※修正してやるッ!!
ということで、サブタイトルを変えて、本編に少し加筆修正しました。ヨセフカルート忘れてどうすんだお馬鹿。
───……特に何かが変わった、ということはなさそうだ。
狩人は門を開け、ヤーナム民を触手で張り倒しながら無事に最初の灯火に辿り着いた。
仕掛け武器は少しの間封印した。早めにこの肉体を把握し切らねば、いかに上位者といえどいずれは殺されてしまうだろう。
それについては、自分が何より保証できる。人の身で上位者や強大な獣を狩り殺していたのだから。
コツコツと石畳を歩き、例のキャンプファイア地点が見えてきた。道中のアイテムやらドロップ品は全て回収済みだ。
肉体が変質した今、何がどのように作用するのか分かったものではない。故に、狩人は全てを拾い上げた。
たとえ石ころとて、立派なアイテムなのだから。
◆
慣れた足取りでキャンプファイアを突破し、狩人は、噴水近くのガスコイン宅前に立っていた。
……………………。
逡巡し、窓格子に向かって声を掛けようとして、息を詰まらせる。
さっきからこの繰り返しだ。幾度悪夢を巡ろうと、決して助けられなかった少女。母親の死を知らせ、泣き続けていつのまにか消えてしまったり、避難所を教えられても豚に喰われたり、人体実験の贄になってしまう。私の出来る全てを尽くして尚、助けられなかった娘。
……ああ、なるほどな。ようは緊張と不安か。この胸に燻るモヤモヤは。
今までの結果が、今回も起きるのではないかという不安感が、この身を苛んでいるのか。
上位者になろうと、持ち前の臆病さは変わらんらしい。
しかし、それでもやり遂げねばならない。私が怯えるだけで、もし彼女らが救えるのなら、それは実質ノーリスクと考えられる。
……ただ、やはり、声をかけるのは……いや、だが、言わねば始まらな……むぅ…。
『…あなた、だあれ?』
流石に気配で感づかれたらしい。まあ、豚のケツに、『リボンエンチャ』という謎の神秘を使った前立腺パンチをしたという考察もされた子だ。
人の気配、あるいは、人ならざるモノの気配にも敏感なのだろう。
案外、狩人に向いているのかもしれない。
───…私は、狩人だ。
『狩人さん?…あのね、狩人さんなら、お願いがあるの』
来た。この娘の母親と、父親…ガスコインを探すこと。少女のお願いとは、つまりはもう一度家族に会いたいということになる。
しかし、このお願いを私は叶えられていない。これまで100度悪夢を巡れども、私は一度としてこの娘を助けられなかった。
母親の死を伝えれば、この娘は泣き崩れてしまう。故に今までは、ブローチを渡さずに嘘で偽りの希望を持たせていた。
その希望も、下水道に居座る豚に食い荒らされてしまうのだが…。
『狩人さんって、獣狩りの人でしょう?あのね、お母さんを探してほしいの』
───お母さん…か。お母さんは何処へ?
『獣狩りの夜だから、お父さんを探すんだって…それからずっと帰ってこない』
おそらく、その母親とやらはもう生きてはいない。獣に見つかり、殺されて、それを見つけたガスコインは最後の理性の糸を切らせてしまう。
何度も私と対峙した人の姿をしている時の彼は、もう
母親は罹患する前に死にきってしまった。
それは、生物的な弱さが幸いしたと考えるべきなのか。このヤーナムを含め、弱い者は死体になり、強い者は獣になってしまう。
人の尊厳や、その名残、そういう人だった形跡を重んじるならば、
だが、人だからこそ、
獣になってでも、獣を狩る。妻を殺した獣を、何が何でも根絶やしにしてやる、と。彼と戦っていると、何度もその憎悪が見えた。
そして哀しくも、彼の頭に娘の存在は見えなかった。妻を殺された悲しみと憎しみ。
この娘はずっと待っている。一人で親の留守を守っている。
この娘にとって母親の安否は、最後の蜘蛛の糸なのだ。
───…ああ、わかった。
『本当?ありがとう!』
…一つ、この選択がどう転ぶのか、試してみるか。
なに、別段焦ることはない。私はこの夢を握っているのだから。大きな失敗はしないはずだ。
だから…焦るな。
───ただ、私は君のお母さんを知らない。君が一緒に探してくれれば、何も問題ないんだが…。
『えっ…でも、お母さんが知らない人について行っちゃダメよ…って。それに、今夜は獣が多いから、外は危ないよ』
───それなら大丈夫だ。ここいらの獣は
『そうなの?狩人さんって、強いんだね!』
そう、一度たりとも死なず、戻らずにいたので、下水道を含めて周辺の獣は狩り尽くした。
聖職者の獣はまだ戦っていない。踏み込みすぎなければ出てこない獣を、わざわざ引き摺り出す必要もないだろう。
しかし、問題はこれからだ。前回とは違う受け答えをしたが、これからどうする。仮に連れ出したとして、目の前で両親の最期を見せるのか…?
ガスコインが正気を取り戻す可能性もあるにはあるが、分の悪い賭けだろう──ただの狩人だった頃ならば。
『お母さん、真っ赤な宝石のブローチをしているの』
───ほう、真っ赤な宝石のブローチか……それは、
『…ぇ、どうして、持ってるの?それ、お母さんのブローチ…』
───近くの下水道で拾ったものだ。下水道にこんなものがあるのは珍しくてね。気になって持っていたんだ。
いつだったか、普段ならすぐに叩き割って血晶石にしているのだが、面倒くさくなってブローチのまま放っておいたことがある。今回はそれが幸いし、別の道を見つけることができた。
……まあ、また嘘を吐いたことに変わりはないのだが。
助けたいのに騙さなければならない。偽らなければ、変わることすらない。今までどんなに当たり障りのない答えを返しても、結局この少女は救えなかった。
思えば、この悪夢では真実こそが最も残酷だ。真実こそが、この悪夢で生きる者たちの心を砕いてしまう。
かくいう私も、医療教会の闇や、ビルゲンワースの凶行や、メンシス学派のイカレ具合を目の当たりにした時、最初は歩む足が止まりかけた。
実験棟の惨状に、漁村の秘密。狩って、殺して、見つけて、
あまりに悍ましい、マッドどもの欲望の結末。
これでは、シモンに顔向けできんな……。
───では、こうしよう。安全な避難先を知っている。せめて、そこまでは案内させてもらえないか。
『…うん、わかった!ありがとう、狩人さん。お父さんとお母さんと、お爺ちゃんの次に好きよ』
なんとか、今までとは違う方向に転がったか……。
私が同伴し、私の夢に取り込めば、まずこの娘は外的要因によって死ぬことはないだろう。豚の脅威も、正体不明の自称姉の手も、この娘を害するものにはなり得ない。
しかし、この先は未知だ。慎重に事を運べ。
灯火までの獣は狩り尽くしたとは言え、ここはヤーナムだ。何が起きるかわかったものではない。
私はともかくこの娘は人間だ。か弱く儚い小さな命。今度こそ、守ってみせる。
───君の名前を、教えてくれないか。
ガチャリと家のドアが開き、白いリボンがよく似合う可愛らしい少女が出てきた。
その手には獣除けの香が入った筒と、あのオルゴールを持っていた。
「ヘレナ!私はヘレナっていうの。よろしくね、狩人さん!」
ヘレナ…ヘレナ、か。初めて聞いたが、いい名前だ。
情けない。
これだけ悪夢を経ても、名前一つ聞き出すのにここまで気持ちが揺れるとは。
何のために、上位者になったのか。
動じるな、未熟者めが。
「ねえ、狩人さん。安全な場所って、どこなの?」
───私の家だ。ここからは少し離れているが、今は獣がいないからね。ちょっとした冒険と思えばいい。
ああそれと、と狩人は獣狩りの松明+10をヘレナに持たせた。武器は危ないので渡せないが、松明程度なら大丈夫だろう。
それに、薄暗がりを照らす火の色は、ささやかな心の支えとなってくれる。獣除けの香よりは役に立つだろう。
───その松明は獣に効く。仮に討ち漏らしが居たとしても、それを振り翳せば威嚇になる。
「ありがとう!」
ヘレナは腰に香筒を取り付け、オルゴールをポケットに入れた。両手で松明を持ち、その初めての重みに興味津々の様子だ。
狩人が歩み出すと、ヘレナも後を追う。松明が照らす影は、少女の横に這い寄る不気味な生き物を象っていた。
◆
【狩人の寝所】
あれから灯火を使い、ヘレナは無事に夢に入れた。
そして、狩人は一つ確信を得る。
ここに入れたということは、ヘレナにはやはり、狩人の適性があるらしい。
ヘレナ自身はというと、灯火の前で意識が一瞬薄らいだと思ったら、全く違う場所に居て呆然と立ち尽くしている。
無理もない。だが、慣れなければならない。彼女はこれから、そんな驚きを凌駕する初体験を色々と味わうのだから───
「───お帰りなさいませ、狩人様」
───む、人形ちゃん。もう動いても大丈夫なのか?
「はい。今の私にとって、狩人様の神秘は回復に相当します。ですので、出産によるダメージはそれほど重くありませんでした」
そういえばそうだった。私の白くベタつく神秘の全容は、私自身も全てを把握できていない。
繋がりを持つ相手に回復作用をもたらしたとしても、何ら不思議ではないのだ。
視界の端に移るヘレナは、使者に被り物を選んであげている。使者はリボンを欲しがっているようだが、流石にダメらしい。ふんっ、と壺を被せてこちらに戻ってきた。
「ねぇ、狩人さん。この小さな人たちは誰なの?」
───彼らは【使者】。この家において、使用人のような存在だ。
そして───
「初めまして、ヘレナ様。私は人形。この夢で、狩人様のお世話をしているものです」
「お人形さん…?」
…やはり、認識もできているし会話もできるようだ。
本来ならば啓蒙を得なければ人形はただの人形にしか見えないというのに、ヘレナはしっかりと人形を見上げている。
つまりヘレナは、啓蒙を得ているということ。
だが、どこで──……
………………─────まさか、私か?
私という上位者を目にしたから、彼女の啓蒙が開かれたとでもいうのか。
確かに私が初めて啓蒙を得たのも、橋の上で聖職者の獣を
……どうやら、存在の大きさは順調に人を外れているらしい。
そんな感慨にふけっている間、人形とヘレナはなにかと打ち解けたらしく、工房の中へと入っていった。
それを見て、思わず安堵する。これからここで過ごすのだから、不和など生じては堪らない。仲良きことは美しいのだ。
さて──と、狩人は工房を背にし、墓石の前に立つ。
とりあえず、最優先の課題は無事に片付けられた。行方不明になることもなく、無惨に豚に喰われることも、狂人の実験台にもされない、第四の道。保護成功。
次は狩り…の前に一つ確かめるものがある。
それは、橋の上の聖職者の獣。それの正体だ。剣の狩人証を持つ獣。剣の狩人証を持つ者の仕掛け武器は石鎚だ。
そして私は、石鎚を振り回す教会の狩人を一人知っている───
───ヘンリエット……。
もちろん確証は無い。
ヘンリエットではないかもしれない。教会に所属していた有象無象の狩人が、たまたま聖職者の獣になった可能性もある。
残滓とはいえ、共に戦ってくれた恩人だ。今の私がどれだけ役に立つかはわからないが、まあ無駄にはなるまい。
───さあ、恩を返しに行こうか。
手加減はしない。
もし本当にお前ならば、もう一度夢の中に引きずり込んでやるとも。
私は掬い上げるぞ。
今度こそ、私の手の届く限り、私の裁量が及ぶ限り、救うとも。
「狩人さん、行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃいませ、狩人様」
ああ…守れた、というのは…やはり気分が良い。
───征ってくる。
待たせたな(;´∀`)
忙しかったのよ、すみません。
ヤーナムの少女はヘレナちゃんになりました。
名前の由来?聖釘のヘレナから取りました。
つまり将来的に6万パイル持つかもしれない。
ヤーナムステップでドヒャドヒャしながら、とっついてくる少女狩人とか怖すぎる。
俺なら逃げる。逃げられるかわからんけど。
質問等あったら感想にどうぞ。
ちなみにヘンリエットが聖職者の獣説は完全にオリジナルですので、真相は実際不明です。
ブラボのコミックは最高でした。
カバーイラストかっこよすぎて2分くらい見惚れました。
読んでくれてありがとう!