※この作品はR-18です。

farfalla   作:なんじょ

12 / 17
sky flower

「アラガキさん、これから買い出しにいくんですけど、欲しいものありますか?」

 不意の問いかけに、アラガキはグローブを拭く手を止めた。

 振り返ると後ろには車椅子の少年がいて、こちらを見上げている。よく気の付く少年はいつもこうして、買い出し前に声をかけてくれるのだが、

「…………」

 アラガキはつい硬直してしまった。何の反応も示さず身じろぎもしない彼に、しばし待った少年は訝し気に首をかしげる。

「……アラガキさん? 聞いてます?」

「! あ、ああ、すまん。特に必要なものはない」

「分かりました。じゃあ行ってきますね」

「気をつけてな」

 車椅子の向きを変えた少年はジムを出ていく。

 窓へ目を向ければ、一緒に行く仲間たちが車を正面に停めているのが見えた。少年を二人がかりで乗せるのを見届けてから、手元に視線を戻す。

 アラガキは現役を引退したが、退役軍人会のメガロボクス部での仕事はいくらでもあった。

 ミヤギほどではないがトレーナーの役割を負い、スパーリングやトレーニングの手伝いをしたり、掃除や道具のメンテナンスも怠らない。

 日々の小さな積み重ねひとつひとつが大事だと分かっているから、アラガキは喜んで仕事に従事している。

 そして今日は長椅子に座って、黙々と道具の手入れを行っていた。

 持っていたグローブを棚に戻したアラガキは、そこでふう、とため息を漏らした。

 疲れている訳ではない。先ほどの問いが、頭をよぎったからだ。

(……何が欲しいかなんて、俺が聞きたいさ)

 胸中で一人ごちたのは自分の事ではなく――同じ問いを、ファルに投げかけていた故だった。

 

* * *

 

『わたし、いきたい所って、そんなにないよ。あそぶ所も、あんまり知らないし』

『ほしい物、とくにないから』

 先日の休暇を一緒に過ごした時、彼女はそう言っていた。

 その言葉に嘘はなく、家で半日、公園で散歩、それから食事をするだけで、デートは終わりを告げた。

(失敗した。何も考えずに行ったのがまずかった。次も同じ事を繰り返す訳にはいかない)

 アラガキがそう気負うのは、家でほとんどの時間、肌を合わせて互いに溺れてしまったからだ。

(……よかった。とにかく、よかった)

 よほど体の相性がいいのか、何なのか。あれほどの長時間、睦み合ったのは初めてで、思い出すだけで体が熱くなってしまう。

(だが……若造じゃあるまいし、いくらなんでもそれは、みっともないだろう)

 いくらファルが構わないと許したところで、延々と快楽に身をゆだねてしまうのは、不健全に過ぎる。

 思い出をたくさん作ろうと言ったからには、ちゃんと計画を立てるべきだ。

 そう思って後日来店した際、改めて彼女の希望を尋ねたのだが、

「……やっぱりわたし、いきたいところ、ないなぁ……」

 カウンターの中でグラスを磨きながら、ファルは首をかしげるばかりだった。

 何もないって事もないだろう、とアラガキは食い下がる。

「例えばあの公園みたいに、本で読んで行きたいと思ったところはないのか?」

「うーん……きれいな風景写真みて、すてきだなとおもうけど……そこにいってみたいって、おもわないよ」

「それなら、前行ってまた行きたいと思うところは? 旅行かなにかした事はないのか」

 旅行、とファルは反対側に首を傾けた。そういえば、と顎に手を当て、

「……まえに、おじいちゃんにつれていってもらったこと、ある」

 そう呟いたので、アラガキは思わずそれだ、と身を乗り出してしまった。

 ファルはあまり遠出をしない印象だが、あの老人となら旅行に行ってもおかしくない。そこで楽しい思い出を作ったのなら、再訪するのも悪くないだろう。

「その時はどこに行ったんだ? 国内か? 海外か?」

「うん。ラスベガス」

「ラ……」

 ラスベガス!?

 予想外の地名が出てきて、思わず声に詰まってしまった。

(さ、さすが元会長……旅行の行先が豪華だ)

 アラガキも海外渡航の経験はあるが、ラスベガスなど行ったこともなく、さすがに気おくれした。

 冴えない退役軍人がのこのこ出向く場所ではない気がする。

 しかし、

(いや、ファルが行きたいというのなら、どこへでも連れて行きたい)

 まだ年若いのに、欲をほとんど持たないファルに、もっと多くのものを見せたい。

 自分が未踏の地であろうと、彼女が喜ぶのであれば、少しくらい奮発してもいい。貯金はいくらあったかと頭の片隅で考え始めたのだが、

「……でもわたし、ああいうところ、ちょっと苦手」

 当の本人が肩をすくめたので、あっさり頓挫してしまった。

「苦手なのか?」

「うん。にぎやかすぎて、おちつかなかった。おじいちゃんが、チケットとか、パスポートとか、ぜんぶ手配してくれて、申し訳ないなって思ったけど。

 でも、おじいちゃんはずっと楽しそうだったから、それはうれしかったな」

 そう言って、ファルはアラガキと視線を合わせ、

「……うん。だから、あのね。どこかへいこうって言ってくれるのも、とってもうれしいけど。

 わたし、アラガキとならどこでも楽しいから。旅行いくなら、アラガキのいきたいところで、いいよ」

 はにかみながらそう言うので、

「そ……それは、その……そうか」

 つい言葉に詰まってしまった。

(同じことを考えてるのか)

 自分だってファルと一緒にいられるなら、どこでもいい。

 無理に出かける必要もなく、こうして店で会えるだけでも楽しいし、家で二人でのんびりしていても――と思いかけ、はっとした。

 駄目だ、これではまた前回の二の舞になる!

「そ、それは、じゃあ別に考えるとして、そう、なら欲しいものは無いのか。日用品でも何でも」

 咄嗟に口から突いて出たのは間抜けな質問だ。

 女に欲しいものを聞くのに、日用品をあげてどうする。

 幸いファルは軽く首を振り、

「なんにもないよ。必要なものならじぶんでかえるし、わたし、本当にアラガキに会えるだけで、じゅうぶん。

 それに、ほしいもの、もうたくさんもらってるよ」

 ふわり、と本当に嬉しそうな、綺麗な笑顔で言うものだから、心臓が大きく跳ねてしまい――

 

* * *

 

(……結局我慢できずにキスして、その後は家に行っているから、始末に負えない……)

 仕事を終え、いつものようにファルの店へ向かいながら赤面してしまい、アラガキは顔を拭った。

 ファルといると、恋を知ったばかりの少年のように感情の抑えがきかなくて、困る。

 自分が年上なのだから、もう少し余裕をもたなければ、格好悪いではないか。

(本当に何も希望がないのなら、あちこちへ引っ張り出すか。

 色んなものを見れば、欲しいものが自然と出てくるかもしれない)

 そんな事を考えながら歩を進め、あと少しで店にたどりつく、というところで。

「――すみません、お客様にそんなことをさせてしまって」

 角の向こうからファルの声が聞こえてきたので、びくっとした。

「いんや、このくらい。大体俺が割っちまったもんだしな、掃除くらいするさ」

 ついで耳に届いたのは太い男の声だ。

 ガチャガチャ、と一緒に響く、固いものがこすれ合う耳障りな音にも負けない、芯のある声音。

 どうやら店の裏路地にあるゴミバケツに割れ物を放り込んだらしい。盛大な音の後、ぱんぱんと手が叩かれる。

「悪かったな。あんたの店で乱闘騒ぎ起こして」

(乱闘騒ぎ?)

 聞き捨てならない、と耳を澄ます。ファルの微かな笑い声がした。

「いいえ。あのお客様もだいぶ酔ってらしたので……手伝ってくださって、助かりました」

「なに、いいって事よ。

 俺はあんたの店が好きでね、酔客に荒らされるのは我慢ならねぇ。

 出来ればもうちょっと、穏やかにお帰り願えたらよかったんだがな」

「私ひとりではどうする事も出来なかったと思います。あらためて、ありがとうございました」

 ファルが礼を告げる。かすかに衣擦れの気配がしたのは、頭を下げているのかもしれない。

(店のトラブルを客が助けてくれた、というところか)

 大体の流れは会話から理解できたが、これは出て行っていいものだろうか。

 今ファルを見たら、怪我はないかと詰め寄ってしまいそうだ。他の客の前でそれはいかがなものかとアラガキが逡巡していると、

「……あんた、良い顔で笑うようになったなぁ」

 男がしみじみした口調で呟いた。

 はい? と首を傾げていそうなファルの返事に笑いを重ねて、

「いや、前までは愛想だけの笑顔で、良く出来た綺麗な人形みてぇだなと思ってたんだが。ずいぶん生き生きして、綺麗になったじゃねぇか」

「そう……ですか?」

「無自覚か、危ねえなぁ。

 あんた、ただでさえ狙われやすいのに、むやみに愛想ふりまかない方が良いぜ。

 俺みたいな奴が付けこんでくるかもしれないだろ?」

「あなたは良い方ですから、付けこむような事はされないと思います」

「いやぁ、そいつぁ買いかぶりだな。何ならこのまま勢いに流されて、今夜俺のベッドに来てもらいたいくらいだぜ」

(なっ……!)

 今度こそ聞き捨てならない。

 かっとなって飛び出しそうになったが、ファルの涼やかな笑い声が聞こえたので、すんでのところでその場に縫い止められた。

 彼女は落ち着いた調子で続ける。

「それは困りましたね。そのお誘いをお受けしたら、あなたはもう、お店に来てくださらないでしょう?」

「うん?」

 今度は男が首を傾げたようだ。

「あなたはとても人懐っこくてどんな方にも親しげですが、誰とも深い関係をもちたがらない。言ってしまえば、束縛を嫌う方とお見受けします」

「んー、そいつぁ……まぁ、そうだな」

「そんな方と関係をもったら、深入りはごめんだとばかりに、二度といらっしゃらないでしょう?

 そうなってしまえば、常連のお客様を一人失う事になります。お店にとって相当な痛手ですから、そのお誘いはお受けいたしかねますね」

 しばし間、ついで豪快な笑い声が路地に響いた。

「こりゃいい、あんた言うようになったなぁ!

 俺も居心地いい隠れ家を失うのは真っ平ごめんだ。そういうことなら、お誘いは引っ込めるよ」

「ありがとうございます。今日の分は、お礼におごらせていただきますね」

「そいつぁ助かるね。実は金持ってきてなかったんだ……」

 平穏に語り合いながら、二人の声が遠ざかっていく。

 黙ってそれを聞いていたアラガキは、ぎゅっと拳を握り――そして、決めた。

 

* * *

 

 その日、いつものように店を訪れると、いつものようにファルが一人でアラガキを出迎えてくれた。

 もはや注文するまでもなく、さっと出てくる酒とつまみを楽しみ、他愛のない会話をしながら機をうかがう。

 退役軍人会と番外地で今度練習試合をするんだという話題でひとしきり盛り上がって、ふと会話の空白が訪れた時――ここだ、とアラガキはジャケットのポケットに手をいれながら、口を開いた。

「……ところで、ファル。この間話してた、欲しいもののことなんだが」

「ほしいもの? ……うん、なに?」

 首をかしげるもすぐ思い立ったようで、ファルは穏やかな眼差しを向けてくる。

 光の加減で濃度の変わる青い瞳は、店内の照明のもと、淡い光を閉じ込めているようにキラキラして見えた。

 その視線に緊張がいやますのを感じながら、続ける。

「あの後よく考えてみたんだが……その、俺からお前に、贈り物をしたいと、思ってな」

「アラガキ、わたしはなにも――」

「お前が欲しくなくても、俺が贈りたい。

 要するに俺のわがままだから、喜んでもらえるか分からないが……これを、受け取ってもらえないか」

 勢いで押しきってしまえとばかりに、ポケットから拳を出して、つきだす。ファルがびくっとして軽くのけぞる前で、手のひらを開いた。

 その上に乗っているのは、小さな箱。

「……え。……え?」

 状況が理解できないと言いたげにファルが目を瞬く。

 自分の顔に血の気が上ってくるのを感じながら、アラガキはその箱を押し開けた。中にあるのは――ファルの目と同じ色の小さな石を抱く、指輪だ。

 かたん、と音を立ててマドラーが落ちた。手にしていたファルは硬直している。

 そのまま、呼吸すら忘れたように身じろぎもしないのを見て、ファル、と呼び掛けた。

「き、……気に入ると、いいんだが」

 なにか反応してくれ、とすがるような思いで語りかければ、目を瞬いたファルの頬がぱぁっと赤くなった。そんな、とかぶりを振り、

「そんな、の……きにいらないなんて、あるわけ……」

 ない、と呟いてまた絶句してしまう。

 ――長い沈黙を挟んだ後、ファルは深呼吸して胸を撫で、

「……もらってしまって、いいの? アラガキ。これ……たかそう」

 こちらを窺うようにいうものだから、当たり前だと答えた。

「お前のために買ってきたんだ。受け取ってもらえなかったら困る」

 これで断られたら、何のために苦労して、寝ている隙を狙って、ファルの指のサイズをはかったのか分からない。

 貰ってくれと再度強く告げれば、ファルはそこでようやく実感したのか、

「……うん。ありがとう、アラガキ。うれしい……とっても、うれしい」

 涙ぐんで礼をいってくれた。そこでアラガキもほっとして、肩の力を抜く。

 遠慮深いファルを相手では、固持される事もありうると危惧していたのだ。

「よかった。それなら、その、手を貸してくれるか」

「う、うん」

 お互いぎこちなくやりとりしつつ、ファルが差し出した右手をそっと取った。

 繊細な指先は、少し力を入れたら折れてしまいそうで、怖い気もする。

 ガラス細工を扱うような慎重さで、人差し指にそっと指輪を通し――すんなり、根本に収まる。

「……すごい。ぴったり」

 ファルはためつすがめつ、指輪をはめた手を眺めて、ため息をついた。こちらへ手の甲を向けて、

「どう、かな。……へんじゃない?」

 遠慮深く尋ねてくるので、もちろん、と力強く頷いた。

 最初に指輪を見たとき思った通り、瞳と同じ色の指輪は、ファルの白い手によく似合う。

「……ありがとう、アラガキ。これ、ずっとつけていても平気?」

「ああ、そのつもりで買ったんだ。そうしてくれると、俺も嬉しい」

「うん……うん。うれしい……すごいね、贈り物ってこんなにうれしいんだね。だいじにするね、アラガキ。ありがとう」

 指輪に手を重ねて、ファルは目を潤ませて微笑んだ。頬を紅潮させた、心からの笑顔は今すぐ抱きしめたくなるほど、愛らしい。

「喜んでもらえて……よかった」

 アラガキはほとんど息苦しくなるほど鼓動が高まるのを感じながら、右手にまた触れて、そのまま指を絡めようとしたが、

「おっ…………と。こりゃ、お取り込み中かな?」

 ぎいっと重たい音を立てて扉が開き、不意の客が入ってきてしまった。ぱっと手を離して、

「あ……い、いらっしゃいませ」

 慌ててマスターの顔になるファルと共に視線を向ければ、やってきたのは、いつか見た体格の良い、やさぐれた風の男だった。入れ墨をいれた肩をすぼめ、

「なんなら退散するが……」

 帰るそぶりまで見せるものだから、

「い、いえ、どうぞお掛けください。ご注文はいつものでよろしいですか」

 ファルはぱっとそちらへ移動して引き止めた。耳まで赤くなっている彼女と、アラガキとを見比べた後、男は首を鳴らして、

「そんじゃま、お邪魔するよ」

 どすん、とスツールに座った。タイミングの悪い、と思わなくもなかったが、

(あのままだと何かしていたかもしれないしな……ある意味、ちょうどよかった)

 自分も頬が熱いのを自覚して、アラガキはグラスの影に顔を隠すように煽った。

 ファルは気まずい空気をごまかすように手早く酒を作り、男へ供した。どうぞ、とグラスをカウンターに置くのと同時に、

「おっ、珍しいな。あんたが指輪をしてるなんて」

 男が目ざとく気づいて指摘してきたので、ファルはぱっと手を引っ込めた。

「あ、その……」

「……あー、そういう事ね。なるほど、よろしくやってるところに割り込んで悪かったな、彼氏さんよ」

 その仕草だけで事情を察したらしい。男はこちらへ声をかけ、上手くやったなとでも言いたげにウィンクまでしてきた。どうやら相当気安い男らしい。

(どんな顔をすればいいんだ……)

 恥ずかしいやら何やらで困って顔をしかめてしまうアラガキ。男はくっくっと笑い、

「よかったな、マスター。今日とびっきり綺麗に見えるのは、そいつのおかげだろ?」

 からかいを飛ばす。

 ええと、と一瞬言葉に詰まったファルは、しかしもう誤魔化すのも無理と開き直ったのか、

「……わたし、うれしくて。ごめんなさい、きょうは、ふつうに、できないです」

 指輪をした手を頬に当て、心底嬉しそうに笑み崩れた。

 普段、店に入る時はマスターとしての表情を崩さないファルにしてみれば相当に珍しく、また眩暈がするほど可愛らしい笑顔だったので、

「っ……」

「おお……」

 男二人、思わず同時に息を飲んでしまった。

 花を周囲に咲き誇りそうな気配をまとったまま、「あ、お食事もですよね。しょうしょう、おまちください」男の注文に応えるべく、ファルは厨房へと姿を消した。

 その背中を見送り、何とはなしに男と視線を合わせ……相手の方が吹き出す。

「あーあ、まったく。目の保養に来てみりゃ、のろけに当てられちまうとはな。今日は来るんじゃなかったぜ」

「ああ……その、すまない」

「何であんたが謝ってんだ。別に悪いこっちゃねぇだろ? むしろマスターのあんな嬉しそうな顔、レアだからな。拝めてラッキーだったさ」

(……不思議な奴だな。つかみどころがない)

 その時、声に聞きおぼえがあると思い至ったのは、数日前の記憶がよみがえったからだ。

 確かこの男、路地裏でファルを口説いてなかったか。

 その割にはアラガキとの交際を否定するでもなく、むしろ肯定的なのだから、どう考えればいいのか混乱する。

「はぁ」

 そんな事を思いながら、つい生返事を返すと、

「まぁしかしあれだ。あんた、まだ詰めが甘いな」

 男はグラスをもった手でこちらを指さして来たので、何を言い出すのかと視線を向けたら、

「指輪をやるなら、左の薬指だろ。あれじゃ男避けには不十分だぜ?」

「ぶっ!!」

 爆弾発言をしたので思わず酒を吹き出しかけた。な、と言葉に詰まるのと同時に、耳までカーッと熱くなってきてしまう。

「はっ、いやあんた、とんでもなく分かりやすいなぁ、マスターが惚れこむのも分かるねぇ!」

 二の句を告げず、魚のようにパクパク口を開き閉じするしかないこちらを見て、男が心底楽し気に爆笑しだす。その様子に驚いたのか、

「? どうか、しました?」

 ファルがひょいと顔を出してきたが、

「な……何でも、ない」

 説明できないまま、顔の下半分を手で覆って隠してしまった。

 ――少しでもファルに言い寄る男を減らしたいなんて下心、彼女には悟られたくない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。