はねバド!~インターハイガチレズダブルス編~ 作:STORICKS
「ねえ、秘密の話なんだけど」
フレゼリシア女子に入学して、一か月ぐらいのころだった。
といっても、私とその子──志波姫唯華は、既に中学を卒業したあとの春休みから練習に参加していたから、実質二か月ぐらいになる。
ゴールデンウィークの強化合宿で減ったシャトルを発注するために、体育館の倉庫で棚卸をしていた時のこと。
オフ明けの練習で普段よりも疲労感の強いところに、面倒なことを押し付けられたものだと、夕陽が差し込むせいで目に見えて埃っぽい倉庫の景色に、私は少し気怠さを覚えていたが、唯華の方はきびきびと動いている。
そんな彼女が、メモ帳を閉じ、私に振り返った。
「──えっ?」
「私ね、栄枝に誘われてたんだ」
突然愛の告白でもするのかと身構えたけれど、彼女が口にしたのは、何の変哲もない自慢話。
「……そう」
そりゃあ、この子の実力なら、そんなこともあるでしょうよ。
正式に入部したあとの上級生との試合で、白星を挙げたのは彼女だけ。
鼻っ柱の強い冴子だって、その数日後に行われた一年生だけの対抗試合で、サクッとやられてしまって。
もちろん、私もだけど──。
それはさておき、その『上級生との試合』で賭けたモノ、つまり負けた方が勝った方の背中を流す、という伝統を、彼女は見事に引き継いで、その夜は随分と長風呂になったらしい。
「栄枝って、あの埼玉栄枝よね? 行かなかったの?」
「うーん……」
自分から話題を振ったわりには歯切れの悪い返事を、唯華は返してくる。
なんだろう、この子は。
よくわからない。
もちろんいろいろな事情があったのだろうし、幼馴染のさきちゃん──美里さきと同じ高校でやりたい思いもあったのだろう。
私にはそこまで仲のいい友達はいなかったから、そういう基準でフレゼリシア女子を選んだわけじゃなかった。
「行かなかった、のかなぁ……」
そう呟いて、また唯華は棚に向き直る。
バンドが巻かれたままの段ボール箱を持ち上げると、舞い上がった埃に彼女はせき込んだ。
私も、テーブルに置いた、少し温んだスポーツドリンクを呷り、その煙たさを喉から洗い流す。
食べ物ではないけれど、シャトルコックには『賞味期限』がある。
やたらに在庫を持っておけばいいというものでもない。
「……」
私は背が高いから、棚の上の方にある軽いもの──グリップテープの箱だとか、昔自分たちでガットを張っていた時の名残らしい、古いパッケージを拾い出しては、その数を数えている。
「いち、にい、さん‥‥…」
今の時代は、もっと性能のいいガットが出ているし、そもそもガットマシンはこの倉庫に見当たらないのだから、こんなもの、もう使うこともないだろう。
私は適当に計数を切り上げて、テーブルの上のノートに数字を書き込み、また棚の前に戻る。
今度は、グリップテープの箱だ。
「千景?」
「え? あ──」
不意に名前を呼ばれ、私は持ち上げた箱を手から滑らせてしまう。
中身のパッケージが散らかる。
「あらら、ごめんごめん」
急に声をかけたことを詫びつつ、唯華は膝を折って、床に散らばったグリップテープを集めようとする。
私も、手を伸ばし──。
「あ」
唯華の手を、上から押さえつけてしまうような格好になった。
「……」
怒るでもなく、彼女はすっと私を見つめてくる。
綺羅やかな瞳が、揺らぐことなくこちらを射抜いていた。
不思議と、その手を放す気になれないけれど、これでは『仕事』が終わらない。
手に触れた細い指の感触を惜しみつつ、私は手を動かして、パッケージを拾い集める。
別に異性と触れ合ったわけじゃないのに、なんとなく心拍が上がっているのを隠しつつ、私は唯華が集めた分と合わせて、その個数を数えてノートに記した。
それから再び、無言で作業は進む。
唯華の方は一つ一つの物件が大きいから、見た目の配分よりはずっと早く、仕事が進んでいるようだ。
私の方は小物ばかりで、案外時間がかかってしまっている。
「こんなもんかな」
一番下の段を攻略し終えて、唯華は床に擦っていた体操着の裾を払いつつ立ち上がった。
「千景はどう? 終わりそう?」
「あとちょっとかな……グリップテープなんて、もうみんな自分で買うのにね……」
「昔は、チームで統一してたみたいよ、色とか」
「ふーん……」
私が掴んだとなりの箱を、唯華は小さくジャンプして掴もうとする。
自分がつま先立ちになって、右手だけを思い切り伸ばして届いているのだから、そうせざるを得ないのはわかるけれど。
「あ、いいよ、あとちょっとだから」
手にしたそれはグリップテープの箱ではなくて、それも案外大きく重かったらしく、彼女はバランスを崩し──。
「──わぷっ!」
細長い段ボール箱が、唯華の背中に当たり、床に落ちて大きな音を立てた。
なんだ、ヨガマットか──そう思っていると、彼女は私の胸に肩から倒れ込んでくる。。
同級生に比べれば存外に豊かになってしまったそれが、先端の突起ごと押し流されて、私はびくん、と身体を跳ねさせた。
右側だけ伸びた彼女の前髪の奥で、さっきと同じ瞳が、私の顔を舐めるように見つめていて。
「ちょ……唯華ちゃん?」
「……ふふっ」
悪びれるでもなく、彼女は私に体重を預けたまま、まるで毛づくろいでもするかのように頬を寄せてきた──かと思うと、細いながらも強靭な筋肉が張り巡らされた脚を、私の両脚に挟み込んで、逃れられなくする。
(この子……)
『そっち』か、と私はすぐに感づいた。
自分も似たようなことをした覚えが、中学の頃にあったから。
すぐに唇を重ねてこないあたり、私がしていたことよりもずっと進んでいて、手慣れているのだろう。
唯華はわざとらしく鼻を鳴らして、私の胸元に熱い吐息を送り込む。
いつの間にか彼女の右手が背中に回っていて、肋骨の一本一本を確かめるように摺り上げて──。
「ん……っ」
唇を噛み、声が漏れないようにと抗う私を、唯華の瞳が追いかける。
口元がもぞもぞと動いているのは、シャツのボタンを口で外そうとしているのだろう。
絶え間なく侵入してくる唯華の息遣いに、冷静さを保っていられる残り少ない時間で、私は逡巡する。
(自分で外し──たら、認めちゃうかな……?)
私も『そっち』だと。
この身体のせいで、そういう『眼』を向けてくる男の人も、居ないわけじゃなかった。
だから女子高であるフレゼリシアを選んだ、というわけではないけれど。
手持無沙汰になった左手で、私はたくし上げられたシャツの裾を掴んでいる。
唯華の腕は最初からその内側に回っていて、背中を駆け上がった指がホックにかかり、肩ひもを握って引き下ろした。
「あ──」
強めのゴムが入ったスポブラ──少し悪いことをしたかな、と思う。
でも、練習終わりだし、二人で居残りをした時点で、こんなことを予想していたわけじゃない。
「……唯華ちゃん」
「んふぅ?」
私の双丘の間に溜まった、滓のような汗ばんだ空気を吸いながら、唯華は首を傾げて見上げる。
「──脱ぐから、待って」
そう言うと唯華はようやく右手を下ろし──脚はがっちり挟み込んだままで──、両腕を私の背中に回して、背骨を撫で始める。
待ってくれている、のだと思った。
意を決して、私はボタンを外し、半分脱がされたスポブラと一緒くたにして、ほんの少しだけ生地に残った唯華の匂いを肺に入れてから、シャツを脱ぐ。
それを、どこに置こうかと迷っていると、急かすように唯華は自分も上を脱ぎ、二人分を合わせて一緒にテーブルの上に放り投げた。
(あ、ブラ落ちる……)
私のか、唯華のかはわからなかった。
唯華に唇を重ねられて、反射的に目を閉じてしまったから。
思ったよりも短い時間で消えた感触に、再び目を開けると、どこか寂し気にこちらを見る唯華がいる。
「? ……あ」
小さく舌を出した彼女の意図に気付いて、私は息を吸い込んで、また目を閉じ、少しだけ口を開けた。
粘ついた唾液が糸を引いているのがわかる。
唯華はそんなことも気にせず、むしろそれを舐めとろうとするかのように、私の唇に舌を這わせてから、そのまま口内へ侵入した。
「んぅ──」
腰が引けるほどの快感を、背中に鉄製の棚の支柱を当ててなんとか押し留める。
溜め込んでいたらしい唾液を私の下に塗りたくりながら、唯華は吐息が漏れるのも構わず、ひとしきり私を楽しんでいた。
「っ、はぁ……ん……」
どうぞ、と言わんばかりに最後に軽く口付けをして、唯華は私に『手番』を回す。
彼女の唾液を嚥下してから、私は奥歯で自分の舌を掻き、返礼の品を用意した。
それから、同様に口を少し開いて待っている、彼女に──。
顎を釣り上げ、見せつけるように喉を鳴らした唯華は、それがお互いの思いを確かめるサインだとでも言わんばかりに、腰に回していた両手をほどいて、私の前に回す。
私を見つめているせいで、少しだけ迷っているらしい右手を取り、私は自分の乳房に彼女の手を宛がった。
「おっきいね……」
できれば、綺麗と言ってほしかったな、と思いながらも、私は器用に別々の仕事をしている唯華の両手の感触を楽しむ。
私の背中が痛まないようにと、わざわざ支柱との間に添えて、優しく髪を撫でている左手。
右手はといえば、少し汗ばんで滑りの悪い肌に爪を立てないように、指を反らせて私の柔らかいところをまさぐっている。
「あ、ん……」
始まりの頃と同じように、胸元に顔を埋めた唯華は、蒸れた乳房の陰の粘りを楽しむように、舌を這わせた。
もう、これ以上は見ていられない。
私は目を堅く瞑り──そうすると不思議なもので、余計に感覚は鋭くなり、たぶんそれは唯華がわざとしているのだろうけど、這い回る舌が奏でる水音や、自分の心音が聴こえてくる。
やがて唯華のそれが私の山を登り始め、頂点に立つ突起を優しく包んだ──。
かりっ。
「んきゃ──!」
大きく口を開いて咥え込むと同時に、唯華は右手の親指の爪を、包まれていなかった方の突起に掻き付ける。
がくん、と背筋の力が抜けて、私は自分の下半身が熱を帯びていることに気付く。
と。
「……?」
やや顔を背け、眉を顰めている唯華の顔が、すぐ近くにあった。
別にまさか、一人でこんなに感じてしまっていることを咎めるわけでもないだろう。
「あ」
身体全体が浮くような快感に任せて跳ねた私は、背中に回された唯華の左手を、支柱と挟み込んでしまっていることに気付く。
「ご、ごめん……痛かった?」
「ううん、大丈夫」
そう言いながらも、線状に跡のついた左手をひらひらと振る唯華に、私はなにかしなければと周囲を見渡す。
でも、流石にこの倉庫の床に……というのはちょっと。
「あ、そうだ」
「え?」
まるで魔法が解けたように、唯華は私から手を放し、踵を返す。
頭の芯がぶるぶると震えているのを抑えつけて、彼女を目で追う。
唯華は、さっき棚の一番上から落ちた段ボール箱を開いて、その中身──包装は外されているが、真新しいヨガマットを床に敷いた。
畳一畳ほどのライムグリーンのそれを挟んで、私と唯華はお互いに見つめ合う。
「……」
意を決して、というほどの時間はかからなかった。
下着一枚と靴下を残し、律儀にシューズまで脱いでそこに座った彼女に合わせて、私も同じ行動をとる。
「……来て、千景」
華奢な体に、控えめの胸。
こちらに伸ばした腕も折れそうなほど細いが、しっかりと筋張っていて、私が体重を預けるにはじゅうぶん安心できた。
「ね、上になって?」
「──うん」
唯華の後頭部に手を添えて、私はゆっくりと彼女をマットの上に寝かせる。
膝立ちになった私の間にすっと脚を差し込んで、唯華は身体全体を少しずり下げた。
ついさっき傷つけてしまった彼女の左手を握って、私は唯華の鎖骨にキスをして、そこから飛び石を渡る子供のように、少し控えめな丘の頂上を目指す。
こうしないと、ちょっと身長差がやっかいだ。
「ん、ふふ……っ」
このぐらいでは、彼女はまだまだ余裕なのだろう。
意地悪な唯華の右手が、重力に逆らって私の乳房を圧迫していた。
ただしそれも、頂上にたどり着くまでだった。
「ふ、ぁっ……」
小さな核を探し当てた私の背中に、唯華の両手が添えられた。
顔を上下させて、彼女のそれを味わう私に合わせるように、唯華は抱いた背中を揺さぶる。
「ひゃんっ!」
噛む、というのはしなかった。
かわりに私は思い切り、彼女の山を吸い上げてやる。
部活の時の張りのある声とは違い、年相応の色で嬌声を上げた彼女に、私はつい嬉しくなってしまう。
「唯華」
「──いいよ、千景」
調子に乗り過ぎと諫めるでもなく、唯華は少し浮かせた腰に両手を回して、下着を下ろす。
もう、ほとんど丸裸になった彼女は、それでも最後の抵抗とばかりに顔を背け、立てた右膝で秘所に影を作っている。
「──するよ?」
「うん……」
その膝を私は左手で押しのけて、唯華のそこを見つめた。
薄い体毛に、つつましく折り重なる小さな羽根。
幼いころから動きの激しいスポーツをやっているから、その『証』はほとんど無いにしても、潤いこそすれだらしなく糸を引いているわけでもない粘膜は、『純』を疑う余地がどこにもない。
陰に隠れてきゅっと締まった下の窄みも、開けば何色の花が咲くのかというほど端正だ。
ひとしきり見惚れた後、きめの細やかな皮膚が皺ひとつなく形作っている、最外周のアーチを軽く撫でようとしたとき──。
「……あんまり、見ないでよ。恥ずかしいじゃん」
小さく口をとがらせて、年相応の顔をしている唯華が言いたいのは、『早くしろ』ということだろう。
私は覚悟を決めて、その窄みの方から、力の入らない薬指で撫で上げた。
「あ……」
そうしないと、初雪のようにすぐに溶けて汚れてしまいそうなほど繊細に見えたからだが、唯華にとってはもどかしいだけのようだ。
欲しがるように口を少し開いて、色の濃いため息をつく彼女を少し意地悪な目で眺めてから、私は外側の羽根に、親指と人差し指、二本の槍を立てる。
「ん、……千景……はっ、あ……」
輪郭をなぞる動きに、唯華の上半身がシンクロして波打つ。
身体に張り付くウレタンのマットが立てる音で調子を確かめながら、私は中指と薬指で、彼女の真ん中をこすり上げた。
「ぅあ、ぁ──」
徐々に深度を増しながら、繰り返し繰り返し、していると──感覚が不明瞭になるほど唯華が纏わせた愛液に、私は自らの過熱に任せてつい、ぬるん、と深く指を挿してしまう。
「あはぁ……っ! いっ──ひ……ぅん……!」
大きな声を漏らすまいと、ほどける歯を食いしばっている唯華に、私は少しペースを落とした。
溢れ出た愛液を内股に擦り付けて、それでもなお枯れない流れをひと掬い掻き出す。
唯華が少しだけ気を戻して、こちらを見ているのを確かめてから、私はそれを大げさに舌で舐り取ってみせる。
「っ……千景──」
「ふふ……ん……?」
少し、鉄っぽい味を感じた。
「……唯華、あなた──」
羽根の下端に溜まったそれを親指で削ぎ取り、唯華の口元に近づける。
「あ──始まっちゃったか……」
よくよく見れば、桜色に薄く染まった愛液。
まだ道半ばというところで、唯華は名残惜しそうに私の親指をしゃぶった。
「ごめん、千景……中途半端で」
「そんなことないわ」
彼女の口から指を引き抜いて、私は少し後ろにずり下がったあと、顔を彼女の内股に沈めた。
「え? ちょ──千景!?」
「ん……」
慌てて閉じようとした唯華の左足を腕で引き留め、構わず彼女の中心に齧り付く。
「ひゃう──ダメ、だよ……っ! ち……かげ……──」
耳たぶを締め付ける唯華の脚の感触も楽しみながら、私は彼女の深層から来る滲みを貪った。
「千景、っ……んくぅ──! や……ぅうっ!」
くらくらとするような匂い。
私は唯華の揺り籠が震えながら降りてくるのを、頭に伝わる右膝の軋みから感じた。
「ひ、ぃ……く──ぅっ……ちか、ぁ……──」
上目遣いに見ると、剃り込まれた腹筋と柔らかな丘の向こうで、ぐしゃぐしゃに顔をゆがめている唯華がいた。
最後の仕上げに、私は鼻先に触れていた真珠の根元まで、舌先を擦り上げるストロークを伸ばす。
「ちかげ……っ! も、うっ……ひっ──」
えずきそうなほど伸ばした舌を、ハンマーのように私は『そこ』に打ち付けた。
「ぃく──ぅぅううっ──っ!」
唯華を押し流した私の『洪水』はほとんど引いて、私は陽の落ちた倉庫の中で立ち上がる。
ぼやけて落ちる影が動き回り、唯華の瞳を探し当てた。
「……千景」
始まりの時とは違って、少し行き先を探しあぐねているような目線。
温度の下がった室内に寝転がる唯華は、まだだらしなく脚を開いたままだ。
「──嫌だった?」
「……ばか」
ぽつり、とつぶやいた刹那、唯華は身を竦め──。
「ぅえっくしゅん!」
その『持ち物』からは想像もつかないほど大きなくしゃみに、私は思わず吹き出してしまう。
「服は? ブラいいや、もう……」
「はい」
「ありがと」
倉庫の中には時計がないから、正確な時刻はわからない。
でも、これだけ暗いともうそろそろ、お風呂に入ってから夕食の支度、というところだろう。
「あー……もうっ」
「うふふ……」
悪態をつく唯華は、ヨガマットを丸めて段ボール箱に戻した。
他に『使う』人がいるかは知らないけれど、私たちが卒業するまでには、『カビ臭いから捨てました』としておかないといけない。
「あれ、メモ帳は?」
「あ、私が持ってるよ」
ボールペンを挿したメモ帳を二帖、唯華に掲げて見せる。
「ん──お腹すいた」
「そうね……」
換気のために窓を開けておきたいところだけど、あいにく積まれた段ボールの向こう側で手が届かない。
私たちは仕方なく、倉庫の扉を開けっぱなしで帰ることにした。
小言を言われるかもしれないが、『仕事』をしたのだからプラマイゼロだ。
五月上旬の東北地方は、夜はまだまだ肌寒い。
小走りで寮に向かうその途上、唯華は私を睨んで言った。
「──次は、私が勝つからね!」
「そう?……期待、してるわ」
むう、と頬を膨らませて先を行く唯華につられて徐々にペースを上げた私は、すぐに寮の玄関まで辿り着く。
息を整えておかなければ、何かしていたのかと勘繰られ──間違いなく、そうなのだけれど。
「あ、唯華!」
玄関脇の自動販売機の前で屯している同級生が、私たちを出迎える。
先輩方は、夕食までゆっくりしている時間だけれど、一年生には食事の準備という仕事がある。
その待機中なのだろう。
「おー、さき」
「早くお風呂入りなよ、もう時間ないよ? ご飯まで」
「はいはい──あ、千景!」
手際よくシューズを脱ぎ、自分の下駄箱に放り込んだ唯華が、こちらを振り向いていった。
「何かしら?」
「『ヨガマット』一枚、それに書いといて」
そう言うと唯華は、ぺろんと舌を出して、またいつもの揺れない瞳を私に向ける。
「ふ……あははははっ! そう、ね……わかった。あははははっ」
と、周囲の同級生がちょっと驚いたような目を見せた。
無理もない。
いつもの私は、静かな笑顔を絶やさないポーカーフェイスだから。
でも、今の唯華の言葉には、私もびっくりしたし、あなたがあんまり楽しそうに笑うから、ついついつられてしまった。