はねバド!~インターハイガチレズダブルス編~ 作:STORICKS
旭くんと泪ちゃんのお話は
「きっと仕方の無いことなのだ」で始まり「焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった」で終わります。
#こんなお話いかがですか
https://shindanmaker.com/804548
このお題で書いたのでこうなりました
きっと、仕方の無い事なのだ。
糸の切れた操り人形のように、ふわりと重量を失った泪は、私の目線を掻い潜りながら、対戦相手との握手に向かう。
これはマナーだから、とやり場のない怒りをなんとか押し留めて、私も重い脚を動かした
向こうの二人は、どんな気持ちでいるんだろう。
何か痛みでも出ているのか、とも思ったけれど、無言で制服に着替えている泪の背中も、肩も、腕も、普段通り白く、今は触れる気にならないけれど、その輪郭も歪んではいなかった。
熱気の引けてきた体育館から外に出て、春のぼやけた空気の中で、太陽が首を傾げているのに気づく。
それでもまだ、そこにいるのなら、私たちは早く負けすぎたんだろう。
彼が気まぐれに伸ばした泪の尻尾を踏まないように、私は少し距離を置いて矢板先生の車に向かう。
せっかくこんな遠くまで来たのだから、もう少し……というのは、きっと贅沢な望みなんだ。
私が『益子泪』のパートナーでいる限りは。
矢板先生も、今日の泪の試合振りには納得がいかないようだけれど、それでも大事な選手たち──私たちの疲れにも配慮してくれているのか、ゆっくりとしたハンドル捌きで車を走らせる。
たぶんすぐに忘れる地名のサービスエリアで、矢板先生はトイレに行くといって車を止めた。
私たちは汗をかいた分、そんなに『近い』わけじゃないことを伝えて、二人で車内に居残る。
空けた真ん中の座席に置いた左手を、ふと思い出したように泪は持ち上げて、制服のポケットをまさぐった。
見慣れたイヤホンを探し当て、耳に当たる部分を少しだけ親指で撫でたあと、泪は私から顔を背けて、それを耳に宛がう。
細く筋張った指が、褪せた金色の端子に辿り着く──その寸前で、私は泪の左手を握った。
「──……なんだよ」
泪の声が、窓ガラスに跳ね返る。
一瞬のタイムラグに声を忘れ、『別に──』というしか無くなってしまったけれど、石鹸の匂いを漂わせた矢板先生が戻ってきて、私は泪の手を離す。
──いつも、何を聴いてるの。
いや、そんなことを問うつもりじゃなかった。
脇をすり抜けていく車を追っているうち、私はたぶん泪よりも早く、夕闇の中へ意識を沈ませた。
居残り組の部員は、私の表情を見て、いつもの益子さんのクセが出たんだな、と悟ったようだ。
二人分には広すぎる食堂の隅に、向かい合わせで夕食が整えられている。
準備をしてくれた後輩たちは、私たちが同じタイミングで食事を取ると思っていたらしく、矢板先生が連れて行った泪の分にもう一度ラップを掛けるように頼んでから、私は箸をつけた。
もう丸二年だ。
飽きは来ていたにしろ、決して不味くはなかったはずの食事も、なんとなく味が遠い。
半分ほど食べ終えた頃に、泪が食堂に入ってきた。
いつもと変わらない、大きな足音で。
ラップを乱暴につかみ取り、冷奴に乗っかったネギが散らばるのも気にせず、益子は箸を手に取り、豆腐を引き裂くように突き刺した。
わざと聞こえるように、私は大きくため息をついた。
むっとした泪の眼が、刺さる。
「──『いただきます』ぐらい言いなよ」
「あぁ?」
椅子を床に蹴り付け、揺れた食器から味噌汁を零して、泪は一層強く私を睨んだ。
バカバカしい事をした、と私は後悔して、不味くなった食事を切り上げる。
「……ごちそうさま」
もう、いいかな。
私は残飯入れに食べ残しを投げ捨て、食器を返却口に置いて逃げた。
来なければいいのに、と思っているときに限って来るのは、月のものも、泪も同じだ。
誰もいない間に溜め込まれた湯気を突っ切って、そいつは現れた。
「……」
前も後ろもまるで隠さず、泪は私から一番遠いシャワーの前に、風呂椅子を圧し潰すように座った。
ふと、少し悪いことを思いつく。
ボディソープは、河原の石みたいに丸まった石鹸がそこにあるからともかくとして、ふだん私と一緒に使っているシャンプーやリンスはどうするのだろう、と。
私はいつもより倍ぐらいの時間をかけて、ゆっくりとシャワーで髪を梳かす。
滲んでぼやけている視界の向こうで、泪は少し手を迷わせていたが、いつから置いてあるかもわからないその石鹸を手に取り、雑にスポンジに握り付けている。
「…………」
私の方を見ないようにと決めているのか、こちらの視線には気付いていない。
ちょっと面白くなってきた。
普段よりも多めにシャンプーを押し出して、私は派手に泡を飛ばすように髪を解していく。
目を瞑り、その泡をすっかり洗い散らかしたところで、手癖で目の前の鏡を洗い流すと、その端が肌色で埋まっていた。
「──シャンプー」
「……」
無視……は、流石に可哀想すぎるかな。
私は泪が怒り出すのを待ちながら、それでもおとなしく待っているのをずっと、シャワーで髪をとことん洗い流しながら楽しんだ。
それからようやく、いつものシャンプーを手に、泪へ腕を伸ばす。
と、その重みがなかなか消えないことを私は訝しんで、見ないと決めていた泪の顔をつい見てしまった。
下唇を噛み、瞳を震わせている泪が居る。
「……なんで」
「は?」
それはこっちのセリフだよ、という間もなく、泪は堰を切ったように涙を流し始める。
「私だって──負けるときだってあるだろ!」
水蒸気を圧し潰す声が、二人きりの浴場に響く。
「──あんた、そんなに弱くないでしょ」
ちょっと調子が悪かったぐらいで。
そりゃあ相手だって、選抜に出てくるぐらいなんだから、『番狂わせ』だってあり得ない話じゃない。
でも、『益子泪』は別でしょ。
「なんであんたが機嫌悪くなるの。私が弱いから負けたんでしょ?」
もうじゅうぶん、わかってる。
私は口から洩れた言葉を、少し温度を上げたシャワーで押し流す。
「ちがう……」
本格的に泣き出す前に、旭が悪いんじゃないよ、と言ってほしかった。
けれど、そこまで我慢するには、泪は子供すぎたみたいで。
「だって……嫌に……っ! なった、んだもん……っ」
ぐずり始めたその子を横目に、私は端的に『またか』と思っていた。
こんなことは、今まで何度もあった。
私もバカじゃないから、もうそういうことなのだとわかっていたし、泪のために時間を割いていたから、少しでも迷惑をかけないためにシングルスの試合は遠慮してる、なのに。
「泪」
「ぅ……ぐっ……」
「──大人になりなよ」
「ふ、っ……わかんない……おとな、っ……て……なに──」
こいつは、もう……。
焦りや苛立ち、催虐心が一緒くたになって、私は自分でも信じられない行動をとった。
「こういうことかもね?」
湯船から漏れて流れる川に、私は泪を引き摺り倒す。
「ぃ──やめ……っ」
床に冷やされた水流に身をくねらせながら、泪は足を滑らせつつ、なんとか逃れようとしている。
本気なら、私を思い切り蹴り飛ばすこともできるだろう。
でも、泪はそうしなかった。
だから余計に、調子に乗ってしまう。
「大人って、愛し合うもんでしょ?」
我ながら陳腐な認識だと苦笑しつつ──泪にはそれがなおのこと、私に虐められているように思えたらしい。
「やだ……あさ、ひ……っ……ん、いぅ……っ!」
言葉よりもっと陳腐な手つきで、私は手癖で泪の『そこ』を弄んだ。
濡れてるかどうかなんて、知らない。
泪の足先が、床に流れる水を掻いている。
内腿に挟み込んだ手から逃れようとしているみたいだけれど、滑る床はそれを許さなかった。
私は両脚を泪の右足に絡めて膝を極め、少しだけ挿し込んだ手の平を返す──内壁に爪が立つように。
「は、ゅ……んっ!──いた……ぅ、い……っ!」
泪が腰を躍らせたせいで、ことのほか深く刺さった爪を舐るように動く粘膜に、私はより一層、指をざわめかせる。
「あ、うっ……! く、…っ……ぅう……ぃぎ……ゅ──」
臍を齧った泪の歯が、きりり、と軋む。
「──ひ、っ……く──あ、っぁ……さ──」
私は爪の腹で思い切り泪の内壁を圧し広げ、余った指に力を込めてしゃくり上げた。
「んいぃ、ぅくっ──!」
ぬぶるんっ、と指が引き抜けたかと思うと、思い切り背中を反らした泪。
その口から唾液が跳ねて、顎から糸を引いて伝い落ちる。
ふと私は、ひざ元に暖かいものを感じ、視線を遊び場に戻す。
幾度かにわたってアンモニア臭のする液体を私に噴き掛けたそこは、肩で息をする泪のリズムに合わせて蕾を開いたり閉じたりしながら、わずかに残った薄い濁りを絞り出していた。
色のないそれを爪先で拾い上げ、私は爪を噛むようにして舐めとる。
さっきとは逆だ。
味がしないのに、なんておいしいのだろう。
緩んだ泪の顔にその指を這わせ、目から滑り落ちた水滴も削り取って、私はそれも口にして。
脚をほどき、薄い乳房の頂点を泪のそれに合わせて滑り込ませる。
余韻に反響したその感触に、もう一度身を震わせた泪。
近すぎるその泣き顔から、私は思わず目線を反らす──と。
「泪、ばんそうこう……」
「ひ……っ……?」
もういいやとばかりに泪は、水を含んで緩んだばんそうこうを耳から剥し、それを排水溝に投げ捨てる。
泪の腕にまとわりついた水が、ぴちゃりと跳ねて──ちょっと冷たかったらしく、顔を背けて。
思わず私は──自分でも驚くぐらい自然に、少し赤くなった耳たぶにしゃぶりつく。
「んひゃ……くすぐったい……あ、さひ……っ」
私は大げさに顔を動かして、残った糊の苦みも一緒くたに楽しんだ。
秘所が泪の太ももに擦れ、もういい加減来ていたところからなお、徐々に自分が上がっていくのを感じながら。
「……海莉、って呼んでよ」
「──っ……か……い、り──」
荒れた呼吸の合間にたどたどしく綴られた口の動きに、私は首筋に熱湯を垂らされたように過熱する。
浴場の床に手をついて身体を支え、少しぼやけた瞳から涙を流している泪に頬ずりをして、それから、泪の右足を内股にぎゅっと押し付けて、膝頭がこすれて痛いのも気にならないぐらい、自分勝手に私を犯させる。
「ん、っふ……うっ──っは、っ……は……っあ……」
感覚が遠くなったらしい泪に、我儘に腰を振り擦る私を謗るでもなく、泪はその手を私の背中に置き、ほんの少しだけ──。
「……海莉……」
私を呼ぶ声に合わせて、膝を立てた。
密着した肉襞が捩れ、泪の脚に私が広がっていく。
「ぅ……んっ……る、い……あ──っ! ひぃ、──ぃ……っ、あ……」
茹だった頭と心でなんとか呼んだその声を、泪は惑わずに受け止めてくれた。
「……ん、……海莉……、海莉──」
私は少しだけ腰を浮かせて、その頂点を掻きむしる。
ぎゅっと抱き締められた両腕に、私の中にちりっ、と火花が散って。
「ぅ……くっ──い──……ひっ……くっ──んっ!」
ずるん、と根元から脚が抜け落ちるような感覚に、私は腕を折って泪に倒れ込んだ。
上下する肩を撫でながら、泪はなだらかにその手を滑らせて、私の背中に陽炎を見ている。
「ふっ……っは……あ……ぁ──……っ、ふう……」
息も絶え絶えにぼんやりと見つめていると、泪はまっすぐに、いろんな感情を含んだ眼を向けた。
出しっぱなしのシャワーヘッドが、からんと音を立てて、私たちに水圧を戻す。
「海莉……?」
「──っ」
開けてきた視界の中で私はそれを掴み、上半身だけを起こした泪の背中からお湯を当ててやった。
床に転がって冷えた身体に、ことさらその感触は心地いいらしい。
グルーミングを受ける猫のように背中を震わせながら泪は、私が時々、狙いを外していることにも気づいていない。
流してしまえ。
流れてしまえ。
こんなこと、しちゃダメだ。
ふと振り返り、余韻のこもった瞳を向けてくる泪の濡れた髪をそっと撫でて、私はまるっきり全部、シャワーで洗い流す。
「海莉」
あ、やばいやつだ。
私は上半身を起こして片手を広げ、泪との間を薙ぎ下ろす。
「……ダメ」
「え──」
「『旭』って呼びなさい」
「……なんで。好きなのに──か、……旭のこと」
また子供に戻って、口をとがらせる泪に、私は思わず笑みをこぼしてしまう。
「あんたは私の恋人じゃないもん。私だって泪が大好き。でも、ダメよ」
恋人にはなれないもの。
まだ。
『恋は盲目』──なんて言葉に頼って、この子を放し飼いにしちゃいけない。
「もっと大人になったら、呼ばせてあげる」
「えぇ……」
得意な舌打ちもどこか外した調子でため息をつき、泪はすごすごと自分のベッドに戻って行く。
普段より少し軽い衣擦れの音のあと、泪が枕元の明かりを消して、部屋の中が真っ暗になった。
それでも心配だった私は、頭から布団をかぶって、目尻に浮いた涙を擦り落とす。
くすん、と小さく鼻を鳴らした泪に少しびっくりしたけれど、それは寝る前に息を整えただけのことだった。
私とは、違って。
「──ん……?」
珍しく明るい朝を、私は迎えた。
それは、大会明けにオフを貰って、アラームをオフにしていたせいだけじゃない。
朝起きて最初にやる仕事の半分は、不思議なことに、ひとりでに終わっている。
「おはよう、旭」
「……おはよう」
いつものように、跳ね除けた布団をそのままにして、泪は部屋を出て行こうとする。
私はあわてて身なりを確かめ、体育館から響いてくる羽音に、寮には誰もいないと安心して、彼女を追った。
階段を降り、百八十度回って食堂に向かう。
その間、いつもは後ろにいる泪がずっと視界に入って、おまけに普段の喧騒を忘れた食堂は透き通りすぎていて、私は眩しくて目を細めた。
「……誰もいねぇな、やっぱ」
「練習始まってるでしょ」
やれやれ、と泪は共用の大きな冷蔵庫から、二リットルのペットボトルに入った飲料を取り出し、それから食パンの袋を開けて、トースターに放り込む。
私がそのあたりのことをするのは、お気に入りのアイスコーヒーを一杯呷ってからだ。
泪が私のために──たぶん──開けっ放しにしていた袋から食パンを取り出し、二台あるうちの空いた一台に、私は控えめのタイマーでそれを置いた。
「ねえ、旭。一個だけお願い」
「……なに?」
どうせまたロクなもんじゃないんだろう、と私は呆れながら問う。
一個で終わることもまあ少ないし、前振りの分だけ、余計に大したことがない用事だ。
「目、つぶって」
出た。
泪が何をしたいのか、私にはよくわからない。
ずっとペアを組んでいても、観客に驚かれるぐらい私たちは静かだ。
たぶんこの子は、それを一つ一つ、私にわからせてくれるつもりなんだろう。
「──」
思った通り。
甘ったるいスポーツドリンクを舐めたあとの唇が、私の唇に添えられる。
「ん……」
ブラックじゃないコーヒーも、案外悪くないな。
昨日の夜よりも、ずっと控えめな触れ合い。
鐘の音が鳴るまで、私たちはひとしきりその感触を愉しんだ。
それから、熱くなった顔に負けないぐらい、焼きあがったパンを取り出す。
泪のそれは、ちょっとタイマーが長すぎたらしく、少し煤っぽい匂いが広がった。
「……あちゃあ」
ああ、そうか。
泪はいつもずっと、一人分しか食パンを焼いたことがないんだろう。
厚塗りしたマーガリンは、輪郭の焦げを巻き込んで、どんどん汚れていく。
「──泪、こっちにしなよ」
「……別にいい」
スプーンの腹に回り込んだマーガリンを舐りながら、泪は首を振る。
「いいから」
もう、そんなのは私が食べてあげるから。
幼稚園のころ、先に描き終えて外へ飛び出していったともだちに置いて行かれそうで、泣きながら描き上げたクレヨンの塗り絵みたい。
でも。
「いただきます」
焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった。