---アウグスト・フォン・アールスハイド---
まずい…大樹が除籍処分になり、学校を辞めてしまった。アイツの重要性を学校も、国も分かっていないようだ。アイツがいなくなり、クロードとシンの仲が縮まっていく。アイツ、身を引いたんじゃないのか?シンの為に…
研究会の方は、順調であった。シンがメンバーのレベルアップをしてくれていた。大樹という、対立軸が無くなったおかげかもしれないが…
「賢者の孫は、光学迷彩で姿を消したのか?」
何故か、アイツは俺の部屋に出入りするようになっていた。俺から情報を得る為に、遊びに来ているらしい。森に住んでいると、最近の流行が分からないっていうのが理由だ。実際は、クロード達のことが心配なんだろう。
「大樹は、姿を消せるのか?」
「消せるよ。方法は違うけどね」
って、本当に俺の前から姿を消した大樹。
「どうやっているんだ?」
『空気と同化しているんだよ』
脳裏に大樹の声が響いた。耳からは聞こえていない。
「これはどうやって話しているんだ?」
『念話という、脳へ直接語り掛けて居るんだよ。姿を消す場合、光学迷彩もありだと思うが、戦場では役に立つ方法では無い。動けば、気配や音が必ず生じるからね。その点、空気に同化する方法は、気配も音も消せるんだよ。難点は会話だけど、こうすれば、声で場所が気づかれる事は無いでしょ?』
そうか…俺は気づいた。シンと大樹の対立理由にだ。大樹は戦場でのことを想定しているのに対し、シンは理想を追い求めて、開発しているのかもしれないことにだ。
「学校に戻ってこないか?」
「来年に受験か?面倒だよ」
大樹が目の前に姿を現した。
「クロードのことはいいのか?」
「賢者の孫の家で、馴染んでいるようじゃないか。両家の保護者達は婚約を目論んでいるぞ」
コイツ、今やった方法で、クロードのことを見守っているのか。
「俺はこの国の国民では無い。俺の祖父は英雄では無い。この国において、あの賢者の孫に勝てる要因は何も無い。それが事実だよ」
大樹の表情から感情は読み取れない。
「なら、俺の側近になってくれないか?」
「ユリウスとトールがいるだろ?欲張るなよ」
そうだけど…
「ありがとう…こんな俺を心配してくれて…また、遊びに来るよ」
目の前からアイツの姿が消えた。帰ったようだ。
◇
アイツに対して、出来ることを考える。
「オーグ、何か考え事か?」
シンに訊かれた。
「なぁ、あの光学迷彩なんだが、あれは完成形か?」
「気配までは消えないし、見ない分、ぶつかってくる人がいるんだよ。そこが改良点かな」
「あるヤツが、その改良した方法を見つけたそうだ」
「アイツか?どんなチートなことをしたんだ?」
「それはシンが考えろよ。研究課題だろ?」
「そうなんだけどなぁ…」
『王子、あんまり、賢者の孫に当たるなよ!』
そうか、大樹は学校にも来ていたのか。脳裏に響く大樹の声。誰も、気づかない。大樹の存在に。クロードに耳打ちをして、大樹のことを知らせた。
「知っています。毎日、来てくれてますよ」
って、クロード。アイツ、面倒見が良すぎるだろう。
「マリア、アリス、ユーリの相談にも乗っているそうです。大樹君、優しいから…」
俺の胸に顔を埋めて泣き始めたクロード。何事かと、みんなが俺を見ているし。
『おい、王子!泣かすなよ。シシリーは感情が豊かなんだからさぁ~』
って。そうだな。地雷を踏んでしまったよ。
---シュウ---
魔人の親玉と交戦をした。魔人から放たれる魔法、総てをドレインしていく。
「何?効かないだと…貴様は何者だ?」
「名乗る程の者じゃ無い。通りすがりの旅人だよ」
ドレインした魔力を分析した。魔素を魔力に錬成しているようだ。
「覚えておけ!」
僕の前から消える魔人。帝国の方へと気配が遠ざかっていく。帝国に住処があるようだ。アインズに魔人達の殲滅を丸投げすると、喜んでいた。戦いたくてウズウズしていたようだ。
家に戻り、気づいたことを実験していく。
---鬼門大樹---
祖父ちゃんから、今度の予定が発表された。
「この世界の魔素を総て魔石に変えて、持ち去ることにする」
それは、この世界で、魔法が使えなくなるってことである。
「魔素が無くなれば、魔人も魔物も発生はしなくなる。大樹の言う通り、魔法も使えなくなるが、どっちのメリットがこの星に優しいかだよ」
祖父ちゃんは、星に生きる生き物サイドでは無く、生命を育む星サイドの立場である。星の護り神であるのだから、当然であるが…
「だから、使い手が魔素を錬成する方式の世界が少ないんだよ」
オラリオでは魔石として存在している魔素。魔素も元素の1つなのであろう。
「この時代としては、混乱はあると思うが、長い歴史上で見れば、些細なことだよ」
言いたいことはわかるけど…
「お前の知識を広めれば、魔法の使い手は全滅しないぞ」
そうなるだろう。だから、祖父ちゃんはシシリー達に、俺達流の魔力制御を教えたのであろう。
「まぁ、悩め。悩むことは大切な課程だ。悩まずにブイブイするのは、アレだけだぞ」
エロ賢者様としてのお言葉に聞こえる。まぁ、アレの時、ノープランはマズイよな。
「って、ことで。遊びに行ってきます」
祖父ちゃんが、玩具も攫いに行ってしまった。
---メリダ・ボーウェン---
目の前に、私と同じ様に、高校生時代のボディを晒し、手首を拘束され、天井に吊り下げられているクリスティーナがいる。彼は分身の術を使い、私とクリスティーナを責めていた。そのテクニックは多彩で、既に上下の口からヨダレが駄々漏れしている。
「メリダ、お前、好き者だな」
耳元でささやかれただけで、身体の芯が熱い。お尻の穴で、こんなにも快楽を得られるとは、初めて知った。クリスティーナの股間が痙攣しているようだ。刺激が強すぎたようだ。
二人の彼に、前後から突かれている。内臓が揉みくしゃにされている感覚があるが、もっと欲しいと感じる刺激である。死ぬ寸前が一番気持ち良い。蘇生能力持ちの彼は、何でも私とクリスティーナを死に追い込み、屍姦を愉しまれている。
「虐めがいがあるのはメリダだな」
溶けたろうそくを胸に垂らされていく。痛気持ち良い。精も根も尽き果てるまで、彼の玩具にされ、夜明け前に、自宅のベッドへ返される。
◇
自宅のベッドの上で目覚めた。年老いた姿に戻っている。若い時に、あんな目にあっていたら、導師と呼ばれる存在にはなれなかっただろう。それだけ、やみつきになる快楽が、あそこにはあった。
「婆ちゃん、またつれて行かれたの?」
シンに訊かれた。
「いや、連れて行ってもらったのさ」
全身が、心地よい程度の筋肉痛を感じている。結構な運動量だからな。
---鬼門大樹----
賢者の孫の授与式。マリア達Sクラスメンバーも参列するそうだ。王都はお祭りモードである。新たなる英雄の誕生を、国民総出で祝うらしい。
俺達は、王都のやつらに気づかれないように、帝国軍と交戦中である。森に攻め込んで来た帝国軍。それを迎え撃っているのだ。
「こいつら、王国軍と間違えて、僕達に攻撃をしているのかな?」
帝国の領内では、魔人と不死者軍団が交戦中らしい。アインズさんが、帝国を奪いたいらしい。
「一人も逃がすなよ」
烏合の衆である帝国軍、それに対し、鍛錬漬けの俺達。結果は明らかである。ファルコンさん達が遊軍になっているし。
「なんで、この程度の戦力で、電撃奇襲を仕掛けたんだ?魔人が噛んでいるのか?」
帝国軍があまりに弱すぎることに、違和感を覚えた祖父ちゃん。
王都で授与式が終わる頃には、帝国を占領したアインズさん、帝国軍を殲滅した俺達。王都のやつらは、気づいていないようだ。王族主催のイベントで、王国の兵士達は、授与式に参加しているようだし。
「帝都にナザリックを置く。魔人達を実験台にして、魔素の効率の良い回収方法を模索だな。手の空いた者は、王都の様子を見てきてくれ」
俺も王都へと転移した。
---アウグスト・フォン・アールスハイド---
クロードへ指輪をプレゼントしたシン。そのことを知った父上は、授与式の壇上で、クロードとシンの婚約を宣言してしまった。クロードの了解を得ずに。
「まだ、婚約だなんて早いのに…」
クロードが泣き崩れている。こんな姿をシンには見せられないので、俺の部屋にメッシーナやカールトンと共に、クロードを連れ込んだ。
「殿下!シシリーの承諾無しに、あんな宣言をするって、酷いです」
メッシーナが俺に噛みついてきた。
「そうだな。俺もそう思う」
父上から婚約話はクロード家に打診され、承諾したクロードの両親。
「王様からの命ですよ。シシリーの両親は拒否出来無いでしょ?」
「あぁ、そうだな」
困ったことになった。大樹が知れば大事になりそうだ。
「王子、これはどういう事態だ?」
その大樹の声がした。このタイミングで転移してきたのか…
「シシリー、どうしたんだ?」
クロードを優しく抱きしめて、事情を訊く大樹。
「ごめんね。シン君と婚約してしまったの」
泣きながら答えるクロード。大樹は言葉を失ったのか、言葉が続かない。
「シシリーは、どうなんだ?賢者の孫の嫁って身分は?」
「光栄なことだと思います。だけど…」
大樹が大好きなクロード。
「賢者の孫は嫌いか?」
「嫌いでは無いです」
「そうか…」
大樹が何かを考え込んでいるようだ。何をするんだ?メッシーナ達が、大樹とクロードを護る様に、俺の前に立ちはだかった。
「俺は、大樹と戦うなんてことはしない。だから、身構えるな」
こんな光景を家臣達が見たら、反逆罪ものだぞ。
「人間は愚かで醜い生き物だよ。王子…愚かな行為をしたな」
大樹の考えがまとまったようだ。とても冷たい視線で俺を見つめている。
「あぁ、愚かな行為だ。クロードの了承を得ていない」
「了承?何を言っているんだ?了承なんかいらないだろ?王命だよ。この国の国民である以上、逆らうことは出来無い。こういう行為を強制執行って言うんだよ」
そうだな。クロードの了承は必要無い。拒否が出来無い状況だったから。
「この事態を回避する方法は2つ。1つは駆け落ち。だけど、これだと、シシリーの両親、一家郎党は死罪になる可能性がある」
死罪は無いと思いたい。あくまで俺の願望である。王命に背き、英雄の孫を裏切り、不貞を働いたとして、死罪は免れないかもしれない。
「もう1つは、この国を潰す」
そうなるよな。王を失脚させても、英雄の孫への裏切りは消えない。ならば、英雄と認めているこの国を潰せば、価値感が変わる可能性はある。
「シシリーはどうしたい?」
「大樹君は逃げて…私が時間を稼ぎます。シン君に嫁ぎます。だから、最期の時に、迎えに来てください。心は護りますから」
クロードの言っている意味が分からない。最期の時の迎え?それは何を意味しているのだ?
「分かった。必ず迎えに行く。マリアはどうする?」
「シシリーの傍にいるよ。たまには会いに来てくれよな」
「わかった」
「王子はどうしたい?」
俺?それは…
「お前とは戦いたく無い」
「わかった。戦え無いようにする。だから、安心しろ」
戦え無いようにする?どういう意味だ?意味を訊こうとしたが、大樹は転移をして姿を消した。
---鬼門大樹---
誰が悪いってことは無い。それぞれが、相手を想い、おせっかいをした結果である。
「まぁ、愚かな行為は、人間の得意技だ」
と、祖父ちゃん。帝国内の国民は魔人達により、殲滅していたそうだ。祖父ちゃんとアーシアさんの鎮魂の祈りにより、大量の人間の魂が天へと昇華していく。
帝国の特権階級の者達は、地獄へと誘われ、一番愚かな帝王は闇の世界へと連れて行かれたそうだ。
「徐々に王国内の魔素を除去していく。帝国内にプラントを置き、回収した魔素は魔石にしていく。オラリオで売れると思うぞ」
炭素を高熱高圧環境に置くとダイヤモンドになるように、魔素は魔石になるらしい。そのプラントをいくつか創造するそうだ。
「魔法が使えなくなれば、賢者と導師の英雄伝説は終わる」
祖父ちゃんはシシリーを連れ帰ることに否定的のようだ。
「現状では、連れ歩けない。今後の大樹次第ではあるけどな」
離脱時までに、物になれば連れて行けるが…
「現状、お前は戻れば、アスナと深雪がいるんだぞ。忘れるな」
忘れていた。そうだ、現実世界において、アスナさんと深雪さんがいるんだった。シシリーは、あの二人に比べると、比べられる程では無い。そうなると、この世界で幸せになってもらった方が良いのか。
---シン・ウォルフォード---
授与式の後のパーティー。ディスおじさんの宣言により、貴族の人達からの過剰な勧誘というか、娘や妹を妻に! という売り込みは無かった。シシリーという婚約者の存在はデカかった。そのシシリーだけど、どこにいるんだ?俺の周囲には、色んな人が挨拶に来て口々に褒め称えて行った。爺ちゃんと婆ちゃんが傍に居たため、人だかりになっている。
そういえば、マリアもオーグも見当たらないが、何かあったのか?仲間達を探しながら、パーティーが終わるのを待った。ようやくパーティが終わって家に帰る頃には、グッタリしてしまったけどね。結局、オーグ、シシリー達を見つけることが出来無かった。
翌日、シシリーとマリアを迎えに行った。何故かマリアは怒って居る。シシリーは瞼が腫れているし、昨晩何かあったのか?
「シシリー、昨晩、何かあったの?」
「何も無いよ…シン君と添い遂げれば良いのよね?」
心のこもっていない声。何かあったようだ。
「マリア」
「自分の胸に手を置き、考えろ!お前、本当に最低だよな」
俺に怒りをぶつけるマリア。俺、何かしたっけ?
二人と共に、教室に入ると、オーグが珍しく、寄ってこなかった。
「クロード、大丈夫か?」
シシリーに声を掛けるオーグ。
「大丈夫です。ご心配をお掛けしました」
「オーグ、昨晩、何かあったのか?」
俺がオーグに声を掛けると、
「お前は気にするな。将来のことを考えれば良い」
いつもと何か違うオーグの態度。はて?
---鬼門大樹---
空気に同化して、王国内の軍務局に潜入した。既にアインズさんが捕獲した魔人達の大規模な捜索をしているようだ。帝国内に潜って居たスパイから、帝国内で戦争の準備が行われていると報告があった。一体、いつの話だ?既に帝国は占領したんだけど…
会議の結果、王国軍も戦争の準備をするらしい。その場合の相手は俺達かな。マジに王国を占領してしまいそうである。どうしたものか?
夕方、王子の部屋へ向かった。
「大樹、どうした?」
「王国軍が、戦争の準備をしているんだけど、俺達と戦うのか?」
「どこで、仕入れた情報だ?」
仕入れた情報を王子に伝えた。
「なんだって!帝国と魔人にケンカを売られたから、占領しただと?」
「まぁ、概ね、そんな感じだよ。で、帝国がいないのに、戦争をするってことは、俺達が相手になるんだけど、いいのか?」
「良くない。お前、現状でも、王都は殲滅できるのか?」
「今か?う~ん、マリア達がいるからなぁ、俺一人では無理かな。マリア達を含めて殲滅なら可能だ。10分くらいで終わるよ」
広域魔方陣を発現させて、発動すれば終わるはずだ。
「マリア達が俺達の保険ってことか?」
「そうなるねぇ」
慕ってくれる仲間は護りたいもんなぁ。
「困ったなあ。大樹達を護りたいが、その場合、お前達の戦力を丸裸にしないとダメだと思うんだよ。開示できるか?」
「難しいかな。戦力の比較自体が無意味だしねぇ」
同じ土俵では無い異種格闘技戦のようなものである。戦力を開示しても、それが強いのか弱いのかの判断は出来無いだろうに。
「あぁ、そうだ。森の中と、旧帝国領内は、魔法が使えないからね」
これって、俺達のアドバンテージになりそうだ。
「そうしてだ?」
「魔素を回収しているから、この世界の魔法使いだと、魔力を錬成出来無いと思う」
「何?」
あれ?王子は知らないのか?魔素を使って魔力を錬成していることを。なので、王子に、この世界の魔力について、説明した。
「じゃ、お前達は、魔素を回収して魔石に変換して、この大陸から持ち出すのか?」
「そういうことだよ。魔素があるから、魔物や魔人が生まれるんだよ。それを無くす為に、魔素を除去し始めたのさ」
「それは、この大陸の価値感が壊れる行為では無いのか?」
「俺達と王子達では価値感が違うんだよ。分かるだろ?」
王子の顔から血の気が失せていく。賢者と導師が一般人になることの恐怖だろうか?
「大樹達は魔法を使えるのか?」
「使えるよ。だって、魔素のあるなしは関係ないし。そもそも、魔法なんか、あまり使わないからね」
転移も強奪も治癒も瞬動も…総て、魔法では無く、スキルとして持っているのだ。
「だから、戦いにならないって。死に急ぐなよ」
千日手になりそうなので、王子の前から転移して、森の家に戻った。