---レビア(A面)---
漸く、事件関係者と思しき者と、接触が出来る段取りを付けられた。早速、ラリーに報告しようとスマホで連絡をしたのだが、
『お掛けになった番号へは連絡を出来ません。他言すれば、約束は無かったことにし、二度とあなたとの接触はしません』
とのメッセージが流れてきた。通信割り込みをしているのか?たぶん、メッセージも脅しでは無く、本当に接触はしないのだろう。事件の核心に迫りたい私は、誰にも連絡をせず、指定された場所、「ダイシー・カフェ」へと向かった。
カウンター席に座ると、マスターらしい海坊主のような男性に声を掛けられた。
「レビア・マーベリックさんだな?」
頷く私。
「じゃ、これでも飲んで待っていてくれ。ウェルカムドリンクだ」
見た目がトマトジュースのような飲み物を、目の前に置かれた。一口飲む。美味しい。あっという間に飲み干していた。
飲み干してから、少し経つと、身体に異変が現れてきた。下腹部が疼く、身体の奥の方が熱い、股間に湿り気が帯びてきた。乳首が固くしまり、そそり立っていく。乳房に張りを感じる。まさか、媚薬系だったか、あの飲み物は。席を静かに立ち、トイレへと駆け込む。
入ってすぐの処には張り紙が有り、それを見て固まる。
『B面へ、ようこそ!』
と。どういう意味だ?まさか、ここのトイレが消失地点だったのか?トイレから出ると、目に映る風景は一変していた。
---レビア(B面)---
そこは、店内では無く、屋外だった。少し遠くに街らしき物が見える。そこへと向かう。街は活気があるようだ。人々が行き交い、お店も色々と有る。
「レビアさん、バックディメンジョンへようこそ♪」
と、知らない男性に声を掛けられた。
「ここはどこだ?あなたは誰?」
「ここはB面と呼ばれている世界だ。で、僕はファントム。君達の探していた者だよ」
水谷浩介か?しかし、彼の服装は、コスプレでもしているような感じだ。いや、私以外の皆がそのような服装のようだ。
「もう、君がいた世界には戻れない。この先の選択肢は2つ。この先の街で暮らすか、戦士として生きるかだ」
「ここはどういう世界なんだ?」
「ここ?君達が元々いた世界だよ。う~ん、そうだな、核戦争後の世界と言えば良いかな?高度な文明は滅びて、ファンタジー世界になっている」
「じゃ、今までいた世界は?」
「僕達が用意したヴァーチャルな世界だよ」
彼は液晶タブレットを私に見せて来た。そこには、おびただしい数のカプセルが並んでいる。
「核戦争後に生きていた者達を救い出し、脳だけを生かしている。身体はダメな者が多いからね」
身体はダメ?では、私の身体は?
「あぁ、それは僕達が用意した身体だよ。用意した身体に脳を移植させている」
用意した?
「う~ん…創造したと言えば良いかな?創造できた順から、コチラ側に来てもらっている。1週間に作れる数は限られているので、少しずつ移住をしてもらっているんだ」
神隠し事件の真相は、想像を超えていた。本当に神が関与しているような気がする。
「神の関与?勿論、しているよ。人間が人間を創造なんか出来ないだろ?」
「ラリー達に連絡を取りたいのだが…」
早く、この事態を知らせないと。
「はぁ?出来無いよ。そんなことをしたら、アチラ側でパニックが起きるだろ?まぁ、こちらでの生活に慣れてくれ。いずれ、仲間達も移住するだろうからね」
---ラリー(A面)---
レビアからの連絡が途絶えた。消失したのだろうか?レビアの身体に埋め込んであるGPS装置の反応は拾えていない。この世界にはいないのだろうか?
「ダメだ。足取りがわからない」
キティがレビアの足取りを追っていたのだが、街中にある監視カメラの映像に、まるで映り込んでいないようだった。
「ありえない。どれか1台くらいには、映り込んでいても良いはずだ」
監視カメラ世界であるので、至る場所に監視カメラは存在している。なのに、どれにも映り込みをしていない。そもそも、レビアが住んでいるマンションのエントランスにある監視カメラにもだ。
「あのマンションに、レビアの部屋は無かった。まるで初めから、この世界にいなかったって感じだ。どうしてだぁぁぁ!」
この神隠し事案は、思っていた以上に大掛かりなカラクリがあるのかもしれない。ふと顔をあげると、真っ暗な空間にいた。何でだ?
股間の割れ目を舌のような物が侵入してきた。そんな感覚がある。誰かが、胸を触っている。服も下着も着ている感覚は無い。抵抗しているはずなのに、相手に身を委ねている感覚である。
「うぁっ!」
一瞬で達した。その場に崩れていく…
「ラリー!大丈夫か?」
キティの声で意識が覚醒していく。
「あぁ…大丈夫…でも無いかな…」
床に倒れていた私は、立ち上がり、キティに身に起きた異変を伝えた。
「何だって…どんな術を使ったんだ?」
---キティ(A面)---
一体、何がどうなっているんだ?捜査をしようにも、足取りが掴めない以上、どこに手を入れて良いのか見当もつかない。根を詰めて考え込んでいる時、香津美に呼び出された。指定されたバーへと向かった。
指定されたバーはカウンター席だけの、こぢんまりとしたカウンターバーだった。席に着くなりウェルカムドリンクが出され、一口付けたのだが結構いけるので一気に飲み干した。
約束の時間になっても、香津美は来なかった。連絡をしようとしたのだが、圏外のようで、香津美のスマホへ連絡が出来無い。店を出て、連絡をしようと立ち上がった瞬間、立ちくらみを起こし、床へと崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?」
傍にいた男が声を掛けてきた。
「あっ…ダメ…」
この男は介抱がてらに、秘部を刺激してきた。敏感な部分が疼きまくる。
「やめろ…なぁ…ダメだ…」
身を捩って逃げようと思うのだが、身体がうまく動かない。
「あっ…」
ダムが決壊したような、そんな感覚を下腹部に感じた。全身が痙攣していく。有り得ない…身体の大部分がサイボーグ化しているのに…全身が痙攣だと…
「うん?既に全身が生身の身体だよ…どうかな、昔の感覚を得た気分は?」
介抱していた男性が、私に向かってそう言った。生身?いつの間に?戯言を…でも、確実に生身であると確信している私。心臓が痛い…胸が苦しい…反吐が出そうだ…など、サイボーグ化してからは感じた事の無かった痛覚が戻って来ていた。
「なぁ、どうかな?」
男の舌先がお尻の谷間を這う。久しぶりの刺激に、下の口からはヨダレが止まらない。
「どういうこと…?」
頭の中が悶々としてきている。無茶苦茶に犯して欲しい…そんなことは口には出せない、淫らな欲求が湧き出して堪っていく。
「君は特別待遇だよ。サイボーグでは、絶対に真実には辿り着けないからな」
サイボーグでは無理?何が言いたいんだ?
「そうだな。真実が知りたければ、コレを飲んでみな!」
何かの液体が入った紙コップを、手渡してきた。彼に逆らう気が起きないので、迷わずに一気に飲み干す。しばらく経つと、忘れていた感覚が、遠い昔に忘れた感覚が訪れた。
「利尿剤だ。どう?尿意を耐える感覚は?」
尿意…それが何だ?記憶を甦らせる。うん?そう言えば、相棒の香津美は、一緒に行動中にトイレに行ったことがなかった。生理現象だ。アウターに響くので、おむつをしていたとは考えられない。尿意を忘れて考え込む。
シャー
しまった。漏らしたようだ。はぁ~♪尿意を解消した安堵感が、少し幸せに思える。彼が見ている前で大胆な行動ではあったが、既に恥ずかしい姿だし。
あれ?公衆トイレって、有ったかな?
「気づいたかな?まやかしの世界では、トイレは必要無いんだ。だって、生理現象は起きないんだからね」
まやかしの世界?一瞬、脳裏にミサイルが飛び交う映像が甦える。え…そんな馬鹿な…
---キティ(B面)----
意識が戻ると、レビア、由貴、那魅が心配そうに、顔を覗き込んでいた。あっ、夢だったのか…
「キティ、大丈夫か?」
レビアが声を掛けてきた。
「あぁ…悪夢を見ていた。核戦争で世界が滅びたなんて、悪い夢だ。ははは」
私の言葉に誰も笑わない。えっ?悪い冗談だろ?部屋を見渡すと、そこはゲームに出てくるような宿屋の一室であり、レビア達の服装は、ゲームキャラが着るような服装であった。
「それ…悪夢では無い…現実だ、キティ」
レビアが真顔で告げてきた。世界が滅びた?
「おい、何の悪い冗談だ?」
レビアに掴みかかるが…急に動いたせいで、筋肉がつった…サイボーグボディで無い…レビアが私に起きた事象を察知したのか、
「もう、サイボーグでは無い。無理はするな」
と、私の肩を叩いた。
---ラリー(A面)---
レビアだけでは無く、キティ、由貴、那魅すらも消失した。
「どういうことですか?何が起こっているのですか?」
香津美が混乱気味だ。
「わからない。消失地点も不明だし、原因すらも手がかりが無いとは…」
帰宅をしてからも考え込む。何が起きているのだろうか?ふと手元を見ると、あのアダルトアダプターを手にしていた。この悪魔の装置が元凶なのか?その時、魔が差した、いや閃いたのだが、アダプタを分解し始めた。内部に手がかりがあるだろうと思ったのだ。だが…
内部は空洞だった。基板すら無い。配線すら無い。どういうことだ?パッド類に伸びるケーブルの皮膜を破り取る。単なる細いホースのようで、信号線すら入っていない。どういう原理で動作していたんだ?
「あっ…」
背後から腕が一本現れ、胸を愛撫してきた。更にもう一本現れて、下腹部を愛撫し始める。
「誰だ…あぁぁぁぁ…やめろ…貴様…あっ…」
あえなく達する。全身の筋肉が弛緩し、背後にいるであろう者に寄りかかるように、後方に身体を委ねる。
「いい閃きだ。そこから、斬り込むとは予想外だったよ」
耳元で、アイツが囁く。
「ほら、いつもの様に奉仕してくれないか?」
後方に向き直して、アイツのモノを口に頬張る。条件反射により、股間に疼き、熱い物が湧き出して来た。
「それはフラグに過ぎない。この世の中の物は中身なんか無い。お前の身体もな」
身体の中身が無い?えっ…でも、こんなに疼き、こんなにも湧き出しているのに…
「腕を出してみろ」
左腕を差し出す。それを目の前で斬り落とし、断面を見せてくれた…空洞…いや、斬り落とされたのに、痛みすら感じ無い…
「そういうことだ、ラリー。消失した者達は、皆元気で生きている。君も早く真実に辿り着けるといいな」
私の腕を元に戻し、アイツは消えた。どういうことだ?言われた通り、家にある家電を分解してみるが、どれも内部は空洞だった。これの意味する事って…
職場に戻る。確かめたいことがある。署内にあるパトカーのエンジンルームを覗き込む。どれも空洞だった。制御室にある制御盤を開いてみた。そこも空洞だった。どういうことだ?夢の世界にいるのか?
「ラリー、どうしたの?」
香津美に声を掛けられた。
「どうして空洞なんだ?」
香津美が制御盤の中を覗き、血の気が失せている。制御ルームの機器類は正常に動作しているのに、それを制御する装置が無いのだ。
「どういうこと…ねぇ、ラリー!」
「ここは夢の世界なんだろうな。問題は何が真実の証拠かだ…」
署内を香津美と二人で捜索する。たぶん、ここに答えが有る気がする。
「ラリー、ちょっと来て!女子トイレの前にいるから」
中身が空洞であるスマホに、香津美からメールが届いた。香津美のいる場所に急いだ。しかし、香津美はいなかった。周辺を探したがどこにも…あと、探していないのはトイレの中だけか。トイレの中に入る。いつもと変わらない風景。個室内もチェックして見る…えっ?どういうことだ?
便器が無かった。いや、個室のドアすら無かった。壁に書かれているだけだったのだ。
トイレが無い…そう言えば、いつトイレで用を足したかな?考えて見る。今日は使っていない。昨日も使っていない。一昨日も…ここ最近、使った記憶が無い。署内だけでなく、家のも、通勤経路上でもだ。
「やっと、答えの一歩前まで来たね、ラリー♪」
アイツの声がした。声のした方を振り返ると、アイツと共に、キティ、レビア、那魅がいた。
「どういう趣向だ?」
「彼は創造主だ、ラリー」
レビアが答えた。
「創造主?」
「そうだ。私達を救いに来てくれたんだ。敵では無い」
救いに?どこから?いや、何から?
「で、ラリー。君にはここに残って貰う。レビア達が君をアシストする。君の受け入れは最後になる」
受け入れ?残る?何の話だ?
「ノアの箱船には定員がある。無理をすれば沈没しかねない。そんな感じだ」
意味が分からない。
「君達への報酬は、アレでいいんだろ?アチラでは、あんなに気持ち良くイカせられないと思うし♪」
アチラ?レビア達は頬を赤く染めて頷いている。
「おい、どういうことだ?」
「あれ?気づいていないのか…う~ん、じゃ放置だ。後は、レビアをリーダーにして、頼むよ、那魅、キティ」
彼の指示に、二人が頷く。
「香津美は適性を見て、どうするか決める。じゃ、ラリー、答えを見つけろよ!」
アイツは消えた。
「レビア、どういうことだ?」
「申し訳ありません。ご自分で答えは見つけてください。私達は私達の仕事をしますから」
と、私を放置していく。
◇
あれから1ヶ月、漸く答えが出た。だが…
「彼は当分、来ないわよ。違う世界の救済に向かわれたの」
と、香津美。
「私はどうなる?」
「優先権の利用期間が過ぎたから、最後の方になるわ。今後は、アルファベット順に迎え入れるみたいだから♪」
香津美は優しそうに、私を見つめた。
(完)