村長達に、ミリムとクルムを紹介しておく。僕の仲間ってことで…
ミリムとクルスは村の子供達の人気者になっていく。クルムはミレットの焼くクッキーに嵌まっている。衛兵小屋には、クルム用物資として、ナヴィさんからココナツサブレが5箱ほど送られて来た。毎日、1包みずつクルムに配給している。
村での生活に慣れ親しんで来た頃、なにやら貴族の乗りそうな馬車が村へ近づいて来た。衛兵として、馬車の御者に目的を訊きに向かった。
「この村に何のご用でしょうか?」
「こちらに勇者クルス様がいらしていないでしょうか?」
って…クルスの追っ手が来たようだ。付き出すかな。暴れるかな?どうにかなるかな。などと考えていると、馬車からゴリラのような男が飛び出し、僕に抱きついた。
「大樹じゃないか…生きていたのか…」
抱きついて来た男は号泣しているし。誰だっけ、コイツ?男に抱かれる趣味は無いんだけど。
「大樹…生きていたの?」
更に馬車から降りてきた女性が、僕を見て驚いていた。コイツは、クルスのパーティーの戦士のルカか…マズい…クルスだけでなく僕もマズい。
「どうしたの、大樹?」
クルスが様子を見に来た。ダメなタイミングだと思う。
「あれ?ルカ…どうして、ここにいるの?」
不思議そうな顔をして訊くクルス。
「どうしてじゃ無いでしょ?勇者の仕事を放りだして、なんでこんな場所にいるのよ!」
「こんな場所じゃないよ。大樹と毎日楽しく生活しているもん」
僕に抱きついているゴリラ男を力尽くで投げ飛ばし、僕に抱きつくクルス。
「クルス様、何をするんですか?私ですよ。ギルドのグランドマスターのゴランです」
ゴリラがクルスに声を掛けた。ゴラン?あぁ、エリックのパーティーの戦士のか?
「あぁ、ゴランか。ボクはFランクの冒険者のクルスだよ。人違いだって」
ゴランを知っていて、それは通らないだろうに。
「彼もFランク冒険者の大樹だよ。人違いだって…」
必死に言い訳をするクルス。
「はぁ?そんな言い訳は通らないわよ」
ルカが激怒している。まぁ、するわなぁ。
「力尽くで連れ戻すのか?」
クルスの前に出た僕。剣を引き抜き、牽制をする。この二人相手で負けは無いはずだ。
「おい!お前…剣士だっけ?」
って、ゴラン。う~ん、そう言えば短剣使いだった気がするが。衛兵の仕事中は剣しか持っていないからな。
「短剣使いが剣で、私に勝てると思っているのか?」
ルカが剣を構え、僕に斬りかかってきた。僕の得物のメタルキングの剣は、相手の剣を破壊し、相手の心をへし折るのだった。
「え…折れた…なんで…」
ゴランも剣を構えて、斬りかかってきた。この世界の最強強度の剣では、メタルキングの剣に傷は入れられない。寧ろ僕が峰で叩けば折れる程度である。
「何…折れた…」
二人の愛用の剣を叩き折って、その足でクルスと共に村へ逃げ帰った。
◇
「どうするの?」
心配そうに僕を見つめるクルス。ガントレットを装着し、本気で戦える準備をしている僕。
「あの二人を消すか?ここの生活は譲れない」
「わかった。手伝うよ」
と、物騒な話をしていると、
「なんで、剣士なのに、シーフに徹したのよ!」
涙で顔を濡らしたルカが、衛兵小屋に入ってきた。ルカに剣術で負ける気はしない。だけど…
「剣士は二人要らないだろ?」
「ねぇ、なんで、死んだ事にしたの?私達といるのが嫌だったの?」
泣き崩れているルカ。こんな激情タイプだっけ?もっと、クールだったような…時間は女性をダメにするのかな?
「それは無いけど、英雄になるのはイヤだから。いつだって、Fランク冒険者でいたいから」
「何?その理由は?」
呆気に取られ、泣くことを忘れたルカが顔を上げた。ルカには理解出来無いだろうな。僕の固有スキルにより、未来のビジョンが見えてしまったのだ。英雄にされた後の仮の未来映像がなぁ。
「お飾りにされて、ジャマに思われて、年中前線へと追いやられる生活が、見えたんだよ」
「うん、わかるよ、大樹。ボクもイヤだった。大樹がいなくなって…」
うん?なんかクルスの理由は、僕のと違うんでは無いか?
「大樹のいない生活なんか考えられない。この生活を奪うって言うんなら、奪うヤツを根絶やしにする」
マブダチに頼めば、一撃で叶うぞ、その願いだと…とは、言えず。
「お前達、Sクラスの冒険者だぞ。それは詐称って罪だぞ」
戦術を変更して、ルカが正義を盾に説得し始めた。
「それで、誰に迷惑を掛けた?SクラスがFクラスと言い張って、なんか迷惑を掛けたか?」
掛けていないはずだ。同じ仕事内容でも、SクラスよりもFクラスの方が時給が安いし。寧ろ、SクラスをFクラス料金で雇えて、得していると思う。
「その点に関しては、迷惑は掛けていないけど…でも、王都からの脱走は迷惑なんだよ」
「「お飾りはイヤ(だよ)!」」
念話でクルムとミリムには、手を出すな、口を出すなと、指示を出している。なので、魔王様達は介入はしてこない。
「なぁ、大樹。一緒に王都に来てくれ。エリックが再会を喜ぶぞ」
「再会したいなら、エリックを連れてくればいいだろ?」
あの勇者は、どこかの王族の王位継承順位5位とか6位って言っていたが、何をしているのやら。
「アイツは王都から出られないんだよ。現在の王様だからな」
はぁ?ゴランの口から異な事が出た。
「それは、継承順位の上に居るヤツラを消したのか?」
そんな度胸はなかった気がする。
「違うって…英雄となった勇者だぞ。褒美で継承順位が1位になったんだよ」
棚ぼたか?
「なぁ、一緒に来てくれないか?」
「反逆罪で牢屋に入れる気だろ?」
「なんでだ?お前、英雄なんだぞ。そんな扱いにするかよ。それも、遠征に2回とも参加って、どんだけ英雄しているんだ?」
2回?あぁ、エリックの時とクルスの時か…あんな弱い敵で、英雄って笑い者にされるって…
《告 あの方が知れば、笑い転げると思います》
ラファエル先生から忠告もされた気がする。
「行かないよ。なぁ、衛兵の仕事のジャマだよ。出て行ってくれないかな?」
『殺せない相手なら、強制的に排除すれば良いだろ?』
ミリムから念話が届いた。あぁ、そうだね。目の前に居るゴランとルカを、王都のギルドへ強制転移させた。表にいる馬車は、王城へ強制転移だな。