※この作品はR-18です。

トワイライトD×D   作:ENE

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狂人同盟とのじゃれ合い、爆発オチからの感動の再会を果たす第十二話。
一万文字超。

※性描写はありません。


第十二話 月光教会のエクスカリバー

「気の利かねぇー目覚ましじゃねぇーですかいっ、オルルァ゛――ッ!!」

 

紅蓮色の魔力砲撃による余波、廃教会の天井より降り注ぐ幾らかの瓦礫をぴょんぴょん飛び跳ねながら躱しつつ、昼寝から即座に目覚めさせられたフリード・セルゼンが奇声を上げた。

 

彼等聖剣強盗団が一時の根城としている廃教会。その周囲数百メートルは既に、シトリー眷属総出で張られた結界によって他とは隔離されている。

内側に居るのはグレモリー眷属と聖剣使い二名、そして廃教会内部の者達だけだ。

 

「おいっ! 本当にイリナに被害は無いんだろうな!」

『勿論よ。教会と私達、双方の探知結果から確認した上での攻撃だもの』

 

一時的に貸し与えられた通信機越し。友人の身を心配するゼノヴィアが声を上げ、教会上空にて腰に手を当て胸を張る砲撃担当のリアスが言い返す。

ちなみに悪魔側で探知を行ったのは自信満々に述べるリアスではなく、彼女と同じく駒王町に居る魔王の妹その2、ソーナ・シトリーの手によるものだ。他人の念仏でナントヤラ。

 

問答もそこそこに、上空から大穴を開けた直後の混乱、それを突くべく突入部隊が踏み入った。

その一番槍は、速度の優れる『騎士』の駒を賜ったグレモリー眷属の木場、ではない。

 

飛び出すように、跳ねるように。イリナの安否を気遣うジョン・オーリッシュが前へ出た。

 

その右手に握る『天閃の聖剣』が強く輝く。

悪魔の駒で後天的に付与された特性さえ上回る、移動速度の大幅な向上。

生まれながらにして聖剣に愛される才を持つ、真なる聖剣使いの面目躍如。彼にとっては長く使い慣れた、『天閃の聖剣』の全力稼動だ。

其れは天界の加護を受けていない只人の肉体をもってさえ、リアス・グレモリーの『騎士』木場祐斗の全力を一段階以上飛び越える、人外の速度を彼に与えた。

 

門を打ち破り接敵する。

 

「こんにちは、――死ね」

「こーんばーんわー、だろうが時間的に。近所迷惑ですぞ! くたばりゃ押し入り強盗ォ!!」

 

ジョンが言い放って、斬りかかる。フリードが応えて、武器も持たずに両手を挙げた。

一瞬の交差。

それを、――ジョンは完全に無視して、倒れ伏すイリナの元へと駆け出した。

 

「あれれーっ!? 空気お嫁さん、ってちょっ、危っぬぁい!?」

 

通り抜けたジョンの背を追い、己の背後に振り向くフリード。

その真下から、剣が生えた。

先行するジョンに遅れて三秒半後、教会内へと突入してきた木場が神器【魔剣創造】を用い魔剣の針山を創り出す事で、下方から突き上げる形で攻撃したのだ。

 

が、躱される。

 

確実に一撃は入ると見て取った、絶好のタイミングで。相応の範囲を魔剣の群れで埋め尽くしたが、無手のまま立ち尽くすフリードの生存本能が、全身全霊で我が身の安全を守り抜いた。

身を捩り、両手を広げ、指先もまたバラバラな方向に向けられて、足を組み替え首を伸ばす。滑稽を通り越して気持ちの悪くなる珍妙な体勢だったが、彼は辛うじて魔剣に傷付けられる事も無く、己が窮地を乗り切ったのだ。神父服はボロボロになったが。

 

これには然しもの木場も驚く。武器も持たずに生身の人間が、アレを避けるとは予測出来ない。

そして先の二人に遅れて三人目、『破壊の聖剣』を構えたゼノヴィアも到着する。

 

「なんだ、仕留め損なったのか。……ふっ」

 

生き残ったフリードは、それでも今なお危地にある。ゆえに追撃を試みようとした木場だったが、不意に耳に届いた嘲笑で神器操作の意識を逸らされ、手が止まる。

フリード、九死に一生。全ては空気の読めないゼノヴィアの責任である。

 

「……先に君から殺ってあげようか?」

「ハハハ出来もしない事を。哀れだな、悪魔というのも。同情するよ」

 

罵り合いながら、二人が揃って相競うかのように踏み出した。

その目標は互いに同じ、床から突き出す魔剣の切っ先に囲まれたまま身動きの出来ないフリード・セルゼン。この状況、真っ当に考えれば取り逃がす事など有り得ない。

 

これは死ぬるっ! と白髪の少年の鍛えに鍛えた狂人の勘が嗤って囁く。末期の言葉を考えるだけの余裕はあるが、まだまだ死ぬには物足りなかった。どうにか抵抗しようと視線を巡らすが、残された手段は命乞いくらいしか見つからない。

 

其処に、老人の声が俄かに届く。

 

「フリード! 新しい聖剣じゃあーっ!!!」

 

皆殺しの大司教、バルパー・ガリレイの元気一杯な声が飛ぶ。ついでに聖剣も一本飛んだ。

宙を回転しながら真っ直ぐに。フリード目掛けて輝くソレは、未だ名高きエクスカリバー。

錬金術によって三種の融合を果たしたNEWカリバーが、歪み濁りきった彼等聖剣強盗団の絆が如く、ぐるぐると朧な光の尾を引いて狂人の下へと辿り着く。

 

が、軌道が絶妙にずれていた。あと少しだけ届かない。

 

「う、うおおおおおおおっ!!! 届けっ、この想ぉお――い!!」

 

気合と奇声を同時に発し、フリード・セルゼンの全てを使ってその指先が蠢いた。

僅かに引っ掛かった指先に、聖剣が使い手の因子を察知して能力を発動。新たに組み込まれた『擬態の聖剣』、その固有能力によって両手剣の形を変えて、紐状となったソレが狂人の腕に絡まるように動き、掌の内へと収まった。

 

もはや木場とゼノヴィアは鼻の先。

分かたれた内の7分の3を纏め上げたエクスカリバーが、組み込んだ数に見合った光力を滅多矢鱈に撒き散らし、まずは悪魔である木場の挙動を牽制する。

 

速度差から先んじていた木場が弱点攻撃を前に足を止め、魔剣によって光を防ぐ。その後ろから走り寄るゼノヴィアに対しては『夢幻』の幻術で視界を惑わし、『透明』化した刀身を『擬態』で槍状に変化させて、直線を描く一撃を打ち込み、――防がれる。

 

「SHIT(くそっ)! またソイツかよ!」

 

ゼノヴィアが『透明』な聖槍モドキを見切ったわけではない。彼女は確かに不意を打たれた。

一撃を防いだのは、彼女が懐に仕舞う十字架を基点とした、聖なる結界。事前にジョンから渡されていた『祝福』済みの自動防御だ。だからこそ、聖剣の不意打ちを受け止めた上で一秒以下の時間を稼ぎ、続くゼノヴィア自身の『破壊』の迎撃で打ち払われた。

 

「ふん。まったく、ジョンの奴め。あの心配性め。仕方ない奴だな、本当に!」

 

嬉しそうに言うゼノヴィアが、戦闘中ゆえ手は離せずに、ただ意識だけを懐に仕舞った十字架に向ける。

 

紫藤イリナが単独で廃教会へ向かった、という情報自体は事前に得ている。

ならば敗北もまた、想定内。感情を排して思考するなら、イリナがコカビエルに勝てるわけがないのだから、聖剣強奪犯に彼女の『擬態』が奪われている事も予測済み。フリードの持つ妙な聖剣の事を憶えていれば、二種から三種に固有能力を増やした聖剣というのもまた、容易に考えられる事だった。

 

性格の悪い白髪の狂人が、七面倒臭い聖剣の力を制御可能でも不思議じゃない。

だからこその準備、だからこその自動結界。当然ながら、一つだけでは済まさない。悪魔である木場には逆効果だから渡せないが、ゼノヴィアならば問題無かった。ジョンとしてはゼノ助が阿呆で心配だから渡しただけだが、渡された側は実に素直に喜んでいる。御陰で彼女は無事だったのだが、過剰に好感度を上げた先、己と彼女のやがて辿る遥か未来を予測出来ない、ジョン・オーリッシュ痛恨のミスであった。端的に言うと修羅場フラグが一増えた。

 

そして一方、不意打ち即殺は失敗したが、時間稼ぎは大成功。剣山を綺麗に掃除し終えて自由の身となったフリードが、パワーアップした聖剣を掲げて大きく叫ぶ。

 

「うひょーっ! 元気百ばーいっ!!」

 

無邪気に喜ぶ狂人の姿に、聖剣を届けたバルパーおじさんも御満悦だ。

が、その光景を見た聖剣使いゼノヴィアの顔が、怒りに震えて大きく歪む。

 

彼女にとっての青春とは、信徒としての生活の傍ら、ジョンとイリナによって与えられたものが知り得る限りの全てであった。それこそが、ただそれだけが唯一、ゼノヴィアという名の一人の少女の幸福である。

生まれながらの適正に加え、友人達との御揃い装備である聖剣に対して相応以上の思い入れを抱く彼女である、こんな奴等にいいように使われるなんて! とエクスカリバーに対する哀れみと義憤が滲み出ていた。ついでに殺意も、眼前の狂人二人に向かう。

 

背後でそんな寸劇が行われている頃、フリードをやり過ごしたジョンがイリナへの接近を成功させていた。あとは彼女を拾って離脱するだけ。

とはいえ、そう簡単には行かないのだが。

 

「教会の聖剣使いか。それもこれで三人目、ふふふ、ふっ、ふふふふふ」

 

妖しげに笑う堕天使幹部コカビエルが、現状における最大倍加の滅びの魔力の破壊跡から姿を現す。イリナの救出を目指す少年の目の前に、立ちはだかるように。

 

敵側の負傷は当然、ある。が、それで戦闘行動に支障があるようにも見えなかった。

相手は歴戦の古強者。気を抜く瞬間があったとしても、最上級悪魔並にまで強化されたリアスの魔力を察知する事など造作も無い。仮に不意を打てても、素の実力差と、戦場で磨き抜かれた生存能力を凌駕するのは、防御無効の滅び(バアル)の力を用いた上でさえ困難である。

 

コカビエルは『神の子を見張る者』でも数少ない武闘派幹部だ。

彼我の優劣を抜きにしても、長く戦場で生き残り続けた生粋の強者。そこに疑う余地は無い。

たった一度、全力で不意を突いた程度で殺されるなら、彼は今日まで生きてはいない。そんな間抜けなら早々に他の二勢力の誰かに討ち取られ、既に過去のものとなっていただろう。

 

「ミカエルも気が利くじゃないか。一度にこれだけの聖剣使いが集うなど、そうそう有り得ぬ事なのだぞ?」

 

コカビエルの座する廃教会攻略の、初手。

神滅具【赤龍帝の篭手】の『倍加』能力を今の一誠の限界域まで蓄積した上で、リアスに『譲渡』。駒王町に在る全戦力の内でも最上の攻撃手段である滅びの魔力を、頭上から真っ直ぐコカビエルに直撃させて可能な限りの負傷を与える。

 

倒せるなどと、そんな甘い考えは捨てている。

敵側の最高戦力を、一時的にでも戦闘不能に陥らせればそれで良かった。その隙に、伝説の聖剣に対抗可能な手札を有する聖剣使いに足の速い木場を加えた三人が突入、コカビエル以外を足止めしながらイリナを回収して、教会外へと逃走するのが二手目に当たる。――木場の加入は当然、彼個人の強い要望の結果だが。

 

しかし想定以上に敵が強い。否、強過ぎる。

未だ相手は元気過ぎるほどに力に満ちて、今か今かと戦端が開かれるのを待っていた。

 

「――そちらから来ないのなら、俺から行くぞ」

 

頭上が大きく空いた廃教会。

その最も広い部屋、礼拝堂の上下左右が光の槍群に埋め尽くされた。

 

一目で分かる。逃げ場が無い。

これが真っ直ぐに放たれれば、教会内部に居るフリード含めた全員が蜂の巣になって死ぬ。もしくは光に焼かれて消滅する。やもすれば塵も残らない結果となるだろう。

 

うん、これ無理。

 

「プランBで行こう」

『プランBって何かしら。……えっ、そんなの決めてた???』

 

思わず呟いたヤケクソ気味なジョンの独り言に、通信機越しのリアス・グレモリーが慌て出す。

が、割とポンコツな彼女ではなくもう一人、駒王の町に座す二人目の『王』が場を取り成した。

 

『落ち着きなさいリアス。兵藤君の倍加が上限値に達しました。譲渡を受け次第、再度の砲撃を』

 

ソーナ・シトリーが結界維持の傍ら各自通信に耳を通した上で、猿にも分かる指示を出す。

譲渡受ける。魔力撃つ。以上。

実に分かり易い。リアスも先の混乱を放り出して納得顔だ。上空に居るから見えないけど。

 

「上は一先ず捨て置くか」

 

笑うコカビエルが悠然と構えてそう言うと、己の周囲に浮かべた無数の光を撃ち出した。

その速度は、酷く遅い。

彼にとってはこれとて娯楽。すぐにでも再開されるだろう大戦争の前座に過ぎない。

この町における戦いの全ては一時の遊びだ。せめて少しでも、戦争直前の景気付けになる程度には楽しめれば良い、と考えてはいるがそれだけで。

だからまったく全力とは程遠く、しかし眼前の彼等にとっては致死の攻撃。

 

若い奴等は時折、追い詰めれば追い詰めるほど面白い事をやらかしてくれる。

それは、数だけは多いくせに寿命の短い人間ならばなおの事。何を魅せてくれるのかほんの少しだけ楽しみだった。

 

そんな傍迷惑なジジイの戯れに対峙する暫定人類代表、ジョン・オーリッシュは眼前の美しい弾幕風景によるストレスで胃腸がぐるぐる鳴っていた。

――死ぬ。

口を開く間も無くそう思った。それほどの威容、それほどの密度、それほどの光力。

 

だが、此処で黙って殺されるなど、ジョンは決して受け入れられない。

すぐ帰る、と。アーシアと交わした約束を嘘にするつもりは毛頭無かった。

 

幸い、こちらにとっての救助対象であるイリナを巻き込むつもりは無いのか、倒れ伏したままの栗毛の少女はコカビエルの背後に居る。あの光槍の群れは当たらない。この場に限り、彼女の心配は不要だった。

ならばあとは目の前の困難に打ち勝つだけだ。

出来得る準備は事前に全て、済ませてある。現代最強の聖剣を用いれば迎撃は充分可能だろう。

 

「ゼノヴィア!!」

 

一切ふざけず、名前をそのまま大きく呼んだ。

呼ばれた側は華やかに笑う。ようやく呼ばれた、と満足気な顔で。

 

「ああ。ようやく出番だ、――デュランダル」

 

事前に封印は解いてある。後は亜空間から引き抜くだけだ。

抜剣の隙を突こうと口端を上げたフリードが、仕方なくフォローに入った木場に邪魔され舌を打つ。聖剣三種の能力を用いて変幻自在に攻め入るも、創造される多数の魔剣が力を発して聖魔の格差をギリギリのところで誤魔化していた。

 

木場の単独ならば稼げる時間は、極僅か。

徐々に姿を現す青の聖剣に、光の弾雨を放ったコカビエルが視線を向けて小さく唸る。

 

「ストラーダの……。そうか、もう次(・)に渡ったか」

 

堕天使の表情に僅かだけ、寂寥にも似た何かが浮かんだ。

長きを生きる彼とは違い、かつて彼と鎬を削った英雄は、既に愛剣を次代の担い手に託していたのだ。それを想い、極々短い間だけ、コカビエルは己が総身から戦意を散らした。

 

その、頭上から。

全く意図せぬ偶然を完全完璧に打ち抜く絶好のタイミングで、赤き龍の匂いを纏わせた最大倍加の滅びの魔力が降り注ぐ。

 

「ジョン!!」

 

ゼノヴィアの呼び掛けに、ようやく其処まで後退し終えたジョンが応える。

少女が突き出したデュランダルの刀身に、彼もまた手にする『祝福』の刃を合わせ、俄かに量を増した聖なる力が二種の聖剣の周囲を廻り出す。

 

聖剣デュランダルの持つ固有の特性、他の聖剣の力を高めるオーラが燃え上がった。

『祝福の聖剣』の持つ固有能力、聖なる祝福が青の聖剣へと注がれて、高められた力で相手を強化し、更に強化された聖なるオーラが『祝福の聖剣』を強化する。力の流れが互いを増幅しながら循環していく。

 

止まる事無く高め合う二振りの聖剣と、見る間に溢れ出し礼拝堂を満たし始めた聖なる光。

 

「ジョ、ジョン君! ちょっと待ってくれないかな! こっちッ、こっちにも来てるんだけどっ!!」

 

必死にフリードを押し止めていた木場が叫んだ。慌て過ぎたせいで此処最近の暗い様子も吹き飛ぶくらいに。

彼の身体の各所は防ぎきれなかった狂人の斬撃で傷付いて、流れる血よりも肉体内部に侵食する聖剣の光、悪魔に対する毒の苦しみこそが問題だった。このまま戦っても、長くはもたない。

 

だというのに、更に追加で味方の筈の二人から、おぞましい程の聖なるオーラが溢れ出す。

既にこの時点で呼吸が辛い。悪魔の本能によって身体が震える。このまま此処に居れば、死ぬ。

 

ふ、と笑ってゼノヴィアが木場の方へと振り向いた。

 

「すまん。制御出来ない」

 

頭が良い癖に力押しが大好きで、聖剣の制御も然して得意ではないメスゴリラ。ゼノ助はホント、相変わらずの駄目な奴だな。と諦め半分焦り半分のジョン一人が、過剰に強化され続けている聖剣同士の無限循環を押し止めようと闘っていた。

ちなみに、無理だった。

 

爆発した。

 

 

□

 

 

その場には、吹き飛んだ廃教会から漏れ出した多大な光力と、大威力の魔力砲撃の余波の残りと、リアスを強化するために使われた赤いドラゴンのオーラが混ざり合いながらも残留していた。

 

「死ぬなっ、木場ァアッ!!」

 

其処に設けられた小型結界の内側で、兵藤一誠が慟哭する。

彼の目の前には眷属悪魔としての同僚である木場祐斗。学園の王子様などという割と痛い異名でも呼ばれている憎きイケメンが、悪魔の弱点である光力に焼かれて酷く痛ましい姿で横たわっていた。

駒王学園のモテない男子生徒達から「イケメン死ね」と数多言われてきた彼が、今まさに死線をさまよっている。

 

「祐斗せんぱい、祐斗せんぱい……。いやですっ、死んじゃ嫌ですっ」

 

木場を挟んだ一誠の反対側には、めそめそと涙を流す塔城小猫。

大粒の涙が光に焼かれた木場の身体に降り注ぎ、しかし慈雨とは異なり彼を救う事は無い。

 

泣きじゃくる少女の傍らで、その小さな肩に手を添えた朱乃が歯を食い縛る。

直撃は避けたが、身体の過半を光に炙られた年下の同僚。目に見える限りでも虫の息と呼んで差し支えない、死に瀕するほどの重傷である。

 

――堕天使のせいで、またも身近な相手が傷付いた。

先の爆発と木場の負傷、それらの原因を堕天使幹部コカビエルにあるのだと誤解している姫島朱乃が、かつてのトラウマを盛大に抉られ、握った拳から血を流す。

 

「……ジョン。キミのせいだぞ」

「お前だゾ」

 

友人同士の醜い罪の押し付け合い。

このままでは木場が死ぬ。恐らく死因は傷そのものよりも、痛みから来るショック死だ。放置する気は全く無いが、せめて責任の所在だけは明らかにすべきだろう。なので二人は互いを指差す。

実際のところ、どちらも等しく悪かった。内心でそれが分かっているからこそ、ジョンは惜しむ事もせず治療を施すために駆け寄っていく。

 

吹き飛んだ廃教会から可能な限りの距離を取り、こちらの様子に気付いたリアスが現れた。

 

「祐斗ッ! ああっ、そんな……。祐斗!!」

 

悪魔の悲劇で胸が痛い。

アーシアは何処っ、と半狂乱で助けを求めるリアスの隣に膝を突き、片手を翳してジョン・オーリッシュが己の神器を発動する。

 

――其れはその名の通りの薄明かり(トワイライト)。

神器使用に使う手とは逆側、彼の右手に握られた『祝福の聖剣』が聖書の神の齎す奇跡、文字通り聖なる力の結晶たる神器を強化し、その回復力を大幅に増幅する。

 

「ジョン。貴方っ、其れは――!」

 

隣でリアスが驚愕の視線と共に呟くが、今は忙しいので放置する。

光で焼かれて毒に冒され、木場の全身は焼け爛れており酷いものだ。本当に酷いものだった。が、この程度なら過去の任務で幾度か見ている。彼の神器はアーシア同様、即効性では右に出るものがそうは居ない。瞬く間に木場の負傷が癒えて、否、消えていき、残ったのは光力による種族独自の負担だけ。毒だけは消せない、神器が癒すのは傷だけだ。

 

明かりが消えた。負傷も無くした。これで全ては元通り。

先の慟哭は何だったのかと言えるほどの、それはあまりにも見事な救済劇だった。

 

グレモリー眷属の瞳から、先とは異なる熱を宿した涙が零れる。

回復系神器【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】。

流石に爆発するのは予想外だったが、コレがあるからこそ悪魔である木場を組み込んだ突入部隊で、先の循環増幅を試みたのだ。いや、本当に爆発は予想外なのだが。

循環に関しても最低限、突入前に試してはおいたのだが……。実戦では何が起こるか分からない。ジョンだって完璧ではないのだ、失敗だって、する。今回ばかりは致命的だが。

 

「これで悪人はゼノ助だけだな」

「おいやめろ」

 

俺は治療したからノーカンだ、とジョンが言う。破壊魔の異名を持つゼノヴィアとしてはそこを突かれると弱かった。壊す事しか出来ない、持たざる者の悲哀である。

と、若干和み始めていたこの状況。

 

木場の生還に泣いて喜ぶグレモリー眷属の気持ちに水差すように、――先の爆発で吹き飛んだ廃教会の瓦礫の下から、暴力的なまでの大きな光が漏れ出した。

 

間違い無く、コカビエルの発するものだ。随分と元気な御様子で、見ている彼等も思わず心が沈んでしまう。

あれで死ぬとは思っていなかったが、この状況で更に戦うのも少しばかり――。

 

「あ、イリナ」

「あっ」

 

ああああああああああああああ!!!!!!!!

 

此処に至って、二人はようやく本当の意味での致命的な失敗に気付く。

予想外な大規模光力爆発によって、思考も何も、全てが消し飛んでしまっていた。

 

まさに一生の不覚。

イリナを、忘れていた。あの瓦礫の下に、自分達の大切な友人が埋まっているのだ。教会が吹き飛んだ衝撃で、とか。木場が死に掛けていたから、とか。どうでも良い事に囚われていた。

コカビエルの攻撃が余りにも恐ろしく、他にあの状況を切り抜ける手段が無かった、というのは間違いない事実。

 

だが、そんな言い訳など到底効かない。

彼等二人の目的は他とは異なり、友人である紫藤イリナの救出だった。だというのに、この始末。

冗談ではないし、冗談にはならない。酷い。あまりにも酷過ぎる。畜生の如き所業であった。

 

一頻り自らを罵倒して、無理矢理頭を冷やしたジョンが必死に己の思考を回す。

信徒として加護を受けたイリナは肉体的にも頑強だ。加えて気休め程度だが戦闘服の補助も計算出来る、大量の瓦礫に押し潰された程度なら即死は無い。断言出来る。

――助けなければ。

ジョンとゼノヴィアの思考が、この瞬間に一致した。

 

そんな二人の目の前に、栗毛の少女が放り出された。

 

「いっ」

「イリナぁあああああ!!!!!」

 

叫び声を上げて、二人で飛びつく。

その直前。

 

宙を駆けた光の槍がイリナを狙い、間髪入れず、最速で反応した『天閃』持ちのジョンが迎撃。次いで、地に転がったイリナを庇う形でデュランダルを構えたゼノヴィアが、彼の破壊し切れなかった光槍に追撃を加えて、今度こそ完膚なきまでに消し飛ばした。

 

「ぁ――」

 

至近距離で行われた致死の連撃にイリナが呻く。

光に照らされる事で目蓋の奥が刺激を受けたのか、夜空の下で眩しそうに薄目を開いた。

 

「イリナ!」

 

安堵するように表情を崩したゼノヴィアが少女を見下ろす。

目覚めたばかりで今の状況も分からずに、茫洋としたイリナの視線が、傍らに膝を突いたジョンの面貌を確かに捉えた。

 

瞬間、心が冷える。

 

少女の内心に自分と、彼の事が蘇る。最後の別れと、繁華街での刃と叱責。拒絶された事、自覚した想い、逃げ出した事。自分自身の立ち位置が彼によって否定され、魔女にも負ける己の価値が、紫藤イリナの抱く心の傷を引きずり出した。

 

息が詰まって、あまりの緊張に視界が暗くなっていく。

逃げ出そうにも身体が痛くて動かない。謝ろうにも、涙で喉が詰まったかのよう。そんな筈など絶対無いのに、眦から零れ落ちていく大量の雫で溺れてしまう。

 

「イリナ」

 

なのに、抱き締められた。

それだけの事で、抱いた懊悩の一切が溶けてしまう。

 

「良かった。本当に、無事で良かった――」

 

万感の思いを篭めて、ジョンが言う。震える声音は、まるで泣いているかのようだった。

重なった少年の身体から、熱が伝わる。冷えた心を、身体と一緒に温めるように。

言いたい事はあった。聞きたい事だって、あった。

けれどもう、そんな事は全て、たったこれだけの事でどうでも良くなってしまっていた。

 

「ジョン」

 

ほつれた栗毛を撫でられる。

呼び掛けに頷く彼の気配が、こんなに近い。

 

「ジョン、ジョン、じょん。わたしっ」

 

言葉にならない。

 

難しい事なんて、最初から何一つとして存在しなかったのだ。

何時かの別れ、最後の瞬間。それを後悔していたのは少女だけではなくて、少年の方だって気持ちは同じだ。ずっと、ずっと引き摺る心を捨てられないまま悩んできた。謝りたくても、もうずっと、一生、そんな機会が無いのだと諦めていた。諦めた振りをしていたのだ。

 

なのに本当は、謝る必要だって何処にも無かった。

だって、こうして触れ合っているだけで全てが解れて溶けていく。それに関しては御互い様で、きっと、後で一言、軽く言葉を掛ければ今度こそ何もかもが済むのだろう。

 

ごめんなさい。

こちらこそ、と。

 

本当にただ、それだけの話で終わってしまえる。

それは何処にでもある擦れ違い。子供同士の哀しくも優しい、他愛の無い失敗で。きっとすぐに笑い話になってしまう身近な過去、掛け替えの無い情景だった。

 

――本当に、瓦礫に潰されてなくて良かった。生きていて、良かった!

などと考えている実に馬鹿な少年も居たが、少々の邪念を脇に除ければ、間違いなく彼と彼女はお互いを大切に想っていたし、ようやく正式に果たせた再会に、少年の涙腺も僅かに緩んで熱が溢れ出る寸前だった。

 

ちなみに横で仲間外れにされているゼノヴィアは拗ねていた。が、この後で愚痴愚痴と文句を言われるのはジョンだけであるので、特に問題と呼べるだけのものは、無い。

 

そしてイリナ救出の立役者、兼、先の光槍を放った下手人であるが。

 

「――ふん。ついでとはいえ拾ってやったのだ、この程度の意趣返しは許せよ、聖剣使い」

 

煤と埃と僅かな負傷で汚れた堕天使幹部が、片手を振るって一人の老人を放り出す。

見た目だけなら木場以上にボロボロとなったバルパー・ガリレイが、丸い体躯で地に転がって動かなくなった。

 

その破れた衣服の懐から、小さな何かが零れて落ちる。

最低限度に緩く研磨された宝石のような、内側に美しい光を閉じ込めた、ほぼ円錐状のソレ。

あれは、とゼノヴィアが小さく呟いた。

新たに生まれる聖剣使いが祝福と共にその身に宿す、聖剣使いの儀式の象徴。

 

幾度か小さな瓦礫に躓き、転がり続けるその結晶が辿り着く先。

傷を癒され仲間に囲まれ、それでも未だ地に背を付けたままの木場の指先に、ソレが触れた。

 

最初は、朧げな人影だった。

結晶から生じて天へと昇る、清らかでありながら悪魔にとっての害にはならない、淡雪の如き光の幻影。其処に居並ぶ幾つかの影が、倒れ伏す木場の、しかし決して孤独では無い姿に微笑みかけた。

 

「――あ」

 

その微笑みに、木場の表情が強張った。

考えるよりも先に、彼の心が震え出す。何も言えずに、瞳だけを見開いていた。

並ぶ人影の一人一人が、彼の手を取って、頭を撫でて、最後に微笑んで立ち上がる。

 

「待、って」

 

傷は癒えても、疲労は消えない。光に侵された身体もまた、満足に動けはしなかった。

動けない木場の背を、傍に居た小猫が、リアスが、朱乃が、そしてついでに一誠が支える。そうする事で、辛うじて木場はその手を伸ばせる。

 

伸ばした手の平に、軽く打ちつけられる手があった。

ぽん、と大人が子供を撫でるような優しさで。ひどく軽い、温かさ以外の何も宿らないハイタッチ。呆然と彼等を見上げる木場の、目線の高さで。同じ年齢の子供同士が笑って行うような気軽さで、一人一人が手を叩いては――光に還る。

見覚えのある顔が。木場にとっての大切だった人達が、消えていく。

 

「まって。待ってよ、ぼくは、みんなっ! だって、ぼくだけ。ッ、待ってくれ!!」

 

叫ぶ木場に対して仕方無さそうに微笑みながら、次から次へと光に還って形を失う。

そして最後に残った、一番小さな背丈の少女が木場の手を叩き、彼の泣き叫ぶ口元に己の指を添えて優しく笑った。

 

真っ直ぐに立てられた人差し指が、木場(イザイヤ)の唇にそっと触れている。

言葉は無かった。

木場の言葉は封じられ、光に過ぎない彼等人影の立てる音は空気を震わせる事が無い。

けれど伝わる。其処に間違いの無い、会話があった。

 

何も言わないで良い。

言葉は要らない。

大丈夫。

 

――大丈夫だよ、イザイヤ。

 

最後の一人も形を失い、ただの光と化して舞い上がる。

そして、仲間に囲まれ涙を流す木場を包んで、まるで星のように輝いた。

確かな温もりを伴って。

 

一人の少年の魂が、想いに触れて昇華した。




月光校庭になれないエクスカリバー編。
一応補足しますと、最後の一幕で聖魔剣に禁手化しました(ただし活躍はしない)。

一部爆発ネタや汚いジャムおじさんが入りましたが、シリアスになり過ぎるとコカビエル先生に瞬殺されるしかないのでこういう流れに。
イリナ関連のイベントも、残りは戦闘後になります。
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