---アウグスト・フォン・アールスハイド---
大樹達が消えた日、王都は祭りのようだった。賢者とその孫との共同で発動した強制排除の魔法。大樹達を、この世界から排除させたのだった。
本当に、これで良かったのか?大樹達が魔石を私利私欲の為に、持ち出していたとは思えない。しかし、今更検証なんか出来無い。大樹達の小屋も総て、排除させてしまったからだ。
時の経つのは早い。あれから10年である。父は未だに王の座にいるので、俺は皇太子として、妻と子供と共に、周辺国へ外遊をしている。シンが画期的な発明を次々に生み出し、我が国は、魔法、魔法具の分野だけで無く、魔石の生産においても、世界随一の座に座り続けていた。
シンはシシリーと結婚をし、子供をたくさん授かっている。シシリーのお腹は休むことなく、毎年、子供を産み続けていた。あの時のメンバーで独身なのは、カールトンくらいだろうか。彼女は大樹の帰還を待っているのかもしれない。
マリアも結婚せずに待つのかと思っていたのだが、貴族の娘であるアイツは、政略結婚させられていた。だけど、出戻り状態になってしまったけど。
◇
前触れなく、訪れた訃報…事故でリンが亡くなったそうだ。原因は魔法の暴走らしい。最近、魔法の暴走による事故が増えている気がする。何が起きて居るんだ?
リンの事故を調べてみる。事故の目撃者の名前を見て、震えた。『シン・ウォルフォード夫妻』と記されていた。俺はシンの元へ向かった。
「オーグか…懐かしいなぁ」
笑顔で俺を迎え入れてくれたシン。
「訊きたいことがある。リンの事故の件だ」
「う~ん…あれは不幸な事故だった。いつものように魔力制御に失敗したのが原因だと思う」
「救えなかったのか?」
「あぁ、シシリーと子供達を護るので、手一杯だった。魔石の製造過程のデモンストレーション中に、魔力制御に失敗したんだ。魔力を圧縮して加熱中に、リンが爆発したんだよ」
リンが爆発?
「圧縮していた魔力では無くて、リンがかぁ?」
「あぁ、そうだ。今、検証作業中なんで詳しいことは言え無いけど…問題は、まともにリンの最期を見て仕舞ったシシリーは、寝たままだよ。精神的にやられたようだ」
原因究明よりシシリーの回復が優先か?まぁ、シンらしいけど…俺は、シンの元を去り、帰路に着いた。その途中で、見知らぬ男性に声を掛けられた。
「君がオーグ君かな?」
初めて会う人物なのに、どこか懐かしい気配を感じる。まさか…
「大樹…なのか?」
目の前の男性が微笑みを返して来た。
「嬉しいよ。息子のことを覚えていてくれて…」
「もしかして、大樹の父さんですか?」
「あぁ、初めまして。イッセー・ヨハネと言います」
大樹は、父親は傭兵で、会ったことは少ないと言っていたかな。昔のことで、詳しく覚えていないけど。
「少し時間あるかな?話して起きたいことがある」
「えぇ、ではこちらへ」
なじみのバーへ案内した。秘密の商談などを行う酒場であり、密会などに使われることが多い。他言無用な相談が多いので、ここへよく訪れていたりする。
「ここなら、他言無用な話が出来ます」
「助かるよ」
「どういった話ですか?」
「この世界の行く末だ。本当は息子が、話すべきなんだろうが、賢者達に飛ばされてね、まだ戻って来ていないんだよ」
戻って来ない。飛ばされた世界が分からないのか。
「術者もどこへ飛ばしたかを知らない。ランダムで強制転移させる魔法だったようだよ。おかげ、行方不明者が多数だ」
迷惑を掛けているなぁ。
「すみません。この国を代表して…」
「君が謝ることでは無い。彼らのした行為に対して、天罰は科せられるからね」
天罰?
「オーグ君は、あの英雄君が、人工魔素の製造実験をしていることを知っているかな?」
人工魔素?
「いえ、知りません。人工で作れるんですか?」
「作れるよ。まったく同じ物は無理でも、似たような物はねぇ」
そうなんだ…
「その実験は成功したんですか?」
「英雄君が自ら行うのであれば成功はするが、他の者がすれば、リン・ヒューズのようになる」
爆死の裏にそんなことがあったのか…
「この世界における魔素は基本元素の1つだ。その基本元素を人工的に作ればどうなると思う?」
「作れるんですよね?」
「似た物はねぇ。まるっきり同じ物は英雄君以外は無理なんだよ」
「何が異なるんですか?」
「純度だよ。基本元素は、星の生成時に、星が手に入れた元素である。それは宇宙空間に彷徨う塵などから、偶然手に入れた物なんだ。それを人工的に作るには、大元の物質をコピーするしか無い。しかし、コピーをすると劣化現象が起きる。オリジナルと全く同じ物は作れないのが理だ」
シンの頭の中で理解した事は、他人には理解出来無いってことか?
「英雄君の分析している魔素は活性した魔素だ。それは元々の魔素では無い」
「活性した魔素とは?」
「魔力制御により集められた魔素だよ。魔素を練り上げて魔力にして魔法を発動し、一度でも魔力を帯びた魔素を活性化魔素と呼ぶんだ。この魔素でも、休息期間を経れば、元の魔素に戻れるのだが、何度も魔力制御で集められ、練られていくと、魔力を帯びた魔素として存在してしまう」
なんか、分かった気がする。
効果1の魔素を10集めて、効果10の魔力を作り出すはずが、効果5くらいの魔素を10集めてしまうと、効果50の魔力になり、制御できる範囲を超えてしまうってことだな。
「正解だ。で、人工魔素なんだが、効果1の魔素を元に作れば問題は少ないが、効果10位の魔素を元にすれるとどうなると思う?無尽蔵な魔力を制御できる英雄君以外では制御出来無くなると思わないか?」
10集めるところを100も集めたら、大惨事になる。
「もう1つ…分析をする場合、捕らえた魔素を分析するはずなんだが、その魔素は融合性が高くなるんだよ」
融合性?
「人体への融合性だ。体内に蓄積しやすくなる。魔素は、この世界の動植物であれば、微量であるけど、含まれているんだ。基本元素だからね。だけど、融合性が高いと、体内にある魔素と融合しやすくなり、体内の魔素量が増大していき…チュドーンだよ」
まさにリンの事故では無いか。
「また、来るよ。事態が良くなっていることを祈る」
そう言い残し、目の前から大樹の父親が消えた。