女難の幕開け
---結城明日奈---
これはどういうことだ?
ただ刺さっているだけ…なのに、気持ちが良い。その上、疲れが抜けて行き、気分が穏やかになっていく。
「大樹君…」
「交わっているだけで、気持ちが良いです。動くと出ちゃいそうです」
って…彼も気持ちが良いらしい。ならいいか…って、こういう行為に抵抗があったのに、大樹君には許せてしまう。なんでかな?
不思議な少年である。
「大樹君、付き合っている女性はいるの?」
「いないです」
「好きな子はいるの?」
「う~ん…アスナさんと深雪さんかな」
深雪さんって、誰だろうか?でも、私も好きなのか…そうだよね。こんな関係になっているし。心地よさそうに、頬を重ねている大樹君。胸を捏ねくり回すことなく、乳房の感触を不思議そうにツンツンしている。もしかして、初めてが私なのかな?まぁ、中学生だしなぁ。
「付き合ってもいいよ」
私の言葉で、大樹君が固まった。
「僕…僕なんかで、いいんですか?」
自信無さそうな困った顔になる大樹君。
「うん…だって、こういう関係でしょ?」
「そうですね…まさか、アスナさんに、押し倒されるとは…」
あれ?私が押し倒したの…記憶に無い。もしかして、ショックで何も出来無かったのか?上にいるのは私だし…
◇
帰宅して、母に交際宣言をした。
「あの桐ヶ谷って子?」
桐ヶ谷和人…キリト君との交際に難色を示している両親。
「違う子…鬼門大樹君って言うんだよ」
「鬼門?あの鬼門?」
母の顔が驚いている。名家なのかな?
「どの鬼門?お祖父様はディープ・スノウ社の会長の代羽周太郎氏だって」
「代羽…あの四葉財閥の分家の…」
四葉財閥?有名なのかな?
「そう…それは、良い血統に巡り合えたわね」
難色を示すどころか、どこか嬉しそうな母。って…うん?
「有名なの?」
「有名よ。四葉財閥の医療機器部門を担っているのが代羽家で、九鬼財閥の本家が鬼門家なのよ」
なんかスゴい家柄なんだ、大樹君って…
---鬼門大樹---
その日の夜、アスナの経験値上げに付き合った。危なくなったら、参戦する。二人で戦うと得られる経験値が半分になってしまうから、ソロ2組って感じで進む。睡眠時間を有効に使えるのは良いことだ。まんまと、祖父の敷いたレールに乗っている僕。アスナさんとの出会いも、仕組まれたのかな?
《解 好みの女性を、易々と渡す者では無いですよ》
確かに…暇な時間はラファエルさんとお話しタイムである。
「大樹君、お願い!」
ヘルプが必要なようだ。ささっと屠り、アスナさんはランク1に昇格した。
「次は、どんな感じ?」
「塔の奥にいるボスの攻略だよ」
転移術で、5番目の街にある僕の家へ転移した。ゲーム内でアスナさんと結婚をした。なので、本来ランク4で無いと来られない、この場所にアスナさんは来られた。
「転移術は便利だよね?」
「まぁ、便利だよ」
「それもリアルでのスキルなの?」
頷く僕。祖父のアドバイス…嘘は破綻した時に危険が一杯だから、吐かない方が良いらしい。って、隔世遺伝で嘘を吐けない能力が発現したらしいけど…誤魔化しや、ハッタリは出来るらしいが、今の僕には難しい。祖父のように、まだ修羅場経験が多くない為らしい。いや、修羅場は経験したく無いんだけど…
シャワーを浴びて、ベッドで愛を奏でる。リアルと違って、アレコレは出来ないそうだ。いや、リアルでもアレコレ出来ない僕には、同じであるけども。アスナさんにお任せである。
「夏休みはどうするの?」
「一応、受験生だから、受験勉強の予定だよ」
実際には、ミッションがいくつかあるらしい。それは、一般人には口外禁止なので、誤魔化す方向である。
「そうか…でも、睡眠時に会えるよね?」
頷く僕。この世界へのインは、睡眠することである。そういう意味では、どこにいてもインは可能である。ただ、戦場での睡眠で、戦場なのは避けたいだけだ。そこまで僕はバトルジャンキーでは無いから。
「国立高校だものね、大変だよね。まして、魔法大学付属だと」
「その分、入試に英語とか歴史は無いから楽かな」
歴史は苦手である。人間の歴史は、年号が細かすぎる。アウロスでの習った歴史は、年号よりも起きた順序と理由が重視されていたし。
「明日も、経験値稼ぎを手伝ってくれる?」
「勿論」
次の試練は一人では難しいらしい。街から先の試練は、ステージボス4連戦らしい。で、最初は砂漠で大サソリだと言う。雑魚モンスターは蟻地獄とウスバカゲロウって、足腰が鍛えられそうだ。
---キリト---
アスナがギルドを離脱していた。PVPに気を取られていた俺達は、メッセージウィンドウを読み飛ばしていたようだ。
「これ?どういうことだ?」
冷静なエギルが、一番最初に気づいた。
「あれ?なんで、アスナが?」
ギルドメンバーリストに、アスナの名前が無かった。
「どこかに、引き抜かれたのか?キリト、聞いていないか?」
「いや、全然…」
そういや、学校で俺を避けているような…
「新しい男が出来たり…」
リズが冷やかす。いや、その場合、誰になる?
「大樹君だったりして…連日のPVPで愛が芽生えたとか」
って、レン。う~ん、俺よりも強いからか?
「同じランクなのに、なんで勝て無いんだ?」
って、クライン。
「もしかして、ランクアップしているんじゃ…」
って、リーファ。
「どういうこと?」
「挑まれた側がPVPで勝つと、貰える経験値は1.5倍だって…」
それは、確実にランクアップしている気がする。う~ん、困ったなぁ。
「クライン、ランクアップをしよう」
「うん?キリの字…まさか、俺と二人で?残りの奴らは?」
エギル、リーファ、レン、フカかぁ…
「ランクアップして、支援すれば楽だろ?」
「なるほどなぁ」
---レン---
う~ん、バトルジャンキー共め…ビトさんはエムさんと二人で、辻斬りならぬ、辻撃ちに走っているようだ。最近は狙撃で、経験値を稼いでいるらしい。
キリト君達と離れて、大樹君へ連絡をした。
『どうした?』
「今、ランクはどの位?」
『ランク6だよ。次のボスが厄介で、チームメイトを鍛えている』
チームメイト?
「誰?」
『レイピア使いの子だよ』
アスナさんの可能性が大である。
「私も鍛えてよ~!」
『フカがいるだろ?って、4番目が超えられないか…』
4番目?何かヤバい敵なのか?
『わかった。相棒と向かう。相棒の敵は、パーティーで無いと倒せないから』
「それはどこ?」
『3番目だよ』
って、目の前に大樹君とアスナさんが転移してきた。
---初春制理---
「私でも出来るの?本当に?」
御坂さんが喰い付いた。
「出来るはずだって、運営の人が言っていました」
「制理…私の為に、運営に確認してくれたの?」
頷く私。実際はヤマトさんに言われたのだが、ヤマトさんは運営会社の人だし。そのヤマトさんから、御坂さんと黒子さんの分のスターターキットを預かり、お二人に渡した。
「私も?これで、お姉様とゲーム世界で一緒だわ~」
黒子さんに抱きつこうとするが、御坂さんが立ち上がり、未遂に終わった。
「よし、これから、チャレンジしてみる。制理、一緒に来て!」
私の手を引いて、ファミレスを出た御坂さん。
◇
「おぉぉぉぉ~!これがゲーム世界かぁ」
初めてのVR世界に感動している御坂さん。
「うん!リアル世界の能力も使えるのか」
「最初の試練は、レベル50で、ボスを倒すことです」
「レベル上げをしないとダメなのか。よし!行って来る」
って、装備を買わずに、アイテムも買わずに、ダンジョンへと走り去った。
「お姉様が、危なくなったら、転移するわ。お姉さまぁぁぁぁ~!」
黒子さんが後に続いた。さてと、私は円形都市のヤマトさんの家で、まったりするかな。
---キリト---
クラインと共にランク1になり、次の試練へと向かった。塔の攻略のようだ。さてと、攻めるか。クラインと共に塔へ突入した。
「キリの字…階段が敵に思えて来た」
確かに、腿が重い。その上、俊敏性が失われてきた。
「ここで、休息するか?」
「塔の中で休息か?敵のエンカウントが発生するぞ」
確か、休息中にエンカウントに遭遇すると、不意討ち扱いだっけ?先手は敵に移るはずだな。
「魔物のエンカウントは恐く無いが、ビトフーイのエンカウントはイヤだぞ」
それは、そうだな。
「じゃ、セーブアウトか?」
セーブアウトすると、その日はもうアクセス出来ない代わりに、HP、MPと見えないパラメータであるスタミナが全快になる。
「だな。明日はここからスタートにしよう。集合時間に遅れるなよ。」
同じ時間にインしないと、一緒にセーブした仲間がインするまで、一人で戦う嵌めになるらしい。
「わかったって」
俺はアスナへの気持ちよりも、このゲームのコンプリートの方に、心が傾いていた。
---鬼門大樹---
フカ、レンと合流して、ギルドを結成した。メンバーは他に、アスナと、エルさん、ルイさん、黒歌さん、白音さんの戦力外のパーティーという名の宴会メンバーである。
「う~、パーティー違いのメンバーもおるのか?」
って、フカ。頷く僕。
「5番目の街に家があるから、そこで休めば、宿賃は節約出来るよ」
ギルドメンバーは、仲間の許可があれば、家に宿泊できるようだ。
「ランクが到達していない者は、円形都市のゲートから入れるからね」
この大陸は中心に神の杖と呼ばれる塔が立ち、ソレを囲むように円形都市が取り囲み、更に小高い丘がその円周を取り囲み、外側にはクエストエリアが広がっていた。
「じゃ、フカと僕、レンとアスナでランク0を卒業させよう」
フカの武器はランチャーメインであるので、アスナでは荷が重いと判断したのだ。
「フカ!大樹君に迷惑を掛けないでよ」
って、レン。
「仰せの通りに、ピンクの殺戮者様」
レンの装備は、ショートレンジマシンガンとナイフだ。マシンガンの方は1分間に800発の連射が可能らしいが、それでは、直ぐに弾切れになってしまうので、ワントリガーで10連発撃てるモードを使っているそうだ。
彼女達の仲間のリズベットって人が、課金アイテムの錬金釜をゲットして、装備の改造をしているらしい。今度、紹介して貰おうっと。
---リーファ---
漸く、ランク1だよ。お兄ちゃんはクラインとさっさと先に進むし。レン、フカコンビは、違うギルドに移籍したようだ。どうするかな、この先…
ドーン!
凄まじい爆発音…フカのランチャーか?音のした方へと向かった。
「なぁ、武器を変えた方がいいぞ。次の次辺りには、有効な武器だけど、ここじゃ、直ぐ弾切れだし」
知らない男性の声。
「う~む、そうじゃなぁ~。全然先に進めぬ…何か良い武器はあるかのぅ~」
もう一人は予想通り、フカだった。
「フカ!」
「おぉ~!リーファじゃないか。ランクアップしたのか?先程、シオンにも会ったぞ」
連れの男性は、誰だ?
「大樹、武器をくれぬか?」
大樹?確か、あのナイフ二刀流使いじゃないのか?
「武器?う~ん…、剣使いだよね?じゃ、これ使えるかな?」
「おぉ、鋼の剣か?あっ!STRが足り無い…」
「腕力無さ過ぎるでしょ?どうするかな…手持ちだと、弓かナックルしか無いけど」
「よし!弓を持て!」
ストレージから弓を取り出す大樹君…
「矢は?」
「それ、レア装備だから、貸しな。矢は要らない。弾けば光の矢が放てる」
レアの『光の弓』かぁ…
「なるほど…」
「持ち主は僕だからね。レンタルフラグ立てたよ。使えるはずだ」
弦を引いて離すと、光の矢が飛んでいく。
「おぉ~、スゴい」
「今日中にランクアップしてくださいね」
「お姉さんに、まかせなさい」
お姉さん?見た目大樹君のアバターの方が、歳上に見えるけど。
「うっ!PVPの呼び出しだよ。ねぇ、君、フカのバックアップしてくれるかな?」
って、転移していった。
「リーファ、惚れるでないぞ。レンとアスナが取り合い中なのだから」
はい?取り合い中?
「大樹は良い奴じゃ。じゃがなぁ、惚れるで無いぞ。儂は忠告をしたぞ」
人生の経験者風の口調で、忠告されたよ。って、そんなにいいのか?お兄ちゃん一筋を私が、惚れる事は無いと思いたい。