※この作品はR-18です。

トワイライトD×D   作:ENE

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オリ主がごちゃごちゃ考えながらの戦闘中に仲間割れまでしてイリナが自爆する第十一話。
一万文字超え。
展開的に性的な描写は五、六行くらいしかありません。

※当SSの竿役はオリ主なので、それ以外の男性キャラが性行為をする事は有り得ません。


第十一話 聖魔乱闘のエクスカリバー

「ゼノヴィア……?」

 

安ホテルの一室、寝台の上で。

目を覚ました紫藤イリナが、一人虚ろに呟いた。

 

 

 

 

「ハロー! そして、グッドバイ!!」

 

上空からの振り下ろしに、握った聖剣の鍔際近くを合わせる事で、辛うじてだが受け止める。

重い、一撃がジョンの全身を震わせた。痛みと痺れが上から下へと這い回り、それら攻撃の余波は全身に仕込んだ十字架を『祝福』する事で結界を細かく多重起動、人間の脆い肉体をどうにか万全に保護しきる。

 

が、それはあくまで護りのみ。

 

噛み合った刃同士が、力の流れで下方へ圧される。

結界はあくまで防御用、護れはしても、攻撃用の膂力までは補助出来ない。剣と両腕だけでは受け止めきれない。天界からの加護を受けない只の鍛えた人間如き、堕天使幹部の加護を受けた聖剣使いの相手としては不足している。

 

「ほっほぉー! 何それどれそれ!? 以前見た聖剣とは違うよなァ――ッ」

 

白髪の少年は両腕の力のみで己の手にする聖剣を押し込み、その反動で背後へと跳ねた。

かつてレイナーレ率いる『教会』にて出会った狂人、フリード・セルゼンが笑って叫ぶ。

その言動は、実にうざい。

 

片手で『祝福の聖剣』を構えたジョンが、もう片方で聖具を取り出しながら視線を眇める。

悪魔に渡した『天閃』と、今此処にある彼の左手の『祝福』。確かに異なるが、一瞬で見分ける奴の目敏さが気に食わない。頭のおかしい言動をしているのだから思考も同じく狂っていれば相手をする方も楽なのに、どこか鋭く得体が知れない、押し切れない。かつてやり合った時と同様に。

この白髪の男は、見た目と異なり手強い相手だ。

言動に惑わされず内心の警戒を維持しながら、再度聖剣をぶつけ合う。

 

「ヒュゥーッ! 今日はアーシアちゃん居ないのー!? ひょっとして振られちゃったーっ!?」

 

敵の言動は全て無視。間違いなく、問答としての意味が無い。

聖具の補助を、更に『祝福』で強化してフリードの攻撃を凌ぎ続ける。

 

基本的には防御優先。

相手の手札が読めない内から攻めたとしても、身体能力全般が劣っているジョンでは逆撃を受けて押し負ける。体力と精神力の消耗は最小限に、時間を稼いで手の内を暴く。

特にこの、フリードが手にする聖剣に関して。

 

()らしー目ぇしてんなあ。そういうの、僕ちゃん良くないと思うでごんす」

 

台詞の後半、低くなった声音と一緒に像がブレる。

フリードの全身に重なるように、煙るように。複数の顔と腕と胴部と両脚と視線と嘲笑、――朧な幻影が纏わり付いた。それによってこちらの狙いが定まらなくなり、僅かに迷う。

本物に直接触れた経験は無いが、分かる。これは『夢幻の聖剣』の固有能力、幻術を操り敵を惑わす力だろう。この狂人の持つ聖剣はソレであり、ならば問題は無い、と先走った思考をジョンは意識して戒める。

 

次の瞬間、全身の各所で準備しておいた内の一つ、自動防御の聖なる結界が発動した。

 

「あり?」

 

背後から斬りかかったフリードが、不思議そうな顔でその動きを止めている。

 

結界が一枚破れ、二枚目で刀身が止められていた。

『祝福』で強化した結界は堅固だ。戦闘中に片手間で張れる程度のものだからこそ加護込みの力押しで一枚は破れたが、二枚目を抜くには聖剣使いとしての練度が足りない。

 

ジョンの目の前には変わらず幻影、幾人もの像が重なったフリードの姿。なのに、背後には実像を伴って斬撃を打ち込み、その上で『祝福』込みの防御結界に阻まれた間抜け面がある。となれば。

 

「卑怯かよ」

「オイラってば恥ずかしがり屋さんだから正面から斬り合うなんて無理なんだ☆ キラッ!」

 

とりあえず罵倒しておく。効果は無いと思うが、吐き出す事でこちらの心は僅かに晴れる。フリードのふざけた台詞はやはり無視。

 

敵が手に持つ聖剣は一振りのみ。一瞬で背後に回ったのは――否、音を聞き損ねた可能性がある。

となれば短距離転移ではなく、他の手段。無駄に親切なリアスの話とジョンの持ち得る過去の情報からして、教会から盗まれた聖剣は二つ、『夢幻』と『透明』。単純な高速移動の線も『天閃』が欠けているから、只の加護持ちエクソシストに過ぎないフリードなら、先の一瞬での超速は不可能、の筈。つまり高確率で『夢幻』で惑わした際に、姿を消したまま必死に音を殺して『透明』で不意を打った、という事になる、と思うのだが。

 

舌を打つ。可能性はあっても、確定ではない。逸って誤認すれば死期を早める。フリードが、顔に似合わず補助系の魔術を修めている可能性だって皆無じゃないのだ。

めんどうくさい。心が読めれば楽なのに。

せめて情報系のサポート要員が居れば、と無い物ねだりを捨てて戦いを続行する。

 

幾度目かの斬り合い。

スタミナ自体はまだまだ充分残っているが、鍛えた加護持ちと鍛えた人間では色々な部分の差が大きい。手早く済ませなければ時間と共に磨り潰される。嗤うフリードを相手に勝利の手順を構築し続け、幾度も訂正、敗北の可能性を一つずつ丁寧に消していく。

 

相手の手には一本しかないが、実態としては二種の聖剣相手、と仮定。使い手は加護持ち、戦い慣れた頭のおかしなエクソシスト。聖剣使いだったとは初耳だが、性格の悪さが良い方向に作用しているのか、『夢幻』も『透明』も固有能力だけなら実用レベルで使いこなしている。そして何より、戦い方が変則的で、手札も思考も読みきれない。

教会仕込みの正統剣術だって、崩しに崩され悪手邪道の連続なのに、ところどころ見覚えがあるせいでジョンの先読みが乱される。

 

己が攻めても敵には届かず、敵の攻め手も護りを抜けず、限定的な拮抗状態。が、相手の手札が全て割れたわけでも無いがゆえ、それ次第では何時崩れるかも分からない。

 

聖剣による戦闘反応を察知したイリナかゼノヴィアが来てくれさえすれば勝負は決まる。

今の己の戦闘能力に見切りをつけているジョンにとっては、戦況を劇的に変える仲間の助けこそがこの場で最も必要だった。

 

その期待に応える者は、一応居た。

 

聖剣同士で鍔迫り合う両者。互いの五感が同時に察して、相手の瞳からもそれを知る。

右脚同士を振り上げて、二つの足裏がぶつかり、互いを蹴り飛ばしながら背後に跳んだ。

其処に、両者が押し合っていた地点に、上空から轟音と共に魔剣の一撃が飛来した。

爆心地から広がっていくのは大量の土煙と、暴力的な魔力の波動。

 

「やあ。こんばんは、オーリッシュ君。それと、……そっちの君は、とりあえず殺しても良いよね?」

 

口元だけの笑みを浮かべて、聖剣を手に持つフリードに対して隠さぬ殺意を向けながら。

神器で生み出した魔剣を携え、木場祐斗が駆け出した。

 

 

 

 

「朱乃、祐斗の居場所はまだ分からないの?」

「先ほど使い魔を放ったばかりですわよ、リアス」

 

部長ではなくわざわざ名前で呼びかけて。朱乃の嗜める声に、焦るリアスが口を噤んだ。

 

ようやく時間が空いたから、とリアスが謹慎中の木場の見舞いに行ってみれば、彼の住まう部屋は蛻の殻で。風呂もトイレも探してみたが、当然ながら何処にも居ない。

――やられた。

居なくなった木場自身に、主を出し抜く意図は無い。最初は素直に謹慎していたのだが、聖剣を想って荒れ狂う心を持て余し、頭を冷やすためだと言い訳した上でふらふら出歩き、結果として今現在、因縁のエクスカリバーを相手に心躍る復讐劇を開始している真っ最中。というだけの事。

が、今の状況下で聖剣憎しの愛する眷属を自由にさせていた自分自身を、リアスは大層責め立てた。

 

とはいえ本当に眷属を想うなら、何時までも呆けている暇はない。すぐさま木場の捜索命令を全眷属に通達、しようとしたのだが、そこで優秀な『女王』が『王』の命令に待ったを掛ける。

 

教会から来た聖剣使いと、堕天使幹部、加えて彼女等が把握する限りの全てを合わせれば旧校舎で封印中のものを除いて聖剣四種。今の駒王町には悪魔にとっての天敵が多過ぎる。迂闊に出歩けば堕天使側だけでなく、不干渉を約束した筈の教会側とて契約不履行を理由に敵対してくる可能性があった。

その場合、まず一誠が死ぬ。次点で小猫も危うい、かもしれない。

 

曖昧な予測である。

そもそも敵戦力が不明瞭過ぎて正確な判断が不可能なのだ。幹部というのだからとりあえず凄く強いと思う、などと考える程度が彼女等にとって精一杯の認識であるから当然だが。

 

この辺り、所詮独り立ち出来ていない若手の上級とその眷属。敵対勢力の幹部情報なんて、無くても今まで生きて来れたのだ。今ソレが無い事は致命的だが、この一点に限るなら、平和な時代に生まれた彼女達自身に非など無い。ただしこのままなら仲良く揃って死ぬかもしれない辺りが問題過ぎて、大問題だ。

 

己の領地に堕天使幹部が、恐らくは敵対意思を持って訪れている、という時点でリアス達には危うい状況。まずは何よりも情報収集が最優先である、として各々の使い魔を放ったのがついさっき。

 

「冥界への援軍を呼びましょう」

 

『女王』からの提案に、嫌そうな顔で『王』が渋った。危機が御身に迫るかもしれない、という状況下でこの反応、ある意味図太く頼もしい。その内実はただの平和ボケだが。

 

「援軍……。それってつまり、グレモリー家に、よね?」

「あるいはサーゼクス様ですわね。今回は、相手が相手ですから」

 

魔王サーゼクス。

此処に居るリアス・グレモリーの血の繋がった実兄であり、悪魔という種族の頂点に立つ四大魔王の筆頭格。出生率の低い種族の都合上 大きく年が離れて生まれた妹のリアスを、深く愛して甘やかし続けてきた頼れる身内、且つ今の彼女の人格を形成した一要因、の筈だったが――。

その名前を聞いたリアスは顔を顰めて不満顔だ。

 

先日の、性急過ぎる婚約話。ライザー・フェニックスとのレーティングゲーム。

実兄であるサーゼクスは、結局一度も助けてはくれなかった。

 

グレモリー家の将来を案じて婚約を強引に進めた父は、分かる。彼は家に対する責任を負う現当主であり父でもあるのだ、感情的にはともかくとして、理屈としては納得出来る。

母もまた、仕方が無い。昔から、リアスを甘やかしたがる父や兄の代わりとばかりに彼女を叱って厳しく接する人だから。感情で反発する娘に対し、彼女は母として、あるいは貴族として先の一件を推したのだろう。

 

だが、兄に対しては複雑な感情が拭いきれない。

何時もリーアたんリーアたんと五月蝿いくらいに構ってくる優しいお兄様だったのに、本当に必要な時に、リアスが一世一代の我儘を通そうとしたあの時に、サーゼクスは種族の頂点に立つ魔王として、貴族同士の都合こそを優先させた。少なくともリアスにとってはそうだった。

 

王の重責を背負う兄に甘えて、助けを乞うわけにもいかない。婚約に関しては自分でどうにかしなければ。――そう考えていたのが当時のリアスの本音であるが、だからと言って、助けて欲しくなかったわけでは決して無い。

 

大好きなお兄様に「助けて」と言いたかった。けれどそれを我慢した。

我慢はしたが、「助けてくれても良いじゃないか」と子供のように腹を立てている自分が居る。

妹の事が心底大事で愛して止まない、そういう普段の態度が嘘だったのではないか。そんな事まで考えた。きっと事情があって仕方なかった事なのだろうが、推測と理解と納得を超えて、それでも感情だけはままならない。やはりリアス・グレモリーには我慢が足りない。

 

要するに、リアスは兄に対して拗ねていた。おにいさまのバカっ! という若干甘えた論調で。

 

「ほら、もう。何時までも拗ねていないで、ねっ、リアス」

「朱乃が子供扱いするぅ」

 

それこそまさに子供の振る舞いでしょうに、と声には出さずに朱乃が呆れる。

 

この場に一誠が居なくて良かった。

今は小猫と共に席を外している彼に対して、この無駄に可愛いところのある我儘な主が淡い気持ちを抱いている事を、ドSスイッチさえ入らなければ温厚な『女王』も知っている。

普段の、冷静で年上のお姉さんっぽいリアスに対して憧れのような感情を抱いているらしい年下の少年に、こんな情けない彼女は見せられない。何時かはこういった弱みを見せる時も来るのだろうが、今はまだ。

 

そんな朱乃の密かな気遣いにも気付かずに、本格的に拗ね始めたリアスはぐだぐだと話の流れを誤魔化しながら、胸の内では木場の安否を心配していた。

今この時、部室に居ない一誠と小猫が何をしているのか。それを考えるだけの余裕も失くして。

 

駒王町の領主にして朱乃達の『王』、リアス・グレモリー。

見るべき所もあるのだが、本当に色々と足りない女であった。

 

 

 

 

「聖剣をっ、――返せぇッ!!!」

 

突如乱入してきたゼノヴィアが、振り上げた『破壊の聖剣』を、――盛大に空振った。

 

「お馬鹿ァ――っ! 馬鹿か! ゼノ助の馬ァ鹿!」

「誰が馬鹿だ、馬鹿! ジョンの癖に! そもそもキミのせいでなー! 私はなーっ!」

 

咄嗟に馬鹿を連呼し罵倒したジョンが、支離滅裂な文句を聞き流しながら、思った。

まずい。

ゼノヴィアの有する『破壊の聖剣』は、名前通り攻撃力に特化した聖剣だ。

ソレが、フリード狙いの一撃を見事に外し、大量の土砂と土埃と、ついでに瓦礫を巻き上げた。

 

にやりと笑う、白髪頭の顔を見た。そんな錯覚、戦士の勘だ。

 

「邪魔をするなら帰ってくれないかい? 聖剣使い」

 

視線も向けずに直球で皮肉る木場も、ジョンと同様に現状を理解しているらしい。

巻き上げられた道路の残骸、土砂の煙幕。そのせいで視界が閉ざされ、隠された奥には『夢幻』と『透明』を行使するフリードが確かに居るのだ。聖剣の能力で不意を打たれる可能性は高い。

 

いや、と目を眇めて土色の向こう側を睨み付けていたジョンが思考を廻す。

自分なら、三対一の状況に陥った時点で、逃げる。あちらの本当の狙いは分からないが、この場で自分たちを殺さねばならない理由があるのならともかく、そうでないのなら逃走する絶好の機会。

 

「――とか思ってるぅ? おほほほほほ」

 

右側から声が聞こえた。

聖剣を振るう、事はせず。『祝福』した結界の起動に問題が無い事を理解しているからこそ、自動防御からのカウンターのみに意識を集中した。無理に攻めれば手玉に取られると分かっているから。

 

しかし、それはあくまでジョン個人の判断だった。

 

「そこかァ!」

 

『破壊』音が再度轟き、新たに煙幕を追加する。

 

「っ、邪魔をするな聖剣使い!」

 

ゼノヴィアの聖剣から迸る無駄に大きな光力に晒され、怒鳴る木場。

その不和を見て取ったフリードが、煙に紛れて先程のゼノヴィアのように、わざと木場を掠める位置で聖なる光を奔らせる。あちらもまた、声から位置を割り出したらしい。

無論木場は躱すが、そこで一つのパターンが出来た。思考にも、行動にもだ。

 

それが敵であるフリードからの攻撃か、あるいは心情的な意味での敵であるゼノヴィアからのものかは関係無い。彼は悪魔だ、当たれば光毒に冒される。ならば必然、回避に更なる意識を割いて、その結果として攻め手が鈍る。

 

ゼノヴィアもゼノヴィアで、此処に至るまでに積み重なった精神的な疲労が、動きの全てを雑にしている。グレモリーとの交渉の結果からして此処に居る筈の無い悪魔、木場への気遣いは最小限で、それが限界、精一杯。

すぐ隣には、ずっと探していたジョンが居る。だが、同時に任務の対象である強奪された聖剣だってすぐ其処だ。良くも悪くも真っ直ぐな彼女はどちらかなんて選ばない。当たり前のようにどちらも欲し、ゆえに攻める姿勢が戦意と共に、前へ前へと傾いていく。結果として、一応敵ではない筈の木場を巻き込みそうになりながら戦っていた。

 

「最悪だ」

 

――コイツら、全然連携とか出来てない!

 

聖剣を使うジョンと木場とて、相性自体が良くは無い。ジョンは聖具を使わなければ今のフリードに敵わないが、木場にとっては只の結界も致死の毒。聖剣相手に逸った木場を堅実にサポートする事で戦闘を優位に進めて来た。だからこそ、ゼノヴィアの乱入によって生じた煙幕に紛れて敵が逃げる、と予測したのだ。不利な状況からは一秒でも早く脱するというのが、戦場における当然至極の選択だから。

 

だというのに、むしろ此処から戦況を巻き返そう、と考えたフリードは頭がおかしい。

結果として其れが最適解となるのだから、ジョンとしては頭が痛かった。

 

「そして離脱っ!! バイビー☆」

 

は?

 

呆ける低音を吐いたのが誰かは分からない。視界は未だ見通しが悪く、不意の乱戦になったせいで、誰が何処に居るかも曖昧なままで分からない。

ただ一つ確かな事は、場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、まんまと逃げおおせた白髪の神父が一人居た事くらいだろう。

ぎり、と誰かの歯軋りする音が鳴った。

 

「追うぞ」

「へえ、教会の人間の癖に少しはマシな事を言うじゃないか」

「五月蝿いぞ下級悪魔。貴様が邪魔をするせいで逃がしたんじゃないか」

「君が割って入らなければ倒せたさ。ジョン君、君も仕事の相手は選んだ方が良いよ」

「は? ジョンは私のズッ友だぞ? 数年来の仲なんだからな。一緒に風呂にも入ったし」

「は? 君が? 彼と? ……っぷ。み、見え透いた嘘だね、ははははっ!!」

 

無駄で無意味な一触即発。むしろ逆に相性が良いのでは無いかとさえ思える遣り取りだ。御陰で、もはやフリードを追おうにも間に合わない。

 

わざわざゼノヴィアを挑発するために名前呼びに君付けまでして存在しない筈の親しさをアピールする木場も阿呆だし、ゼノヴィアと風呂に入ったという話も、任務中の致し方無い事情ゆえ。

そもそもあの頃のジョン・オーリッシュに性欲は無い。アーシアに出会って性に目覚めた彼だから、ゼノ助如きの裸に特別な感情は一切、……今思い出したら身体の一部が反応しそうになったので、この話題は脇に置こう。

 

「木場っ! 見つけたぜ!」

 

横から声が掛かり、そちらに振り向けば一誠、とその後ろに続く小猫が居た。

更に、駆け寄る彼等の上空には、何処かで目にした蝙蝠の使い魔。リアス・グレモリーの()があった。

ジョンは咄嗟に手元の『祝福の聖剣』を隠そうとするが、状況からして既に遅い。すぐさま隠蔽を諦めて、むしろ見せ付けた上で更なる戦力の確保を図る。

 

一本では足りない。もう一本、最も使い慣れた『天閃』が欲しい。

 

幸い、何時ぞやのレーティングゲームにおける手伝いの報酬は保留していた。一度その件でリアスが住居に訪れた事はあったが、あの時は不意に訪れた初セックスの機会を邪魔された憤りも相俟って、彼女の提案する条件の全てを断ったのだ。

結果的には損ではなかった、此度の件に利用出来る。

あの報酬を今、使ってしまおう。問題は相手が受け入れるかどうかだが、リアス相手だから多分何とかなるだろう。と、ジョンは当たり前のように考えた。

 

そうして徐々に集まり出す駒王町の全戦力。人と悪魔と聖剣使いのアーシア抜き。

 

一方その頃、ホテルで目を覚ました紫藤イリナは支援役からの追加報告を受けて、堕天使幹部コカビエルの居座る廃教会へと辿り着いていた。一人で。

 

 

 

 

身体が寒い。

心が寒い。

手を伸ばしても、誰も居ない。

手の内の聖剣も、今は無い。

 

「弱いな、随分と質が悪い。……ミカエルめ、出し渋ったか?」

 

倒れ伏した少女の身体をどうでも良さげに踏み躙り、堕天使コカビエルが呟いた。

彼こそが此度の聖剣強奪の主犯。三大勢力間の戦争再開を臨む、古き堕ちた天使。

単独で廃教会へと踏み入った教会の戦士、紫藤イリナは『神の子を見張る者』の武闘派幹部たる彼の手にかかり、何も出来ずに倒された。

 

相手の出方くらいは見てやろう、と余裕ぶっていたコカビエルだからこそ、一応は敵対の形を取る事は出来たのだが。その実力差は歴然で、聖剣を相手にしてさえ光力を用いぬ身一つで打ち勝てる強者を相手に、精神状態最悪なイリナでは形だけでも善戦する、という程度の事さえ叶わなかった。

 

無情ではあるが、当然の結果だ。

 

最初から勝てる筈の無い勝負。否、競えるだけの位置に居ないのだから、勝負でもない。作業だ。雑に腕を振るうだけで彼女の身体は宙を舞い、何の見せ場も無しにそれは終わった。

相手をしてやった側のコカビエルでさえ、僅かな哀れみを覚えるほど一方的に。

 

「いったい何のために来たのだ、貴様は?」

 

友人が失踪し、再会した上で拒絶され、目が覚めれば残った一人もまた消えていた。

紫藤イリナの心はボロボロで、此処に居るのも、ほぼ状況に流されただけの結果に過ぎない。

 

彼女の事情など知りもしないし、興味も無い。そんなコカビエルにも分かる事があった。

この人間の娘は、戦士ではない。戦士ならばもっと喰らい付いてくるものだ。千年よりもずっと前から、コカビエルはそれを知っている。その身に刻んで憶えて来たのだ。

コイツは違う。

帰る家さえ無くした子供が偶然、迷い込んで来たかのようだ。

戦場に立つための、最低限の誇りにも欠ける。――ゴミだ。

 

「ただいまでヤンスー! おやおやぁ? 此処にも教会のゴミカスが来てたんれすかー?」

 

トドメを刺すのも億劫だ、と考えた所で騒がしい奴が帰ってきた。

全身土塗れの砂塗れとなったフリード・セルゼンが、二種を混合した聖剣片手に廃教会へと帰還する。言動は軽いが彼の身体には大きな疲労が蓄積し、戦利品だって何も無い。

 

この町に来た堕天使は、まさしくコカビエルの一人きり。

彼の属する『神の子を見張る者』の大半は、内心はともかく表面上は日和ってばかり。上に立つアザゼルが反戦派という事もあり、表立って戦争を望むコカビエルに付いて来るような気概のある堕天使は居なかった。

今回の、企てとさえ言えない彼の暴挙が上首尾に終われば、日和っていた連中も数多く起ち上がる事だろうが、――それは残念な事に今ではない。

 

ゆえに、最低限度の手駒として目を付けたのが狂人二人。

今此処にやって来た、品の無い言動を繰り返す はぐれエクソシスト、フリード・セルゼン。

聖剣さえあれば他はどうでも良いと言い張る、皆殺しの大司教バルパー・ガリレイ。

 

まったくもって頼りにならない人材揃いの、僅かに二名。

これが堕天使コカビエルと愉快な仲間達の陣容、有する限りの全戦力である。性格が悪くて個々の倫理観も盛大に狂っているため、使い捨てても心が痛まない素敵仕様だ。

 

正直に言えば、どちらも聖剣を盗み出した教会側への挑発のための道具であって、既に役目は済んでいる。戦力自体はコカビエル自身、己のみしか信じていないため、もはや何時彼等が死んだって構わない。

 

「コカビエルの旦那ー、この襤褸雑巾どうしやす? エロゲの陵辱枠でおk?」

 

倒れ伏す栗毛の少女を足で引っ掛け持ち上げて、にやにやと卑しく嗤うフリードが訊ねる。

 

コカビエルが適当にあしらった偶然の結果ではあるが、肌に張り付く黒い戦闘服を着たイリナの姿は布地も破れて素肌が覗き、あるいは扇情的ですらあった。

擦過傷と僅かな土汚れに負けない、健康的な肌の色。剥きたての果実の如くに震える少女の乳房と、僅かに解れたツインテールの栗色が女性である事を殊更強く強調している。その引き締まった腰周りも年に見合わぬ肉付きで、同じ人間なら むしゃぶり付きたくなるくらいには豊かに実っていやらしい。

 

何処ぞで戦ってきたらしい戦闘直後のフリードであれば、成程、少々昂ぶってしまっても年齢を考えれば仕方無い。

が。

 

「気に食わん。俺の流儀ではないぞ、フリード」

 

赤く染まった彼の両眼が釣り上がり、裂けた口腔に居並ぶ牙が、光力さえ発して照り輝いた。

 

コカビエルは戦争狂だ。

戦って戦って戦い続け、殺して殺して殺し続ける。ただそれだけを求めて生きてきた。何時か再び起こるだろう三つ巴の大戦争を、今一度骨の髄まで味わうために。

血湧き肉躍る闘争こそが彼の望み。其処に、個々の性や肉欲などという不純物は邪魔ですらある。相手が戦士でもない子供なら、わざわざ踏み躙ってやるだけの価値は無い。

 

「……はぁーい。僕ちゃん大人しくしてますぅ」

 

従順に振舞うフリードが、足を退かしてイリナの身体を床に落とす。

表面上は大人しく従っているようだが、その瞳の奥にコカビエルへ向けた悪感情が垣間見えた事を、それを確かに悟られた事実を、果たして白髪の少年自身は理解しているのか。

 

もう少し上手く隠せ、とコカビエルが内心で思うが、口にはしない。

彼にとって、目の前の少年はもはや価値の無いものだった。これから先どうなろうが、興味も持てない。意味が無い。

だから彼の事は放置して、廃教会の床に転がっていた聖剣を見下ろし、声を上げた。

 

「バルパー。お望みの聖剣だ、回収しろ」

「――おおお! これでようやく三本目かっ!」

 

戦いになれば邪魔になる、という理由から奥へと下がらせていたバルパーが、聖剣の一言で陰から飛び出し走り寄る。無駄に機敏で、気持ちの悪い動きだった。

 

さっそく更なる改良を、とフリードから未完成のエクスカリバーを取り上げまた消える。

残されたフリードは無駄口を叩く気にもなれなかったのか、無言で肩を竦めて、部屋の端に置いてある長椅子の上で寝そべった。必要になったら起こして下さいね、と雇い主であるコカビエルに図太く要求した上で。

 

「……まあ、いい」

 

日付が変わるまでにも未だ幾ばくかの猶予がある。時間を掛け過ぎれば、よりにもよって『神の子を見張る者』から己に対する追討、あるいは捕縛のための部隊が送られてくるだろうが、他の二勢力からならばむしろ望むところ。戦いが激化すればするほどコカビエルは喜ぶだけだ。

 

そのためにこそ、此処駒王町にやって来た。

 

戦端を開く理由に成り得る魔王の血縁二人もそうだが、騒乱を引き寄せるドラゴンの力、その中でも望める限りの最上級たる二天龍の片割れ、【赤龍帝の篭手】の所有者。長きに渡る戦いの幕開けに相応しい其れをこそ求めて、駒王を目的の地と定めて来たのだ。

 

手ずから集めた聖剣によって教会側、天界の戦意を擽って。

魔王の妹を二人、贅沢に使って悪魔側からの悪感情を買い漁る。

そして最後に極め付け、赤き龍の力でもって盛大に、絶滅戦争の第二幕を飾るのだ。

 

「バルパーの用が終われば打って出るか」

 

帰還直後のフリードの言からして、教会から送られた戦士は他にも居るのだろう。ならば今足元に転がっている小娘も、相手の戦意を煽る材料程度にはなる筈だ。

好き好んで貞操を穢す気は湧かないが、戦争を起こす事は彼の悲願、そのために必要ならば殺す事も嬲る事も特別厭う事は無い。首を引き抜いて投げ付けてやれば、神の狗を自称する人間共の怒りを買えて、闘争の質も多少は上がる。そうして開戦前の、ちょっとした楽しみ程度にはなれば良い。軽く考えて、コカビエルは暫しの休息に目蓋を閉じる。

 

その直後、上空から真っ直ぐに撃ち落とされた滅びの魔力が教会の天井部分を消し飛ばし、彼の全身を呑み込んだ。




申し訳程度のお色気を見せてくれるイリナさんの話。
必要な描写量が嵩んだため、以後エクスカリバー編終了まで性描写はありません。
以下、設定メモ。

 加護
総じてクソステである人間種族のための素敵な救済措置。万能バフ。
天界のシステムによる信徒への加護と、堕天使が個人的に与える加護がある。
教会の術式は加護によって光力を得た上でソレを動力にして起動するので、祈らないオリ主は手持ちの聖剣から供給する光力で聖具を使用、更に『祝福』で強化、というように無駄に手間が掛かる。

――という独自設定。
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