ゴブリンの巣穴は直ぐに見つかった。3人で穴に入って行く。しばらく進むと、家畜などの動物の骨が無造作に転がっていた。人間の骨は無いようだ。入って出てこなかった冒険者達はどこだろうか?
更にしばらく進むと剣撃の音が聞こえ始めた。冒険者が戦っているよう。僕達は現場に急ぎ、ゴブリン退治に加わった。先客だったのは獣人の少女だった。
「逃げなさい。ゴブリンロードが居るのよ」
僕達に叫び、敵のボス格の存在を教えてくれた。周囲を見回すと、、一際ガタイのデカイゴブリンがいた。あれがそうだな。そのゴブリンロードに拳をたたき込むミリム。もっと奥かな?行方不明な冒険者達の死体が見当たらない。
クルムと僕で、奥へと入り込んでいく。そこには、ゴブリンでは無い種族が待ち受けていた。
「貴様らは何者だ?人間では無いのか?」
見るからにヴァンパイアらしき者が、声を掛けてきた。『魅了』とかをしたけど、僕達には効果無かったのか?あぁ、そうか。冒険者達は魅了され、眷属にされたのか。ゴブリンは人間を呼び寄せるエサで、本当の獲物人間だったって、オチなのかな?
「大樹、やっていい?」
「洞窟は壊さないで」
「うん」
クルムがヴァンパイアの眷属達を壊していく。眷属にされてしまうと、人間には戻せないので、破壊するのが一番安全である。
「貴様ら、何者だ?」
ヴァンパイア相手なら、僕に負けは無い。
「そっちこそ、何者だ?アークかロードか?それとも、レッサーかな?」
ヴァンパイアは格を大切にする種族である。下の格の者は上の格の者に指図は出来無い。
「我はロードなり。跪け!」
ヴァンパイアロードのようだ。
「僕はKIVAの孫だけど、君より上になるのでは無いかな?」
KIVAとはキングオブヴァンパイア、所謂ヴァンパイアの王のことである。
「ふふふ、嘘つきには死があるのみだ。KIVAだと?あんな物は伝説に過ぎない」
そうか、この世界では伝説クラスと言うオチらしい。マズイなぁ。一瞬生じた隙、ロードは瞬動で僕に抱きつき、僕の首にキバを差し込んだ。吸血するようだ。僕の血がロードの体内に入るなり、ロードの全身は灰化し霧散していった。バーニングブラッド持ちなんだけど…言う前に吸血するからだよ~。
僕の中に流れる魔人の血…魔力を帯び、体外に出ると、ニトロのような危険物になる。僕も僕の血液も闇属性であり、その魔力を体内に入れるなんて、魔人以外だと自殺行為になる。
主が消滅して、眷属になっていた冒険者達は、リビングデッドから死体へと様変わりしていく。
「終わったかな?」
ミリムがやってきた。獣人の少女も一緒にいる。
「終わったよ」
「帰って、温泉なのだよ」
「そうだね」
村へ転移した。村に戻ると、クルスが鼻をつまんでしまった。臭いらしい。
「どうして、こんなに臭いの?」
「リビングデッドと戦ったからかな」
死臭と血の腐敗臭が、服に染みこんだようだ。
「温泉で洗い流してくる」
◇
そして、温泉…男湯である。僕、ミリム、クルム、クルスの他、何故か全裸のルカとユリーナがいる。ゴランとエリックは、全裸のルカとユリーナに遠慮して入って来ていない。
「あの転移魔法は何?」
「あれは魔法では無いよ。魔術だよ。転移術って言う」
「魔法も魔術も同じでしょ?」
この世界の知識はこんな感じのようだ。
「魔法は結果が一定だけど、魔術は仕込むタネにより、結果が変わるんだよ。例えば、帰還魔法だけど、あれは帰る場所は一定だけど、転移術は任意の場所が指定できるのさ」
「どこで、学んだんだ?」
ルカが必要以上に食い下がる。ユリーナは僕の説明に頷いているんだけど。
「師匠に習った」
「お前の師匠は誰だ?」
「祖父だけど…」
「どこにいる?」
「強制転移攻撃で、どこかの異世界へと飛ばされたんだよ」
のぼせそうだ。温泉から出る為、立ち上がると、僕のアレは、ルカの目の前に垂れ下がっていた。
「お前…全裸の美女を前にして、なんだ、その元気は?」
ルカは僕のアレを直視して、苦言を呈している。
「普段から、見慣れているから…見ただけでは、萎えたままだよ」
「そ、そ、そうなのか…」
ルカの挙動がおかしくなってきた。のぼせたのか、耳が真っ赤である。
「のぼせて、溺れる前に出ろよ」
女性陣を残し、僕は男湯を後にした。
◇
温泉小屋の外で、エリックとゴランが待ち受けていた。
「ゴブリンは全部倒してくれたのか?」
「隅々までチェックはしていないけど、見かけたヤツは、倒したよ」
「で、捕らわれていた冒険者は、無事だったか?」
ゴランが詰め寄って来た。冒険者ギルドのグランドマスターなので、一番の心配事かもしれない。
「全員、死亡で処理した方がいいぞ」
「死んでいたのか?」
ゴランとエリックに、ヴァンパイアロードがいて、ゴブリンをエサにして、冒険者を集め、眷属にしていた事実を教えた。
「ヴァンパイアロードだと?アイツらは眷属にされてしまったのか?術を解けば、助かるんじゃないのか?」
「術を解いて助かるのは『魅了』されたヤツラだけだ。眷属って言うのは、吸血され、血の契約をした者を言う。眷属になると、リビングデッドとなり、不死の戦士になるんだ。彼らを解放するには、心臓を潰すか、頭部を切断するか、主を殺すしかない。但し、解放しても、人間に戻るのでは無く、単なる死体になるだけだよ」
この世界の冒険者達の知識は浅いようだ。魔王はどういう者かも知らず、魔王だから倒すって感じだしなぁ。
「じゃ…全員、死亡なのか?」
「獣人の少女だけだな。生き残っていたのは」
「誰だ?ソイツは?」
ゴランは知らないようだ。
「ギルドが送り込んだ冒険者で無いのか?」
「いや、送り込んでいないぞ。次に送り込む予定はSランクだったからな」
この世界のSランク冒険者は、ゴラン、エリック、クルス、ルカ、ユリーナだけだ。僕はAランクだし…
「なぁ、大樹。Sランクにランクアップしないか?」
エリックが提案をしてきた。
「何を言っているんだ。僕の希望はFランク冒険者でいることだ」
「後なぁ、お前は了承しないと思うが、2回に渡る遠征実績を踏まえて、お前はヨハネスブルグ公爵になったんだよ」
「僕は衛兵で十分だ。貴族になんて成りたくない」
「う~ん…」
エリックの困った顔。だが、公爵になってしまうと、会議の度に王都にいないといけない。貴族の中でも要職に値するのだ。名ばかりの栄誉職にしては、自由度が少ないのだ。
「自由を束縛するのなら、この国を出る」
この世界は、この国だけでは無い。
「それは困る…困ったなぁ…」
「うん?大樹、公爵になったの?」
温泉から女性陣が出てきて、クルスが僕に抱きついて訊いて来た。
「ならない。僕は衛兵で十分だよ」
◇
その日、エリックとゴランだけ、王都へと帰っていった。ルカとユリーナは、何故か村に残っていた。
「なんで、残っているんだ?仕事があるんだろ?」
「グランドマスターから特命指示が出たんだ。大樹とクルスを王都へ連れ戻るって特命だ」
「そうか…」
ルカとユリーナを、『強制転移』で王都のギルドへ転移させた。
「うん?ルカ達は?」
クルスに訊かれた。
「王都に帰ったよ」
「そうか…じゃ、しばらくは衛兵で大丈夫だね」
「あぁ…」
こうして、今夜も平和の中、夜は更けていく。