---アウグスト・フォン・アールスハイド---
父上に言える範囲の情報を伝えた。
「なんだと…帝国が占領されただと。それは仕掛けた戦争に敗れたのか?」
「そう伝え聞きました。後、魔人達も殲滅されたそうです」
「誰からの情報で、どこの勢力が行ったのだ?」
「言えません。だけど、俺の信用している筋からの情報で、俺の信頼している勢力です」
言え無い。学校を退学させられた大樹のことは…
「それが分からないと、信憑性を確かめられないぞ」
「俺は…いや、俺にだって護りたいヤツがいるんです」
何かに気づいたような顔の父上。
「あの大樹という者か?あやつ、どこにいるんだ?」
「殺させない」
「乱心か?」
「父上とは価値感が違うんだと思います。アイツは、シンよりもスゴイ魔法使いです」
「危険だと思わないか?他国民にそのような者がいることをだ」
「危険?アイツは戦いを好まない。なのに、どうして危険と言えるのですか?」
「この国の最高位の魔法使いは賢者であるマーリン殿だ。それを超えるのは、その孫であるシン君で無いといけない。それが民意という物だ」
「えぇ、それはわかりますが、それは、この国の価値感ですよね?この国は、この星を占領する気ですか?その価値感を押しつけるためにねぇ」
価値感の違いは深い溝で隔たりがあり、埋まらない気がする。次の情報を伝える。彼らのテリトリーでは魔法が行使出来ないことをだ。
「うっ、何?どういう意味だ!」
「魔素を錬成して魔力にしている以上、魔素の無い場所では魔法は行使出来無いそうです」
「そんな理論は聞いた事無いぞ」
「俺も無かったです。でも、彼らの研究力はスゴイ。魔石も作っているそうです」
「何…最大の謎だぞ。魔石の製造工程は…」
「それすらも、既に解明したそうです。現在、プラントを作っているそうです」
◇
シンの家に移動した俺と父上。父上から、ここまでの話しを、マーリン様とメリダ様、シンへ伝えた。
「初耳だぞ」
と、マーリン様。メリダ様は押し黙っている。何かを知っているようだ。
「ハッタリでは無いのか?」
「私もそう想います。なので、早急に仕掛けてみます。化けの皮をはいでやりますよ」
「死に急がせるんじゃ無いよ」
押し黙っていたメリダ様の口が開いた。
「メリダ…お前…何を知っているのだ?」
「王子の言うことは正しいさぁ。彼らには勝て無いよ。刺激をしないことが一番さぁ」
「メリダ師、どういうことですか?」
「私は、あの方の寵愛を受けているのさぁ」
いきなり、メリダ師のドロップアウト発言。固まる父上とシン。マリーン様は気づいていたのか、動揺は無いようだ。
「あの方の前から逃げることは出来ぬ。シンの『物理衝撃完全吸収』『絶対魔法防御』が効果無く、シンは一度死んでいるのさ」
シンと父上は更に固まっている。それは、衝撃的な事実である。
「あの方達の転移術は魔法では無い。あれはスキルさ。魔力はいらない。シンを殺した手段も魔法では無くスキルなのさ。そんな相手にどうやって勝つつもりなのさ?」
メリダ様も知っていたようだ。彼らが魔法使いで無いことを。
「ま、ま、魔法では無く、スキルだと言うのですか?」
「そうさな」
今夜は長くなりそうだ。
---鬼門大樹----
王国の部隊が森に侵入してきた。そのことはクリスさんから報告があった。すぐさま、迎撃部隊…アイズさんとゼノヴィアさんが向かい、クリスさんと、彼女の悪友である騎士の二人を除き、殲滅したそうだ。ちなみに、その騎士は男性であり、ゼノヴィアさんの玩具として使っているそうだ。
「王国が攻め込んで来たのか。大樹の警告は無視か。まったく、愚かだな」
祖父ちゃんは涼しい顔である。攻め込んでくるのは、想定内なのだろう。
「じゃ、徐々に王都から魔素を奪うぞ」
第一目標は、魔法科高校である。深夜に潜入して、強奪を魔方陣化して、大規模に魔素を奪っていく。奪った魔素は、プラントへ贈与していく。翌朝には魔石に変質しているはずである。ソレをキャッスルドランの保管庫へ転移させていく。
「大樹!魔石も奪って来い」
「了解です」
夜の学校を目指す。
---アウグスト・フォン・アールスハイド---
校内で魔法の威力が落ちていく。ついに、大樹達が、王都内の魔素を奪い始めたようだ。
「オーグ」
シンも同じ結論に達したようだ。アイツの家でゲートの魔法が使えなくなり始めたらしい。
「これって、対処しないと大事になるぞ」
「対処?何をどうしろと言うんだ?」
「アイツらが魔素を奪えないようにすれば良いんだよな?」
「魔素は誰の物でも無い。それを禁止することは出来無い」
「だが、魔法使いとして、由々しき事態だと思わないか?」
「いいか?魔素は魔法使いの物ではない。それこそ空気と同じだ。お前の言っていることは、国民以外は、窒息しろと言っているのに近いんだぞ」
「そこまでのことは言っていないよ。どうして、オーグは、アイツの肩を持つんだ?」
俺とシンの口論を心配そうに見ているクラスメイト達。
「そもそも、アイツらの研究結果だぞ。魔素は魔法に欠かせない物であるのは」
「この国の王立魔法研究所で、発表した時点で、この国の研究結果じゃ無いのか?」
手柄の横取りか…
「アイツらは魔人や魔物のいない世界を目指しているんだ。良いことだと思うんだが、シンは違うのか?」
「弊害が大きすぎるだろ?」
「シン、それは、お前の努力が足り無いんじゃないのか?」
メッシーナが口を挟んできた。
「どういうことだよ、マリア?」
「世の中には魔素に頼らない魔法もあるんだよ」
大樹流の魔力制御か。俺も習っている。メッシーナもクロードもカールトンも…たぶん、大樹と交流している者達は、マスターしているはずだ。
「あぁ、あるらしいな」
「なら、なんで、それをマスターしようとしないんだ?」
「爺ちゃんが言うには、威力は小さいと言っていたよ」
不敵な笑みを浮かべるカールトン。
「そりゃ、賢者様の魔法に比べたら小さいよ」
『ユーリ、挑発しちゃダメだって』
大樹からの念話だ。クロードが周囲を見回している。
「シシリー!アイツが来たのか?」
シンの手には青白い炎が発現している。
「ダメ!大樹君に攻撃はさせない」
クロードがシンの前に立ち塞がった。
「シシリー、何を言っているんだ?アイツは魔法使いの敵だぞ」
「敵じゃ無い。大樹君は戦う気は無いもの」
「なんで、そんなことを言えるんだ?」
シンの手にあった青白い炎が消えていく。大樹がキレたか?
「この教室を結界で閉じた。その上で、この教室内の魔素を完全に除去したよ」
俺の隣に現れた大樹。
「お前!」
シンが近接攻撃を仕掛ける。手にはバイブレーションソードが握られている。それで、切りつけるシン。大樹の身体が真っ二つに…ならなかった。何?これは一体…
「なんだって…身体を透過したのか?」
シンは再度、大樹を斬りつけたが、またしても、傷を負わせることが出来無かった。
「おいおい、素手の相手に、そのチート剣は無いだろ?」
「うるせぇ!お前の方がチートだろ?透過能力だと…」
これって最強な能力で無いのか?あらゆる攻撃を透過出来る能力って。
『そんなことは無い。背後に味方がいると、マズイんだよ』
って、大樹からの念話。そうか、誤爆するのか…
『正解だよ』
大樹がガントレットを装着した。そして、手に二振りのナイフを持ち、シンに対して反撃に出た。
カッキーン!
シンのソードが折れた。はっとしたシンの懐に入り込み、首筋に峰を当てた大樹。次の瞬間。シンが崩れる様にして倒れた。
「殺したのか?」
「意識を刈り取っただけだよ。賢者の孫を殺したら重罪だろ?」
「大樹君!」
クロードが大樹に抱きついた。ペタペタと手の平を大樹の身体に当て、怪我が無いかを確認していた。
「怪我はしていないから、大丈夫だよ」
「でも…心配だもの」
「心配、ありがとう。またね」
大樹がこの場から消えた。空気に同化しただけか?
---鬼門大樹----
シンは転生者のようだ。アイツの前世が垣間見えた。
「転生者はチートなヤツが多いからな」
って、祖父ちゃん。
「まぁ、アイツなりの正義で動いているんだ。価値感の違いは正義にも影響する。正義なんてものは、立ち位置でコロコロ変わるからな」
達観しているなぁ。さすが年の功である。
「だから僕達は正義の為には戦わない。護りたい者を護るために戦うんだ」
ぶれない価値感。それは正義では無い。護りたい心である。
「作戦は続行する。魔素をこの星から、総て奪う」
今後の方針は決まった。
「で、祖父ちゃんは誰を持ち帰るの?」
「18歳のメリダかな。クリスティーナは戦力外だしなぁ。大樹はどうするんだ?」
「どうって…」
う~ん…
「まぁ、離脱まで時間がかかる。じっくりと考えろよ」
って、俺もお持ち帰りさせる気の祖父ちゃん。
---シン・ウォルフォード---
魔法の使える場所と使えない場所が出始めた。どういう方法で、魔素を収集しているのかわからないけど、確実に減っているのは事実である。
「魔物も魔人もいなくなれば、高出力の魔法もいらないだろ?」
オーグが達観している。
「だけど…本当にそれでいいのか?」
「生活レベルは落ちるだろうな。今迄、魔法具に頼っていたからな」
そう言うが、オーグの顔に絶望感はまるで無い。アイツのことを信じているのだろうか?
「シン…お前、転生者なのか?」
どうして、そのことを…誰にも言っていない秘密事項である。
「否定しないってことは、そうなんだな。お前の発想は、転生前の世界の知識か?」
頷く俺。
「ならば、魔法具で出来無くなることを、科学で補ってくれないか?」
「オーグ!誰から聞いたんだ?!」
「大樹だよ。アイツは異世界から来たそうだ」
異世界から来た?
「この世界の魔法体系を学ぶ為だそうだ」
学ぶ為?
「学ぶ為に来て、なんで魔法を使えなくするんだ?」
「いずれ、魔素でこの世界は、終末を迎えるかもしれないそうだ。魔人や魔物で一体、どれだけの民や兵が消えると思う?」
「俺達で倒せばいいだろう?」
「犠牲の無い戦争は戦争じゃない。犠牲の無い戦いは一方的な蹂躙って言うんだよ、シン」
そうかもしれないが…
「見方を変えよう。他国が攻めてきた場合、それも俺達で倒すのか?」
それは…
「お前の作る魔法具があれば、他国の占領も容易になるだろう。シンのことは政治的、軍事的に利用はしない。だけどなぁ、それは俺の父の約束だ。勿論、俺もそうしたい。だけど、俺達の目の黒いうちはいい。俺達のいなくなった未来はどうなるんだ?」
俺の子供、孫が利用される日が来るかもしれないのか…
「大樹が、もしもの時、助けに来てくるって言うんだよ。もっと強くなって、自分のチームを持てたら、見回りコースに入れてくれるって…」
「見守る?どういう意味だ?」
「それは答えられない。俺と大樹との秘密の共有だ」
アイツは何者なんだ?
---鬼門大樹----
魔物狩り…熾烈な戦いである。油断すると、別の誰かが狩ってしまう。ゼノヴィアさんとか、ゼノヴィアさんとか、アイズさんである。あの遠距離の飛び斬撃は反則だと思う。遠距離になるほど、威力が増すって…
「大樹、青髪に遅れを取っているぞ」
って、祖父ちゃん。ナイフ使いの俺では、飛ぶ斬撃は難しい。そういう祖父ちゃんは、魔物狩りよりも女体狩りが好きだと公言しているし。だから、エロ賢者って言われるんだよ。さすがは、エロ賢者の孫だと、言われたくない俺。
「あっ?」
祖父ちゃんが声を上げた。この気配は…みんな一斉に、防御結界を張った。空から強烈なエネルギー弾が落ちて来た。
「この世界の賢者が動いたのか?」
エネルギー弾は結界により、防ぐことが出来た。
「おい、シグナルレッドで対応だ」
祖父ちゃんが団長の顔になっていく。締まりの無い表情が引き締まっていく。だらけた雰囲気のみんなが精悍な顔つきになっていき、それぞれ、得物を手にして、自分のポジションへと走って行く。
「アーシア、リアスはセーラの傍にいてくれ、フィーロ、ラフタリアはナツの傍だ。めっちん!防御結界を張れ!フィン、ドランを小屋の真上に着けろ」
指示がみんなに出されていく。
「大樹は王子の処へ行け!情報を仕入れてこい」
「分かった」
非常時なので、ガントレットを装備して、王子の元へ転移した。ワナかもしれないしなぁ。