないと、転職が出来ないって…」
彼ら3名が遅れて出現したのは、注意事項の説明がなされた為だった。レイジは力無く肩を落とした。あぁ、ヒロさんの性格を読まないと。あの人はドエスだし。
「そうなると、レイジ達の転職が出来るようになるまで、この街に足止めってことか?」
前途多難だなぁ。
「いや、いきなり進むのは危険だし、良いんじゃないかな」
って、アース。
「スキルを覚えるのが先だし。時間はどの道かかるぞ」
そうだな、スキル欄が空っぽだしな。アースと凹んだ3名と共に、広場に向かう。そこには凹み気味のシルバーさんのパーティー、グラッドのパーティーがいた。
「おぉ、アースとツヴァイは、うまく逃れたようじゃな」
シルバーさんに声を掛けられた。
「まぁ、なんとか」
「いきなりドエスをかますとは…侮れないなぁ」
シルバーさんの凹み度は高そうだ。シルバーさん達の視線の先にあったのは、
『ワンモアの設定を選んだ方々に…始まりの街のお試しモードになっております。正規のスタートをしたい場合は、戦士レベル50にして、転職をしてください。初期ジョブの選択画面に入れます♪』
っと…ははは…レイジ達が更に凹んでいる。
「いきなりの罠か…ミリー、どういうことだ?」
レイジは、エフのリア友のミリーを問い詰める。
「あ…あのね…怒らしちゃったから…その報復だと思うの~」
怒らした?
「何をしたんだ?」
俺も訊いてみた。
「ワンモアでのステイタスを使えるようにしてって…」
「それって、無理でしょ?システムが違うし。そういう設計に、していなかったはずだし」
アースがミリーの言葉に反応した。
「そう言っていたわ。意を汲んでくれたもんだと、思っていたのに~」
ミリーの凹み具合は凄まじい。
「嘆いてもしょうがない。先に進もう。って、お金は有るのか?」
アースが先立つ物を確認してきた。その結果。俺とアースは支度金が有ったが、他3名は無銭だった。追い打ちをかけるように、ワンモアのお金は、ここでは使えないようだった。ドエス仕様だな。何かを買うにも、宿に泊まるにもお金は必要である。このゲームでは、モンスターを倒して得られるのはドロップ品だけで、それを街で売って、お金を得るようだ。
「俺とアースは武器などの装備が無いから、支度金で買うしかないな。その後、ダンジョンでレベル上げをしながら、稼ぐしかないな」
頷く、パーティーメンバー。
「ギルドっていうのを作った方が、攻撃力は上がるな」
って、ことで、こちらでもギルド・ブルーカラーを作り、アースと凹み組3名に入団してもらった。
「ダンジョンに行く前に、アイテム屋を見ておきたい」
アースの要望があり、向かった。特定の道具を買うことにより、スキルが発現し、使い込むことにより、スキルのレベルが上がるようだった。
「なぁ、ツヴァイ。乳鉢があるんだが…」
アースが指差した先にソレはあった。価格がとても良い値段だ。他の商品より1桁くらい高いし。
「あぁ、臭いな。これを最初に買えってことだろうな」
「ツヴァイもそう思うか?」
アースが迷わず、それを買った。で、残りのお金で二人の装備を武器屋、防具屋で購入した。ステイタスをチェックするアース。
「乳鉢で正解だ。薬草を加工すると、回復薬になる。後、草の判別が出来る様になった」
苦笑いしているアース。
「回復役のいない序盤に、必要不可欠なアイテムだな」
アースは胸をなで下ろしているようだった。これは、危険なゲームだ。気を緩めると、罠に嵌まりそうで怖い。こんなに緊張するゲームは、初めてかもしれない。
「あぁ、魔法使いなのに、魔法が使えない」
ミリーが更に凹んでいた。魔法体系が違うから使えないと、広場の掲示板に書いてあったな。コンポタも撃沈していた。
「これはつらいなぁ。レイジ以外、ノービスだからな」
って、アースの表情が苦笑いから苦渋な物になってきた。
「とにかく、3日分の生活費を稼いで、アウトしようぜ」
っと、皆でダンジョンへと向かった。
---ヒロ---
5番目の街を設計している。ここに土地を買って、家や倉庫を建てるようにする。問題はランク解放条件だな。どうするかな。
「つばさ、土地はゲーム内通貨で買うようにして、結婚を課金にしようかと思うけど、どう思う?」
「うん?もしかして、土地所有がランクアップ条件ですか?」
洋子がメモ書きをしている。うんうん、これでいいかな。
「そういうことだ。戦闘エリア無しの街も有りかなって」
「そうですね。良いと思います。無課金でも土地が買えますから」
「あと、一人で買える土地は一区画にする。なので、一対多の結婚はハーレム状態になる」
「土地の節約ですね。良いんじゃないですか?どうせ、ヒロさんくらいですよ、ハーレム状態になるのわ」
「つばさ、それ、正解だよ♪」
って、洋子が笑っていた。そうなのか?他にもいそうだろうに。そんなこんなで、5番目の街の設計が終わり、開発にマッピング作業を頼んだ。やっと、半分だよ。
「6番目からは戦闘続き?」
洋子が訊いて来た。
「まぁ、基本はね。6番目はどうするかな…」
構想を練る僕。
---ファントム---
始まりの街に、ツヴァイ達がいるそうなので、冷やかしに行く。レヴィアタン、ガブリエルが同行してきた。成長した姿をアースに見せたいそうだ。
広場で待っていると、ヘロヘロな状態でツヴァイ達が戻って来た。
「ツヴァイ、アース。元気か?」
「な訳ないだろう?このドエスが~」
アースが珍しく毒気付いていた。
「うん?やっちゃったの?3名も…これは、つらいよな」
「つらいってもんじゃない。真面に戦えるのは、レイジだけだ。経験値は1/5だし」
ツヴァイがへたばっている。
「そうか…で、アース、お前に紹介しておく。僕の連れの大天使ガブリエルと魔王レヴィアタンだ」
アースが二人を食い入るように見る。
「おい…これって、エルとルイさん…」
「アース君、正解♪ファントムに連れて来て貰っちゃった♪」
元エルのガブリエルが嬉しそうに、アースに話し掛けた。
「どうして?こうなった?」
「ここに連れ込む際に、精霊になって、で、大天使と魔王になっちゃったんだよ。ライカとドライグは精霊扱いで連れ込めたけどね」
「ステイタスは?」
「存在だけが変化した感じだよ。攻撃方法は同じ。危なくなったら、精霊だから、精霊使いの僕の中に入り込める」
「精霊使い?そんなジョブもあるのか?」
「初期ジョブの他に、上級ジョブとか、レアジョブがある。どうすれば、成れるかは、探してください」
ミリーさんが僕を睨んでいる。魔法の使えない魔法使いになったんだね。まぁ、自ら選んだ道だし、恨まれる筋合いでは無い。
「エフは今どの辺りをテストしているんだ?」
「今、4番目の街。こっちもつらいよ。役立たずが居るからね」
って、ヴィヴィの顔が浮かぶ。
「4番目かぁ。3番目まではベータで行けるってことかな?」
ツヴァイが訊いて来た。
「う~ん、どうだろうな。正解のジョブに就いたのは、ツヴァイとアースだけだし。正解の道具を買ったのはアースだけだ。この街をクリア出来るギルド、パーティーはまだ、いないのが現状だよ」
「ドエス過ぎでしょ?」
「はぁ?恨むなら、そこにいるミリー様に言ってください。ミリー様のご要望に沿った仕様にしただけですからね」
皆がミリーさんを睨んだ。怯んだように後ずさりをするミリーさん。
「ミリー様って…エフの上司なのか?」
「そんな感じです。僕の設計にケチをつけて、ワンモアのステイタスを生かせってね。これでも譲歩したんですよ。まぁ、ゲームバランスを崩すことは出来ませんので、このようなお試しプレイにしました。レベル50なんか直ぐでしょ?」
「無理…」
「じゃ、ミリー様の顔に免じて、ヒントを。まず、レイジだけをレベル50にして、転職させる。その間、アースは薬草を摘み、回復薬を量産。で、3名が正規のジョブになったら、コンポタ、ミリー様に作った回復薬を持たせて、回復役にさせて、3名だけで突入して経験値を積ませる。これが、一番効率が良いですよ」
「なるほど…」
アースは納得してくれたようだ。
「じゃ、頑張ってね♪」
僕達は、4番目の街へと戻っていった。