今日も村の入り口で衛兵のお仕事。隣では、クルスが祖父ちゃんに課せられた宿題である真空斬りの会得に、必死になっている。これまで、なんの問題も無く生きてきたクルスにとって、祖父ちゃんは師になったようだ。初めて味わった激痛、剣の素振りを注意され、剣の立ち会いでは子供のような扱い。どれをとっても、彼女には新鮮で、初めての体験だったらしい。
夕方、ルカとユリーナが帰還した。二人の傍には、以前見かけた亜人の少女がいた。
「大樹、ギルドからの仕事だ。受けてくれないか?」
ルカは、王都にあるギルドのマスターになったそうだ。なので、誰も手を出さないクエストを、僕とクルス向けに、クエストを持ち帰ってくることがある。今回もそうなんだろう。あの少女がいるってことは、ゴブリンかヴァンパイアの案件かな?
「どんな仕事?」
「お願いです。手伝ってください」
亜人の少女が、僕に懇願してきた。少女の名前はシア。狼人族だという。で、依頼内容は、ヴァンパイアロードの上の種族であるヴァンパイアハイロードが複数のロードを率いて、動き出したので、退治を手伝って欲しいらしい。
「ギルドにはヴァンパイアハンターはいないの?」
ルカに訊いてみた。
「いるけど、ハイロードは無理だよ」
「ハイロードって、強いの?」
「強いです!」
シアが答えてくれた。強いのか…でも、所詮ヴァンパイアだよなぁ。
「我が狼の獣人族は総力を挙げて、企みを解明し阻止しようとしているでありますが……」
勝ち目が無いのか…族長であるシアの父親は、ロードと戦い、重傷を負ったそうだ。族長でもダメなのか…
「わかった。ヴァンパイアなら問題ないよ」
「問題ないって?」
ルカが訊いて来た。
「僕の一族はヴァンパイアキラーだからだよ」
僕だけではちょっと苦戦するかもしれないが、祖父ちゃんが来れば楽勝である。僕と祖父ちゃんの大きな違い…僕には血があるが、祖父ちゃんには血が無いことだ。血が無い祖父ちゃんに噛みついた吸血鬼は、逆に色々な物をドレインしまくられるそうだ。始祖ヴァンパイアらしい雪姫先生に習ったので、事実なんだと思うし。
「ヴァンパイアキラー?」
「そうだよ。ヴァンパイアには負けない自信はある」
ニトロブラッド持ちだから…
「後ですね、ヴァンパイア達は、とある鶏の奪取を目論んでいるらしいのです。その鶏を先に保護したいのです」
鶏の保護?う~ん、それは難しいなぁ。
「なんでも、その鶏は開いた次元の門を閉じたり、ヴァンパイアの変化を防いだり出来るでありますよ」
次元の門関連か…祖父ちゃんが聞けば殺処分しそうだ。無闇に操作して良い物では無いからなぁ。
『既に保護して、管理局で飼育していますよ』
ナヴィから念話が届いた。
「その鶏は既に保護していて、祖父ちゃんの配下の者が飼育しているって」
「えっ?あなたの祖父様が?」
ルカとユリーナは納得って顔をしている。
「何者なんですか?」
「祖父ちゃん曰く遊び人だけど…」
「遊び人?担がれているんでは無いですか?ならば、証拠を見せてください」
シアが食って掛かって来た。証拠なぁ。押収物は返還しないだろうな。連れて行けばいいのか?
『大樹様は、まだ他次元への転移は出来ませんよ』
ナヴィから情報が飛んできた。そうか、管理局へ連れて行けないのか…じゃ、早急にヴァンパイアを倒せば良いのかな?
「で、ヴァンパイアはどこにいるの?」
◇
翌日、僕とクルスは、ルカ達と共に、王都のギルドへ向かった。作戦会議が開かれるそうだ。会議を始めてすぐ、現れた祖父ちゃん。
「殲滅したから、褒美にルカを1日ペットにしていいよね?」
「はい?」
祖父ちゃんの言葉に固まるルカ。クルスは祖父ちゃんに纏わり付いている。祖父ちゃんに構って欲しいようだ。
「ヴァンパイア殲滅でいいんだよな、大樹」
たぶん、僕の心をモニタリングしていたのだろう。
「ハイロードって、どの位の強さだった?」
「女性がいなかったから、わからない」
それは、遊ばずに、瞬殺ってヤツかな?
「どうやって、倒したんだ?」
ルカが訊いた。
「どうやって?う~ん…仲間に喰わせただけだけど…」
「喰わせた?」
再び固まるルカ。
「魔物を喰う仲間が数名いるんで、おやつとして与えたんだよ」
僕の脳裏に、忍さん、トライさん、アジさんの顔が浮かぶ。きっと生きたまま、頭から喰ったんだろうな。
「みんな満足していたよ。魔力が豊富なヤツが多かったそうだ。こういうのは、退治するんでは無く、有効利用しないとなぁ」
涼しい顔の祖父ちゃん。
「日が暮れるまでルカを借りるよ。夕食後に、クルスの鍛錬の成果をみる」
そう言い残して、呆然としているルカと共に消えた祖父ちゃん。そうなると当面の難題は、シアにはなんて説明すれば良いのだ?