---鬼門大樹---
フィンさんに誘われ、ダンジョンへ足を踏み入れた。メンバーは他に、リヴェリアさん、アイズさん、ティオナさん、ティオネさんである。入団テストのような感じだ。
まずはゴブリン達の歓迎。瞬殺していく。
「瞬殺だと?!」
僕の行為に驚いているフィンさん。この程度を瞬殺に出来ないと、後が恐いんですよ。騎士団への入団試験は、ソロで60階層を往復だし…騎士団に入団すれば、両親に逢わせてくれるって言う祖父ちゃん。それだけが騎士団へ入団する楽しみである。
中層の入口ではミノタンの群と遭遇。
「ロキ・ファミリアではどうするんですか?」
一応確認しておく。
「どうって?」
フィンさんに訊かれた。
「屠って良いんですか?それとも、食料にするんですか?」
食料にする場合、殺さないように、食べられる部位だけを抉らないと、灰になってしまう。
「食料?いや…倒して良いだぞ」
「了解です」
これも瞬殺していく。殺さずに食料にする鍛錬をしていたおかげで、楽に屠れる。しばらく進み、安全そうな場所に着くと、少し休憩になった。
「大樹、さっきのは、どういう意味だ?」
フィンさんに訊かれた。
「祖父ちゃんの騎士団で潜る時、ミノタンはステーキの材料なんで、殺さずに食べられる部位だけ抉る鍛錬をしていたんです。だから、屠って良いのは楽でいいですよね」
何度もヘマをして、どやされたり、飯を抜かれたり…スパルタ教育だったよな。
「大樹君の祖父様の騎士団?」
アイズさんに訊かれた。
「えぇ。僕はまだ入団試験に合格していないんですよ」
「入団試験ってなんだ?」
リヴェリアさんに訊かれた。
「ソロで地上から60階層を往復です」
あれ?みんなが絶句している。どうして?
「な、なぁ…大樹。その騎士団の団員って、みんなソロで往復出来るのか?」
「出来ますよ。騎士団員の場合、抜き打ちテストは、60階層までのタイムトライヤルだし」
みんな、時間を競っていたよな。って、あの団員の中に両親がいたのか?
「さすが鬼畜の部隊だな…」
捻り出すような声で呟くフィンさん。祖父は、ここでも鬼畜として有名らしい。
「なぁ、この迷宮で一番美味しい素材はなんだ?」
ティオナさんに訊かれた。
「僕はミノタンのステーキが好きですけど、砲龍のテールスープが美味しいらしいですよ」
「はぁ?」
なんか、驚かれている。
「砲龍って、どこに行けば狩れるんですか?」
フィンさんに訊いた。
「52階層より下だよ」
随分と遠いなぁ…
◇
そして、イレギュラーに出逢う事無く、18階層の街に到着。
「ここで一泊して、明日、地上に戻るぞ」
宿にチェックインした。
「大樹と同じ部屋にする」
って、アイズさん。まぁ、彼氏枠だし…
「なら、私も一緒」
って、ティオナさん。なので、3人部屋になったらしい。部屋に入り、まず得物のメンテを始める。
「自分でするの?」
不思議そうにアイズさん、ティオナさんが見つめている。
「しないんですか?キレ味が落ちると危険が一杯ですよ」
刃面に血糊が載っている。これらの汚れを落とさないと、こびり付き、キレ味が落ち、破損の原因になるのだ。
「しないよ。潜って帰ったら、ゴブニューのおやっさんの処でメンテして貰うんだよ」
って、ティオナさん。これが、冒険者と騎士団の違いなのだろうか?祖父ちゃんは、僕に違いを、身を以て教えたかったのか?
「騎士団では、自分の得物は自分でメンテが基本でした。自分の身体の一部を他人任せにするなってね」
祖父ちゃんの言い分。今ならわかる。あの当時は反発していたというか、受け入れ拒否に近かったからなぁ。
「そうだよね。自分の身体の一部だよね。大樹、私の得物もメンテしてくれる?大樹になら触られてもいい」
アイズさんの言葉に狼狽える。対女性の免疫が弱いのに、触られてもいいって…それはちょっと。まぁ、得物なら大丈夫かな。
アイズさんの剣もメンテしていく。
「う~ん…なら、私のもお願い」
ティオナさんの得物は苦手だ。祖父ちゃんも苦手だったらしい。叩き斬る武器は、欠けている場合が多いからだ。あぁ、欠けているよ…バックパックから簡易修繕キットを取り出した。それで、欠けている箇所を修繕していく。
「そんな物まで、持ち歩いているのか?」
「基本装備です。そのバックパックは、容量が無限な不思議な収納具なんですよ」
祖父ちゃんの不思議な袋の技術を使い作られた、不思議なバックパック。『強奪』したアイテムやお金が種類別に分類される便利機能付きである。更にお金は、不思議な財布へと転送される仕組みである。
「不思議な道具持ちなのか…」
メンテの終わった得物をお二人に返した。
「そういや、お前の装備って、業物か?」
ティオナさんに訊かれた。
「業物かどうかは知りません。先輩や祖父ちゃんに餞別代わりに貰いました」
ティオナさんがフィンさんを呼んで来た。
「フィンは装備品の目利きが出来るんだよ」
って…装備品をフィンさんに見せた。見ていくウチに、フィンさんの顔から血の気が引いていった。あれ?呪いの装備品でもあったかな?闇属性の僕の場合、呪いの装備品でも普通に使えてしまうのが難点である。
「スゴい…これ、ナイトクロウガントレットだよな?」
「えぇ、最新タイプです」
ナイトクロウガントレットって有名なのか?
「どこで買えるんだ?」
買える?流通していたかな?
「それは先輩から貰いました」
「貰った?お前、これの価値を知らないのか?」
価値?
「知らないですよ。それ、売り物では無いし」
僕以外では使えないはずだ。
「ナイトクロウシリーズは最低1億するんだよ」
あれ?流通しているのか…
「えっ!」
ティオナさんが驚いている。アイズさんは、いつも通りである。興味が無いようだ。
「いつか、ナイトクロウシリーズの槍を買いたいと思っているんだよ」
「そうなんだ。じゃ、逢う機会が会ったら伝えます」
「おい!知り合いなのか?」
フィンさんの声が裏返っている。
「騎士団の先輩ですから、ジム・ナイト・クロウさんは…」
「騎士団の先輩…あの鬼畜騎士団のか?!」
随分な言われようである。全て、祖父の行いのせいであるが…
「まさか、フレイシリーズと名の無きシリーズもか?」
頷く僕。あの3人って、この世界でもスミスをしているのか。
「名の無きシリーズは、祖父の作品ですよ」
「何?」
今日一番の驚きの顔をしたフィンさん。
「あの鬼畜って言われている人物が、幻の名工なのか…」
まぁ、祖父は滅多に剣は打たないからな。基本包丁職人って言っているし。
「お願いだ…紹介してくれ…」
フィンさんが僕なんかに頭を下げた。それほど、熱愛した得物があるらしい。
「お金は稼ぐ。だから、販売ルートだけでも紹介してくれ。頼む」
えぇっと…この近所にある連絡先は…どこだっけかな…あぁ、治外法権地帯にあったっけ。
「オラリオに隣接する治外法権エリアにある円卓商会で扱っています」
「あそこに店があったのか…目から鱗だよ。地上に出たら行ってくる。いや、大樹も一緒に来てくれ」
紹介状代わりに付いていけばいいのか?
「なぁ、あそこって通行手形が要るんじゃないのか?」
ティオナさんが声を掛けてきた。
「持っている。同行者2名まで入れる」
なんで、持っているんだ?風俗かな?訊けないけど…
「え?それって、フィン、あそこで抜いているのか?」
僕が訊けないことを、ティオナさんが訊いてしまった。
「ティオネには言うなよ!」
「言わないよ。修羅場に遭遇はしたくない」
アイズさんは、僕に抱きついて、寝ていた。癒やしのオーラが、眠りを誘ったかな?
◇
そして、地上に戻った翌日、僕とフィンさんと何故かアイズさんとで、治外法権エリアに入った。怪しい雰囲気が漂う街並。実際、妖しいお店が多いけどね。
僕が道案内をして円卓商会へ連れて行った。店頭のショウケースに目を奪われるフィンさんとアイズさん。歴戦の戦士を虜にするような装備が並んでいるようだ。
店内に入る。店内に祖父ちゃん、ジムさん、フレイさんがいた。
「どうした、大樹。ギブアップか?」
祖父ちゃんが声を掛けてきた。
「まだしないよ。今日は、フィンさんとアイズさんが、売り物が見たいって、だからお連れしました」
「なるほど」
「誰だい?」
フィンさんに訊かれた。なので、3人を紹介した。
「あの鬼畜なのか…」
祖父ちゃんの目の前で言うかな。勇気あるなぁ。
「あぁ、鬼畜だよ。それが何かな?」
でも、祖父ちゃんは意に返さない。言われ慣れているらしい。そもそも鬼のハーフなので、鬼畜なのは当たり前と言う始末だし。
「えっ?大樹の祖父様?あ、あの…大樹の彼女のアイズです。よろしくお願いします」
アイズさんの挨拶に、祖父が苦笑いしている。もう少し言い方があるだろうに。
「そうか。大樹の彼女になったのか。じゃ、お祝いに、これをプレゼントだ」
鱗のハーフメイルをアイズさんにプレゼントした祖父。見た目はスパンコールドレスのようだ。
「試着室で試着してくるといい。サイズ直しをしてあげるから」
「はい」
嬉しそうに試着室に向かうアイズさん。そして、試着して戻って来たアイズさんに合わせてサイズ調整をしていく祖父。
「その鱗は通常の剣で斬れない上、魔法を反射出来るんだよ」
鱗のサンプルを見せてくれた。それは、物凄く固くて、薄くて、軽い素材であった。僕のナイフでも傷つかないし、アイズさんの剣でも傷は入らなかった。魔法に関しては、回復魔法以外は弾くようだ。
「ありがとうございます」
「良いって。孫の嫁候補だし。ケガされると困るからな」
祖父の言葉に、表情はいつも通りで無表情で、耳だけを紅く染めるアイズさん。照れているのかな?
一方フィンさんは槍売り場で唸っていた。値段が物凄いことになっているらしい。
「最低3億かぁ…」
狙っているのは10億近いらしい。そんなに稼げるものなのか?
「大樹、お前の小遣いで買ってやれば?」
はぁ?祖父が妙なことを言う。って、僕の財布から金を巻き上げているし。
「2億ちょういか…ジム、負けてやってくれよ」
「わかりました。大樹のお世話になっている団長さんですしね」
3億の槍をフィンさんに手渡したジムさん。僕の小遣いなんですが…
「大樹、金は使わないとダメだよ」
って、金を使わない祖父に言われても…
「すまない、大樹…お前に少しずつ返していくよ」
って、フィンさん。
「大樹、アイズさんとの結婚資金を、貯めないとダメだな」
えっ?!結婚…アイズさんと?アイズさんと見つめ合う。その気になっていく僕。祖父の敷いたレールを爆走している気分だよ。
◇
ロキ・ファミリアのホームに帰宅した。新品の槍に頬ずりしているフィンさん。スパンコールドレスをティオナさんに見せびらかすアイズさん。祖父の手の平で踊っている気分の僕。
「アイズ…」
「大樹の祖父様に挨拶をしてきました」
無表情だけど、耳だけを紅く染めているアイズさん。ティオナさん達が驚きで固まっているし。
「照れているのか…お前…」
リヴェリアさんが見抜いている。無表情で照れるって、技だよな…
「それは幾らだ?」
リヴェリアさんに訊かれた。
「アイズさんのは…1億で、フィンさんのは3億…」
明細書を見て答える僕。値段を聞いて固まるロキ・ファミリアの皆さん。
「ナイトクロウシリーズか?」
「フィンさんの槍はそうです。アイズさんのは…ノーブランドです」
ノーブランドというブランド名の祖父の名の無きシリーズ。そのハーフメイルを使い込めば、名前が刻まれるはずだ。
ガレスさんは唸っている。彼の装備品は契約スミスの物しか、装備出来ないのであった。
「お前、金持ちのボンボンか?」
ベートさんに言い掛かりを言われた。
「お金無いです…よ」
街で『強奪』三昧しないとダメだな。小銭を集めて、漸く2億まで貯めたのに…
◇
翌朝、アイズさんと剣の鍛錬を。あのハーフメイルに慣れようとしているアイズさん。
「悪く無い。気にならないし、動きのジャマにもならない」
気に入っているようだ。だけど、難点もある。打撃ダメージは吸収出来ない点だ。軽さを追求したメイルなので、クッション材は入っていない。
「打撃だけは注意しないとダメだね」
まぁ、ハーフメイルだから、護られていない部位もあるので、全くケガをしない訳では無いし。