真夜中…遠くから狼の遠吠えが聞こえて来た。その後も何度か聞こえるのだが、聞こえる度に近づいて来ている気がする。今夜辺り、夜襲かな?寝床から起き出し、戦闘準備をしていく。
「う…みゅ…どこに行くの?」
クルスが寝ぼけたような声で訊いて来た。
「見回りに行ってくる。クルスは寝床を死守してくれ」
「うん…任せて…くぅかぁ~」
寝入ったクルス。ここはクルスが居れば安心である。敵意ある気配を感じれば、寝ぼけても戦える資質は持っている勇者様だからだ。
村から出て、魔力の大きな気配へと近づいて行く。狼なら慣れている。祖父ちゃんがフィンリル親子を飼っているので、ハティとスコルと言う子供の狼とよく遊んだものだ。そんなことを思い出しながら、山へと踏み込んでいく。
1つ目の小山を超えた辺りで、月明かりに照らされた大きな岩の上に、1匹の狼が悠然と構えていた。その周囲に、その配下の狼も多数いるのだが、どの個体も痩せ細っていた。なんかの病気か?それとも飢餓か?とにかくボス狼を含め、貧弱な姿を晒していた。
ボス狼が僕に向けて、魔力を乗せて吠えてきた。普通なら怯える場面なのだが、特異体質の僕の身体は、放たれた魔力をドレインしていく。そんな僕に恐れを抱いたボス狼。
『要求はなんだ?』
狼言葉で話しかけた僕。その様子に、響めいている狼達。まぁ、人間が狼言葉を話せる訳無いからなぁ。
『何故、話せるのだ?』
震える声でボス狼に訊かれた。
『お前達の上位種である精霊の言葉を知っているからだ』
魔力を帯びることが出来る獣は、魔獣である。その魔獣の上位種は精霊であり、魔獣達の信仰対象であったりする。
『精霊なのか?貴様…』
ボス狼の言葉を訳すると、「精霊なのに、人間の味方をしているのか、このクソヤロー」になる。
『早く、要求を言え!単に腹の足しにするって要求ならば、逆に要求を言う。死ぬか?それとも去るか?』
獣系相手に、引き下がるのは悪手である。それは、弱さを見せる行為に繋がるので、強気でズンズンと押し切るだけだ。
《告 助っ人が転移してきます》
このタイミングでラファエル先生が沈黙から復活した。助っ人って?僕の両隣に見覚えのある転移魔方陣が現れた。マズイんじゃ無いのか?勇者がいるのに…
「はぁ~い、お待たせ!」
「大樹、クッキーは無いの?」
天真爛漫な魔王様コンビが転移してきた。周囲にいた狼達は、尻尾を後ろ足で挟んでいる。一部の狼達は腹を見せているし。二人からは、猛烈な魔王様オーラが放出されている。慣れていない者にとっては「恐怖」その物であるが、一般の人間には感じ無いのは救いである。
「大樹!大丈夫?!」
魔王様オーラを感じたのか、村の方からクルスがもの凄い勢いで走ってきた。
「あぁ、大丈夫だよ。僕の仲間だから。この魔王達はね」
「そっかぁ~。なら、安心だね」
って、勇者クルスから戦意が萎えていく。いいのか?魔王を前にして、それで…
「大樹、この犬たちを躾ればいいのかな?」
ミリムの瞳は輝いている。戦いたいらしい。って言うか、存在するだけのオーラで、狼達から戦意が喪失しているんだけど…さすが、最強の魔王コンビだ。戦わずにして勝つっていう良い見本である。
「いや、ミリムが居るだけで、躾出来たみたいだよ」
ミリムとクルムの頭を撫でて上げる。嬉しそうな顔の魔王様達。
「むっ!」
クルスが、頭を突き出して来た。う~ん、見た目、似た者トリオに見えなくもない。クルスの頭も撫でてあげた。
◇
ボス狼を下僕にして、村へ帰還した。そして、朝風呂…男風呂に、僕とミリム、クルム、クルスでまったりとしている。う~ん、この三人の全裸を見ても、欲情しない。終わったかな…僕のオスとしての本能は…
「なぁなぁ、大樹。クルスともマブダチになったぞ」
嬉しそうなミリム。クルムは僕に抱っこされて爆睡している。
「大樹、マブダチな魔王っているんだね」
って、楽しそうなクルス。あぁ、この世界を殲滅できるだけの戦力が、ここにいるんですが…抑えきれるかな。
《解 今後の大樹次第ですよ♪》
ラファエル先生が楽しそうであった。波乱の幕開けか?まぁ、魔王が二人と勇者が一人いるんだし、大抵のバケモノには勝てるかな。