転移攻撃を受けたのか、光の渦が霧散すると、湖の畔に佇んでいた。湖の周囲は木々で囲まれていた。座標を確認すると、第11宇宙に飛ばされたようだ。展開中の部隊はいないから、救出は先になるのかな?
どこかの街に行き、いい女でも探すことにするか。
「はぁ~、父様。異世界へ転移して、いきなり女ですか?」
あれ?背後にセーラと莉愛がいた。
「なんで、お前らもいるんだ」
転移攻撃って、単一個人を吹き飛ばす攻撃でなかったっけ?
「これって、巻き添えですね、師匠」
今までが今までだったので、反論出来無い。だけど…
「これ…本当に転移攻撃か?」
僕と現役魔王の莉愛、魔王候補のセーラ。転移体質の僕だけなら、あり得るが、莉愛まで巻き込む事態には成らないだろう。
「そうなると、召喚されたのか?」
「誰にですか?」
セーラに訊かれた。
「この世界を探るかっ…」
これから、どうするかを考えて居ると、何かデカイ気配が近づいて来た。オーラ的には悪魔のようだが、出会ったことの無い悪魔のようだ。全員で、臨戦態勢を取った。売られたケンカは、いつだって全量買い取りである。
ガサガサ…草むらが蠢いている。小動物でも逃げてきているのか?突然、木の影から少女が現れた。
「逃げてください!」
その少女を追う様にして、上空にはスカルドラゴンぽい羽を展開している悪魔が見えた。
『ダイヤモンドダスト』
開幕の一撃は、セーラがダイヤモンドの微粒子を光速で撃ち込んだ。上空で爆ぜたように見えた悪魔らしき物。
『ソウルイーター』
続けざまに、僕は相手の魂を消し去った。悪魔として転生させない為である。ソウルイートされた魂は、光の粒子に霧散していき、転生の門で収集して、再構築され、新たな魂として再利用されるのだ。
莉愛が少女の元に駆け寄り、肩を貸し、こちらへと連れ戻った。
「今のアレは、なんだ?」
「あの…魔王様ですか?」
僕に向かって訊いて来た少女。
「僕は通りすがりのエロ好きだよ。魔王は、君の隣だよ」
はっとした顔をして、莉愛から距離を取る少女。なんで魔王がいるって、分かったんだ?
「どうして、魔王がいるって分かったの?」
心の声を共有しているので、セーラが訊いてくれた。
「それは…今、倒されたのは、遥か昔、智天使様によって封印された大悪魔、悪魔王グレオールですから。それを倒すって、魔王様しかあり得ないです」
あれが悪魔王?アザゼルより弱いと思うんだが…
「で、君の名前は?僕はシュウ、あっちはセーラで、魔王は莉愛だ」
「ぼ、僕はアクと言います……」
灰汁?悪か?この世界では違う意味なのかな。
「で、なんで追われていたの?」
「えっ…ええっと…悪魔王の為に生け贄に出されたのですが、逃げ出してきたんです」
生け贄?逃げ出せるのか?生け贄を出し慣れていないのだろうか?普通は意識を狩って、手足を拘束しておくんだが…
「ねぇ、そこの湖で、身体の汚れを落としたら?」
セーラがアクを気遣う。アクという少女に何かを感じたのかもしれない。
「えっ!いいんですか?こんな綺麗な水で身体を洗っても…」
アクはどんな暮らしをしていたんだ?気になるなぁ。見た目、対象年齢に達していないので、身体に興味は無いのだが…うん?足を怪我しているのか?う~ん…
「莉愛、アクの水浴びが終わるまで、ガードを頼む」
「わかりました」
周辺を探索してくるかな。
◇
今回、莉愛とセーラが同行しているってことは、新たな出会いは少ないかもなぁ。そんなことを考えながら、周囲の気配やオーラなどを探索していく。その結果、やたらに澱んだ空気が溜まっている場所を見つけた。そこへ向かってみる。
そこは、祠のようだった。入り口に封印されていた形跡があるが、破壊されている。強引に入った馬鹿がいたようだ。その祠の中に侵入していく。祠の内部は、空気が澱み、血の匂いが充満していた。最近、殺戮があったようだ。奥へと進んでいくと、広間に出た。そこに、黒いフード付きのローブを着た人間が多数死んでいた。大きな爪で体を裂かれたような死体や、細切れになった体の一部、黒焦げになっている死体、どの死体も惨たらしい状況である。それらの死体を満載している床には何かの魔方陣があり、中央の壁には灰色の女体の像が鎮座している。
魔方陣は悪魔文字のようだ。その手の書物が落ちていることから、コイツらが描いたのだろう。内容的に、封印されていた悪魔王の解印、その後、魔王を…結果的に僕達を召喚したのかもしれないなぁ。
『ここは神が見放し、天使が絶望する世界。どうか驚かないで。そして、聞いて欲しい。耳を澄ませば聞こえる筈』
誰かの声が聞こえた。なんか、救われない世界のようだな、ここは…
「その為に、僕を召喚したのか?」
目の前に鎮座している灰色の女体像に声を掛けた。すると、目が一瞬赤く光り、重い口が稼働した。
『魔王では無いのか?』
魔王を召喚したのコイツか?そうなると莉愛の巻き添えを食ったってことか。良かったぁ~、僕が原因でなくて。
「僕は魔王なんてチンケな存在では無いが、弟子が現役の魔王だ」
『幾多の願いを叶えてきたが、恐らくはこれが最後になるであろう』
「お前は天使か?って、いうか、魔王召喚に手を貸すって、どういう了見だ?!」
魔王って天使の敵だろうに…
『我ではなく――そこの者達と言うべきか。“魔王を降臨”させよ、とな』
「悪魔王もか?」
『あれはとうに自力で復活した――奴のお陰で、我の力は尽きかけておる』
そうなると、魔王召喚を阻止する為に、悪魔王がここに乱入したのか。魔王が悪魔の敵なのか?
『とは言え、お主が最後の来訪者であろう――これを与える』
灰色の女体像から、禍々しい物が飛んで来たが、僕に触れると燃え上がった。僕が身に纏っているオーラは、敵、悪意持つ物、不浄なる物が触れると、自動発火を起こし、灰となり昇華していくのだった。
「貴様、邪神か?」
『我とて、元は白き姿であった――長きに渡る、人間達の邪悪な願いがこの身を変えた』
そこまでしゃべると、像は崩れ、砂になっていく。元は白き姿ってことは…天使だったのか?神亡き後、人間達の邪悪な願いを叶え続けて、邪神になったのか?そもそも、神の見放した原因って、邪悪な願いばかりだったってことか。この世界の人間達は要注意か?