それは突然現れた。
ハジメ君の銃口が火を噴くが、目の前のバケモノには、効果がまるで無かった。シアとユエが苦しみだし、地面に四つん這いになって、身体を震わせ、腰をくねらしている。
「ヤマトさん、コイツはなんだ?」
ハジメ君に訊かれた。どう答えたら良いだろうか?目の前にいるのは、確実にラスボスである。
「ラスボスだ…一切の攻撃は効かないから、無駄玉になるよ」
「ラスボス?」
「あぁ、性癖の破綻したラスボスだ。男には用は無い。反抗しなければ、攻撃はされない」
「だけど、ユエとシアが…」
「精神ダメージだけで、肉体的なダメージは無い。だから、嵐が過ぎ去るのを待とう」
自然災害だと思わないと、被害が拡大する。
「まさか…ヤマトさんの知り合いか?」
ラスボスを前にして、落ち着いている僕を見て、ハジメ君に訊かれた。
「言いたく無いけど…僕の兄さんだよ…あれ…」
◇
体液塗れでぐったりとしているユエとシア。目の前で展開していたAVな展開に、ハジメ君は固まっていた。恍惚な笑みを浮かべる二人の女性。満足したのか、二人に蘇生コンポを掛けている鬼。
「兄さん、相変わらずだね」
「だから、お前の兄になった覚えは無い。なんど言ったら分かるんだ?」
ここは、迷宮の底にはパラダイス、オルクスの住処である。温泉があると聞いて、やってきたのだ。兄さんは温泉に浸かりながら、二人の女性に術を施している。
「ここは良いなぁ。コピーして貰って行くかな」
ここを気に入った兄さん。怪しげな術式を多数展開して、マジにコピーしているし。
「ヤマトさんのお兄さんって、魔導師ですか?」
ハジメ君に訊かれた。
「魔導戦士だよ、兄さんは。攻撃が効かないチートな存在なんだ」
あらゆる攻撃を透過し、属性エネルギーを透過時にドレインしてしまうチートな体質。まずもって倒せないのだ。弱点は転移攻撃に弱く、頻繁に異世界へ転移させられている。攻撃しか透過しないため、攻撃と見なされない転移術に反応してしまうのだった。
「で、原因はわかりましたか?」
僕がここに転移した原因を訊いてみた。
「今回は転移では無く、召喚らしい。対象者は、ヤマト、大樹、莉愛のようで、僕はむしろ巻き込まれた感じだよ」
召喚?そう言えば、ハジメ君も召喚されたって、言っていたな。
「なので、召喚された目的を果たせば、帰れると思う」
シアを手元に取り寄せ、シアを弄ぶ兄さん。
「目的かぁ…ハジメ君と共にいれば良さそうだね。同じ目的で呼ばれたようだし」
「ヤマトさんと一緒ならば、心強いです」
兄さんと一緒はダメかな?錬成士であるハジメ君と創造能力持ちの兄さんが一緒ならば、無敵だと思うんだけど…あの性癖は受け入れられないか?
◇
翌日、僕達はウルの街へ向かっていた。カレーライスが食べられると聞いて、兄さんも一緒に来ている。ハジメ君たちは、ハジメ君の作ったバイクで移動している。僕と兄さんは、兄さんの作った機械仕掛けの馬での移動である。
「この馬は、彼にプレゼントするよ。彼女達の遊び賃としてね」
シアはお気に召せなかったのか、お持ち帰りしたいとは言わない兄さん。
「シアはダメですか?」
「ダメでは無いんだけど、今ウサ耳族の村の立て直し中でね。ウサ耳系にアレコレはしたくないんだよ」
って、思いっきりシアを弄んでいた兄さん。この世界でならいいのか?
「うん、そういうことだ」
なるほど。
しばらく移動し続けると、目的の場所、水妖精の宿に到着した。
「今日はここでカレーライスを食べ、一泊して、明日は山で人捜しだ」
ハジメ君達と僕は、冒険者ギルド・フューレン支部の支部長の指名依頼を受け、あの山で遭難したウィル・クデタを捜索し、連れ帰ることになっている。まぁ、生きていればだが…まぁ、兄さんがいれば、死んでいても問題は無いかもしれない。自殺でなければ、蘇生可能だし。
宿にチェックインして、食堂へと向かう。6人掛けのテーブル席に案内された。そして、カレーライスもどきを6人前オーダーすると、違う席から、小柄の女性が近づいて来た。
「ねぇ、南雲君?南雲君でしょ?」
ハジメ君に声を掛ける女性。兄さんが女性にロックオンしている。う~ん、修羅場になるのか?
「えっ?先生…人違いです」
「今、先生を先生と呼びましたよ!なんで、ごまかすのですか?なんで、生きているなら、帰って来てくれないんですか?」
この人も召喚された口なのか?
「なんで髪の毛を染めているんですか?この腕は何ですか?眼帯はファションですか?」
色々違っているんだけど…
「まぁ、色々頑張ったからです」
「その女性達はどなた?まさか、不純異性行為なんかしていないでしょうね?」
女性の怒濤の言葉責めにより、ハジメ君はタジタジ気味である。
「「私達ハジメ(さん)の女です」」
火に油を注ぐ女性陣。兄さんは、女性のいたテーブル席に、視線を向けていた。好みの女体を探しているのか?
「なんですって…不謹慎です!」
目に涙を溜めて、ハジメ君を見下ろしている女性。
「まぁ、再会出来るとは奇遇ですね…」
「こんなに心配しているのに…そこに正座しなさい!お説教をします」
「はぁ?」
「おい!愛子の命令が聞こえないのか?亜人を人間と同列に扱う野蛮人よ!」
騎士風の男が剣を抜いた。
パリン!
だが、彼の剣は折れた。鬼がキレた。刃先を指で挟み、そのまま折ったようだ。
「亜人差別かぁ。愚か者め!」
「おい!貴様!神殿騎士に逆らうのか!」
「神殿?クソみたいな神でも奉っているのか?」
「貴様!」
他の騎士達も剣を抜いたが、
「消えろ!」
兄さんの言葉により、この場から消えた騎士達。さすがのハジメ君も唖然としている。
「兄さん、どこへ捨てたんですか?」
「途中で見かけた肥だめにポイした。さぁ、喰おうぜ」
肥だめからのカレーライスか?う~ん…ビジュアルが…
---畑山 愛子----
寝る前に南雲君が訪ねてきてくれ、真実を話してくれた。それは、教会の教えとは違うことだった。
「俺の言葉を信じるか、教会を信じるかは、先生にまかせる。白崎に知らせてくれ、敵は味方にいる。背中に注意しろと」
南雲君は大迷宮の捜索中に、味方から狙撃され、奈落へと落とされたそうだ。生徒同士の殺し合いは避けないと…う~ん…一瞬、意識が落ち、再び覚醒すると、知らない場所にいた。
「ここは?」
「ラビの村だ」
南雲君と一緒にいた男性が、声を掛けてきた。ラビの村?聞いたことの無い地名である。
「愛子の睡眠中に、意識だけを異世界に転移させたんだよ。お前、豊穣の力を持っているよな?」
私の天職は作農師である。農地改善及び開拓の能力があるのだが、何故彼はそれを知っているんだ?
「僕は相手の心や記憶が読めるんだよ。これから毎晩、眠る度に、この村の農地改善に力を借りるぞ」
えっ!決定事項ですか?
「そうだな。見返りに、困った時に力を貸してやる。後、園部優花をスカウトしたい。アイツ、料理上手だろ?」
彼女の家は洋食屋を営んでいるが、彼女が上手とは限らない。
「彼女、可愛いしなぁ」
「不純異性行為はダメです!」
「努力する。あぁ、ここで働けば、起きた時には疲労は完全回復している。良い条件だろ?」
良い条件以前に、ここから脱走出来無いのが問題であり、働かざる負えない事態であった。